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第1章:コーライティングの基礎知識1〜自分を知ろう!

20154月刊行の『最先端の作曲法・コーライテイングの教科書』(リットーミュジック)は、日本におけるコーライティングムーブメントを予見し、牽引する役割を果たしたと思います。2022年〜2023年視点で読み返し、世界のクリエイターが取り組み続けているコーライティングの意義と改めて解説します。

 コーライティングとはまず、自分がどの役割に適してい るかを知ることから始まります。その上で、何人かのチー ムで作業をするわけですが、その際にはさまざまな形態や方法論があり得ます。この章ではまず、そういった“基 礎知識”から解説していきましょう。楽曲にケミストリー(化学反応)を起こすためにも、スタート地点を誤らないことはとても重要になります。

まず自分を知ること

クリエイターの皆さんに質問です。
あなたの“売り”は、なんですか?
日本では現在、1人で完パケまでもっていけるクリエイターの需要が高いため、多くの人は自分が苦手な作業まで何とかこなそうとしているのではないでしょうか? 弾き語りによるメロディ作りが得意なのに、無理してDAWソフトを使いこなそうとしている ......。トラック作りは楽しいけど、全くメロディが思い浮かばなくて苦労している......。歌は上手くないけど、自分で歌ってエディットでなんとかしている......。できれば作詞はしたくないけど、必要 にかられて1日かけて作詞した......。ロックを作りたいんだけどギターを弾いたことが無いので、DTMのサンプリング音源でなんとかしようとしている......。ディレクションには絶対の自信があるけど、アレンジ/トラックメイクはハードルが高い......。そんな人が多いのではないかと感じています。
あるいは、“1人で全部作る”ことが大前提になりすぎている結果、もともと自分が何を得意としていたのかすら曖昧になってしまったクリエイターもたくさん存在します。完パケを目指して一生懸命努力をしているけど、それゆえにすべてが散漫になってしまい、デモのクオリティも低くなっている......。イメージはできてい るのだけど、それを形にできない......。メロディ作りのセンスがとてもあるのに、オケを作るために労力 を使ってしまい、全体としては凡庸な作品に仕上がってしまう、というようなことが頻発しているのです。
 そこで基本にいったん立ち返り、自分が得意なこと、苦手なこと をしっかりと見つめ直してみましょう。
 コーライティングとは、“自分が得意な分野を活かし、苦手なことは他人にアウトソーシングする”という作業です。自分を知るこ となしには相手に求めるものも分かりませんから、コーライティン グの成功はあり得ません。
例えば、集まった3人が3人ともメロディを書くことが得意だっ たとしたら、そのデモは完成しませんよね? 同様に、トラックメ イカーが3人集まっても、歌ものは出来上がりません。一芸に秀でた人が、それぞれの才能を結集して作品を完成に導くのがコーライティングですから、まずは自分の得意分野、不得意分野をきちんと 把握しましょう。

 INTRODUCTIONでも紹介したように、コーライティングにおける役割は、おおよそ以下のようになります。

◯トラックメイカー
◯トップライナー
◯アレンジャー
◯作詞家
◯仮歌
◯ディレクター

 自分が得意なもの、不得意なものは分かりますか? 考えてみま しょう。

タイプ判別法とアドバイス

 “1人で完パケ”にこだわるあまり、自分のアピールできるスト ロングポイントが分からなくなっている人が多い現状で、自分のキャラクターを知るためには、信頼できる人にデモを聴いてもら い、アドバイスをもらうのも良いでしょう。
 でもそういう人がいないとしたら、自分が以下の類型のどれに近 いかで判断するようにしてください。

■メロディ重視型

 シンガーソングライターとしての 活動歴がある人に多いタイプです。 ある程度楽器を弾けて、歌いながら メロディを作っていくことを得意と します。
コーライティングでは、トップライナーといわれるメロディメイクの役割を担うのがオススメです。自分の持っている引き出しからどんどんメロディを提案します。弾き語りでもいいし、出来上がっているトラックに対して即興で 歌ってもいい。ある程度見えてきたデモに対しても、オケや世界観 との折り合いを付けてブラッシュアップしながらメロディの構築をしていきます。
このタイプの人は、無理してパソコンやDTM / DAW、プラグインといった苦手領域に近づく必要はありません。その辺は、他人に任せてしまえば良いのです。
 ただし、自宅で歌を録って、エディットするところまでは頑張り ましょう。仮歌の元データとエディットデータを投げ返すことができれば、チームとしての効率も良くなりますし、自分自身の水準もアップします。
さらに頑張るとしたら、歌詞を書けるように勉強をすると良いで しょう。そうすれば、トップライナー/作詞家/仮歌という3つの役割が自分のストロングポイントだと言えるようになります。
注力ポイント:メロディをどんどん出せるようにする 自分の歌のエディットはできるようにする 歌詞を書けるようになる。

■サウンド重視型

 DJタイプのクリエイターです ね。メロディというよりは、リズムトラックや音色、ミックスといった 分野に興味を惹かれがちで、プラグインエフェクトやソフトシンセの動 向もチェックを怠らない、最新のリズムにも詳しい、そんなタイプ と言えるでしょう。当然、トラックメイカーを担当することになります。このタイプは、どうしてもDAWで完結しがちです。しかし楽器のことをよく知り、生楽器のアレンジ、生楽器への差し替え、そのレコーディングとディレクションができるようになると重宝がられ ます。将来的には作曲だけではなく、アレンジャーとしての仕事も視野に入れて、リリースに耐え得るトラックを意識することも重要です。アレンジャーは印税ではありませんが、ギャランティが入りますので、作曲とアレンジを両方できると収入的にもバランスが良 くなります。
 トラックメイカーとアレンジャーという2つの顔を持つということは、コーライティングで最も需要のある存在になるということで す。あと、ミックスという重要な仕上げ作業を任されることになるので、その技術とセンスは常に磨くようにしましょう。
注力ポイント:楽器のことをよく知る アレンジもできるようになる 生楽器のレコーディング/ディレクション ミックスの技術とセンス

■ディレクター型

 トラックも作らないしメロディも 主動的には作らないで、あえて客観的な目線で意見を言う立場。コーライティンングのチームリーダーとして目標を提案し、作業の流れを作り、メンバーが各自のチカラを存分に出せる空気を作り、そして出来上がったデモの出口まで用意します。ディレクター型の一番大事 なところは、楽曲の明確なイメージを持つことでしょう。そのイメージが、チームの進むべき道の標となるのです。
このタイプは、作詞ができると強いです。なぜなら、メロディ重 視型とサウンド重視型はいわゆる作曲家で、どうしても作詞まで手が回らない、作詞は苦手というタイプが多いので、そこを補えるということ。あと歌詞というのは、楽曲のイメージそのものなので、 言葉で世界観を表現できてしまいます。タイトルだけ決めてから作 業を始めることもできるし、詞先でコーライトをすれば、歌詞は言っ てみれば地図になるのです。例えばディレクター型である伊藤が コーライトする時は、メロディが作られている横で、同時に歌詞を 書き、随時それをメロディにハメていくというやり方をします。
ここまで話せば当たり前のことなのですが、単純にコミュニケー ション能力が求められます。
注力ポイント: 出来上がった楽曲をピッチングできる環境作り 楽曲の明確なイメージを持つ 作詞をできるようにする コミュニケーション能力を磨く

 このように、“1人で完パケ”という現在の基準からは外れてしまっている才能を活かせるのが、コーライティングの大きなメリットとなります。
どんなに良いメロディを書ける人がいても、オケがダサかった ら、そのデモは採用になりません。でもコーライティングなら、そのメロディにかっこいいオケを付けることができる。楽曲に大きな可能性が生まれるのです。
なお、ここでは3つのタイプを紹介しましたが、この3タイプしかいないということではありません。自分はトラックと歌詞が得意 だというクリエイターがいてもいいし、メロディ作りとディレク ションができるというクリエイターがいてもいい。6つの得意分野 のうち、2つを持っていれば十分! あとは自分のストロングポイントをアピールして、それにニーズさえあればコーライティングは始められるのです。

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2022年7月付PostScript

「山口ゼミ」の講座の中でもよく話すことですが、努力をしているクリエイターはたくさんいます。ただ、マネージメントを長年してきた僕から見ると、その「努力」の方向が見当外れなことが少なく有りません。
 拙著『プロ直伝!職業作曲家の道』でも強調したように、苦手の克服ではなく、得意分野を伸ばすことに注力しましょう。
プロ作曲家の心得:自分の得意技を見極めて徹底的に磨くことができると、成功への道が見えてきます。
 問題は、何が自分の得意技なのかを知るのが難しいということです。ここれでもコーライティングは役に立ちます。他人と一緒に創作することで、自分のクリエイティブのどこに優位性があるのか、意外なところが褒められたり、頼りにされることで、作曲家は成長していくのです。

 初採用楽曲がレコード大賞を受賞した中山翔吾がスピーカーのイベントです。コーライティングがなければあり得ないことで、間違いなく、史上初のことでしょう。興味のある方は是非、ご参加ください。無料オンラインイベントです。


モチベーションあがります(^_-)