見出し画像

ミュージシャン起業家という生き方、海保けんたろー

2013年9月出版の本書は、僕にとってエポックメイキングな書籍です。エンタメ分野の起業家と新規事業創出をしていくスタートアップスタジオStudio ENTREを始める原点でもあります。7年前のインタビューとその後の彼らの軌跡を追いながら日本の未来を考えます。
株式会社ワールドスケープ 海保 けんたろー
東京都立文京高等学校卒業。2003年にバンド活動を本格的に開始する。「メリディアンローグ」(現SONALIO)と いうバンドのドラマーとして、2008年メジャーデビュー。 ユニバーサルミュージックよりアルバム1枚、エイベッ クス・マーケティングよりシングル1枚、アルバム1枚をリリース。しかしその後、音楽業界の仕組みに疑問を感じ、独立。2011年、メンバー3人で「株式会社ワールド スケープ」を設立。同社、代表取締役に就任。同年5月、アー ティスト支援サービス「Frekul」を制作・公開する。CD が売れない時代を前提とした、新しいビジネスモデルを音楽業界に普及させつつある。


実力あるミュージシャンが、公正に、 経済的に評価される世界を作る!

 バンドのドラマーをやりながら、ミュージシャンを支援するサービス「Frekul」 を立ち上げました。無料で曲を聴いてもらい、そこからなるべく効率よくライブ・ グッズ・ファンクラブに集客する、というのが基本思想です。

バンドで食えないことが、起業の動機

 高校を卒業してアルバイトをしながら、いわゆる貧乏バンドマンをやっていました。有名になりたかったし、音楽で食って行きたかったので、ライブ活動をやりつつ自主レーベルを立ち上げたりとか、色々と頑張っていました。そしてやっと2008年にメジャーレーベルからが出て、「やったぞ!つ
いに有名になれる!」...と思ったら全然そんなことなかったんですよ。テレビで曲が流れて、友達からは「すげえじゃん」て言われたけど、実際には売上はあまり伸びなかった。当然、お金もあんまり入ってこなかったんですね。それで、だんだん将来が不安になり、メンバーと話し合いを重ねるようになりました。 話し合う中で、色々と音楽業界について調べたりもしました。そこで分かって きたのは、 年以降、日本の 売上は減り続けているということ。だけ どそれは から人が離れているだけで、音楽から人が離れているわけではない ということ。だから、 販売に頼らない新しいビジネスモデルが作れれば、明るい未来が見えるんじゃないかと思ったんです。

新しい音楽ビジネスモデル

 僕たちはまず、「デジタルデータは簡単にコピーができるから売り物として適していない。逆にコピーができないもの、例えば体験や物体であれば、これからも価値が保たれるのではないか」と考えました。ミュージシャンが提供すること ができる体験と物体は、ライブ・グッズ・ファンクラブです。この三点を主な収入源と考えるべきなんじゃないかと思ったんです。
 すると今度は、「どうやったら効率よくライブ・グッズ・ファンクラブに人を集めていけるのか」が課題になります。そこで僕たちは「曲データを無料配信するかわりに、ダウンロード時にメールアドレスを教えてもらう」という形に辿り着きました。メールアドレスは一度教えてもらえれば、その後さらに別の曲も聴 いてもらったり、メンバーについてもっと知ってもらったり、ライブ告知を届けたりすることができ、徐々に関係性を深めていくことができます。最初はお金を 払う気がなかったリスナーも、ふとした瞬間に「今度のライブ行ってみようかな」「ファンクラブに入ってみようかな」と思う可能性が生まれます。これは、これからの音楽ビジネスのスタンダードになり得るぞ、と感じ、このスタイルで音楽活動をしていくことを決めました。
 しかし、実際にそれを個人でスタートしようとすると、色々なシステムが必要なことに気付きました。例えばメールや曲の一斉送信ができるシステム、自分たちでファンクラブをまわしていけることができるシステム等々......。これをどうにか用意しようと思ったのですが難しかったので、「じゃあ、自分たちで起業し て作ってしまおう。どうせ作るなら自分たちだけじゃなく、あらゆるミュージシャンに使ってもらおう」ということで制作されたのが「Frekul」です。

起業・就職の選択は、何をリスクと考えるかが重要

 僕は就職しようと思ったことはないです。構造的に、「就職」は収入が安定しやすい。ただ一方で、やりたいことだけやれるとは限らない。逆に「起業」は収入が不安定になりやすい。ただ一方で、自分の意思でやることとやらないことを 選択していくことができます。
 シンプルに言い換えると、「就職」は収入が安定し、やりがいが不安定になる。「起業」はやりがいが安定し、収入が不安定になる。単純に、このどっちを選択肢したいのか?という話だと思います。収入とやりがい、どちらが自分にとって大切なのか。自分にとっての本当のリスクとは、どっち側に存在しているのか。そういう問いかけを自分にしてみたら面白いんじゃないかと思います。「プロミュージシャンを目指す」「フリーランスでやっていく」等も起業に近い方向性と言え ますね。

起業してからの経験で、自分のバンドの名前も変えました
 
「Frekul」の経験は、バンド活動にも影響がありました。バンドって、売れてなくても、ひたすら同じようなことを続けてる人が多いんですよ。でも
サービスって、リリースしてダメだったらどんどん変えるじゃないですか? バンド もそうしなきゃダメだなと。今失うモノは、目指すものに比べたら大したものじゃ ないんだから、変えまくって、チャレンジしまくればいい。そう思って、僕たちはバンド名も音楽性もミュージックビデオの方向性も変えました。これは、起業して、 ベンチャーの人たちに影響を受けた考え方ですね。

僕は英雄になりたいんです

 直近の目標は、成功例と言えるミュージシャンを「Frekul」から出すことです。 まずは、フリクルからの収入だけで生活できているというミュージシャンを作りたいですね。
 長期的な話をすると、 年位かけて僕の描いている「音楽業界の最終形」を完成させたい。音楽のマッチングが自動化されていって、ミュージシャンとユーザー が自動的にどんどん直接つながっていくような世界です。チーム全員で力を合わ せて、日々そこに確実に近付いていくことが今のやりがいです。
僕の会社のスローガンは「実力あるミュージシャンが、公正に、経済的に評価 される世界を作る」です。僕は、英雄になりたいんです。世界中に知られたい。 歴史に残りたい。アップル社のジョブズとか、もっと言えばエジソンとか、リンカーンとか、キング牧師とかにも負けたくない(笑)。ダヴィ ンチは、いろんな分野に影響を与えて凄いじゃないですか? 僕も 年後に生まれた人に、「この海保って奴やばくない?」って言われたいんです。そのためには、まずは小さな革命をおこさなくてはいけない。その最初のステップを「フリクル」と、自分のバンド「SONALIO」とで実現したいと思っています。

<山口の眼>
海保さんとの出会いはツイッターがきっかけだった。「Frekul」という サービスの存在をネットで知り、無料音源をネタにメールマガジン読者 を増やしていくという考え方は面白いと思った。ただ、アマチュアバンド 支援というのを強く打ち出し過ぎていて、これだけでは サービスと して広まらないな、と。インディーズのアーティストを抱えているマネー ジャーにとって便利なツールになれば可能性があると思い、そんなツイー トをしたら、連絡をくれて、会うことになった。
 話してみると海保さんは、人なつっこくて、相手の話をよく聞く、周 囲への気遣いもできる好青年だった。ドラマーらしい社交性だなと思った。 米国などでは、アーティストが自らビジネスを行うのは当然のことだ。
 最近でも、ヒップホップの名プロデューサー、ドクター・ドレーは、高級ヘッドフォンメーカー「ビーツ」の共同創業者となり、音楽配信サービス も準備している。「フェイスブック」に世界一の地位を奪われた 「マ イスペース」は、人気アーティスト、ジャスティン・ティンバーレイクが買収に参加、音楽に特化したサービスとして再興を図っている。 そんな視点で捉えると、「フリクル」は、まだ日本の音楽シーンで大き な存在ではない。アマチュアバンドが、数万人規模のファンを持つまで「の し上がる」ことは、そもそも簡単では無いので当然なのだけれど、今、必 要なのは成功例だろう。メジャーレーベルやマスメディアの力が、以前より衰えていると言っても、「フリクル」の仕組みがそれに取って代わるには、かなりの努力が必要だ。 ただ、彼自身も語っているように、株式会社ワールドスケープの代表取締役としての経験は、普通のミュージシャンでは絶対に得られない貴重なものだ。人間性も魅力的だ。ミュージシャンらしい大きな夢を持っている。これまでの経験を踏まえて、起業家としての海保さんが、「英雄になりたい」という壮大なロマンを持って、活動領域をどのように広げて いくのか、楽しみにしている。

==================================
<2020年の山口の眼>
 まだ英雄にはなってないけれどww、ミュージシャン兼起業家というのは日本では貴重な存在です。Youtubeでの音楽ビジネスに関する情報発信やドラムのレッスン動画など、SNSを使った情報発信を続けています。サービスを行っている起業家らしく、ユーザー目線なので、僕にとっても気づきの多い内容で助かっています。
 ワールドスケープという会社も黒字化できているようで、日本での音楽分野のITという意味では立派なことだと思います。スマートオーディションなど僕も協力した部分もありますが、既存の仕組みにイノベーションを起こす役割にはなれていないので、もうすぐ創立10年で、スタートアップではなく、「素敵なスモールカンパニー」になっているという印象です。日本の音楽シーンでは役割を果たしていて貴重ですが、個人としての海保くんは、起業家として、新しい事業でもう一度挑戦して欲しいなと僕個人は思っています。ドラマー兼シリアルアントレプレナーなんて日本ではまずいない、カッコいい肩書だと思うけどな(笑)

podcastはRADIO TALK、Spotifyなどで配信しています。ブックマークをお願いします。メルマガも毎週発行です。読者登録お願いします!


モチベーションあがります(^_-)