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Chapter5:新時代型エージェントに求められる専門性 <7>(テクノロジーと音楽の蜜月)

『新時代ミュージックビジネス最終講義』(2015年9月刊)は、音楽ビジネスを俯瞰して、進みつつあるデジタル化を見据えてまとめた本でした。改めて読み返しながら、2021年視点での分析を加筆していきます。 アーティストと対等なパートナーとなって、音楽活動を成功に導き、ユーザーを喜ばせ、自分もしっかり稼ぐ。そんな新時代型エージェントになる方法について本章では考えていきます。

テクノロジーと音楽の関係

 音楽は、テクノロジーの発展と共に変化してきました。音楽ビジネスの視点だと、マネタイズの方法や情報伝達、プロモーションなど、プラットフォームやメディアに目が行きがちですが、表現そのものの拡大にテクノロジーを活かすという視点も同じくらい、重要です。
 僕は、アイドルシーンは活性化していても、全体的には閉塞感がある、 日本の音楽シーンを打破するのは、新たな“バンド”の出現ではないかと密かに思っています。
 話はそれますが、40 代以上のサウンドプロデューサーなどと話をし ていると、「今の若者がバンドをやっていてモテるのか?」という話題 になります。僕の“バンド”の定義は、仲間としての紐帯を持って、このメンバー でしかできない独自の表現、価値観を提示して、社会に認められようとする運動です。だから、バンドには夢があるし、音楽業界関係者が、ロマンを持って接するのです。名誉もお金も手に入ります。IT 起業の方がお金になるし、最近は名誉も手に入れられると思うかもしれません が、数万人の観客の熱狂をステージで受けるような体験は、事業家では 難しいです。音楽家は今でも、歓喜と熱狂と経済力と知名度を同時に手に入られる夢がある職業です。

J-POPのイノベーション

 では今、若者が“バンド”を組むとしたらどうすればよいでしょうか? ドラムとベースとギターとボーカルというのは、アナログ時代のフォーマットです。もちろん、その魅力が無くなったわけではありませんが、 EDM フェスティバルが大人気なように、DAW で作られた音楽が大きな位置を占めているのが現代です。では、1 人で全部やるのか? それも選択肢の 1 つでしょう。でも、この組み合せでしか起きない化学反応 に、ファンは夢を託すという側面もあります。
 僕は、“音楽を作る人”“パフォーマンスする人”“VJ もしくは映像ク リエイター”“テクノロジスト”の 4 人の組み合わせが、ブレイクスルーするベストマッチだと思っています。
 参考になるのは、Perfumeです。広島のライブアイドルからキャリアをスタートした彼女たちは、大成功を収めて、海外でもファンが増え てきています。
 Perfume の 3 人は、言うまでもなく“パフォーマンスする人”です。 加工したボーカルを聴かせるスタイルですから、ライブではクチパクです。ただアイコンとして、存在することでユーザーからの熱狂を受 け止めています。このプロジェクトにおいては、“音楽を作る人”は中田ヤスタカです。そして、ステージ演出は、“テクノロジスト”としてRhizomatiksの真鍋大度が活躍しています。ライゾマはチームとして映 像も含んだ表現になっているので、“テクノロジスト兼映像クリエイター”と言えるでしょう。素晴らしいチームアップですが、これは“大人たち”が組成したチームです。
 僕がイメージしているのは、インディペンデントなクリエイター、音楽家達が 、 自らこの4つの役割でチームを組み、"バンド” 的な関係性で、活動をすることです。
 この形式の“バンド”は日本人の強みを活かしやすいので、グローバルな活動もスムーズに行なえる可能性が高いです。
 新たな展開が起きる時は、特定のジャンルがシーンとして盛り上がるというのが音楽界の歴史です。ビジュアル系もそうでした。ダンスミュージック系も渋谷系も、ライブハウスやクラブの草の根でシーンが盛り上がり、幾つかのバンドが大成功をして、ますます活性化していく。この好循環が必要です。
 J-POPのイノベーションは、こんな組み合せのバンドがたくさん出てくる新しい“バンド”シーンが出現し、ムーブメントになった時に、 起こるはずです。こんなシーンの創出のきっかけを作りたいと考えています。
 ニューミドルマンは、新たなテクノロジーへの知見が必要です。ドローン(無人航空機)の開発状況はどうなっているのか、360度映像に適したカメラはどれなのか、それぞれの分野で傑出したクリエイターは誰なのか? そんなことを意識しておきましょう。

n次創作もポジティブな対応を

 n次創作も注目の分野です。ダンスミュージックシーンでリミックス という手法が始まったのは 1970 年代後半ですが、PCで音楽をつくれるようになって、大きく広まりました。
 ニコニコ動画では、マッド動画と言われる、既存の画像、映像、アニメーションなどを個人が自由に編集した二次創作作品群が人気です。
 二次創作された作品に、別のユーザーが手を加えて、3 次、4 次...... と作られていくので、“n 次創作”と呼ばれています。
 吉幾三の「俺ら東京さ行ぐだ」にさまざまな作品を加えたシリーズは、 殿堂といわれるほど多種多様な人気作品がありますが、最近は、ロックバンドSEKAI NO OWARIの楽曲「Dragon Night」とのマッド動画 が話題を呼んでいました。
 これらの行為は、ほとんどの場合、著作権法には違反する行為ですが、 アーティスト自身が許容のコメントを出すという、“積極的黙認”という形になっています。
 従来の法律やビジネスのルールの枠には収まらない事象ですが、ユー ザーが物語を持って楽曲が広まっていくという意味で、非常に効果的な プロモーションであります。新たな作品をつくるクリエイティブなヒントにもなるはずなので、ニューミドルマンとしてはポジティブに受け入れて対応していきましょう。
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2021年2月付PostScript
 この時に僕が期待したような、「新しい組み合わせのバンド」の伸長は見られませんが、YOASOBI、millennium paradeなど、従来の音楽活動からはみ出したユニットやプロジェクトは増えてきたような気がします。
 これから期待したいのは新しい「楽器」の登場とそれに伴う表現の拡張です。トランジスタが無ければエレキギターとアンプの表現はなく、すなわちロックは生まれなかったと考えると、「電化」に勝るとも劣らない変化である「デジタル化」からはもっと新しい楽器が出てきてもおかしくありません。現状ではボーカロイドが最大の成果ですね。僕は、映画「ラ・ラ・ランド」でも使われたROLI社のseaboardが好きです。
 世界に衝撃を与えたYMOの例を出すまでもなく、日本のポップミュージックとテクノロジーの相性は良いはずです。K-POPに追いつくための条件はテクノロジストのバンドへの参加だなと、改めて思う2021年です。

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