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何が TV4.0 をもたらすか

facebook には「思い出」という機能がありますよね。そう、何年か前の同じ日の投稿を表示して、「あなたは◯年前にこんなこと書いていました」って知らせてくるやつです。

そこに 2019/1/19 に自分が書いた記事が出てきまして、そのちょうど5年後に読み返したのですが、僕はこんなこと↓ を書いていました:

最近はナントカ2.0 とか 3.0 とかいう言い方が溢れていて、でも、そのどれもが単に新しいという程度の意味でしかなく、Web2.0 のように明確に構造的な変革を捉えたものでもなくて、そんなに安易にその表現を使うのはティム・オライリーに対して失礼ではないか、などと思ってしまいます。

特にひどいと思うのは政府が提唱している Society5.0。これ何が5なのか(つまり、じゃあ1から4までは何だったのか)が全く想像がつかないし、多分説明を聞いてもピンと来ないと思います。説得力がない、ひどいネーミングだと思います。

あるいは、業界では TV2.0 などと言っている人もいます。

「TVだって変わらなきゃ」という心懸けの表れと理解すると、それはそれで尊重しなければなりませんが、しかし、TV は 2.0 も 3.0 も既に終わっているのではないか、つまり、TV2.0 はカラー化であり、TV3.0 はデジタル化&高精細化だ(4K&HDR が果たして TV4.0 となるのかどうかはもう少し様子を見る必要がある)という意見もあるでしょう。

それはそれとして思うのは、ひとつは、TV のバージョンアップは全てハードウェア主導だということ。

もうひとつは、TV2.0 や 3.0 はあったにしても 2.0.0 が 2.0.1 になり 2.1 が 2.2 になるというスムーズで頻繁で連続的な変化ができないということ。

インターネットは基本的に集合知でありユーザと開発者のインタラクティブなやりとりの場です。そのおかげである意味アナーキーに新しい技術を導入し、新しいシステムやビジネスモデルを始められるネットの世界と、総務省やら ARIBアライブ(一般社団法人 電波産業会)やら民放連やらアド協やら、いろんな(悪く言えば)しがらみと関わりながら、みんなで漸くヨッコラショと次のレベルに移るしかないTV とを、一緒くたに語っても仕方がないとは思います。

でも、ここには詳しく書かないけれど、何故 Web は 2.0 に進化できたのか? 彼らはどのように変わり続けているのか?ということを、僕らは意識しながら進んだほうが良いなあと、改めて思う今日このごろです。

(2019/1/19 の facebook の自分のウォールより。
句読点や改行を改め、「ARIB」を書き加えるなど、少し添削しました)

さて、5年後の今はどうでしょう?

あの頃は僕はまだ毎日放送の社員でした。退職したためもう会社や業界の情報や動向は一切掴んでいないので、専門的なことは書けませんが、一視聴者として思うところを少し書いてみたいと思います。

まず、4K と HDR は TV4.0 にはなりませんでしたね。それは通販番組ばかり放送している BS 4Kチャンネルの現状を見れば明らかかと思います。これらの技術でテレビ画面は確かに精細に、美しくなりましたが、残念なことに見るほうはすぐに慣れてしまいますしね。

4K/8K はむしろ医学(内視鏡手術)や警備(監視カメラ)など、他の分野に大きな革新をもたらしたのではないでしょうか。

じゃあ、TV4.0 になり得るのは何でしょうか?

僕はそれは全てのテレビ番組をインターネットで流すこと(流せるようになること)だと思います。

民放地上波ではすでに「リアルタイム配信」を始めていますが、残念ながら全ての番組を配信するには至っていません。どんな番組であっても、テレビで放送したのと同じ内容のものが、PC やタブレットやスマホ、あるいは地上波チューナーがついていない受像機で見られるようになることが重要なのだと思っています。

その場合、地上波の放送をやめていることがセットになるとは思っていません。ネットで見られるということがいちばん大事なことであって、地上波(あるいは BS)の放送が続いているかいないかは、それほど大きな要素ではないと思っています。

ただ、地上波から完全にネットに乗り換えるのであれば、その場合は放送法に定められている所謂いわゆるあまねく義務」を廃止してもらわなければなりません。

今、地上波の放送局は、その放送エリアにあまねく電波を届ける義務を負っています。

インターネットでは輻輳問題が発生するので、ユーザ数が増えるたびに設備の増強が必要になるが、地上波テレビは送信所さえ建てればあとは一発で何百万世帯、何千万人に電波が届く──などとよく言いますが、実はそれほど単純ではありません。送信所だけではエリアの隅々まで隈なく電波を届けることはできないのです(特に山の多いエリアは大変です)。

そのため、山中のわずか数十、数百の世帯のために数多くの中継局を建てています。建てるだけではなく、当然メインテナンスも必要です。中継局の何かが原因で停波が起きれば当然修理に行かなければなりませんし、一定時間以上一定数以上の世帯で停波が起きれば総務省に報告もしなければなりません。

自然災害で車が通れる道が塞がってしまい、送信技術スタッフが機材を担いで山林に分け入り、数時間の山歩きの後、やっとのことで中継局までたどり着いた、なんてことも実際にありました。

この負担がなくなると放送局はぐっと楽になります。逆に「あまねく義務」を残すのであれば地上波の仕組みを残すか、全面的に BS受信に切り替えるか(その場合ローカル放送はできなくなります)のどちらかということになります。

全てのテレビ番組をネットで見られるようにすると言っても、それは必ずしもテレビ放送と何から何まで全く同じものを、テレビ放送と同時に流すことを意味してはいません。他のところにも書きましたが、とりわけ CM は地上波とは別売りにしておくべきだと思います(現状は原則そうなっています)。

僕はインターネットの特性は同時性ではなく、ユーザがいつでも好きな時に見られるという利便性だと思っています。同時性はすでにテレビで担保されているので、ネットに染み出す意義はそこではないと思うのです。

ただ、法体系や(権利関係の)手続きの煩雑さ、その他もろもろの問題があってまだまだ配信できずにいる番組がたくさん残っています。

それら全てを配信できるようになること、そして「見逃し配信」などと地上波一神教みたいな面倒くさいことを言ってテレビの本放送が終わるまで待たせるのではなく、テレビ番組開始と同時に配信も開始すること──この2つが実現できれば、それは TV4.0 と言えるくらいの大きな変革になるのではないかと僕は見ています。

元々はテレビのために作られた番組が、インタラクティブな世界であるインターネットの海に漕ぎ出すことによって、必然的にそこに新しい需要や、それを満たすための新しい技術や機能が生まれてくると思います。そのためには全番組がこぞって新しい海に漕ぎ出す必要があると思うのです。

残念ながらそれは僕が生きているうちには実現しないかもしれません。しかし、それこそが TV4.0 であり、TV4.0 を目指さないテレビは時代遅れの海の底に沈んでしまうのではないかと思っています。

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