団結のドミナリア リミテ下馬評 反省会(環境理解篇)
はじめに
団結のドミナリア実装から4日ほど経過し、17landsの統計データも信頼あるレベルになってきています。
また、筆者は一応既に団結のドミナリア環境でリミテミシックランクに到達しており、それまでに良いデッキも悪いデッキも構築しています。
その上で、前々回・前回と行った反省会を今回もやっていきたいと思います。
なお、下馬評記事には下記から飛べます。
環境のスピード
今回も17landsの「Play/Draw Advantage」というデータを参照します。(これ以降のデータ集計期間はいずれも2022/9/5まで)
このデータでは先攻・後攻の勝率差と、その環境で試合が終わるまでの平均ターン数が分かります。
当初、筆者は団結のドミナリア(以下、DMU)の環境を、イニストラード-真紅の契り-(以下、VOW)と神河-輝ける世界-(以下、NEO)の中間程度の「若干ゆったりした環境」と予想しました。
これは、版図・キッカー等のロングゲームを肯定するアーキタイプはあるものの、ブロッカーに対して単騎での突破力を上げる後援の存在もあり、アグロvsミッドレンジの構図が拮抗~若干ミッドレンジ有利程度と予想したためです。
さて、実態はどうだったのでしょうか。
以下にプレミアドラフト・シールドでのデータを、ここ2年にリリースされたスタンダード・エキスパンションと比較して載せています。
縦軸が試合が終わるまでの平均ターン数、横軸が先攻の勝率です。
こちらを見ると、プレミアドラフト・シールドともにVOW・NEO環境よりもかなりゲームが長引きやすく、近年で特にロングゲームの多かったストリクスヘイヴン-魔法学院-(以下、STX)環境に迫るほどDMUは平均よりかなり遅い環境であることが分かります。これはさすがに筆者の予想よりも遅いです。
筆者がDMUのプレミアドラフト・シールドイベントを複数回プレイして感じたこの環境の(想定以上の)遅さの理由を、以下に3つに分けて示します。
①版図・多色キッカーのためにタップインデュアルランドが多用される
DMUは多色化が重要な環境です。
一つ前のニューカペナの街角(以下、SNC)環境も宝物トークンの存在する弧3色推奨環境でしたし、その前のNEO環境も《皇国の契り》のようなコモンパワカのためのタッチを肯定する環境ではありました。
ただし、DMU環境がそれらの環境と明らかに異なる点の一つは、版図アーキタイプの存在です。
版図は自分の場の土地の「基本土地タイプ」の種類を参照するため、マナファクトやマナフィルターによる多色化はあまり推奨されていません。
これはすなわちコモンに10種類存在するタップインデュアルランド(基本土地タイプ2種持ち)で稼げと言っている訳です。
なお、今回DMUに実装されているコモン101枚のうち10枚は上記タップインデュアルランドであり、各パックには平均で都合1枚は封入されていることになります。
したがって、意識せずとも平均3枚ピックが可能であり、版図シナジーを目指さない人が卓に2,3人いるだけで、5,6枚程度は無理なくピックできる計算になります。
そして、リミテッドを多くプレイされる方には釈迦に説法ですが、ドラフトもシールドも原則として2色をメインカラーに据えて構築します。
これは、安定して初手の呪文と土地の色が合致させるには、40枚デッキに対してメインカラーを生み出す土地が最低8枚以上必要、という経験則に基づきます。
(ここでは確率計算はしませんが、おそらくその経験則は正しいです)
一方で、版図デッキは複数(理想は5種)の基本土地タイプを揃えることを目的とするため、上記の原則とはトレードオフの関係になります。
こちらも計算は省きますが、この原則を満たしながらアーキタイプを成立させるのに最も効率的なのが、コモンのデュアルランドの採用なのです。
完成度の高い版図シナジーを目指す場合は必然的にピックしたメインカラーの共通するデュアルランドは全て採用となるでしょうし、1枚までならタッチカラーのみのデュアルランドも採用圏内です。
この環境の土地サーチの一部がデュアルランドも対象に含めるのも追い風です。
簡単な確率の計算ですが、仮に40枚デッキに6枚のタップイン土地が含まれている場合、
・初手(手札7枚)に1枚以上引く確率: 約71%
・初手(手札7枚)に2枚以上引く確率: 約28%
・先行2T目(手札8枚)に2枚以上引く確率: 約34%
・後攻2T目(手札9枚)に2枚以上引く確率: 約41%
これだけの確率でタップイン土地を最序盤に抱えるとなると、1T目のみならず2T目もタップイン土地の処理のみでターンを終えるゲームが頻発します。
これにより、1,2マナ域が最重要であったNEO環境や、2,3マナ域が最後までアタッカーを務めたSNC環境と比較して、非常に序盤の動きが緩やかなゲーム展開が行われます。
問題はこのようなテンポが許されるかどうかなのですが、結論としては許されます。
その理由を②③で述べます。
②インスタント軽量除去・スペルが強力であり、アグロの後援に強い
この②はSNC環境とまるっきり逆のことを書いています。
SNCは近年稀にみるほどインスタント軽量除去に恵まれず、代わりにコンバットトリック(以下、バットリ)の横行する環境でした。
ここでいう「軽量除去」は、「そのマナ総量より大きなクリーチャーを高確率で除去できるスペル」の意味合いで記載しています。
SNC環境で軽量除去に該当しそうなコモンのインスタントは《殺害》程度でした。
一方で、DMUは軽量除去が十分優秀と言える環境です。
DMU環境には再録で話題の《稲妻の一撃》を筆頭に、コモンだけでも《邪悪を打ち砕く》《流動石の注入》《アーボーグへの貢納》《噛み締め》《弩級破》と2マナ以下の除去系インスタントが目白押しです。
これらは打点を一体に集約する後援に対して特に有効であり、除去に加えて都合もう1体の攻めを止める働きも可能です。
後援クリーチャーの質はピンキリですが、例えばおそらくコモンで最も優秀な後援持ちである《アルガイヴの騎兵》に対しては、対ファッティ専用の《邪悪を打ち砕く》以外の上記すべてのコモン軽量除去で後手でも無理なく対処可能です。
もちろんアドバンテージでは兵士トークン一体分損する交換をしていますが、ここではテンポの話が重要となります。本来攻撃していれば稼げたはずの後援元のクリーチャー分の打点を損する裏目が発生しやすいのが、この環境の後援の「罠」です。
これについては③の項目で例示しながら後述します。
このような背景で序盤に打点を稼げないまま軽量クリーチャーが除去されると、版図シナジーが成立し始める5,6ターン目にはアグロには手厳しいサイズのクリーチャーが着地し始めます。
するとアグロ側としては縦ではなく横で攻める戦略を取るしかなくなり、結果的にミッドレンジが持っていきたい膠着した盤面=ロングゲームが生まれやすくなっています。
こんな話をしておきながらのそもそも論になりますが、この環境のアグロの一翼を担う白の戦略と後援とは実はあまり噛み合っていません。
今回の白は《アルガイヴの密集軍》が示す通り横並び展開を目指すべき色ですが、後援は2体のクリーチャーの打点を1体に纏める縦の動きを目指しており、これらのサポートスペルは通常共通しません。
横並び戦略であれば、《英雄的突撃》(いわゆるラッパ)のような全体強化スペルで打点を稼ぐ方がよっぽど実直であり、先の単体除去に対しても強く出ることができます。
今成績を残せているボロスカラー等のアグロは、後援をエッセンスとして組み込みつつも、基本的には質(縦)よりも量(横)で押すタイプのデッキが主流です。
ここまで読んだ方は、「じゃあ後援しなければいいのか」と思われると思いますが、そこにもう一つの要素③が複雑に絡んできます。
蛇足ですが、この環境の裏を突くカードが活躍していることにも触れておきます。
具体的には2枚のスペル、《盾、構え》と《下支え》です。
これらは単なるバットリとして以上に、環境を定義する単体除去に対してどシャクりができるため、17landsのCard Rating(カード個別評価)でも優れた指標を示しています。
いずれもアグロの対ミッドレンジ対策のみならず、ミッドレンジが自身のフィニッシャーを守るためにも多用されており、慣れてきたプレイヤーであればまず最初に思い浮かぶスペルでしょう。
③壁が優秀で、出張性能も高い
最後のポイントは、今回一番のサプライズと感じた人が多いはずです。
下馬評では(筆者含め)あまり評価の高くなかった壁が環境に蔓延ってしまっています。
このカード、筆者は下馬評でアンプレイアブルと評価していましたが、なんと9/5現在でアンコモンのGIHWRを独走しています。(2位の《ニショーバの喧嘩屋》とは実に3%以上の差)
その結果何が起きたかというと、《翼套の司祭》をサーチできる《盾壁の歩哨》がコモンのGIHWRトップになる有様です。
この2枚、壁アーキタイプにがっつり寄せたごく一部のデッキで活躍しているのだろう、と思われるかもしれません。
実はそんなことはなく、白に触ってさえいれば無理なく他のデッキにも出張可能です。
そして白に自然と触れるアーキタイプの一つは版図だったりします。
大体この2種+一部のプレイアブルな壁(《囈語のバリケード》《アカデミーの壁》あたり)がセットで、ミッドレンジ~コントロールデッキに採用され、地上をがっちりと固めています。
特に《囈語のバリケード》は鳥トークンをドローにも変えられるため無類の相性を誇ります。
まさにこのような壁を乗り越えるためにアグロ側がどうしても後援を選択したくなるのですが、先述の通り裏目もあるためうまく壁側にコントロールされてしまいがちです。
一例として、以下のようなシチュエーションを挙げます。
攻撃側:場に《アルガイヴの騎兵》+1/1兵士トークン1体、手札に《猛然たる怒声》
ブロック側:場に《アカデミーの壁》、手札に《稲妻の一撃》
このようなシチュエーションでは、攻撃側は後援するかしないかの選択を迫られます。
後援する場合の攻撃側のモチベーションは、ブロック側がバットリを警戒してスルーしてくれた際に、最大の打点(3点)を稼ぐことです。
また、仮にブロックしてきた場合には、今後の戦闘で常に邪魔になる《アカデミーの壁》をわずか2マナで処理することができるというメリットもあります。
実際、ブロック側にマナが立っていない場合は、こちらの選択が正しいように思います。
一方で、ブロック側が《稲妻の一撃》を撃てる状況であれば話は変わってきます。
ブロック側としては《アカデミーの壁》でブロックした後、対戦相手のモーションに合わせて《稲妻の一撃》を撃てば2:1交換を取れるのですから、積極的にブロックするでしょう。(仮にモーションがなければプレイヤーへのダメージはゼロです)
このようなケースでは攻撃側は必ずしも後援すべきではなく、確実に打点1点を通しながら次のクリーチャーを展開すべきと思います。
理想としては次のターンに後援だけで壁を越えられるような準備をすることになると思います。
もちろん、実際には攻撃側が《稲妻の一撃》を持っているパターン等も考慮するともっと複雑です。
この環境で頻発するコンバットとして、壁のようなタフネス偏重生物に対して後援が裏目となる例を挙げてみました。
ちなみに…
一応この環境には壁アーキタイプに対するメタカードもあるにはあるのですが、未だに筆者は出会ったことがありません。
今後の環境解明で頭角を表すのかどうか、期待したいですね。
アーキタイプ別の強さ
こちらも17landsのFormat Color Ratingsからデータを参照します。
以下に、プレミアドラフトの2色・3色デッキの色別勝率を示します。
統計データがまだ少ないため、信頼性の高いタッチカラー(3色目3枚まで)も含んだデータを参照します。
今回は下馬評時点で筆者としての予想はしていなかったのですが、直感ではアゾリウス(青白)フライヤーが少し有利かな、というくらいの印象でした。
実態はどうかというと、色別勝率は最高のボロス(60.8%)と最低のラクドス(55.9%)の差は5%未満という、色の偏りの少なめな良環境と言えそうです。
本命と言えるほどのアーキタイプはなく、色の組み合わせも有効色・対抗色で選べるため、非常に色の自由度が高く、逆に言えば決め打ちのピックは推奨しにくい環境です。
その中でもひとつ分かりやすいピック指針として、既に触れた壁アーキタイプの出張の見極めは早めにすべきです。
見極めのポイントは《翼套の司祭》が流れてくるかどうかなので非常にシンプルです。
これにより、本来スルーしてもよい後続の壁の優先順位が変わってきます。
また、版図に向かう場合には1パック目の間にデュアルランドを1,2枚ピックしておくべきと考えます。
アーキタイプの肝として最も代えの効かないカードがデュアルランドであり、これが流れて来ないような場合には版図に向かうべきでない卓の可能性もあります。
そして、かなり個人的な見解ですが、比較的環境で見かけるアーキタイプである版図重視のミッドレンジ系デッキ(黒緑・緑青系)とスペル重視のテンポ・コントロール系デッキ(白青・青赤系)、そして横展開重視のアグロ系デッキ(赤白系)にはそれぞれキーカードが存在します。
版図ミッドレンジ(黒緑・緑青系)のキーカード
版図ミッドレンジの場合、《アーボーグの奪還》があるとないとではデッキの強さが数段変わってきます。
黒緑では勿論のこと、多色化の容易な緑系全般で、継戦能力を高める本カードの採用は検討可能です。
黒緑であればこのカードを2枚ほど取れるのがベストですが、取れない場合は少なくとも《不気味な魂の守護者》《ガリ骨のボータック》がないと同型ミッドレンジでリソース差を付けられてしまいます。
キッカー運用が基本ですが、対アグロには1マナ2ライフゲインとしての運用も有効なことは忘れないようにしましょう。
テンポ・コントロール(青白・青赤系)のキーカード
ジェスカイカラー(ボロスアグロを除く)の場合、《トレイリアの噴出》は本当にデッキの根幹を成すようなカードです。
序盤に唱えるこのカードは、さながら構築での《時を解すもの、テフェリー》や《ゼロ除算》を思い起こさせるほどテンポをしっかりと確保していきます。
それだけでなく、墓地のインスタント・ソーサリーカウントを稼ぐことで、4,5T目の《トレイリアの恐怖》の着地という勝ち筋にぐっと近づきます。
近い役割のカードに《勢いを挫く》《時間稼ぎ》もありますが、悩んだら《トレイリアの噴出》を入れて問題ないと保証します。
横展開アグロ(赤白系)のキーカード
ではアグロのキーカードは何なのかと言いますと、私は《ケルドの急襲隊》を推します。
下馬評ではアグロの要として《隊長の号令》を最も推していた筆者ですが、環境に触れてみて速攻の大切さを身に染みて感じました。
ミッドレンジ系にとって最もされて嫌なことの一つが速攻であり、《ケルドの急襲隊》の器用な立ち回りはそれをサポートします。
既に3/3/1速攻として序盤に後援サポートするワザをご存知の方は多いと思いますが、
中盤~終盤はキッカー以外にも「後続への速攻付与」ができることを忘れないようにしましょう。
上手いプレイヤーほどこの後続サポートで勝ち切っている印象があります。
環境を版図や壁が定義していると長々述べましたが、実際のところ現時点で最高の勝率を挙げているのがボロスアグロであるのは少々面白いですね。
同じく非常に遅いSTX環境で、超軽量のシルバークイル(白黒)が環境末期以外は最高勝率を誇っていた構図に似ていると思います。
ミッドレンジ側の方が対策しやすいと思いますが、《盾、構え》という最高の解答を構えられるカラーですし、現状まだまだ隙があるということですね。
7勝デッキ例
最後に、半分自己満ですが、筆者がプレミアドラフトで7勝したデッキリストを3つ共有します。
7-2 WU
《タラスの見張り》x5はあまり参考になりませんが、レアなしでも戦えるよう除去・妨害スペルを多数採用しています。
7-2 URw
イゼットに寄せてかかなり多めにスペルを入れたものの、《トレイリアの恐怖》を引けなかったのは残念でした。
代わりに2枚の《空騎士、トゥーラ・ケネルッド》が身を挺して頑張ってくれました。
7-0 BGwu
初の無傷完走デッキです。
序盤凌げれば中盤以降はリソースで絶対に負けないという強い思いで戦える構成です。
配信していたので、以下にリンクも添付します。
おわりに
以上、相変わらず雑多ですが筆者なりにこの環境の全景を早期に言語化してみました。
まだまだこの環境は研究されていくと思うので、この理解を覆す変化が訪れ、再度記事にする必要が生じることを期待したいです。
ここまでご拝読いただきありがとうございました。
次回、この環境理解を基に、個別カードの中でも下馬評を覆したカード達にスポットライトを当てた記事も執筆したいと思います。
追伸:反省会記事もUPしました、よろしければこちらもご拝読ください!