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ストリーミング時代は「楽曲債権化」を呼ぶ?Taylor Swiftの「ワガママ」から見えてくること

 音楽関連の記事でよく思うことなのですが、メディアの記者も音楽ビジネスに関わる記事を書くときは、最低限の知識は勉強してもらいたいです。「楽曲所有権」という言葉は音楽ビジネスで聞いたことがありません。何を意味しているのか不明です。英語でもないはずなのですが、英語の何を訳したのでしょうね?日経新聞「ニューヨーク=清水石珠実」さんがお知り合いの方はお伝え下さい。ご希望があれば僕がご指導申し上げます。30分勉強すれば、この記事を書くための知識は手に入るでしょう。

 楽曲の権利は、著作権(=音楽出版権とも言います)という、作詞作曲者に紐づく、楽曲そのものに関する権利と、原盤権(法的には「レコード製作者の著作隣接権」という言いをします)という、レコーディングしたマスター音源に対する権利があり、別の権利として取引されています。(実演家の著作隣接権、送信可能化権といった3つめの権利もありますが、煩雑になるので本稿では割愛しますね)興味のある方はこちらをどうぞ。

楽曲の所有権を巡っては、スウィフトさんと前所属レコード会社「ビッグ・マシン・レーベル・グループ」の間で対立が続いていた。スウィフトさんは15歳でビッグ・マシンと契約したが、2018年にユニバーサル・ミュージック・グループに移籍。その後、辣腕マネジャーとして知られるスクーター・ブラウン氏が経営するメディア会社が、ビッグ・マシンと共にスウィフトさんの楽曲所有権を取得。19年11月には、スウィフトさんが過去の自分の楽曲を演奏できなくなったとSNS(交流サイト)で訴える事態に発展した。

 繰り返しになりますが「楽曲所有権」というビジネスタームは無いので、推測になりますが、前所属レコード会社「ビッグ・マシン・レーベル・グループ」が持つ権利は、おそらく原盤権かなと思います。(厳密に言うと日本の原盤権と、アメリカでのPerformigRightsは違うのですが、その区別についても割愛します。録音された音源に対する権利というざっくりした解釈で本稿は書かせて下さい)ところが、「メディア会社が、ビッグ・マシンと共楽曲所有権を取得」という部分は、著作権っぽい印象を持つので、違う権利の話ではないのか、なんだろう??と読んでいてわからなくなりました。原盤権取得の際にアーティストと「5年間同じ楽曲を再録しない」などの条件をつけることは多いので、テイラーが録音できなくなったと言っているのは、そういう事情かな?と推測を重ねるしかありません。
 ファイナンシャルタイムスが有料サブスクしか無かったので、forbesのこの記事を読みました。

 本人に了承無く、原盤がファンドに売られていて、テイラーがTwitterで文句言っているということみたいですね。契約上許諾が必要ではなかったのでしょうから、これだけ読んでいると、契約内容を無視したアーティストのワガママにも見えますね。いずれにしても情報が不正確なので、この件はもう少し様子を見てから書きたいと思います。

 という事情がわからない記事であるということを踏まえた上で、本稿では、ストリーミング時代は音楽への投資が活発化するという予測について書きたいと思います。
 以前イギリスレコード産業協会のこんなニュースもありました。

 音楽(録音原盤)ビジネスの幹がパッケージからストリーミングに変わって、様々な変化が起きますが、大きな変化の一つが、売上における新譜旧譜比率の変化です。
 売った時に売上が立つビジネスから、再生された時にお金になるビジネスに変わるので、一つの楽曲(著作権)や原盤からの回収のモデルも大きく変わる訳です。
 パッケージ(CD)だと、発売月が最大で、以降は落ちていくのが普通です。ところがストリーミングでは、強いファンのリリース時の盛り上がり以外に、楽曲自体に人気が出ると、長く売上が立ちます。インフルエンサーなどの拡散で、発売からしばらく立ってから突然、売上が大きく上がることも珍しくなくなります。
 音楽なので良い意味のハプニングはありますが、ストリーミングでは再生状況の詳細データがわかりますので、未来の再生予測の精度がどんどん上がっていくでしょう。(ストリーミング配信事業者とアーティスト側のユーザー行動データに関する情報取得の綱引きが激化すると思いますが、その話もバツの機会に。)
 ですから、楽曲をお金に変える「債権化」的なスキームがやりやすくなるなるはずです。これから何年間にわたって概ねこのくらいの売上はあるだろう、上手に拡散できれば上振れが期待できる、そんな「投資対象商品」になる得る訳です。

 特に楽曲の著作権(音楽出版権)は、カラオケやテレビ・ラジオでの放送やコンサートやBGMやあらゆるシチュエーションでマネタイズできますので、上振れの期待値が高くなります。音楽家側も投資する側も、原盤権と著作権をセットにして扱うことを望むでしょうね。これまで原盤に関するお金の流れと、著作権の徴収分配が、違う団体や会社を通じて行ってきたのにはビジネス構造上の理由があったのですが、デジタル流通がメインになることで無駄のほうが多くなっています。これまでは、音楽業界内の会社が「勘と運と根性」で投資していた音楽が、過去のデータに基づき、債権として投資する対象に変わろうとしています。
 
 テイラー・スイフトの言動はアーティストのワガママにも見えると述べましたが、同時に現役活動中アーテイストの作品が、本人の意思と関係ないところで取引されることへの不満を問題提起したとも言えると思います。何十年かかかりますが、必ずやってくる、ブロックチェーン技術を活用した音楽家主導の管理の仕組みを彼女の発言が少し早めることになるのかも知れません。そんな事も考えさせられました。

 以前、こんな記事も書きました。

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