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「SADACA」が示すKZの現在地点

ラッパー・KZが6月30日、「SADACA」をリリースした。18年の1st「PULP」から4年。5枚目のアルバムとなる今作は、ラッパー・KZのスタイルを再提示した形になった。

11曲を通して、KZの別名義であるONGRが生み出す一貫したビートとリスナーを優しく肯定するリリックの連続。加えて序盤では、MVも公開されている"soldout"や渋谷WWWでのワンマンを成功したからこそより説得力が増した"こえてわかりだした"など前作からの更新も伺える。終盤での"俺が死んだ日"では、KZの死生観,人生観を俯瞰的に紡いだリリックも印象に残るだろう。ビートのテンポ感やフックでのオートチューンなど、細部の新たな一面にも注目だ。

自身が中心メンバーである梅田サイファーの躍進、ソロアーティストとして東京,大阪で開催したワンマンライブなど成功体験を積み重ねた近年。それを踏まえて尚、1人でビートを作り1人でリリックを書く理由とは。コロナ禍、渋谷WWWでのワンマンライブ、死生観、シーンや社会との距離感。2021年夏、KZの現在地点に迫る。

                                   文・編集 kyotaro yamakawa

                                               (photo by 中村里緒)

「人間はやればできるし、無限なんやなって。」


・まずは、「SADACA」リリースおめでとうございます。
「ありがとうございます。」

・制作期間は結構短かったのではないでしょうか?前作終わってすぐ作られていたイメージです。
「そうやね。歌詞の書き出しとビートの制作は、前作の『GA-EN』のミックスをしてる頃やった。それが2020年の4月ぐらいの話で、Cosaquさんのスタジオに入り出したのが8月ぐらいやったかな。」

・前作までの作品との変化について、どこにポイントを置かれましたか?
「前作のリリースを終えて、自分の中では一区切りがついて。やれることやったな、みたいな。そこからすぐ5枚目を作り始めるんやけど。
変化でいうと例えば、オートチューンを使ったりメロディーのあるフックを入れてみたり。あと前半の曲は特にファットな言葉を使おうと思って。自分のリリックはずっと贅肉を削る事をしてたから、今回は言葉を選ぶ事にチャレンジしてみようっていうのはありました。」

・ファットな言葉っていうのは、セルフボースティングや強い言葉を使うって事ですね。
「今までは分かりやすい日常でも使うような言葉をリリックにしてきて。そのピークが『norito』ぐらいであって『GA-EN』では集大成として書けたかなって。
今回の前半の曲は、自分がヒップホップを好きになった最初の頃、純粋なヘッズの頃にかっこええなって思ったワードチョイスをしたいっていうのが根底にありますね。」

・「SADACA」、5枚目のアルバムにはなるんですけど自分は4.5枚目のアルバムの様にも感じた所があって。それぐらいKZさんの瞬間的な部分を切り取った曲が多いんじゃないかと。
「あー、確かに。自分としても凄いコンパクトな作品が出来上がったと思う。完成した時にこれを作りたかったんやなって思えた。19〜20年に梅田サイファーも自分も上がっていったし、コロナっていう状況も加わって、この1〜2年に自分にも社会にも大きい変化があって。その中で自分の目線で見た一瞬を切り取って詰めることの出来たアルバムなんちゃうかなって思いますね。」

                                              (photo by 中村里緒)

・コロナのワードも出たので改めて聴きたい事なんですが、特にライブ活動が不要不急である事を余儀なくされた1年半ぐらいでしたが、その中での音楽活動を振り返ってみていかがでしたか?
「最初はパニックやった。他のラッパーと一個違う所があるとするならば、自分はオーガナイザーとしてイベントの主催もやってて。予定してたものも企画しようとしてたものも無くなって、大きく言うとKZが要らんって状況になってパニックやったね。それが20年の3,4月の頃で、自分はソロで初めてのワンマンをやろうとしてた時期やったし、それに対してもかなり不安やった。」

・コロナが流行する前年の19年は、特にKZさんの週末がほとんどライブのスケジュールで埋まってた時だったはずですし、反動も大きかったですよね。
「ただリスナーさん達から届いたDMを読んだりして、やっぱやらなあかんよなってなって。自分の音楽は小規模なパーティって呼ばれるもので鳴ってて、それが失われていく中でどう踏ん張るかっていうのを考え始めた。
5月のGWになった時にminiHANAKINって名付けて黒衣を誘って一緒に配信をやったんやけど、その時はめっちゃビビってた。クラブとかライブハウスでライブする事において自分の中で怖いものは無かったけど、この時のメンタルは初めてライブをする時に近かった。誰が見てくれんのかっていうのも分からんかったし、主催としても収益の面も見とかないとあかんかったし。」


・当時はアーティストも制作も全員が1からの挑戦でしたもんね。
「ただそれをやって大きかったのが、自分の音楽を聴いてくれてる人がこんなに遠くにもいるんやっていうのが見えた事で。KZとしてはウェルカムに来て欲しいんやけど、ライブに行くような年齢じゃないって自分で思ってるような人達とも配信やったら繋がれた。それは大きい気付きになったし、自分にとってもかなり自信になったね。
そこからUC WEEKっていう配信企画を打ち出して、梅田Shangri-Laでやった最終日は5000人ぐらいの人が見てくれたんやけど。これがどこまで大阪のシーンとかインディーズのラッパーに伝わってるか分からんけど、俺らやれんぞっていう事はあの時めっちゃ感じた。逆に今やからメジャーもインディーも無くなって、YouTubeっていう画面の上では戦える手応えがあった。
コロナにならんかった方が良かったのは大前提やねんけど、音楽に与えた効果は悪い面だけでは無かったかなと思う。音を鳴らす事に関しては不要不急じゃないし、鳴らせば聴きに来てくれる人が沢山いるっていうのが分かったから。」

・なるほど。地道だったかもしれませんが、インディペンデントでの配信ライブの継続はライブに行けないオーディエンスの力に確実に変わっていたと思います。
今年2月にあった渋谷WWWのステージは振り返ってみて、どんなステージでしたか?

「…キャリアハイな夜やったね。1st『PULP』を出した時の自分がなりたかったアーティスト像に、わずか3年の間で近づいていけた事が感慨深くなった。人間はやればできるし、無限なんやなって。」

・改めて思いましたけど、stompやったりlong a longやったり大阪の小箱の20分ぐらいのステージから、渋谷WWWで2時間のワンマンライブへのステップアップって実現できる物なんですね。
「ほんまやんな(笑)。梅田ではメンバーのみんなのおかげもあって色んな人に見てもらう機会もあるけど、ソロとしてはそこまでヒット曲もないし。
やからこそ活気付いて欲しい。ハジメさん(HARZEY UNI)が東京でイベントをやったり、DJ SPI-K君とKBDさんが華金を東京でやろうとしてたり、呼ばれるのを待つんじゃなくて自分から仕掛けていくこの流れが『あ、俺らのやってきたことって間違いじゃなかったんやな』って凄い嬉しくなる時がある。
このインタビューやからぶっちゃけて言うけど、渋谷WWWはめっちゃギリギリまで悩んでた。コロナ真っ只中で緊急事態宣言の直前ぐらいやったけど、その規模の箱でやるイベントはほとんど中止してて。しかもギリギリまでチケット動かんかったんよな。2週間ぐらい前まで半分も埋まってない、みたいな(笑)。そんな状況やったけど、自分が2020年の5月からやってきた事を考えるとやるしかないしやらなあかんやろうっていうのは強く思ったかな。」

・簡単に超えれなかったからこそ達成感や感動がより増したわけですもんね。
あのステージに立ってヴィジョンに変化はありましたか?

「あそこに立った事によって、より遠くが見渡せるようになったからまだまだやらなあかんなって思いました。それがクオリティなんかキャパシティなんか年数の長さなんかはまだ分からんけど、決してあれで終わりでは無くて一個の通過点やと思う。」

              (photo by maOtsuka)

「自分が死ぬ直前に、どんな人間でどんな事を思ってたかっていう事を書いとこうと思った。」


「SADACA」の話に戻りますが、今作はKZさんのスタンスやスタイルを再定義,再提示した形になったのではないかと思っていて。
現在の梅田サイファーの盛り上がりやSOLOISTでの他アーティストの共演などもあり、ビートもリリックも1人で担わずとも作品が作れる状況にある中で、改めて1人でアルバムを1枚作る意義などはありますか?

「色んな要素がそこにはあるんやけど、自分のクオリティは自分で作りたいっていうのがあって。映画監督と小説家、どっちに憧れるかって話をKBDさんと前に話したことがあって。KBDさんはみんなで力を合わせて物を作る事が凄いって理由で映画監督、俺は1人の人間から生み出される物が凄いって理由で小説家に憧れるって結論になったんやけど。どっちが正解とかそういう話じゃなくて。俺は1人の人間の限界やったり変化していく様を見たいっていうのがあって、そこに1人でやる意義とか意味が詰まってるんちゃうかなって思う。」

・そこには勿論、ラップもビートも両方やるからこそのレベルアップも加わってますよね。
「KZのラップっていうのは型があるし、リリックを書く事に対してある程度体系立てて制作してるんやけど、ビートは今でも新しい発見がある。あと何で1人でやるんですかって言われたら楽しいからっていうのも勿論あるし。」

・KZさんの事やから楽しいからっていう答えは必ずあるんやろうなって思ってました。
あと今作で特に印象的だったのが、"俺が死んだ日"です。前作にも曲中に死生観が見える曲が並んでいましたが、KZさんは「死」というキーワードをどう捉えているんでしょうか。

「死ぬ事を考える出来事があったり、そういう年齢になってきたんちゃうかなって思うね。
今年の2月にあった梅田サイファーのワンマンが終わった後、亡くなった大事な友人に報告しに行ったんやけど、その時に話したその友人のご家族の人がある病気で手術した直後やってんな。命は問題無かったみたいやけど衰弱してた様子を見て、そんなことあるんやって思って。ちょっと前にその友人が亡くなったのに、また家族の中に死が忍び寄ってくるっていう事があるんやなって思った。」

・確かに。そういう事が世界のどこかで毎日起きてる事は自明であるかもしれませんが、身近で起きてる事を知るとズシンとくるものがありますね。
「あとこの曲を書こうと思った理由がもう一つあって。7つの習慣っていう有名な自己啓発本があるんやけど、その本のプロローグに『自分が死んだ時に周りの人に何を言われたいですか,どう思ってほしいですか』って書いてあって。ある時、ガガ(ILL SWAG GAGA)と2人でその本の話になってからそれが頭に残ってた。
結局、全員死ぬやん?俺が知る限りは全員死ぬと思うんやけど。生きるって事は死に抗う事やと思うねん。俺らラッパーが曲作るのも、ここにいるよって事を周りにちょっとでも伝えたいからやと思うねんな。
やから、自分が死ぬ直前にどんな人間でどんな事を思ってたかっていう事を書いとこうと思った。」

・遺書の様でもありますね。
「そう。現時点での遺書というか。でも、当たり前やけど死んだ事ないからさ。書くのは難しかった。自分が死んだ時は誰に来てほしくて誰に来てほしくないんやろう、死んで何が失われていくんやろうっていう事は丁寧に書いたね。」

                                        (photo by hiroya brian)

・妙に具体的すぎて、この曲を初めて聴いた時に病気の類を疑ってしまいました。健康で何よりです。
あと今作では、メインストリームのシーンや仲間とも一線を画すKZさんのスタンスが"do it"や"日々新た"で特に伺えましたが、独自のポジションを作ろうとする事に理由などはありますか?

「全員がそうじゃないって前提をした上で言うんやけど、結局どこも社会があるやんって思う。歯車ですよね、みたいな。自分はそこからどうにか抜け出したいと思ってて。音楽のシーンも一般社会も、お金があってコネがあってただバズればいいって面があるから。もう少し自由でもいいんちゃうかなって思う。
でもその中にいる人が悪いとは思ってなくて。自分はもしかしたら弱いかもしれへん。その場所で戦われへんから逃げてるんかもしらんし。ただそこが息苦しかったり上手くやれへん人が多かれ少なかれ居るやん。自分もそうやったし。やから、その人達が自分の曲を聴いてシンパシーとか自由であっていい事をちょっとでも受け取ってくれてたら嬉しいなって思うかな。」

・「自由」は今も旅してるKZさんが言うと説得力がある言葉ですね。
「自分はタトゥー入れたいわけでも無いし、沢山の女の人を抱きたいわけでも無いし、良い車を買いたいわけでも無くて。でも、ラップは好きやからラップしたいっていう。そういう願望が無いとラップできない,ゲームに勝てないってなるのは違うと思う。違うって言いたい。みんなも自分の好きな物を好きなままでいてほしいし、そのまま好きであり続けれるって事を証明したい。」

・KZさんらしい言葉やと思います。
「この前、梅田サイファーのツアーで福岡に行った時にたまこう(タマイコウスケ)と会ったんやけど。ライブ終わって、宿までの帰り道に結構話して。たまこうが何かの話題でふと言ったんやけど、リスナーが風邪引いてもアーティストは助けてくれへんって言ってて。その言葉はめっちゃくらった。今までの活動で何をしたいかってなかなか言語化できひんかったけど、もしかしたらそれちゃうんかなって思った。
できるかどうかも分からんけど、しんどい人おったら力になれるような。リスナーさん全員がそう望んではないやろうけど、それぐらい繋がれたらって思う。」

・僕含めて梅田サイファーやKZさんに出会った事が転機になった人は沢山いると思いますし、現にそのパワーは伝わってるはずです。
最後に、今後の展望などあれば教えてください。

「旅が終わった今年の後半からは動けるかなっていうのは思ってます。まだ告知とかできひんからボヤかした言い方にはなるねんけど、驚きとかワクワクがあるプレゼントができたらなって。
で、来年はとんでもない事しようと思ってます(笑)。」

                                         (photo by hiroya brian)

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