職業作曲家の心得[番外編:コロナ禍の作詞作曲家への影響は?]

 世界のリアル経済を萎縮させているCOVID-19、新型コロナウィルスは、様々な産業、職業にダメージを与えています。本稿では作詞作曲家へのダメージについての予測をまとめておこうと思います。
 僕は経済産業省のデジタルコンテンツ白書の編集委員をやっているので、原稿締切に合わせて6月末頃に、ダメージの予測を非公式な情報も含めてリサーチしました。

コロナ禍で音楽著作権印税は、2割強のマイナス

 作詞作曲家の印税に関して言うとざっくり前年比2割強のマイナスというのが僕の予測です。音楽著作権使用料をJASRAC2019年分配額から見てみましょう。「支分権」と呼ばれる使われる使用種別ごとに分かれたデータがあります。一番ダメージ大きいのは、「演奏等」という部分です。コンサートがこれだけできなくなっていますので、8割減してもおかしくありません。245億円が50億円程度になるかもしれないということです。「オーディオディスク」は主にCD、「ビデオグラム」はDVD,BlueRayの売上です。販促イベントや複数購入促進ができなくなったレコード会社は2〜3割の売上減が予想されます。今回のコロナ禍で時間の問題だったCDレンタル店が壊滅することが予想され、イニシャルと呼ばれる初回プレス分の2割前後あったレンタル店への売上が無くなるのも短期的にはダメージです。「通信カラオケ」も厳しいですね。
 

スクリーンショット 2020-10-19 14.50.44

 「放送」は、包括契約のなっているので増減がなく、本来はがっつり伸ばすべき「インタラクティブ配信」が、日本の場合は、サービスの普及が遅れたことで、他のマイナスを補えないというのが現状です。
 世界のレコード市場(録音原盤市場)は、今年も2.5%のプラスが予想されています。伸び率は下がるのですが、実はこの予測で足を引っ張っているのは日本のレコード産業のマイナスです。日本以外の音楽産業は成長していて、日本はレコード会社が、原盤許諾を渋ることで、デジタルサービスの普及を遅らせてきた中、コロナ禍の今年に一気にツケを払うことになっているという現状なのです。

 作曲家が備えておくべきこと

 全体として作詞作曲家が受取る印税が2〜3割減ということをもう少し細かく因数分解するとどうなるのでしょうか?
 10年以上のキャリアがあって、一定以上の著作権収入が得られるようになっている作家は単に減ることを前提に倹約しましょう(笑)日本の洗練された著作権徴収分配の仕組みは「塵も積もれば山となる」的になっているので、実績のある作曲家は、4半期ごとに最低この位は入金されるという金額が決まっているでしょう。もちろん新しいリリースがなければ、下がりますが、キャリアが長い人ほど下がり方は緩やかです。それから、今回のコロナの影響は前述のように理由があるので、必ず戻ります。来年の秋くらいまで、コンサートが本格的に再開し、カラオケボックスをユーザーが普通に使うようになるのは、来秋くらいになってしまうかもしれませんので、印税分配が復活するのは、そこから半年後(再来年春)になるかもしれません。その間は年収2割減を前提にしてショックを受けないようにしましょう。
 キャリアの浅いソングライターにとっては、影響は軽微です。というかマクロで見ると同じことが起きているのですが、そもそも著作権印税の金額予測は難しく、この程度は誤差の範囲です。楽曲提供をする側の職業作曲家にはコントロールできない部分で印税の額は決まります。タイアップが取れて、テレビで流れて「放送」部分の分配額が上がるみたいなことに関与の余地はありませんので、気に病むのはやめましょう。僕が気になるのは、先輩作曲家達の「印税は安い、もう無理」みたいな発言に惑われ不安になることです。キャリアがあり、印税をたくさんもらっていた作家ほど確実にダメージを受けるので、これから1年間くらいはネガティブな話が噴出するでしょう。「もう作曲家は無理なのかも」と根拠なくネガティブな気分になるのはやめましょう。

下半期はリリースラッシュの予感

 目先の話で言うと、各レーベルは下半期でリリースを加速させるでしょう。相変わらず、販促イベントなどは困難ですが、そんなことも言ってられません。このままだと今期の売り上げが2~3割減のレーベルも多いでしょうから、なりふり構っていられないはずです。作品をリリースしないことには売り上げは立ちませんから、上半期に延期していた分も含めて、今期の目標達成に動くはずです。バタバタと原盤制作が進むプロジェクトも多いでしょう。編曲まで受け持つ作曲家は、収入増のチャンスです。実績の無いクリエイターにもチャンスがあるでしょう。デモのストックを提出しやすく整理しておいたりとか、自分の制作環境を整備したりとか、急な、そして納期の短い仕事に適切に対応できるように備えておきましょう。

デジタルシフトへの心構え

 今回のコロナ禍のダメージは一時的なものですが、もう一つ本質的な変化も進行しています。それはパッケージからデジタルへの市場の変化です。日本は欧米に6年位遅れているので困ったものなのですが、そのお陰で未来予測は簡単です。日本以外の国で起きていることを知って、それを「日本では?」置き換えてみれば、大きく予測を外すことは無いはずです。
 ちなみに著作権印税は、CDでは販売価格の6%、デジタル配信は7.7%ですが、世界的な潮流は12%で、日本もその料率に向かっています。つまり、ユーザーが支払った金額から作詞作曲家が受取る金額は、デジタルサービスにおいては2倍になる訳です。CD売上も落ち込みとストリーミングサービスの伸張がバランス良く行かなければ、一時的に凹むことはあっても、中期的には著作権印税が下がってしまう可能性は非常に低いと僕は思います。
 先程、印税額の増減に作曲家は関与できないと書きましたが、ストリーミングサービスが主流になると、そこにポジティブな変化があります。ユーザー行動の可視化とプレイリストプロモーションです。twitterなどSNSをチェックすることで自分の楽曲に対するユーザーの生の声を知ることができます。なかには批判もあるかもしれませんが、音楽ファンは優しい人が多いので、褒め言葉も少なくないと思います。創作の励みに、そして参考にもしていきましょう。
 もちろん、Spotifyなどで自分のプレイリストは作りましょう。This is ◯◯というプレイリストが一般的ですね。作曲家が自分の楽曲を宣伝でき、祭祀されると(超少額ですが)印税が増えるというのは楽しいことではないですか?
 音楽配信サービスがグローバル化したことで、Spotify、AppleMusic,もちろんYoutubeも世界中の人に簡単に音楽を聴かせることができます。

 音楽ビジネス生態系はデジタル化で大きな変化を遂げています。日本は世界で一番遅れを取っていますが、変化は始まっています。構造変化を理解して、前向きに音楽創作に取り組んでいきましょう!

「山口ゼミ」修了生のクリエイターチーム「Co-Writing Farm」は自分たちでプレイリストを作って、リリースされると必ず楽曲を追加しています
 秋期講座は締切、来年1月からの冬期講座がまもなく募集開始です!


モチベーションあがります(^_-)