「嫌い」を広げない
僕が働くときに考えてきたことについて書きます。
以前、新人研修時代に覚えたいろいろな違和感について書きましたが、
今回はもう少し後、僕が東京支社のタイムの駆け出しの営業マンだったころの話です。
東京支社の営業に転勤になった直後に、支社の若手のエースみたいに言われていた、10歳ぐらい年上の先輩が、酔っ払ってにこやかに笑いながら、僕にこう言いました(あれは新橋のバーかクラブだったと思います):
人間、所詮好きか嫌いかやろ? 好きな奴には良くしてやりたい、嫌いな奴にはどうでも良い。結局そういうことやろ?
僕はそのとき、明確にどこがどうだと反論はできなかったけれど、なんとなくこの発言に結構強めの違和感と嫌悪感を覚えたのです。
確かに、得意先の人間に嫌われると仕事は回りません。得意先の人間に好かれた結果大きなセールスができた、なんてこともよくあるでしょう。
でも、それは相手先のことであって、自分も同じようにそうなってはいかんでしょう?
と、当時そこまで明確な言語化はできていませんでしたが、後から考えて整理するとそういうことでした。
この先輩はかなり個性的な営業マンで、自分が強いスポンサーにはめちゃくちゃ強くて、かなり無理なセールスでも直談判で決めてきたりしていました。
その代わりに弱いところにはからっきし弱く、日本を代表するような大スポンサーであっても、完全に広告代理店任せで、自分は行ったことはないどころか、どこにあるかさえ知らないようなありさまでした。
僕ら新米の営業マンは、スポンサーに直接行ったことがないなどと言うと、上司からめちゃくちゃに怒られたものです。でも、彼の場合は、トータルとしての成果が上がっていたからなのか、周りも諦めてくれていて、一流のセールスマンとしての評価を与えられていたのです。
僕にできそうな芸当ではありません。でも、自分にできるかできないかという問題ではなく、僕は基本的にそういう姿勢は良くないと感じていました。
それをきっかけに、とは言いません。その発言を聞いてからしばらく時間をかけて頭の中がまとまったと言うべきですが、僕は次第にこんなことを自分のモットーとして意識するようになりました:
相手がたとえどんなに嫌な奴、嫌いな奴、苦手なタイプであっても、自分は好きな相手、相性の良いパートナー、好きなタイプの人たちと別け隔てすることなく仕事を進めよう。
ある時期から僕は意地になったみたいに、嫌いな人たちを公平に扱って、彼らから頼まれた仕事を一生懸命、精一杯、手を抜かずにやり通そうとしました。
それから何十年、決して 100% できたとは言いませんが、僕はこのことを強く意識して仕事を進め、ある程度はその主義を達成できたと思っています。そして、僕の場合はそういうことが自分への評価の中心になっていることをうっすらと感じてきました。
そして、そうやって仕事に臨んでいると、次第に気づいてきたことがあります。
とことん嫌な奴で、嫌いで苦手な相手でも、逃げないこと、無下に拒まないことを意識してつきあっていると、この人にも意外に良いところもあるのだ、ということに気づきます。それは結構嬉しい経験です。
それから、普段は自分が選ばないようなタイプの人間との接点ができ、それが自分を育てることもあります。
僕の場合は、根が真面目なものだから(笑)、なんか大ぼらを吹くような胡散臭い人たちには警戒心も嫌悪感もあって、若かった頃には意識して避けてきました。でも、一緒に仕事をしてみると、胡散臭い人たちも捨てたもんじゃないと気づいたのです。
何故なら世の中を引っ張って変えて行くのはまずは胡散臭い人たちだからです。これは大きな気づきでした。
そして僕は、まあ、誰でも彼でもとは言いませんが、胡散臭い人たちが次第に好きになってきた(笑)、と言うか、最初から変な先入観を抱いて接しないようになりました。
所詮好きか嫌いか、結局はそういうこと──ではないと僕は思います。その好きか嫌いかは決して絶対不変のものではなく移ろって行くのであり、そのときの好きか嫌いかで切り捨ててしまわない態度こそが次の関係を産むのだと、今ではそうはっきりと反論できます。
もちろん、仕事では特に問題なくつきあっているが、やっぱりこの人は嫌いだ、という人はいます。それはそれで良いのだと思っています。ただ、それ以上「嫌い」を広げないことが、その人に対するフェアな態度なのだと僕は考えています。
仕事って難しいですね。いや、その「難しい」を広げないことも大事なことかもしれません(笑)
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以前、こんな事も書いています:
仕事にまつわるもろもろはここにまとめてあります:
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