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第5章:ニュースと新聞の行方(前編)

5年前の拙著を引用しながら、この5年間で起きていることの「答え合わせ」と、5年後の展望を考えるコラムにしています。『ビジネスに役立つデジタルコンテンツとエンタメの話』

 本章のテーマは、「ニュースと新聞の行方」です。他の章に比べて、そもそもの対 象が捉えにくいかもしれません。その捉えにくさが、まさに現在の状況を表している のです。ニュースの変化を見据えながら、これからの新聞のあるべき姿を、新聞社という会社の仕組みも含めて「再定義」するのが本章のテーマです。僕たちが「ニュース」とどうつき合うのがよいのかについても考えていきます。
 みなさんは、毎日の生活の中で、ニュースをどのようにチェックしていますか?
 ヤフーニュースをみていますか? テレビのニュース番組でしょうか? もちろん、紙の新聞を定期購読している方もいると思います。
 僕は20 代前半から、毎朝、日経新聞を読むのを長年の日課にしていました。トイレで読みはじめて、通勤の電車の中で一通り読むのが生活の中に完全に定着していました。この習慣は一生続けるだろうなと思っていました。
しかし、4年ほど前に定期購読を止めました。きっかけは些末なことで、iPadの値段が新聞の年間購読料とほぼ同じだったことでした。ニュースを読むためにiPadを購入するといえば、妻にも納得させやすいかなと思いました。毎朝、紙の新聞を読む時間をiPadでニュースをチェックする時間に換えてみたらどうなるだう? というちょっとした実験のつもりで、そのうち、紙の新聞を読む習慣に戻りたくなるだろうなと思っていました。愛煙家のきまぐれな禁煙みたいな試みだった気がします。
 ところが、不思議なくらい、何の不自由も感じませんでした。ヤフーニュースを チェックし、いくつかのサイトをブックマークし、自分が気になっているテーマについて検索すれば、情報のインプットについては困ることはありませんでした。iPa d向けにソーシャルメディアやウェブサイトを収集して雑誌形式で配信するアプリ ケーション「フリップボード」のインターフェースが好きで、愛用していました。僕の場合はフェイスブックやツイッターの友人知人の「キュレーション」力が高く、興味関心が近い人が多いということも理由だった気がします。
自分の習慣となっていた、毎朝、新聞に目を通すという「定点観測」が重要だとい う概念は、思い込みだったことを知りました。

 近年、情報の流れの主流がスマートフォンになって、新たな動きが出ています。「ニュースキュレーション」サービスです。「Smart News」「Gunosy」「NEWS PICKS」などがありますが、中には多額の宣伝費をかけて、テレビCMをやっているサービスもあるので、目にした方も多いのではないでしょうか?
 まず、この最近注目の、「ニュースキュレーション」から話をはじめます。

ニュースキュレーション アプリの急伸

 「キュレーション」の語源は、博物館や美術館の展覧会の企画を行う技能がある専門知識を持った人を指す「キュレーター」です。インターネットの世界で、情報のナビゲーションをする行為を「キュレーション」、影響力のある「キュレーション」を行う人を「キュレーター」と呼ぶようになりました。インターネットに情報が溢れている時代に、「キュレーター」による「キュレーション」が重要になっています。 「ニュース・キュレーションアプリ」は、スマートフォン向けのアプリでニュースを適切に収集、整理してくれるアプリです。画面が小さいなどの制約があるスマートフォンに最適化して表示する機能も有しています。
 2014年12月の月間の利用者数は、「SmartNews」が400万人を超 え、同年初頭から2倍以上の伸びをみせています。

 ここで、インターネットにおける情報流通の歴史について振り返ってみましょう。
 インターネットが普及していく中で、多くの人が集まるサイトをつくることがビジ ネスにおいて重要視されるようになりました。
 最初の勝者は、ヤフーでした。「ポータル(玄関)サイト」と呼ばれ、多くの人が 通る入口をつくることが争われました。パソコンを立ち上げたときに、最初に表示さ れるページというポジションを勝ちとることが重要とされていました。
 2000年代になって、情報の経路の主流がポータルから「検索」に変わりまし た。もちろん主役はグーグルです。検索されたときにサイトが上位に表示されるよう にするSEO(検索エンジン最適化)が大切になりました。
 2010年代はソーシャルメディアの時代です。ここでの主役はフェイスブックであり、ツイッターです。趣味嗜好の近い友人知人と、自分がフォローする著名人が紹 介する情報が、最も役に立つといわれるようになりました。 「ニュースキュレーション」は、この延長上にあります。ユーザーが求める情報を、 その人ごとにカスタマイズして紹介するというのが、「ニュースキュレーション」の 基本概念です。主役が変わったといっても、ポータルが無意味になったわけではあり ません。実際は、インターネット上の情報の流れが、「ポータル+検索+ソーシャル」 というハイブリッド型になったと捉えるのが的確です。この3つのみ組わ合せに加え て、スマートフォンでの情報流通が主流になったことで、「ニュースキュレーション アプリ」の役割が大きくなっています。
 実は、僕の個人的な気持ちとしては、ブームになっている昨今の「ニュースキュ レーションアプリ」に対して冷ややかです。理由は、キュレーションの精度が低いことです。
 すでに、「Gunosy」はユーザーごとのカスタマイズを行わないと発表してい て、本来の意味での「ニュースキュレーション」の役割は放棄しています。現在の一通りダウンロードして試してみた上で、僕が日常的に使っているのは「NEWS PICKS」だけです。ここは著名人や有識者を含むユーザーがコメントを残せ るようになっています。読みたい人をフォローできるので便利です。僕自身がコメン トすることもあります。ただ、この手法は人を情報の媒介にするという、ソーシャル メディア的な手法で、アルゴリズムでのキュレーションではありません。
 逆説的ですが、スマートフォンを最適化するだけで影響力をもてるくらい、PCからスマートフォンへのシフトが進んでいるといえるでしょう。そうなると、現状の 「ニュースキュレーションアプリ」は、「LINEニュース」や「ヤフー・ニュースア プリ」のスマートフォン対応との争いになるというのが、僕の見立てです。「スマートフォン最適化ニュース流通戦争」は、まだ序盤戦なのでしょう。 一方、僕は英語での情報収集には、「ニュースキュレーションアプリ」を重宝しています。「Zite」というアプリで、新しいITサービスやエンターテインメント ビジネスに関するニュースをチェックしているのですが、とても快適です。スポティファイやアップルなど気になるキーワードを登録しておくと、最新情報をまとめてみ ることができます。通常の検索よりも高い精度で、知っておきたい情報をピンポイン トで押さえられている気分になれます。外国語と母国語でのスキルの差もあるので しょうが、日本語の情報なら、キュレーションアプリよりは、自分で収集整理した方 が便利というのが2015年現在の僕の気持ちです。

ニュースの「コモディティ化」が 新聞を衰退させる!?

 ニュースキュレーションアプリが注目される一番の理由は、アクセス数の多さで す。前述したようにキュレーションのレベルではありませんし、ニュースの信頼性で もありません。
 ニュースキュレーションアプリを提供している会社は、自らはニュースを作成していません。さまざまなウェブサイトに掲載されている素材としてのニュースを紹介し ているだけです。ニュースそのものの信憑性や重要度などについての判断は原則的に 行っていません。端的にいえば、アクセスを集めるための手段としてニュースを無料 で提供して、そのユーザーに広告ビジネスを行っています。
 新聞社や通信社が自らの記者が書いたコンテンツ、一次情報としてニュースを発信 しているのとは根本的な違いがあります。
 このような形で、ネット上にニュースが溢れている現状は、ニュースの「コモディ ティ化」といわれています。「ニュース」が、大量生産・大量消費の日用品のように なったという意味です。隙間時間にスマートフォンで簡単にニュースをみるという ユーザーの行動が、ニュースの「コモディティ化」に拍車をかけています。インター ネットにおける無料の集客ツールの役割をニュースが担っているのです。
 このことが、ニュースの専門会社である新聞社の価値を相対的に下げています。以 前は、ニュースを知りたい人は、新聞を買いましたし、新聞社のサイトに訪れてくれました。ユーザーがニュースを知りたいときは、新聞からというのが従来の形でした。 ところが、インターネットの発達で、誰でもニュースが発信できるようになり、ポータルサイトやニュースキュレーションで、拡散もされるようになって、ニュース を提供する専門会社としての特権が新聞社から失われています。一方、ユーザーにとっては、何を基準にそのニュースの信頼性を計るのかが難しい 時代でもあります。ソーシャルメディア時代のニュースの見分け方について考えてみましょう。

ソーシャルメディア時代の ニュースの見分け方

「虚構新聞」というサイトを知っていますか? 勝手につくったウソのニュースしか書いていないサイトです。その時々の人々の関
心に合わせて、面白いウソの記事を掲載しています。ブラックジョークが過ぎるとして批判されることもあるようですが、風刺とウィットに富んだ記事が多く、僕は好き です。時には、事実と思わされるような内容があり、騙されてしまう人もいます。 ソーシャルメディア経由で人づてに来ると、虚構新聞のサイトに飛ばずに、テキストだけを読むこともありますので、真に受けてしまう人が出やすいのです。僕も虚構新聞と気づかずに、「これは酷い話だ」などとコメントを添えてツイート紹介してしまい、慌てて訂正したことが何度かあります。
 最近の人気記事を紹介すると、
・「STAP細胞を信じる会」発足クラウド資金調達へ
小保方晴子氏の事件をネタにしています。
・無人牛丼店が開店、完全機械化で人件費ゼロ
牛丼チェーンすき家の過剰な労働状況が問題になったことを揶揄しています。
・おっとっと、イルカの製造を中止環境団体が抗議魚の形をした菓子に抗議 
として、過剰な環境保護団体の行動を皮肉っています。
 このような時事ネタをひねった、ウソのニュースと、新聞社の正式なニュースが、 区別なく伝わるのが、ソーシャルメディア時代の情報伝達です。受け取る側のスキル が不足していると、誤った情報から間違った判断をしてしまいます。ソーシャルメディアの「リテラシー」が求められるゆえんです。読み書き能力と訳されるリテラ シーですが、時代の変化に合わせて、新しい読み書き能力が必要になってきているの です。
 ニュースをみたら、まず情報元がどこかを確認しましょう。一次情報としてニュースを書いている「文責」が誰なのかによってある程度の真偽の予測ができます。この 世に100%正しいという情報はありませんが、大手新聞社の記者が書いた記事と、 匿名の投稿では、信憑性は全く違います。その分野に関して専門性を持つ会社のサイ トなのか、ただのページビュー稼ぎの記事なのかは、よくみればわかります。
また、それを拡散している人がいたら、その人が誰かをチェックしましょう。ツ イッターなら「リツイート」、フェイスブックなら「シェア」を誰がしているか、コ メントが添えられていればそれも読みましょう、情報を正しく見分けるために、日ごろから自分の関心の深い分野の専門家をみつけたら、フォローをしておくのもよい方法です。
 たとえば、僕は音楽サービスや著作権に関するニュースであれば、不正確な内容の記事を、コメントなくソーシャル上で拡散することは絶対にしません。フォロワーからの信用を失うからです。一方、スポーツは大好きですが、専門家ではありませんので、野球やサッカーの話題なら、根拠が曖昧でも自分が面白いと思えば、リツイート してしまうことがあります。

 ニュースのカテゴリーとキュレーションしている人の組み合わせを確かめるのは、 情報の信頼度を測る効果的な方法です。
 続いて、ソーシャルメディアの普及でも、新聞のデジタル化でも先行しているアメ リカとヨーロッパのニュースの現状をみてみましょう。

 5年前からあまり状況は変わってないなというのが、ここまでのところを読んだ感想です。「スマホシフト」はどんどん進み、ウエブサービスはスマートフォンをベースに考えるのが基本になりました。
 新聞社の改革は進まず、紙の新聞ベースにしたモデルで長期低落を続けています。
 報道の問題はジャーナリズム改革とセットです。新聞社とニュースの行方はこれからまさに課題になるのでしょう(後編に続く)

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モチベーションあがります(^_-)