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脳損傷後の阻血による学習への影響

脳梗塞にせよ、脳出血にせよ発症後は損傷部位以外も局所的な循環障害を起こしていることが予想されると思うのですね。
私の臨床経験的にも、ICUなどで超急性期〜、或いは病棟に移った急性期の患者さんの運動を促通する際に、それまで動かなかった指が動いたりしてきた時に、それを追い込んでいくようにセラピーを続けると動きが悪くなったり、消失したりすることがよくありました。
この現象をどの様に理解するのかと云うことですが、私が考えるに、生き延びた脳神経細胞が活動を起こした後に、なにかしらの原因で神経細胞の活動が落ちているように思うのです。
これは、おそらく脳の神経細胞は生き延びている部分があって、そこの活動が運動を起こすに足る機能を有しているのにもかかわらず、その細胞を活動させるとその神経細胞が活動を弱化、或いは停止していくような感じを受ける変化なのです。
原因として最もあり得るのは、脳の中で起きている、局所循環障害〜つまり、そもそも損傷部位周辺の神経細胞を支えている血管による栄養や酸素供給が乏しいため、残されている酸素やエネルギーを消費したら新しい血液による酸素/エネルギー供給が間に合わずに脳神経細胞が機能低下を起こしているのではないかと予測していたのです。
今でもそう思っているのですけれどね。
まぁ、今では周辺の神経細胞を支える組織、グリア細胞などもその影響を受けている或いは、損傷の影響で働きが変化してしまっていることも予想しているのではありますけれど。

一応、脳梗塞や脳出血などのメカニズムを簡単に復習しておきます。
まずは脳梗塞から。
脳梗塞は大きく3つのパターンに分かれています。臨床的にはもっと細かい分類があるのではありますが、取りあえずです。

(基礎知識から最新リハビリテーションまで,医歯薬出版,2019.)

損傷した部位周辺は阻血を起こし、脳神経細胞は壊れてしまうわけです。
その際に神経細胞内成分が神経細胞外に放出されてしまうと云うことも忘れてはならないことではありますが、ここでは取りあえず取り上げません。
しかし、隣り合う血管からも栄養や酸素の供給を受けていた領域などはギリギリ生存していたりするわけです。
図で云えば、茶色で濃い領域は神経細胞が壊れてしまう可能性が高いのですが、ちょっと茶色の薄い部分は°はほかの領域から多少なりとも酸素や栄養を受け取っていて生き延びている可能性があると思うのです。
ペナンブラとか言われる領域になるのかも知れませんね。
この領域などは、神経細胞を働かせることが出来ればなにかしらの機能を発揮すると思うのではありますが、反面、すぐに酸欠やエネルギー不足になることも予測出来ます。

さて、脳出血。
神経内科の医師は、「脳梗塞は梗塞巣から遠位は確実に酸欠になるけれど、脳出血の場合は、破れている血管の先も、弱いとは云え血流が期待できるから羨ましい。」と話されていたりすることがありました。まぁ、そうですよね。


脳梗塞と脳出血

しかし、脳出血は出血した血液の塊〜血腫による圧迫が強いように思います。
脳梗塞でも梗塞巣の周辺はやっぱり腫れますので腫れによる圧迫はありますが、血腫の圧迫はその大きさによってはかなり強いものになったります。


(画像は、画像診断まとめサイトよりお借りしています)

白い部分が血腫です。その周辺を囲むように黒く見えますよね。この領域は圧迫によって循環障害が起きている部分です。黒い色には濃淡があるのが解りますね。非常に濃い黒のところは神経細胞死が起きている可能性が高いように思いますが、薄くなっているところは、神経細胞が生きている部分もあるものと思います。
この部分はやはり、局所循環障害を起こしていると推測できますので、脳梗塞のところで書いたとおり、神経細胞は生き延びていたとしても、神経細胞を働かせることが出来ればなにかしらの機能を発揮すると思うのではありますが、反面、すぐに酸欠やエネルギー不足になることも予測出来るのだと思います。

さて。
最近、脳の神経細胞が阻血によってどの様な影響を受けているのかといった研究のプレスリリースを読みました。


脳が酸素不足になるとaLTPプロセスが活性化する

沖縄科学技術学院大学の「酸素が欠乏すると脳の記憶形成はどのように阻害されるるのか?」という報告です。
この研究では「記憶」という表現をされておられますが、内容を読むとニューロンの学習に関わるメカニズムの研究のようです。
簡単に要約を試みてみます。(出来たら、リンク先の記事を読んでみて下さいね)
シナプスの学習は、ヘブ則や時空間学習則と云った仮説により説明されます。
この学習プロセスは、「長期増強( LTP)」として知られています。
このLTPにはちょっと違うタイプがあって、酸素が無くなった場合〜脳神経細胞が危険にさらされた場合だと思うのですが〜におきる「無酸素誘発性長記増強(aLTP)」というタイプの学習があるそうです。
脳内の酸素が不足すると、神経伝達物質であるグルタミン酸が大量に放出されるそうです。この大量のグルタミン酸によって一酸化窒素が産生され、この一酸化窒素はaLTPの間、グルタミン酸放出を促進し、このループは脳の神経細胞に充分な酸素が供給された後も継続するようです。
aLTPとLTPは、そのプロセスが部分的に重複していて、aLTPが起きている時は、LTPの機能が乗っ取られていて機能しないという事らしいのですね。そのため、記憶(シナプス学習)が阻害される可能性が在るという事みたいです。
このaLTPにはアストロサイトも関わっているようです。
アストロサイトとグルタミン酸に関連するレビューはこちらです。
「シナプスと血管をつなぐアストロサイト」
このレビューによると、アストロサイトはグルタミン酸の回収にも関わっているようですね。アストロサイトも損傷の影響があるとすると、グルタミン酸の回収が出来なくなるため、aLTPが長期持続してLTPのメカニズムは結構破綻しそうですよね。すると、シナプスの学習が長期的に阻害され続けると云うことになるのでしょうか。
いずれにしても、一酸化窒素の濃度が生理的なものを越えて高くなると、神経細胞死を招くともされているようであり、aLTPはある程度抑える方向に考えた方が良さそうな気もします。

さて、脳損傷の急性期には生き残っていても充分酸素やエネルギーを受け取ることが出来ない神経細胞領域〜ペナンブラ領域が在ることは先に書きました。
これらの神経細胞の働きを残し、活動性を将来的に最大限にリハビリテーション〜運動学習に生かすためには、それなりの配慮が必用だという事は言えるのだと思います。

あれ?
書いてて思ったのですが、なんだか当たり前の事を書いて理論武装しているような・・・
ま、いっか。(^_^;)

まぁ、こういった基礎研究が脳損傷の超急性期〜急性期のリハビリテーションの在り方を考えて行く切っ掛けとなって、それ以降のリハビリテーションによる運動学習の効率を上げていくこと出来れば、とってもいいですよね!
(^^)/

と云うわけで、最近気になったプレスリリースの紹介でした。
<m(__)m>


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