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あらうんど・ないんてぃー4 アナログVSデジタル

あらうんど・ないんてぃー3から続く

混在状態といえども母の日常はシンプルだ。一人で掃除、洗濯、料理、入浴をこなしている。今のところ、なんとか自立して生活できているので、買い物、カイロプラクティック、郵便局etcへ出かける時の運転手をすればいいだけじゃん?と思っていたのだが、いざ蓋を開けてみると、意外や意外、サポートの必要なことは多かった。

それでも自立して生活できている以上、要介護どころか要支援でもないという。要支援未満だけど、ちょっとしたサポートは必要な段階っていうか?

買い物に行くと、あろうことか品物を選べないという謎の現象が起こる。表示をよく読まないから商品の違いがわからない。わからないから選べない。で、陳列棚の前でフリーズしてしまう、とまあ、こんな流れ。

「どう違うのかよう分からへん。」
「あれはこう、これはこうで、性能が違うねんて。」
「それならそうと書いといてくれたらいいのに。」とおっしゃる。

いいえ、ちゃーんと書いてありますから。
貴女が読まへんだけですやん!

と言いたいところをガマンして「そうやね。」と殊勝にも相槌を打つのは、私が親孝行だからでは決してない。
店内にいる全員に響き渡るような大声で話したくないからである。
そのくらい、耳は遠い。
補聴器をつけていても遠い。
医師に言わせると「聴覚障害者の1歩手前」なのだそうだ。

またある時、セルフレジを勧めてみたら、商品を2回スキャンしちゃったり、操作がわからずフリーズしちゃったりもして、母とセルフレジとの相性は週刊文春某芸能人くらい悪いと言えよう。もっともこちらは裁判沙汰にはならないのでそこはセーフ。

スーパーマーケットのレジでは、数人が並んで待っているにもかかわらず、財布から小銭を出そうとして、更にその小銭を落としちゃったりなんかして、明らかに他の人の顰蹙爆買いしているに違いない行動をしているにもかかわらず、泰然自若としている。
ある意味、立派。
KYとも言う。

銀行のATMも急激にハードルが高くなった。今まで特に意識したことはなかったが、ATMに限らずハードウェアの指示に従がわないと操作が完了出来ないものは多い。パソコンしかり、スマホしかり。
そして、その度に母は怒るのだ。

なんや、このパソコンは!消えてしもたやんか。

Delete押せば消えますねん、はい。

なんや、このスマホは!
またけったいなイヤラシイメッセージが入っとるで。

迷惑メールは無視してください。

なんや、このATMは!壊れてんのんとちゃうか?

いいえ、お母さま、たいへん申し上げにくいのですが、どちらかと言えば壊れつつあるのはお母さまの方ではないでしょうか?
お待ちの方もおられますので、さっさと済ませましょうね。
ATMの前で怒っている母を押しのけ、ついつい操作してしまう私。

たぶん、ゆっくり手取り足取り教えてあげればいいのだろうけれど、背中に痛いほどの視線をヒリヒリと感じていて、あともう少しでジャケットに穴が空きそうになっている場合は、そうもいかないじゃん?

スマホをアンドロイドからiPhoneに機種変更した直後のこと、母から電話があったのだが、応答しているにも関わらず、母にはこちらの声が聞こえていないようだった。

「どないなってんのや?」
「繋がらへんやん。」
という声だけが聞こえて、しまいには
「アホ!」と言い捨てて切れたことがあった。

基本、アナログ人間なのでデジタルワールドとはすこぶる相性がよろしくない。この急激なデジタル化についていけない老人は、決して母一人ではないだろうと思うが、世の中のあらうんど・ないんてぃーの面々は一体どうされているんだろうか?

何しろあらうんど・ないんてぃーだから、全体的に動作が緩慢になってきている。財布からお金を取り出すという動作一つをとっても、悪意ある人物からはいいカモに見えるのではないか?とつい取り越し苦労をしてしまうくらいに。なので、買い物には付き添いが必須となった。

だが、デジタルでない世界もこの世にはある訳で、きのこ採りなんかその最たるものだろう。
何を隠そう、我が母はきのこ採りフリークなのだ。
私も嫌いではないが、母ほどの意欲は持ち合わせていない。

きのこが出ない。
きのこが出な〜い。
きのこが出てこな〜〜〜〜〜〜い。
と毎日ボヤいている母。

雨が降って、ようやくきのこが顔を出す。

きのこが出た!
さあ、採りにいかなくっちゃ!

と、森へ出動するのだが、車を目的地から遠いところに停めろとおっしゃる。近くに停めるときのこの場所が他の人にバレるからと。

あら?そーお?と、わざわざ遠い場所に車を停めて歩く。森の中を歩くのは、平坦な道を歩くのとは全然違う。凹凸があるため難易度がざっくり200%ほど上がるのだが、そこをズンズン歩いていく。
森には、自動レジもATMも無い。
きのこがある。

きのこを見つけると今度はひたすら採る。昭和ヒトケタのど根性っていうか?
ひとしきり採集するといとも満足げに家路を辿る。
そんな母が大きなツヅラを背負った欲張りなお婆さんのように見えるのはなぜだろう?
でも、森の神様はきっと許してくださるわよね?

そんなきのこ日和が続いたある日

私は幸せやなぁ。
今が一番幸せや。

但し、車以外は。

と母は言った。

弟1号は言った。

幸せだと感じられるうちに感じておいてほしいよね。
いつか分からなくなる日が来るかもしれないから、そのXdayまではなるべく幸せでいてほしいな。

弟2号は言った。

同感!

私は言った。
きのこの季節よ、早く終われ。
わたしゃ、もう飽きた。


続く









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