「結婚も出産もまだ先のこと」という人も~知っておきたい不妊治療の保険適用について
「結婚も出産もまだ先のこと、仕事がこなせるようになってから考えればいいよね」
「将来、もちろん子どもが欲しいけれど、今はとてもそこまで考えられない」
日々の仕事のこと、キャリアや転職、恋愛や人間関係・・・となにかと悩みの多い20代女性は、こんな風に考えている方も多いのかもしれません。
けれども「将来、子どもを望んでいるか?」ということだけは、早い時期から考えておいたほうがよさそうです。
2022年に保険適用されてから1年が経ち、より一層身近な存在になった不妊治療。
この記事では、今回の保険適用でどのようなことが変わったか、メリットやデメリットについて説明します。まずは制度を知り、「なぜ出産について早く考えた方がよいのか」を学ぶところから始めていきましょう。
保険適用になる治療法は?
2022年4月から不妊治療の保険適用範囲が拡大され、人工授精、体外受精、顕微受精が保険適用されました。
人工授精
人工授精は、女性の排卵の時期に合わせて、精子を注射器で子宮内に注入し、妊娠を図る治療法です。主に、精子の異常、性交障害の場合に多く行われています。不妊治療の中でも自然妊娠に近く、1回あたり3万円程度と比較的安価なので、体外受精の前段階として行われることが多い治療法です。
体外受精
体外受精とは、体内から取り出した卵子と精子を、体外で受精させ、培養してできた受精卵(胚)を直接子宮に移植して着床させる治療法です。卵子に精子を直接振りかけ、受精させる方法をとることが一般的です。
男性不妊の場合や、人工授精で妊娠しない、卵管に異常がある、その他原因がわからない時にも行われることが多い治療法です。
1回あたりの平均費用は30~50万程度と、費用も高額な上に通院回数も多いため、人工授精に比べ経済的にも体力的にも大きな負担がかかります。
顕微授精
顕微授精は、体内から卵子と精子を取り出すまでは体外受精と同じですが、運動が良好な精子を一匹つかまえて、卵子の中に注射針などで直接注入して受精させる治療法です。精子の数が少ない場合や、一般的な体外受精では受精しない場合に多く行われます。
体外受精より人工的な工程が多いため、1回あたりの平均費用は40~60万円程度と、体外受精と比べてやや高額なことが多いです。
適用条件は?
年齢
不妊治療の保険適用には年齢の制限があります。初めての治療開始時点の女性の年齢が43歳未満であることが条件です。男性には年齢の制限はありません。
回数
保険が適用される回数は、女性の年齢によって異なります。
・40歳未満の女性 子ども1人につき最大6回まで
・40歳以上43歳未満の女性 子ども1人につき最大3回まで
ここでいう回数とは、「胚移植」の回数を指します。胚移植とは、夫婦から卵子と精子を採取し、体外受精や顕微授精によって受精させた後、胚(受精卵)を培養してから、子宮に戻すことをいいます。
婚姻関係
法律婚、事実婚のどちらも保険適用の対象です。事実婚夫婦が保険適用として治療を受ける場合には、事実婚関係を証明する書類の提出を求められることもあります。受診するクリニック
ごとに提出する書類が異なるので、受診の際に確認するようにしましょう。
保険適用のメリットは?
経済的負担が減る
保険適用により治療費の自己負担は3割で済むようになり、経済的な負担が大きく減りました。例えば、1回あたり50万円程度かかっていた体外受精の費用が、3割の15万円程度で済むということです。
これまでにも特定不妊治療助成制度など、助成金の制度はありましたが、助成回数の制限などもあり、助成金だけではまかないきれずに高額な費用を自己負担するケースも多くありました。
保険適用により、不妊治療に対する経済的なハードルが下がり、早くから治療を始める人が増えることが期待されます。「35歳を境に妊娠率は下がり、流産率は上がる」と言われているので、治療のスタートを早められることはとても重要です。
高額療養費制度の対象になる
保険が適用されてもなお、治療費が高額になる場合は、高額療養費制度を利用できます。
高額療養費制度とは、クリニックや薬局で支払う医療費が1ヶ月で上限額を超えた場合、その超えた金額を支給する制度です。上限額は年齢や所得によって異なりますが、対象になれば治療費の負担を軽くできます。
ただし、高額療養費制度の対象となるのは保険適用の治療に限られます。不妊治療に関わるすべての治療法が保険適用になったわけではありません。自由診療のみの治療や先進的医療は、高額療養費制度の対象外です。
保険適用のデメリットは?
助成金制度が廃止されたことで自己負担が増えることがある
これまで、不妊治療でかかった費用を助成するために、特定不妊治療助成制度や自治体独自の助成金制度がありました。しかし不妊治療が保険適用されたことにより、これらの助成金制度は廃止になり、かえって自己負担が増えるケースもあるようです。
1回30万円で体外受精を行った人の例を挙げると、保険適用前は助成金でほとんどの治療費をまかなえるケースもありました。けれども、今回の保険適用で3割の9万円を自己負担することになると、以前よりも負担が増すことも考えられます。
また、体外受精や顕微授精では、治療の一部に先進的治療などの保険適用外の治療が含まれると「混合診療」となり、保険適用の治療も含めすべて自己負担になります。本来保険が適用されるはずの体外受精の費用をすべて自己負担しなければならず、問題視されています。
自分に合った治療を選びづらく、治療が標準化されてしまう
「混合診療」にならないよう、保険適用内の治療におさめようとすると、自分に合った治療ではなく、標準化された治療を選ばざるを得ないことも十分に考えられます。
体外受精や顕微授精は、ただ一律に卵子と精子を受精させ、胚移植をすれば妊娠するわけではありません。知識と経験が豊富な医師が、様々な治療方法の中からそれぞれの患者に合った治療を選ぶことで、妊娠の可能性を広げています。
医師が選んだ治療が保険適用外の場合、全額自己負担になることで、経済的な理由から治療方針を迷ってしまう場面も出てくるのかもしれません。本来は、保険適用になることで、経済的負担を考えずに妊娠の可能性の高い治療を選べるはずが、これでは本末転倒です。
まとめ
今回の保険適用拡大は、まだまだ課題が山積みでデメリットもありますが、多くの人にとってはメリットの方が大きいのではないでしょうか。
妊娠を望むなら経済的にも時間的にも、早めに体の状態を調べ、必要に応じて治療を始めることが何より大切です。
30代~40代で不妊治療を経験した女性たちの多くが口にする「もっと早く検査に行けばよかった」や「早く不妊治療を始めておけばよかった」という声。これから妊娠・出産を考える20代女性は、先輩たちからの声をぜひ大切にして欲しいと思います。
今回の保険適用をきっかけに、夫やパートナーと妊娠や出産について話し合い、まずは体の状態を知ることから始めてみてはいかがでしょうか。
■参考
厚生労働省 令和4年4月から、不妊治療が保険適用されています。(リーフレット)
https://www.mhlw.go.jp/content/leaflet202212ver2.pdf
厚生労働省 不妊治療に関する支援について
https://www.mhlw.go.jp/content/230401gai.pdf
厚生労働省 高額療養費制度を利用される皆さまへ
https://www.mhlw.go.jp/content/000333279.pdf
野村総合研究所 令和2年度 子ども・子育て支援推進調査研究事業 不妊治療の実態に関する調査研究 最終報告書
https://www.mhlw.go.jp/content/000766912.pdf
一般社団法人日本生殖医学会
http://www.jsrm.or.jp/public/funinsho_qa22.html