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Chapter4:世界の音楽ビジネスの現状<2>(Spotify Apple Pandora)

『新時代ミュージックビジネス最終講義』(2015年9月刊)は、音楽ビジネスを俯瞰して、進みつつあるデジタル化を見据えてまとめた本でした。改めて読み返しながら、2020年〜21年視点での分析を加筆していきます。
 Chapter4では、欧米を中心とした世界の音楽ビジネスについての基本的な知識を押さえます。 状況を把握することから始めましょう。

代表的な 世界の音楽サービス

 音楽関連の IT サービスについて、分類して整理してみましょう。まず、クラウド型音楽ストリーミングサービスについては、大きく2つの 潮流があります。
◉オンデマンドジュークボックス型=代表的なサービスは Spotify
◉パーソナライズドラジオ型=代表的なサービスは Pandora 
他にも、注目すべきサービスがありますので、順に見ていきましょう。

オンデマンドジュークボックス型

 いつでも、どのデバイスでも、聴きたい楽曲を聴くことができるサー ビスです。月額課金の形がなじむモデルで、Spotifyは無料サービスと有料サービスを組み合せた“フリーミアム”モデルを使って人気を集めています。有料サービスへのコンバージョン率が高いのは、音楽ファンを醸成している証拠と言えるでしょう。
 新しい音楽消費の主流になりそうな理由は、利便性に加えて、ソーシ ャルメディアでの共有などで広まりやすいことです。ユーザー間でコミュニケーションされることが音楽にとって大切になっています。Apple Musicが同タイプのサービスなので、これからの勢力争いに注目です。

パーソナライズドラジオ型

 ラジオの進化系というべきサービスです。流れてくる楽曲に対して、 ユーザーが“好き”“嫌い”を伝えたり、その曲をスキップすることで、 楽曲の選択をユーザーごとに変えていきます。パーソナライズドという のは、そういう意味です。Pandora のユーザー数は 2 億 5,000 万人超で、車社会でラジオが影響力を持つアメリカ市場では、非常に大きな 存在です。今のところアメリカ以外でサービスを行なっている国はオーストラリアとニュージーランドで、それ以外の国ではレーベル側の許諾 が取れずにサービス開始をできずにいます。

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 PANDORA の人気の秘密は、ユーザーへのレコメンドの確かさだと言われています。“ミュージックゲノムプロジェクト”という、独自のレコメンドエンジンが売りです。詳しい仕組みは企業秘密で知ることができませんが、数十人のミュージックアナリストが自分の耳で聴いて、 楽曲を分類したり、タグ付けしたりしているそうです。そうやって作ら れた楽曲データベースを使い、ユーザーの反応については、アルゴリズムに落とし込んで、“この曲が好きな人には、こちらの曲を推奨”といったことをしていると言われています。
 この3~4年、世界の音楽サービスのキーワードは“MUSIC DISCOVERY”だと言われています。ストリーミングサービスが普 及して、ユーザーの聴取行動を可視化できるようになった結果、その膨大なデータをどう処理して、ユーザーを新しい楽曲、アーティスト と出逢わせるのかに、サービス側は腐心しているのです。人の感覚と プログラムのどちらが優れているのかという議論が続いていますが、 PANDORA の Man + Machine......人間の主観的な感覚とアルゴリズ ムを組み合わせる方法は、正解の 1 つではあるようです。
他にもパーソナライズを目指すインターネットラジオはありますが、 今のところ、PANDORA が圧倒的に先行している状況です。

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多チャンネルラジオ型

 正確に言うとiHeart RadioもPANDORAと同様のカスタマイズ性を持っていますが、メインのサービスとしては、世界中のさまざまなラジオ局や個人がステーションを持ってネットラジオ局を運営するのを束ねて、ユーザーにキュレーションしつつ提供するサービスです。
 日本では、dヒッツ、“スマホで USEN”などが、同モデルのサービスになります。また、2015 年秋から、楽天が“楽天 FM”という名称 でこのタイプのインターネットラジオのプラットフォームサービスを行なうそうです。楽天は、グローバルを志向する日本企業で、既に他のサービスで多くのユーザーを抱えていますから、これまでとは違うインターネットラジオサービスになることを期待したいです。

個人ロッカー型

 クラウド型の音楽サービスという意味では、個人ロッカー型と言われるサービスがあります。ダウンロードや CD からのリッピングで自分が持っている音楽ファイルを自分が所有するクラウドにアップロードして、どのデバイスでも聴けるようにするというサービスです。代表的なサービスは、iTunes Matchになります。Dropboxなど、音楽が主た る目的ではないクラウド上のデジタル倉庫提供サービスは他にもたくさんあります。
ただ、iTunes Match を行なっている AppleがApple Music を始めたことからも分かるように、このタイプは音楽サービスとしては、伸びていくのは難しそうです。音楽ファイル自体を個人が管理する必要性が無くなってきているからです。
 強いて言うと、SoundCloud は、このタイプに入るかもしれません。 1億 7,500 万人のユーザー数と 1 億曲以上のアップロードがされている、音楽家が自らの音源を聴かせるためにアップするサービスです。ユ ーザーは無料で聴けますし、UGM 的な意味が強く、個人ロッカー型 というよりは YouTube やニコニコ動画と同じ種類に捉えるべきかもしれません。4,000 万以上の登録ユーザーと 1 億 7,500 万人以上の月間リ スナーを持っています。2015 年中に有料の新サービスを始めると言わ れているので注目しましょう。

楽曲認識アプリ/サービス

 グローバルにユーザーを持つ音楽関連サービスとしては、Shazamも重要な存在です。全世界で 1 億人以上のアクティブユーザーが、年に 1 曲以上ダウンロード購入しているというデータも発表されています。
 原理は簡単です。無料アプリですから、スマートフォンにダウンロードしていて、外出先で気になる楽曲があったら、アプリを起動させて、 スマートフォンをかざします。すると数秒~数十秒で曲名とアーティスト名を教えてくれます。これだけの機能ですが、強い支持を集めてい ます。日本語版もあります。以前は楽曲データベースが不十分なのか、 J-POP は精度があまり高くありませんでしたが、2014 年にレコチョク と提携をしたので、今後は充実されていくでしょう。

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 SoundHound も、同じように楽曲認識アプリを提供するサービスで す。Shazam が原盤の特徴をオーディオフィンガープリント化して読み 取っているのに対して、SoundHoud はそれだけでなく、メロディ自体も認識して似た楽曲を知らせます。友人のプロ音楽家の間では、自分の作曲したメロディがどこかで聴いたことがあるような気がして不安になると、SoundHound でチェックするという使い方もされていて驚きました。

 他にも音楽サービスは世界中に多数、存在します。常に情報に敏感に接し、人気が出てきたサービスはチェックして、可能なら自分で使ってみることにしましょう。
 これからの世界の音楽ビジネスは、間違い無くITサービスが牽引し ていきます。いや、もう既にそうなっていると言った方が良いですね。 新たな音楽サービスをいち早く使いこなすことが、アーティストが成功するための条件になり始めています。(続く)


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2020年12月付PostScript
 ITサービスの盛衰となると、5年前は大昔ですね。ここでも予測したように、個人ロッカー型は広まりませんでしたね。今でも自分が聴くため音楽ファイルをローカルPC(+クラウド)で管理している人はかなりの少数派でしょう。手軽さ便利さ安さなどの技術革新に伴う時代の変化は強烈です。
 音楽ビジネスの生態系としてはSpotifyを中心としたストリーミングサービスに集約されてきました。iOSという強みを持つApple Musicも頑張ってますね。アメリカではSpotifyにユーザー数で追いついたとの報道もあります。ちなみに日本は世界でも珍しいApple MusicがSpotifyよりも早く(約一年)サービスを始めた国でユーザー数でも数倍多いと言われている稀有な国です。ユーザー数もApple Musicが大きく先行していて、LINE MUSICが2位だと言われています。コロナ禍もあって、日本もデジタル音楽サービスのユーザーを増やすべき状況になっています。


 Music Discoveryは変わらず重要なテーマです。ユーザー行動が全て把握できるサービス各社は、ユーザーに適切な楽曲やアーティストとの「出逢い(serendipity)」を与えられるように腐心しているようです。
 ただ、音源を使ったビジネスの生態系は、Spotifyに代表される「オンデマンド・月額課金型ストリーミングサービス」を幹に再構築されていますね。それ以外の音楽サービスは、ShazamがAppleに買収されたように、一旦、集約化の流れにあるようです。

Pandoraの「敗因」は?
 注目されていたPandoraは、2019年にラジオサービスの会社に買収されました。その後の情報はきちんとフォローできていませんし、サービス自体は続いているので、失敗とは言えないと思いますが、吸収的な買収をされて、スタートアップとしては一区切り付いてしまったとは思います。

 Pandoraの敗因を分析してみましょう。僕は権利者との向かい方、大雑把に言うと、世界一のレーベルユニバーサルミュージックに潰されたと思います。アメリカ市場は、ラジオ非常に重要な存在です。ビルボードチャートの一番大きな要素をラジオ局でのオンエアー回数なことにも現れています。インターネットラジオ(web castingという言い方しますね)についてもポジティブに育てました。デジタルミレニアム著作権法(DMCA)を2000年に定めて、オンデマンド配信サービスと区別する形で、「ネットラジオ」を定義、同じアルバムから一定時間内に流す曲数を制限するなどして、自由な楽曲使用を認めました。SoundExchangeというNPOを作って、1再生の最低保証金額も定め、アーティストとレーベルに分配する仕組みを作りました。無料サービスであるPandoraはユーザー数が伸びたことで最低保証金額の支払いで赤字化することが多かったのですが、投資家からは評価され、資金は集まっていました。
 ただ、投資家が求めるのは「成長」です。ミレニアム法で定めた分配に不満があったユニバーサルを中心としたメジャーレコード会社は、ヨーロッパなどアメリカ以外での事業展開を阻止に動きました。それで、成長余地が少なくなったことで、経営が苦しくなっていったようです。日本は伊藤忠商事が日本での事業化の権利を取得していたのですが、権利者の合意が取れずに、サービスローンチに至りませんでした。もし10年前に、いや5年前でも良いので日本でPandoraが始まっていたら音楽市場が活性化したでしょうね。Pandoraも今の様な資本・経営状況ではなかったかも知れません。デジタルサービスは権利者との向き合い、法律などでの後押し(ないし規制)がポイントになることを教えられる事例だなと思いました。優れたレコメンドエンジンと評価されたミュージックゲノムの仕組みは、その後どこでいかされているのでしょうか?ご存じの方いたら教えて下さい。

 本書(マガジン)の第二章の鼎談で発言しているように、僕は音楽ストリーミングサービスは細かいローカルサービスや専門店型サービスは別にして、世界で2〜3社に集約されると思っています。

 Spotify、Apple Music、Amazon、YouTubeと数えると既に多牌(麻雀でミスなどで牌が多すぎること)で、そこに中国Tencentの音楽サービスが、莫大な資金力と巨大な中国市場を背景に挑んでいる図式です。原盤音楽市場の配信サービスの「幹」をめぐる争いは最終章に近づいている気がしています。(SpotifyのTencentは株の持ち合いでお互いの事業テリトリーを分ける「握り」をしたようです。)ただ、枝葉はもっと生えてくるでしょうから、幹に成れなかった日本からは、枝葉でのスマッシュヒットサービスを目指したいところです。
 ブロックチェーン管理と共に、もっと音楽家個人にパワーが移ってていく音楽ビジネスの仕組みが10年単位では必ず来ますので、そこで音楽サービスがどう変わるのかに注目しています。できれば僕らもその変化に関与していきたいものです。

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