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著作権法違反の「ファスト映画」事件からWEB3時代のコンテンツ生態系について考える

 不覚にも「ファスト映画」という言葉をニュースを見るまで知りませんでした。
 
 既存の映画の動画を編集してアップロードしているというのは、現在の法体系と社会通念からは、普通に「著作権法違反」です。逮捕される前に、そのYouTuberが新聞からの取材の様子を自分のチャンネルに上げているのを聞きましたが「裁判したら必ず勝つ自信がある」と話していました。端的に言うと、「自分を頭良いと思うと愚かなことをしてしまう」というのは、ソクラテスが「無知の知」と語った紀元前のギリシャで言われています。もし友人か親戚なら、日本の司法制度のリアルな現状を説いて、むやみに国家権力を刺激するのを止めてあげたかったです。もちろん、著作権法に「引用」という概念があるという彼の主張は事実です。これが映像においてどこまでが許容されるかというのは、テクノロジーの進歩によって起きた新しい現象ですから、裁判してみないとわからない、論理的には合法となり得る余地はありますが、同様の判例が無い中で、現在の社会通念と反する独りよがりの解釈をしても、裁判官から好意的な判決を得る可能性は著しく低いでしょう。これまでどんな人生を送ってきた方はわかりませんが、哀れな人だなと思いました。

 一方で、実際の動画をつまんで短く編集して紹介する「ファスト映画」という行為を一般ユーザーがするという現象は、とても興味深く受け止めました、音楽ではリミックスとかカバーや替え歌という行為がありますね。動画素材の再編集というのはこれまで簡単できないことだったのが、テクノロジーの進歩で誰でもできるようなっています。
 YouTubeやTiktokで映画や小説を紹介するインフルエンサーが注目されていることの延長線上に起こり得ることです。
 
 さて、近未来のエンタメコンテンツの生態系を考えるときに、n次創作の活性化と、キュレーターへの経済的な報酬が行われるシステムというのはキーとなる重要な部分だと思います。WEB3.0の時代の到来が熱く注目を集めていますが、音楽や動画、絵画や写真、小説なども含めて、従来の「マスターと複製」という発想の著作権ルールを拡張して、キュレーションとn次創作を取り込んだ形のビジネス生態系を作ることが必要な時代になっています。    
 UGM=ユーザー生成コンテンツという言葉が象徴的です。作品がヒットするかどうかはSNS上のユーザー反応が決める時代に、n次創作を促進させることは有効な方法です。
 メディアの民主化という言葉も語られて久しいですが、個人のキュレーションがコンテンツの拡散の肝になっている今、報酬の分配の循環にキュレーターを取り込むことも自然な流れです。

 n次創作でもキュレーションでも、最も大切なポイントは、(一次)クリエイターに対するリスペクトがあることです。もしかしたら、逮捕されたYouTuberも再編集した元作品へ強い愛着を持っていて、作品が広まるために有効と信じてやっている、だから監督にはそれが伝わるはずと思っていたのかもしれません。独善的とは思いますが、もしそうなら、考え方は理解はできますね。

 n次創作促進といえば、最近VTuberがオリジナル楽曲をリリースするため第一線の作詞家作曲家に作品依頼をするケースが増えてきています。その際に起きている問題が著作権契約書を結ぶ際に、作詞家作曲家に「著作人格権の不行使」という(音楽の仕事をしてきた立場では)信じられない条項を入れてくることがあります。著作権には、財産権と人格権があって、財産権は譲渡できるけれど、改ざん等を止められる人格権は譲渡できないというのは著作権の教科書の最初に書いてあることです。
 人格権不行使を望む理由を尋ねると「二次創作を活発化したいから」と本末転倒すぎる理由で驚愕しました。その条項に反対する僕の「基本的人権を放棄されたからって奴隷にしたら憲法違反ですよ」という喩えは極論すぎるかもしれませんが、n次創作の奨励はクリエイターへのリスペクトと期待が前提のはずです。二次創作をクリエイターに期待するために、元となっている作品を創ったクリエイターを蹂躙するような契約を望むのは、基本的な姿勢として間違っています。まあ、VTuber事務所が悪いと言うよりは、顧問弁護士(社員弁護士の場合もあるようです)のレベルが低いのがポイントなのでしょう。ビジネスの実務と本質を理解したエンタメロイヤーを日本に増やすことが、大切だなと改めて思っています。

 さて、WEB3.0時代を見据えた事業を行いたいという起業志望者も増えてきているようです。エンタメ関連事業を構築する際のポイントは、構造変化が必須の「コンテンツ生態系の再構築」です。構造変化の時期だからニューカマーに大きなチャンスがある訳です。ブロックチェーンベースの生態系では、クリエイターへのリスペクト、作品への敬意を大前提にしつつ、ユーザーが再編集、リミックス等のn次創作で加わったり、適切な紹介をするキュレーターにも何らかの経済的報酬が分配されていくような、これまでにない仕組みが可能になりますし、非常に重要です。デジタル通貨はグローバルに超低廉な手数料で流通させることができますし、NFTでのクレジットといった名誉の付与も可能です。

 NapsterやGroovesharkがSpotifyの前哨戦として語られるように、哀れなYouTuberの逮捕がWEB3.0時代のエンタメコンテンツ生態系の前史として位置づけられる時代を早く来るようにしたいですね。スタートアップスタジオStudioENTREとしても、積極的に取り組んでいきたいです。事業設計に悩んでいる人は、お気軽にご相談下さい。おそらくお役に立てる知見や情報、人脈をご提供できると思います。

 ニコニコ動画の全盛期について語るまでもなく、n次創作は世界で一番日本が優れている分野です。新たなエンタメ生態系を日本発でつくりたいですね。

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