【パイレーツ・オブ・ニンジャ #2】

◆これはニンジャスレイヤー二次創作作品であり、なんか。◆#1はこちら→ https://note.mu/yama_yama/n/n240a73d2f37b

ネオサイタマ、ウツクシミ・ストリートの裏通り、ソバ屋「オモチソバ」奥の狭い部屋。煩雑に積み上げられたUNIXコンピュータ群に照らされて、2つの存在が、それぞれ人間の形の影を作り出している。それだけであれば、ネオサイタマでは幾百もみられる単なるハッカーの二人組にも作り出せるだろう。しかし、この影の製作者は、一方がテンサイ級ハッカーかつコードロジストであり、もう一方にいたってはチャドー暗殺拳の達人たるリアルニンジャであった。

「なぜやつらが海賊活動を始めたのか、確かな理由はわからんが、だいたいは磁気嵐消失前後の騒ぎで反乱でも起こしたんだろう。他の戦艦や空母は、メガコーポがこぞって解体してしまったよ。なにせカイジュウ対策法案の大金で作られたから、有用な資源だったのさ。まあ結果としては、シャミセニストに対抗できる船はこの世には存在しなくなってしまったんだがね。カイジュウ対策法案並のカネを工面するのは、メガコーポやソウカイヤでも難しいんだろう。」

ミキタニが聞いてもいないことを永遠と話し続けるので、フジキドは話の筋を戻すために質問を繰り出した。「フリーランス海賊活動とはなんだ」ミキタニはやはり長々と答えた。要約すると、戦艦シャミセニストは、傭兵ニンジャめいて暗黒メガコーポや犯罪シンジケートから依頼を受けて、対立メガコーポの船を襲い、積荷の強奪や船の拿捕、破壊を行なっているのだ。

傭兵ニンジャと違うのは動くカネの量である。彼らが奪うもの、破壊するものは傭兵ニンジャたちとは比べものにならない。といっても彼らには船の維持費が相当額必要であり、手取りはさして変わらないかもしれない。

「それで、この後どうすればいい」「二週間後の夜、裏のガレージにある改造重装甲ジープでネオサイタマ湾の南東、水没都市マクハリへ向かう。やつらはそこでどこかのメガコーポと取引をするらしい。企業の名前までは調べていないぞ、今回の作戦とは直接関係ないし、あえて逆探知の危険を犯すこともないからな」

さらに、ハッキングや複数の情報屋から得た戦艦シャミセニストに関する情報をもとに、作戦の細かい部分についてディベートを行なった。「作戦実行日はここで寝ていけ。翌日は朝早いからな。そうだ、メシもつけよう。オモチ・アンド・ソバはどうだ」「スシがいい」「俺の自作ドロイド特製、オモチ・アンド・ソバをタダでだすんだぞ?」「スシがいい」ミキタニはあからさまに不機嫌な顔をしつつ、ニンジャはみんなこれだなどとぼやきながらも、しぶしぶ了承した。

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「イヤーッ!」「ヌウーッ!」カキーン!敵が右手に持つ電磁スパナを振り下ろしてきたのを、左手のメリケンサックでいなすと、そのままの勢いで蹴りを入れる!「イヤーッ!」「イヤーッ!」しかしこれは敵の左手の電磁スパナで反撃を受ける。「グワーッ!」

ナックルバスターは先の戦闘で右腕を失っていた。(こいつはサンシタではないしそこそこやるが、格上ではない。チクショウ!右が残っていれば!)ナックルバスターに右腕が残っていたとして、敵のスパナカラテに勝てたかどうかは実際不明だが、少なくとも今の彼は押されている。

敵は両手に1メートル近い電磁スパナを持ち、こちらは片腕を失った状態で武器はメリケンサック。どちらが有利かは明らかであったし、おまけに攻めれば守られ、退こうとすれば攻められる。徹底的な敵の戦闘方針に、ナックルバスターは一種の感嘆すら覚えていたが、それどころではない。

距離を取って再び睨み合いになっていたところ、相対する二人のニンジャ聴力はわずかな音声を捉えた。(サヨナラ!)それはニンジャの断末魔だった。スパナカラテの使い手、エンジニアに取っては初めて聞く声であり、ナックルバスターに取ってはよく知る声だった。

(チクショウ!ホワイトロック=サンまでやられたか!もはやエメツはだめか。こうなれば...!)ナックルバスターを含む傭兵ニンジャ達が受けていた依頼は、まず第一に不純エメツを守ることであったが、依頼主であるジョンを守ることも重要な任務であった。しかし、この状況、撤退すら容易ではない。

ナックルバスターは思い切り勢いをつけてメリケンサック攻撃にでた。「イヤーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」ナックルバスターは自らの肋骨が数本折れる音を聞いた。しかし!(計算通り!)ナックルバスターの渾身の突撃に、エンジニアはなんとか左へ避けつつスパナを横から叩き込んだが、ナックルバスターは反撃に出ず、そのまま駆け抜けたのだ!「はっはー!サヨナラだ!」逃走していくナックルバスターをエンジニアは追わなかった。

一方、相対する双方が激しく睨み合いながら同時にゆっくりと後退していき、ある程度離れたところで二人同時にジャンプ撤退するという、珍妙な結末のイクサを終えた無口ニンジャのフィストブレイカーは、遅れて艦橋に辿り着いた。そのころには、ナックルバスターにエメツを失ったと聞いて狼狽えていたジョンも、なんとか持ち直している。ジョンは自分を落ち着かせる意味も込めて、無口でない方のニンジャに質問をした。

「で、この後どうする?」「敵はおそらく、この船を破壊しにかかる」自分の質問と同じくらい独創性の欠けた回答にジョンは落胆した。敵は少しでもこちらの反撃を減らすためにこの船を破壊しにかかる、それはわかる。ジョンが聞きたかったのは、どうやって自分を助けてくれるのかということだったが、下手なことを言ってニンジャを怒らせるのは得策ではないので黙っていた。

「とにかく、あなたは助ける。フィストブレイカー=サン、この人を頼む」「...シツレイする。」フィストブレイカーがそういってジョンを背負うと、脱出艇へのスプリントを開始した。

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主砲の全門斉射で、ダイスケ・タクアン号を瞬時に爆沈させたグレーター・マイコ級サイバー戦艦シャミセニストは再び潜水モードとなっていた。舵をネオサイタマにとり、殺人マグロを越すスピードで海中を爆走している。そしてその作戦室に、船の全乗組員が集まっていた。

中央に長方形のテーブルが設置された作戦室は、四方の壁のうち一つにだけ巨大なメルカトル世界地図が描かれており、後の三面にはそれぞれ、パイン、バンブー、プラムの見事な墨絵が描かれている。艦橋で航行を自動モードに切り替えてきたコマンダーが一番最後に入室し、世界地図の前の席に座った。

コマンダーから見て左側にはミツバ老、右側にはエンジニア、向かい側にはウォーターソルジャーとテクネチストが座っていて、ミツバ老以外はニンジャである。それぞれの役回りは、コマンダーが艦長で皆のまとめ役、ミツバ老が参謀兼副艦長、エンジニアが武装全般の統括、ウォーターソルジャーが白兵戦要員、テクネチストはジェネレーター要員となっている。

艦長の着席を確認すると、ミツバ老が手元のリモコンを操作し、部屋の明かりを落とした。するとテーブルの中央に青く丸い球形ホログラムが浮かび上がった。一瞬遅れて、一部が緑色に変化する。そう、これは地球である。続いて、今いる彼らの位置から遠くネオサイタマまでを結ぶ赤い線が表示された。

「これが我々がネオサイタマに向かうまでの航路で、到着はちょうど二週間後になる。それまでは大してやることはない」ミツバ老は簡潔に述べた。ミツバ老はニンジャではなかったが、コマンダーのニンジャになる前からの親友であったことや、彼の立てた作戦がことごとく成功したことによって、他のニンジャ達からの信頼も厚い。

ニンジャ達はミツバ老を、ネオサイタマ湾岸警備時代の役職である「参謀長」と呼んでいる。ミツバ老の言葉にコマンダーが続けた。「この二週間はほとんど自動航行で済む。ネオサイタマに近づくまではゆっくり休め」声には出さなかったが、まず一番喜んだのは放射線耐性ニンジャのテクネチストだった。

テクネチストは放射線に対して異常な耐性を持つスモトリニンジャで、脂肪細胞かと思われる部分の大半は放射線耐性ニンジャ細胞であり、放射線から内臓を守っている。その特性を活かして、エンジニアが強引に改造したために致死的放射線を絶えず放出しているメインジェネレータで働いている。また放射線に加えて、彼の労働場所は非常に暑く、ニンジャといえども長時間はつらいのだ。

一方、テクネチストが重労働を課される原因を作った張本人たるエンジニアは、そんなことを気にする様子も無く、なにか考え込んでいる。エンジニアは、戦闘スタイルとしては両手に巨大電磁スパナを持ってカラテを使うニンジャであるが、普段はニンジャ発想力に基づく兵器開発や、船の改造に勤しんでいる。彼の二週間は、また新しい兵器の開発に費やされることになるのだろう。

そして、乗り込みの時以外は普段から暇を持て余しているウォーターソルジャー。彼の二週間もまた、エンジニアとは違う意味でいつもと変わらないものになりそうだった。この五人が戦艦シャミセニストの全乗組員である。少ないように思えるが、船のほとんどの機構がエンジニアによって自動化されており、これだけいれば十分なのだ。

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若干日の差し込む曇り空の水没都市マクハリ、半水没ビル群の間の広い水路をだらだらと進む木造船が一つ。その上であぐらをかいて座っているひょろりとした男は、名をカナジマという。カナジマは中堅のハッカーとしてそれなりの収入を得ていたが、一ヶ月前に尻尾を捕まれた。その罪を不問にする代償として、現在、当人も全容をほとんど知らないような、わけのわからないミッションに参加させられている。

一ヶ月前、彼がハッキングしたのはネオサイタマ郊外の小さな薬局だった。顧客情報を抜き取って売りさばこうという計画だったが、以外に硬いファイヤウォールの前になすすべもなく、さらには逆探知を許してしまった。カナジマは知る由もないが、この薬局はとあるメガコーポがZBRの安価コピーを薬に混ぜて売ってみるための公衆実験施設だったのだ。

そのメガコーポは、その日の内にカナジマの安アパートに伝言係としてニンジャをよこした。初めてニンジャ存在を目の当たりにしたカナジマは、急性NRSにより、ニンジャがなんと名乗ったかも、伝えられた仕事の内容すらも記憶から吹き飛んでしまった。幸い、仕事の内容は残された物理メモに記されていたため、彼はこうしてマクハリにいるのだ。

そのメモによると、カナジマは「サラマンドル社」のエージェントとして、水没都市マクハリのN-4半水没倉庫にて、何らかの品を受け取らなくてはならないらしかった。受け取った品は彼が自宅まで持ち帰れば、あとはニンジャが受け取りに来る、とメモには書いてある。

「サラマンドル社」なんてものはカナジマはきいたこともなかったので、おそらく存在しない企業なのか、あったとしてもペーパー企業であろうと予測していた。そして、彼が自宅に戻って、ニンジャにブツを渡した時、証拠隠滅として殴殺されてしまうのではないかとも予測していた。

彼はなんとかしてニンジャに殺されない方法はないかと考えていた。しかし、この一ヶ月、さらにマクハリに来るまでの間、そして木造船でマクハリを漂っているこの最中も、誰かに見られているような感じを覚えていた。おそらくそれはニンジャの監視であろうから、下手な動きもできず、もはや死は避けられないだろうと思っていた。

「はぁ...」この一ヶ月で残りの人生を諦めて達観してしまっていたカナジマは、ほとんど観光気分でマクハリの半水没ビル群を見渡した。マクハリは廃れた都市であったが、意外に人の姿は多く、半水没したビルの水上部分にひっそりと住んでいるようだった。おそらく彼らは何らかの理由でネオサイタマを追われ、こうして隠者めいて暮らしているのだろう。

彼の船が進んでいる水路は、水没前は大通りだったと思われる場所で、時々木造漁船とすれ違う。ネオサイタマの自動車の往来とは比べるべくもないが、思っていたより頻繁にすれ違い、具体的には約10分に一回だった。空気もネオサイタマと比べればマシで、時折見えるバイオワカメの養殖場はそれなりに風情があった。

そんなことを思っているうちに、彼の乗る船は茶色く錆びた巨大倉庫の5階の窓だった場所に横付けして停止した。船は木造だったが、一応のIRC装置と頼りないエンジンがついており、全自動で彼をここまで運んでくれたのだ。

もはやガラスのはまっていない窓枠から建物の中に入ると、そこは事務室だった場所のようで、いくつかのオフィステーブルと大量のファイルが現役時代のまま残されている。UNIX類は地元住民に持ち去られてしまったようで、不自然な空間が時折みられた。奥へ進むと、こちらは明らかに現役と思われるキーパッド付きドアが現れた。

カナジマはキーパッドに、物理メモに記された通りのパスを入力した。ドアが開くまでにタイムラグがあったので、彼はパスが違っていたらどうしようなどと考えて焦ったが、杞憂に終わった。ドアを抜けるとかなり広い空間に出た。そこは建物の見た目からは想像もつかないほどちゃんと整備されていて、カナジマは、どこかで見た旧世紀映画の潜水艦ドックのようだ、と思った。

カナジマの考えは割と当たっていて、ここは戦艦シャミセニストがネオサイタマに来る時の専用ドックだった。シャミセニストはネオサイタマ湾でその威容を人目にさらすわけにはいかないので、潜水モードのままネオサイタマ湾の端くれにあるこのドックへ入り、中で浮上して外壁の点検などを行う。

カナジマの到着時刻は予定された通りだったが、取引相手の方はまだいないようだった。彼が渡された物理メモには、数時間待たされるかもしれないと書いてあったので特に焦ったりはしなかったが、彼はこの後、6時間32分待たされることとなり、相当な体力の消耗を強いられるのだった。

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数分遡って、カナジマが木造船で水路を進む最中、半水没ビル群の上を素早いジャンプで進んで行く姿があった。無論、ニンジャである。ニンジャの名はウォッチャー。カナジマの監視役の傭兵ニンジャだ。(私自身が取引に行けば良いんじゃないのか)時々そう思う彼女であったが、クライアントにはクライアントの思惑があるようなので気にしないことにした。

取引が突然決裂でもしなければ、ウォッチャーの仕事は単純で、このカナジマという男を監視し、仕事が済んだら殺す、それだけだった。しかし、カナジマに遅れてマクハリに到着した改造重装甲ジープに乗った二人の男のせいで、数時間後、彼女は単純とはかけ離れた出来事に巻き込まれてしまうのだった。

一方、その改造ジープの二人組は呑気なもので、パックド・スシを頬張っていた。カナジマやウォッチャーと違い、シャミセニストの到着時間をほぼ正確に予想していたため、この余裕がある。彼らはマクハリを見渡せる廃棄された山道にジープを止めて、シャミセニストの到着を待ち構えている。

さらに、戦艦シャミセニストの使われなくなった倉庫で、息を潜めてニンジャ・ピルを噛み砕くニンジャの姿あり。名はフィストブレイカー。彼はクライアントであるジョンを脱出艇に載せた後、脱出艇自体はナックルバスターとジョン自身に任せ、戦艦ニンジャ達の撤退に合わせて単身シャミセニストに乗り込んでいた。

シャミセニストにはエンジニアが制作した高精度のニンジャソウル検知器があるが、近すぎる者は検知できない。フィストブレイカーは、ミヤモト・マサシのコトワザ「非常に明るいボンボリの真ん前はかえって見えにくい」にならったのだ!乗員の少ないシャミセニストには、全く使われない部屋がいくつもあり、フィストブレイカーはそれらの部屋を渡り歩いて二週間サバイヴし、不純エメツを取り返す機会をうかがっていた。

これらのニンジャと非ニンジャの思惑は、ネオサイタマの地下鉄めいて交錯し、混沌と混乱のカラテ力場を作り出そうとしていた!

【#3へ続く】

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