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近い将来に起きる音楽出版権(著作権)の変化の話〜ニューミドルマンコミュニティMeetUpExtraレポート

 エイベックスの松浦さんがCEO退任で語っていた、Co-Writingとゲームチェンジの話をnoteにまとめたら、ちょっとバズったようで、ニューミドルマンコミュニティを一緒にやっている脇田敬が、「業界のタブーの話をさらっと書いていて凄く面白いので、これをニューミドルマンのみんなと共有しましょう。多分、説明しないとみんな意味わからないでしょうし」ということで、ZOOMイベントとしてやることになりました。

 ニューミドルマンコミュニティというのは、2014年秋に僕が主宰で始めた、「ニューミドルマン養成講座」というセミナーから始まったムーブメントです。もともとは、日本の大手レコード会社の経営者達が、デジタル化の動きにブレーキを踏む態度に頭にきて、「業界の外の人を育て、伝えることからやり直しだ!」と始めました。僕の予測通り、日本の音楽業界はその後衰退を続けたので、その総括は改めて書くつもりですが、当時は、こんな活動すると音楽業界で疎んじがられるかなという不安もありつつ、でもいたたまれずに始めました。その時の決意表明みたいなブログが残っているので、恥ずかしいですが、共有します。熱さは伝わるかと思います。

 ニューミドルマン養成講座は、音楽ビジネスのデジタルによるアップデートというテーマのセミナーが物珍しかったこともあって、多彩な人が集まってくれました。少し名前を上げるだけでも、フェスティバルジャンキーの津田昌太郎君、風営法改正やナイトエコノミー協会設立で有名になった齋藤貴弘弁護士、エイベックスアジア社長の高橋俊太君などなどなど、僕にとっても貴重な価値のある出逢いが沢山ありました。今のVERSUSのスタッフ二人も、大学卒業前後からニューミドルマンの講座に来てくれていたという縁だったりします。

 最近は、似たようなテーマの素敵な講座が増えてきて、一定の役割は終えたかなと思い、でも何もなくなるのはあまりにもったいないので、一昨年からオンライン+オフラインのコミュニティとして活動しています。

 月に一回MusicTechRadarと名付けて、ゲストを招いて、今とこれからの音楽ビジネスについてセミナー的なイベントをやっているのですが、最近は、ゲスト無しで、テーマを決めて、山口脇田が話すextraというのも並行して始めたので、その一環で今回の音楽出版権のゲームチェンジの話をやりました。

 前提となる知識と用語の整理をしながら進めていきました。

【当日のアジェンダ】
Co-Writingとは?
音楽出版権とは?日本と海外の業界慣習の違いとは?
業界慣習違いから生じる、外国人作曲家への「逆差別」とは?放送局子会社がタイアップ楽曲の出版権を持つ「合法性」?
原盤権とは?音楽制作・レコーディングのプロセスの変化に伴う原盤権の位置づけの変化?
録音原盤市場の生態系のこれまでとこれから。国際間の著作権徴収分配は?日本とグローバルの変化と融合
質疑応答+ディスカッション

 こんな感じの内容です。当日のプロジェクター資料をお見せしながら、順を追って説明しますね。

Term1:Co-Writingとは?

拙著『コーライティングの教科書』(伊藤涼と共著)では、以下のように定義づけました。

一人一人の強みを活かして、
ケミストリー(化学反応)を起こし
効率よく、クオリティの高い楽曲を作る
最強の作曲法である
欧米のプロ作曲家で、一人で完結するケースは非常に少ない。

もちろん、みなさんそれぞれ自由にやればよいことなのですが、プロのソングライター向けに提唱している基本ルールは2つあります。

基本ルール1:自分の役割分担部分だけではなく、作品全体に責任感を持ち、より良い楽曲ができるように、積極的に意見を言う
基本ルール2:採用された場合の作曲印税は、役割や作業量など関係なく、参加人数で折半する。(グローバル基準)

これが、キャリアアップと結びつけながら、コーライティングを活用して音楽活動を充実させるための心得です。

 近年こそ深夜の音楽番組で「コーライティング」をやってみたりするほど、一般的になってきましたが、(ちなみに番組でそういう企画やるなら、伊藤涼を呼ぶのが良いと思いますよww 制作者サイドの理解が足らないことで、消化不良なコーナーなりがちな気がしています。)2013年1月に僕が「山口ゼミ」を始めた時点では、日本で「コーライティング」について語る人は皆無でした。僕らが、これからの作曲家が頭角を表すための手段としてテーマとして掲げ、山口ゼミ卒業生によるクリエイター集団もCo-Writing Farmが活躍をはじめ、安室奈美恵の楽曲でNexTone Award2019GOLD受賞など職業作曲家としても成果を出したことで、見る目が変わっててきました。なので、日本におけるコーライトムーブメントの本家的存在をつくったという自負はあります。エージェント機能を法人化して、作家自身が運営する仕組みにして自走し始めています。

 一方で、クレオフーガと一緒に、コーライティングをするためのコミュニケーションツールを開発して、運用するということもやってきました。

ということで、コーライティングのやり方とかについて興味のある方は、こちらを読んでみてください。

Term2:音楽出版権とは?

 音楽出版権、英語でMusic Publishingは、楽曲(音楽著作権)に関する権利です。著作権法的に言うと、著作財産権に関する権利ということになります。

 僕が作曲家向けに6年前に書いた『職業作曲家への道』の図と、わかりやすかった音楽出版社協会の図を載せておきます。

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 この様に、一般的な音楽ビジネスにおいては、音楽出版社が音楽出版権の1/2を持ち、ソングライターに分配するという仕組みになっています。

 大御所と言われる作曲家には1/3という比率を出版社が認めていますが、この辺のルールは、どこにも示されず、音楽業界という「村社会」の中で、「阿吽の呼吸」で運営されてきています。

Term2-2:日本と海外の業界慣習の違いとは?

さて、実は日本と海外の音楽出版権の業界慣習に大きな違いがあります。

音楽出版権は、欧米ではソングライターに紐づき、日本ではアーティスト側に決定権がある。
音楽出版社は作曲家に契約金(アドバンス)を払い、出版権を確保する。日本はアーティスト側のレーベルや事務所が出版権を持つ。
アジア各国にも欧米型が浸透しつつある。

 この違いは、自作自演のアーティストにおいては大きな問題にはなりませんが、ソングライターとアーティスト(実演家:大まかに言うと歌う人ですね)が違う場合は、顕著になります。

 僕は日本の音楽業界で育ち、アーティストが成功して、ヒットを出すために苦労、腐心をするのはアーティストサイドだと実感として知っているので違和感は無いのですが、外国人作曲家は納得しません。NMMextraの中で、細かく話しましたが、ジャニーズやLDHは、外国人作家については、例外的に出版権を持たせる(自分たちが手離す)ことを認め、AKB48グループは、そのために外国人作曲家はコンペへの参加がNGになっているのです。

Term2-3:業界慣習から生じる外国人作曲家への「逆差別」とは?

 問題は、その結果として生じる「逆差別」です。ジャニーズなどに採用された際に、日本人作曲家は外国人作曲家と比べて、著しく印税が少なくなるという、意味不明というか、日本の音楽界にとって明らかにマイナスな事態が生じているのです。

 前回のnoteでも書きましたが、そこに加えて日本特有の「作家事務所」のマネージメントフィーの問題もあります。世界的には、作曲家を育成、マネージメントするのは音楽出版社の役割なのですが、日本では音楽出版社所属の作曲家は少なく、作家事務所と言われる会社を通じてコンペに参加するケースが多いです。問題は作家事務所の取り分がどんどん大きくなって、昨今は4割〜5割という比率が珍しくなくなっていることです。山口ゼミを始めてその実態を知った僕が驚き、音楽事務所の社長仲間で飲むと話題にするのですが、皆さん一様に驚き、嘆きます。音楽出版社がソングライターを育てるという本来の責務に向き合うことで「作家事務所の取り分比率が大すぎ」という問題を解決していくべきだと僕は考えています。

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 これがセミナーの中で出した図ですが、外国人作曲家が作曲部分で採用されると、サブパブと言われる日本の音楽出版社に2割程度の手数料を渡したとしても、25+20=45%を手にするのに対して、日本人作曲家が作家事務所経由で採用されると、15%と1/3になってしまうのです。残念ながら構造として、日本人クリエイターを搾取することになってしまっているのです。

Term2-4:放送局子会社がタイアップ楽曲の出版権を持つ「合法性」?

 欧米では、音楽出版権を放送局が持つことは、独占禁止法の「特権的地位の濫用」として違法行為として禁止
 日本では業界慣習として放送局子会社が「代表出版権」を持つ業界慣習が長年続いている。総務省も放送局の経営などを鑑み?黙認が続いている。放送局系出版社は音楽出版社業界の老舗として長年、業界に貢献している側面もある
 先月のゲスト講師、山崎卓也弁護士が総務省に「告発」、山口が元SME社長丸山茂雄さんと共に総務省に出向き「証言」したのは秘密です(笑)

 脇田が指摘していた「業界のタブー」という意味では、これが一番かもしれません。日本と欧米の出版権の違いについては、地上波在京テレビ局の子会社の音楽出版社の問題もあります。海外では独禁法違法の行為が、日本では業界慣習として長年、許容されているわけですが、国際化が進むとともに、TVタイアップの効果が下がっている中、どういう着地点を見つけることになるのでしょうか?

Term3:原盤権とは?

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 レコーディングの費用を出して持つのが原盤権です。プロフェッショナルスタジオとエンジニアが必須だった時代と今は、レコーディングかかる金額も桁違いに下がっています。その程度の金額なら、ということで、クリエイター(作編曲家)や、アーティストが原盤権を持つ時代がインディースに限らず始まりつつあるでしょう。

 製造(ジェケット印刷してプレスする)、営業(CD店に大きく並べる)、宣伝(タイアップとTVスポットやラジオ局、音楽専門誌でのプロモーション)にレコード会社がアドバンテージを持っていた時代は、いわばビジネスのプラットフォーマーがレコード会社でしたが、配信がマネタイズと拡散の主戦場になったことで、「レコード会社が権利を頑張る」ことの価値も相対的に(そして著しく)下がっています。

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 また、パッケージビジネス主流の時代につくられた印税などの「業界相場」は配信時代には当てはまりません。論理的には当てはまらないので、新たな契約条件で結ぶのが当たり前なのですが、レコード会社の法務部の皆さんは、論理学のワークショップかと思うような「屁理屈」を次々と並べて、パッケージ時代の契約条件の準用、読み替えをアーティストサイドに強いてきます。

 アーティストにとって、原盤権のコントロールをレコード会社に委ねるのはあらゆる意味で合理的で無い時代が既に到来しています。

Term3-2:レコーディングプロセスの変化に伴う原盤権の位置づけの変化

 前述の通り、レコーディングの費用が下げられるようになったこと(もちろんつくりたい音楽やレコーディングの方法によるので、一概には言えないのですが、とはいえ全体的な傾向としてはそうなっていて、金額的には1/2〜1/10位になっています。)で、原盤権に関するパワーバランスはアーティストサイドにシフトしています。

 ストリーミングサービスが音楽ビジネスの幹になることで、レコード会社の必要性も低下(少なくとも変化)しています。なので、最近は海外では、レコードビジネスという言葉をあまり聞かず、録音原盤市場(Recorded Music Industry)というようになりました。

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 その録音原盤市場の世界での売上グラフです。ストリーミングサービスが、録音原盤市場をV字回復させ、過去カタログも含めた権利を持つ、欧米のレコード会社の収益は大幅に改善しています。

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 原盤権という切り口で、音楽ビジネスのレコード会社とアーティストの関係を見ると、大きな変化が起きていることが理解できるかと思います。欧米の図がわかりやすいので載せていますが、日本でも構造は同じですし、市場データも追いかけていくことになるでしょう。

Term5:国際間の著作権徴収:相互管理契約とサブパブ

 さて、この日のテーマは、「Co-Writingとゲームチェンジ」なので、国境を超えた著作権の話もしました。

 これまで行ってきた2つのやり方が時代遅れになっていて、グローバルにクラウド型サービスを行っている事業者と交渉するスーパーエージェントが活躍を始めています。日本では第2JASDRAC的存在のNexToneがデジタルとグローバルに知見があり、株式上場もしました。期待しましょう。

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 グローバルな著作権ビジネスの戦いは、僕も関心のあるテーマです。興味のある方は、こちらの電子書籍(もしくはPOD)をお読みください。易しい本とは言えませんが、リアルな最前線が分かる内容です。

Conclusion:音楽ビジネス生態系の民主化

 この日の結論めいたことは、音楽ビジネスにおいても、ほかの全ての産業界と同じ現象が起きています、一次創造者(アーティスト、クリエイター)へのパワーシフト=民主化だいうことでした。

 Co-Writingという創作手法は、その民主化によって促進された側面もありますし、Co-Writingが広まることが民主化を推進する側面もあります。ゲームチェンジとは何かを一言で言えば、民主化なのです。

質疑応答から透けて見える、ニューミドルマンコミュの目指す姿

 質疑応答でも活発な議論がありました。

・総務省に訴えた結果は?⇒放送局系出版社が権利を持つ期間を短くする交渉ができるようになった(遠慮して持つようになったww)

・なぜ放送局が出版権を持つようになったのか?という質問の答えを僕は知らなかったのですが、参加者側から、「日テレが渡辺プロダクションの影響力から独立するために「スター誕生」を企画し、そこからのデビュー組アーティストの出版権を自社の子会社である日テレ音楽出版に持たせることで利益を確保したことがきっかけのようです(出展・楠木建「ストーリーとしての競争戦略」p.446)」という情報をくれました。すごい!

・僕が一番困った質問は、「ライブアイドルに楽曲を提供しているせセミプロ的なクリエイターにとっての、ゲームチェンジの意味は?」という趣旨の質問でした。「あれっ?あんまりチェンジングしてない?」という気分にもなり、ドギマギしました。そもそも既存の芸能界や音楽業界と出自も価値観も違ういわゆる「地下アイドルの運営」ビジネスは、既存の出版権との接点は浅く、表面的です。けれども、そこにも確実に(そして意外に小さくない)ビジネスと音楽家は存在するわけです。僕自身の視野を広げる機会になりました。

 様々なフィールドやプレイヤーが存在できるのも「民主化」の一つの側面で、僕自身は、そういう異文化、異業種間の通訳をやっていく役割を果たしたいと思っていますし、ニューミドルマンコミュニティはそういう場にしていきたいと思っています。


そして今週末はMusicTech Radarで日本のデジタルミュージックの伝道師登場!!

 ゲストスピーカーの野本晶さんは、ソニーミュージックからキャリアをスタート。iTunes Music Store、Spotifyと日本サービスローンチを担当し、今は、世界中のインディレーベルと配信事業者の条件交渉を受け持つMerlinの日本代表、まさに日本のデジタルミュージックの伝道師です。野本さんと一緒に日本の音楽ビジネスの未来について考えを深めるつもりです。是非、ご参加ください。



モチベーションあがります(^_-)