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草刈りをしてもらわなかった理由(1)


「今年はとくに草の成長がすごかった」
町内の草刈りをしていた組長さんがやってきて、汗をぬぐいながら話す。

門谷小前の道、つまり鳳来寺山に通じる道には、今も表参道としての面影がほのかに残っている。野外彫刻や歌碑が多くあり文化的な場所であることは明らかだが、住んでいる人たちがていねいに手入れをしている道としての佇まいが、なによりその面影を感じさせる。

設営中の門谷小は、道も校舎もその輪郭を草が覆うように茂っていて、毎年会期近くになると、必ず町内の方が校舎の草刈りをしてくれることを思い出した。そんななかで、今回敷地内の草刈りを最小限にして、今の茂った状態で見せたいとお願いした。門谷小は町内の大切な場所であり、外からの人も多く訪れる。草を生やしたままにするのはまるで手入れしていないようにも見えるわけで、こうしたお願いはけして簡単なことではないと思うが、快諾してもらえた。

今回の作品で扱っているバクは森林、とくに熱帯の森を好んで生きてきた。しかし、地球史上では中生代終期頃に草が誕生し、寒冷化にともない地球の草原化がすすみ、バクは森とともに移動していく。バクの体は、草原にでて固い草を反芻して食べるようには進化しなかったからだ。草の進化の戦略は、人間を含め多くの生物に多大な影響をあたえたことを、私は初めて知った。そのような歴史を知ると、あたりまえのように茂る草の見え方が変わってくる。

大和

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