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【演劇】トリガー

 藤枝市民会館ホールの大きな舞台にあわない小さなその舞台セットは、物語のテーマから感じる窮屈さを表しているかのようだった。

 前情報無しで劇場に入り、舞台のセットを見た。田舎でよく見る小さなキッチン、その真ん中に居座る冷蔵庫には、銀色の重そうなチェーンが巻かれている。開閉しにくくしてある冷蔵庫や戸棚、そして『トリガー』というタイトルに、物語のテーマはすぐに理解できた。だから、どんなドロドロを見せてくれるのか、私は興味深かった。

 物語は丁寧に進み、キャラクターの描き方も展開も段取りよかった。少しずつ重なっていく負荷と、折り合いがつかなくなっていく人間関係に、主人公の狂気はとても上手に育てられていた。

 臭い。それは介護を経験したことのある人には手に取るようにわかる。糞尿の悪臭、けれどそれはただの悪臭じゃない。心臓をえぐるような臭いだ。老い衰えた生き物の臭い。未来のない絶望の臭い。それだけでも、人を狂わすには充分なきっかけである。

 私にとって、このエンディングは衝撃的でもなんでもないのだけれど、どうなのだろう。私にとって介護は身近にあるからそうなのであって、これは実はマイノリティなのだろうか。それならば、このエンディングにショックを受けた観客がいるその現実のほうが、私にはずっとショックだ。

 やはり、演劇は必要である。現実社会の切り抜きを、問題提起を、もっとして行かねばなるまい。もちろん舞台芸術として。

 

 

 

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