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「アメフット」考──ことばをどんな風に短縮しますか

短縮のルール1

新聞の見出しなどで使われる「アメリカン・フットボール」の略称は2種類あるように思います。──「アメフト」と「アメフット」です。

僕の周りの少なからぬ人が「アメフット」は気持ち悪いと言います(もっともある年代以上の人だけかもしれませんが)。

自分のホームページには何度も書いたことなんですが、それは日本語において多くの略語が「前半後半から2文字ずつ4文字」あるいは「前半後半から2音ずつ4音」という原則に従っているからだと思います。

これはやまとことばも外来語も同じで、「なるべく早く」は「なるはや」、「セクシャル・ハラスメント」は「セクハラ」になります。

ただし、音を基準にする場合、たとえ英語では1音カウントであっても、長音、撥音、促音などがくっついたものや二重母音を含むものなどは全て2音と数えます。ワーキング・ホリデーはワーホリ、コットン・パンツはコッパンになるわけです。

アメフットは5文字5音だから気持ち悪いのでしょう。

古くからある短縮形

もちろん、古くはベア(ベース・アップ)とかモガ(モダン・ガール)みたいに前後半から1文字ずつ、あるいは1音ずつ持ってきて構成された略語もあります。

しかし、もう何十年も前から2+2形式が主流なのではないでしょうか。

外来語ではなく、古くから日本で使われてきた省略形としては、「泥縄」(泥棒を捕らえて縄を綯う)とか「学割」(学生割引)などが挙げられます。

それって「2文字」とか「2音」とか言うよりもむしろ「漢字1字ずつ」じゃないかと言われるかもしれませんが、そうではありません。たまたま漢字の切れ目が2文字/2音であったというだけのことです。もしも漢字1字ずつであれば「意味深長」は「意深」になるはずですが、そうはならずにイミシンになるでしょ?

うなどんとモームス

鰻丼(うなぎどんぶり)を「うなどん」、「モーニング娘。」を「モームス」と略すように、漢字の読みが何音なのか、どこで切れるのかとは関係がないのです。

ちなみに、「丼」という漢字を「ドン」と読むのだと思っている人が少なくないみたいですが、この漢字の訓読みは「どんぶり」、音読みは「セイ」であり、「ドン」という読みはありません(それは「鰻」に「うな」という読みがないのと同じです)。

ただし、これだけこの思い込みが広がると(なにしろ「どんぶり」を「丼ぶり」と書くような人がこれだけ増えてくると)、いずれ近いうちにこの読みは認められて辞書にも掲載されるだろうと思います。

さて、モームスの例からも分かるように、この2音+2音の略し方は固有名詞にも使われます。宮藤官九郎がクドカン、木村拓哉がキムタク、小島瑠璃子がコジルリと略されるのもこの例です(これらはいずれも漢字2文字で切れるのではなく、あくまで2音です)。

1+2 及び 2+1 の隆盛

ところが、この2+2方式はここ 20~30年の間に如実に廃れてきた感があって、メアドやコスパ、クリパなどの1+2または2+1もかなり勢いを増してきています。そう言えば後藤久美子はゴトクミじゃなくてゴクミで、後藤真希はゴトマキじゃなくてゴマキでした(ま、ゴトウマキをゴトマキに縮めてもあまり意味ないですし)。

そして、アメリカン・フットボールには昔アメフという略し方もありました。でも、これは最近ほとんど耳にしませんね。

もうひとつ「そう言えば」を連ねると、僕らの少年時代にはアメラグという言い方もありました。これはアメリカン・ラグビーの略ですが、じゃあ略していない正式名称としてアメリカン・ラグビーという言い方があるかと言うと、そんな言い方をする人はいませんから不思議な略語です。

アメリカン・フットボールを見たことがなかった昭和中期の人たちが「アメリカのラグビーだよ」などと言っていたのではないでしょうか。

フットボールとは?

アメリカン・フットボールもラグビー・フットボールもフットボールには違いないのですが、フットボールというのは足でボールを蹴るからそう言うのであって、本来はつまりサッカーのことです。

蹴らないわけではないですが、手で持って運んだり投げたりしている時間のほうが圧倒的に長いアメフトやラグビーをフットボールと呼ぶのは、よくよく考えるとおかしなことですよね。

話はどんどん逸れるのですが、以前テレビを見ていたらアメリカ人にインタビューしている番組があって、その中で「テレビでサッカーを観ていた」という字幕が出ていたのですが、相手はアメリカ在住のアメリカ人ですから、彼が言った football はやはりアメフトと訳すべきだったのではないか、つまりそのアメリカ人が見ていたのはサッカーではなかったのではないか、という疑念が湧きました。

ただし、これは随分前の話で、当時はサッカーはアメリカでは競技人口も少なくあまり人気のないスポーツでしたが、最近はワールドカップの決勝リーグに残るくらいになってきたので、アメリカ英語で football と言ったときにアメフトなのかサッカーなのか分からない時代が来るのかもしれません。

ちなみにワールドカップはワーカッではなく「W杯」と略されます(笑)

さらについでに書いておくと、アメリカン・フットボールを「アメリカン」と略する人も少なからずいます。これはアメリカン・コーヒーをアメリカンと略するのと一緒で構造としてはおかしくなですが、アメリカンではフットボールかコーヒーか区別がつかないではないか、と言われると反論のしようがないような気もします。

短縮のルール2

で、話は戻りますが、上に書いたように2+2の略し方においては長音や促音は2音と数えられるのですが、もうひとつ原則、と言うか、傾向があって、長音や促音はよく省略される、つまり「ー」や「っ」は除外されてしまうのです。

だから、ハリー・ポッターはハリポッではなくハリポタと略され、メール・アドレスはメルアドもしくはメアドと略されるのです(ひらかたパークはあくまでひらパーですが)。

その原則、と言うか、傾向に照らすと、アメフットはハリポッタみたいな感じで、如何にも気が抜けた印象になります。

だから「アメフット」は気持ち悪いのではないでしょうか?

それがどうした?と言われれば、別にそれがどうかするわけでもないのですが。

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