あなたが泣いた映画は何ですか？

もう随分昔になるが、親しい仲間との宴席で、「それぞれが泣いた映画を披露し合う」という企画をやったことがあって、結構盛り上がった。いや、盛り上がったのは僕の時だけかもしれない。 というのは、僕だけがなんか毛色の違う作品を挙げたからだ（笑）

僕は「泣ける映画」みたいな宣伝をする映画が大っ嫌いで、そういう宣伝文句を聞くだけでもう観る気が失せてしまうタイプである。どんな映画を観ていても、映画の作り手が泣かせようとする素振り（わざとらしい台詞や無理やりな進行、大仰なBGMなど）が見て取れると、途端に白けてしまうタイプである。

だから、そういう匂いのする映画はわりと意識して避けてきたので、他の皆とあまりかぶらないのは仕方がないのかもしれない。

しかし、それにしても他の皆が『タイタニック』とか『レオン』とか、如何いかにも泣けそうな大作映画ばかりを挙げるのでいささか驚いてしまった。ちなみに僕も珍しくこの２本の映画は観ていたが、落涙はしなかった。

確かに僕も、例えば中学時代とか、非常に感受性と正義感が強かった時期に観た映画にはそれこそストレートに涙を流していたように思う。しかし、今もう一度それらの映画を観たとしても、決して涙しないだろうと思う。

さて、その宴席で（如何にもな「泣かせ映画」に泣いたと証言した者も含めて）皆の意見がほぼ一致したのは、必ずしも「泣いた映画＝良い映画」ではないということだった。

泣いたかどうかと映画の総合的な評価との間には、相関関係はどうもなさそうなのだ。めちゃくちゃ感動してめちゃくちゃ泣いた映画もある一方で、別に大したことない映画だったのになんだか泣いてしまった映画もあるのである。

それは当日の体調とか気分とか、その日近辺の出来事とか環境とか、そういうことの影響も結構大きいのではないかと思う。大人なんだから、生きているといろんなことがある。そして、いろんなことで心が弱っているときに映画を観ると、それが何であれうっかり泣いてしまう、みたいな構造ではないかなと思うのである。

そもそも僕が泣いたのはほとんどが１人で見に行った映画だ。若いときに友だちや彼女と一緒ではなく、独りきりで映画を見に行こうとするのはどんな心情なんだろう？と考えてみる。そして、独りで見ているときの心の緩み方を想像してみる。多分隣に誰かいたら泣けなかったんじゃないかな、と。

その日僕が挙げた映画のうちの１本は『フォレスト・ガンプ』だったと言うと、「なんだ、泣いても不思議はない映画じゃないですか」と言われそうだが、僕が泣いたのは終盤のクライマックスではなく、映画が始まってまだ30分ぐらいのところだった。しかも大泣きであった（笑）

フォレスト・ガンプ　一期一会 : 作品情報 - 映画.com

それは少年時代のガンプが最初にいじめられるシーンだ。いじめられて逃げるガンプをかばうジェニーが、"Run, Forrest! Run!"と叫んだのが合図みたいになって、僕の両目から洪水のように涙がボロボロ溢れ出した。ちなみに、それ以外のシーンでは全く泣かなかったのに、である。

それからもう１本は『クール・ランニング』だった。これは正しく最後で泣いた（笑）──この話が仲間たちには一番受けたのだが、ラストシーンのボブスレーがひっくり返るところで図らずも泣いてしまったのだ。ひねくれ者の僕が見事に監督の術中に嵌ったわけだ。

クール・ランニング : 作品情報 - 映画.com

しかも、「涙が一筋はらりと流れた」というような生易しいものではない。所謂いわゆる「滂沱ぼうだの涙」というやつだ。声に出るのはなんとかこらえたが、拭えど止まらぬ大泣きである。体が震えるほどの大泣きである。

この映画は基本的にコメディだったので泣いている自分がとても恥ずかしくて、映画が終わって明るくなってもしばらく俯いて座っていた記憶がある。

どちらについても、その映画を観た当時自分はどんな状況にあってどんなことを悩んでいたのかは全く思い出せないが、でも、きっと何かあったんだろうと思う。実は「映画が泣ける」のではなく単に「自分が泣ける」のにすぎないんじゃないだろうか。

そして、多分「泣けた」あと、僕は少し気を取り直して、また普段の生活に戻っていったのではないだろうか。

その後も僕が泣いた映画は何本かある。決して自ら「泣ける映画」を求めたりはしていないのに、である。でも、長い人生を振り返ると、泣くのはやはりデトックスになってたんだなという実感がある。

どの映画で泣いたかというのはあまり意味がないのかもしれない。それぞれの人にその時どきのいろんな状況があって、人は泣くのだろう。

でも、もし良かったら、あなたもどの映画で泣いたかを語ってみませんか？

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