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第7章:非オタクのためのUGM入門(前編)

5年前の拙著を引用しながら、この5年間で起きていることの「答え合わせ」と、5年後の展望を考えるコラムにしています。『ビジネスに役立つデジタルコンテンツとエンタメの話』

 ここでは、自分でコンテンツをつくったり、ニコニコ動画を熱心にみたりすること のない、「非オタク」のビジネスパーソンでも、知っておくべきインターネットの大きな潮流「UGM」について、みてみましょう。

UGMとはなにか?

 UGMは(User Generated Media)の略で、CGM(ConsumerGenerated Media)も基本的に同じ意味です。ユーザーがコンテンツの創造者であると同時に、鑑賞者、消費者であるという構造になっているインターネット上のサービスを指します。ユーチューブやニコニコ動画などの動画共有サービスが有名ですが、その他にもイラスト共有のpixivなどたくさんのUGM系サービスがインターネット上には存在しています。
 オンライン百科事典のウィキペディアも、UGM型でつくられたサービスです。 ウィキペディアは、「集合知」という概念で説明されています。たくさんの人達が力を合わせて、情報をアップロードし、修正、更新していけば、一握りの専門家が編纂した場合よりも、高品質な事典ができるという考え方です。ウィキペディアは、世界中で数多くのインターネットユーザーに使われていて、2015年1月現在288の言語版があります。
 ちなみに、ウィキペディアの存在で、最もメリットを享受しているのはグーグルだ という説があります。ユーザーが知らない言葉を検索したときに必ずウィキペディア が上位に表示されることで、検索結果に対する満足度が高くなっているからです。 ウィキペディアは、インターネットがなければ成立しなかった、「集合知」の典型的 な成功例です。ユーザーによる「性善説」で運営されているのもポイントです。ウィキペディアに投稿することで個人としての利益は一切ありません。投稿者の名前が表 示されるわけでもありませんから、名誉もありません。みんなが役に立つようにつくられているサイトです。一定のルールはありますが、寄付金を元にウィキメディア財団が運営しているウィキペディアは、ユーザーの善意で成立しているのです。 UGMの考え方の根っこには集合知と性善説があります。草創期にインターネット
を利用したユーザーたちの思想が体現されているように感じています。
 エンターテインメントの分野に最も大きな影響を与えた世界最大のUGMプラット フォームは「ユーチューブ」です。 「チューブ(Tube)」は「ブラウン管」すなわち「テレビ」という意味ですから、 ユーチューブとネーミングされたときから、「みんなのテレビ」というコンセプトの サービスだったことがわかります。2005年に誰でも動画がアップロードできる サービスとしてはじまりました。
 サービスがはじまる以前は、動画を他人にみせる環境を手に入れるためには、ユー ザーが大きな負担をすることが必要でしたが、「ユーチューブ」は、アップロードさ れた動画を置いておくサーバー、動画の再生を可能にする回線の担保などに大きな資 金を投入して、無料で使える環境を提供し続けてきました。
 この環境が「ユーチューバー」といわれる、新しいタイプのクリエイターを生み出したのです。

ユーチューバーの登場

 ユーチューブの最大の功績は、「メディアの民主化」です。テレビの章でみたようにそれまでのメディア、特に動画を再生するメディアは、各国政府の許認可の中でし か運営できない放送局でした。誰でも動画をアップロードでき、世界中の人に視聴環 境を提供する「放送局」の機能を一般に解放しました。
 ユーチューバーは、ユーチューブに自分のチャンネルを持ち、定期的に自分の動画をアップすることで、人気者になっていきました。
 ユーチューブはいくつかのパターンで広告を挿入することができますが、その表示、再生回数に応じて広告収入の一部を動画制作者に分配する仕組みを持っています。ユーチューブで登録して契約を結べば、毎月、広告収入が入ってきます。再生回数があがることで、巨額の収入を得るユーチューバーが出てきました。 アメリカのエンターテインメント業界紙『Variety』が行った調査結果によれば、13歳から18歳のアメリカ人に影響力のあるスターは、ハリウッドの俳優や有名なミュージシャンなどを抑え、トップ5すべてをユーチューバーが占めたそうです。 第1位は、ユーチューブで独自チャンネルを運営する、26歳の男性2人組チーム 「スモッシュ」でした。動画の総再生回数は約 億回です。第3位のスウェーデン人 ビデオゲーマー「PewDiePie」のチャンネル購読者数は、3300万人超です。個人メディアが、とてつもない数字を示しています。マスメディアに露出しなくても、若者からの強い人気を得ることができる時代なのです。

 日本人「ユーチューバー」の成功例も出てきています。
 代表的なのは、1989年生まれの男性パフォーマー「HIKAKIN(ヒカキ ン)」です。元は、ヒューマンビートボックスという声だけで楽曲を演奏するという スタイルのアーティストでした。自分のチャンネルで、子供向けに新商品を紹介する ビデオブログ的なスタイルをはじめたところ爆発的な人気がでました。
 「ヒカキンTV」のチャンネル登録者数は180万人超、動画再生回数は8億回を超 えています。 「ダメよー、ダメダメ」が2014年の流行語大賞に選ばれたお笑いコンビ、「日本エ レキテル連合」も、初期の活動はユーチューブが中心でした。大手芸能事務所に所属 する彼女たちですが、テレビで人気が出る前に、ユーチューブでファンを掴みました。
ユーチューブからの広告収入だけで生活費を稼ぐという伊藤元亮一家も話題になり ました。伊藤氏は、「あっ、妄想グルメだ!」というチャンネル名で、自宅の料理のつくり方を毎日アップしたところ、外国人を中心に人気がでて、それまで勤めていた 大手企業を退社して、ユーチューブの広告だけで、家族5人の生計を立てているそうです。60万人以上のチャンネル登録者で、100万回以上再生されている動画がたくさんあります。
 僕の友人で、日本のビデオブロガーの草分けでもある『You Tubeで食べて いく』(光文社新書)の著者ジェット☆ダイスケ氏は、前述のHIKAKINがはじ
めた日本初のユーチューバーのエージェント会社「uuum」の顧問も務めていま す。ジェット☆ダイスケ氏は、動画を必ず決まった時刻にアップするそうです。ユー チューバーはユーザーとのエンゲージメントが大切で、その積み重ねが、ファンの獲 得に繋がっているそうです。一般的なユーチューブのイメージは、動画をアップして おくデジタル倉庫のようなものかもしれませんが、新たな動画更新の時間も意識するのがユーチューバーの常識のようです。
 ユーチューブの広告分配に関するパートナープログラムの計算式は複雑なので、詳 細は省きますが、大雑把にいうと、1回の再生につき約0・1円が払われるという目 安です。1000万回再生ですと約100万円の収入ですね。これを多いとみるか、 少ないと捉えるか意見のわかれるところです。

 音楽家でもユーチューブを活用して人気を得るグループが出てきました。「グースハウス」は、シンガーソングライター志望の男女7人によるグループです。ソニーのウォークマンのプロモーションプロジェクト「Play You. House」からは じまりました。J ポップの有名な曲を自分たちなりにカバーした動画を定期的にアップしたところ、ファンがつき、ライブツアーやオリジナル楽曲のリリースにもつなが りました。2014年2月のメジャーデビューシングル「オトノナルホウヘ」は、オリコン14位にランクインしました。オンラインだけでなく、ライブハウスツアーなど もスタートしています。
このように、テレビやラジオといった既存のメディアの力を借りずに、ファンを獲 得することがユーチューブの普及によってできるようになり、収入も得られるように なってきているのです。
 さて、音楽家の活動の場といえば、日本にはニコニコ動画があります。(中編に続く)
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<2020年のPost Script>
 この領域の変化は早いですね。5年は「大昔」で、「そんなこともあったよね」って思いませんでしたか?
 そもそもYouTubeの社会における存在感が全然違います。今や日本においても、動画メディアのインフラとして、無かった時代が想像できない状態になっていると思います。「スマホでYouTube」を観るとのが、「リビングルームで家族でテレビを観る」という習慣から主役の座を奪ったという印象は拭えませんね。
 そして変化のスピードも速いです。ここで紹介したuuumという会社は、光通信の出身者が経営者になり株式上場を行いました。脚光を浴びた後に、人気YouTuberが辞めていき、凋落が囁かれるようになりましたが、今年は吉本興業と資本業務提携を行いました。百年以上の歴史を持つプロダクションとの連携で株価を保とうとしているようです。デジタルメディアの分野の移り変わりの速さを象徴していますね。
 グースハウスは不完全燃焼になってしまった印象ですが、最近は、ソニー・ミュージックは、「FIRST TAKE」というYouTube上での連続企画で、アーティストの魅力を見せる手法として活用しています。音楽においても、YouTubeはデファクトメディアになっています。
 この章のタイトルの「非オタクのためのUGM」という言葉自体が、時代遅れになっています。当時の僕は「オタクじゃない人も興味を持ちましょうね」というつもりで書いていたのでしょうが、今やそんな事言う必要ないですね。インターネット上のメディアは多かれ少なかれUGM的な、双方向の要素を持ちます。「あらゆるメディアがUGM化した」と言えるでしょう。

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