teppeiが「Arrhythmia」で明かしたルーツと仲間への想いとは
梅田サイファーのラッパー・teppeiが1st Album「Arrhythmia」をリリースした。キャリア初のアルバムとなった今作で注目すべきは、何と言ってもそのトピックの数々である。
正にイントロダクションとして強く響く"19900402"からアルバムは始まる。自身のルーツである宗教二世や独特の家庭事情などの過去を明かした"Jehovah","Arrhythmia"、一昨年の梅田サイファーのツアー中にも襲った不整脈にまつわる"spo2"、更にはパニック症や借金の問題など自身の足跡や経験が音楽として昇華される。ラストトラックの"Patchwork"では、梅田サイファーや自身の家族との想いが語られ、teppeiの現在と未来に光が差して幕を閉じる。
ビートはほぼ全てteppei自らが制作しており、曲中のトピックとのギャップが生まれる仕上がりになっているのも今作の魅力の1つだろう。
本インタビューでは今作の肝となるteppeiのルーツに迫り、「Arrhythmia」の制作背景から過去を経た現在の心境まで尋ねた。
(文・編集 kyotaro yamakawa)
(photo by hiroya brian)
ー奥さんがリリックを書いてる僕を見て「teppeiにとってはそれがセラピーなんやな」って
・まずは「Arrhythmia」のリリース、おめでとうございます。
「ありがとうございます。」
・teppeiさんの過去の境遇が明かされた今作ですが、ここまでオープンに歌った経緯を教えてください。
「きっかけは、2年前に梅田サイファーでやったNever Get Old&トラボルタカスタムのツアーの東京公演の時に、心不全でライブ中の舞台裏で倒れてしまったんです。不整脈を元々持ってて、それがストレスとか疲れで爆発してしまってアンコールの時に救急車で運ばれたんですけど。
血中酸素濃度って通常は98〜100ぐらいをいったりきたりしてるんですけど、運ばれた時の僕は70しかない状態やって。ほぼ息が吸えてなくて生きてるのがラッキーやったって後でお医者さんに言われました。そこで一回死んだ感覚になったんですね。その時に自分の人生を改めて考えてみて、今まで自分が言えなかった事とかを生きてる,生かしてもらえてるんやから全部さらけ出してみようって作ったのがこのアルバムです。」
・曲中では、"spo2"などでも触れられてるエピソードですよね。同じく梅田サイファーのコーラさん,ラードさん,ハッチさんの名前が出てたり。
「そうですね。コーラ,ラード,ハッチに看病してもらいました。ラードはトイレに入ってきて声かけてくれましたし、救急車にはコーラとハッチが付き添いで乗ってくれて。」
・ある種の復活,生還とも言えるような窮地から"19900402"に繋がるわけですね。
その後のteppeiさんのソロといえば、昨年に配信で行われた華金で、神父のような格好でライブしていた姿が衝撃的でよく覚えています。
「自分のルーツにある宗教も影響してあのコンセプトになりました。自分はキリスト教で最近気付いた事があったんですけど、皮肉なことにイエスキリストも一回死んで復活してるらしくて。そういうルーツを辿って、カルマはやっぱり背負ってんねんなって思いました(笑)。」
・改めて梅田サイファーはみんなそれぞれのスタイルがあって面白いなと思います(笑)。
「そうなんですよね。これを許容してくれるのが梅田サイファーやんなって改めて思いました。面白いってウケてくれるというか。
その去年やった華金のJapidiot回の時は、後ろの控室に神父の衣装をかけてたんですけど。ジャピで出る時は流石にその衣装では出んなよってみんなに止められましたね(笑)。」
・制作時期はいつから始まりましたか?
「トラックに関しては2年前ぐらいから作っていて、実際にCosaquさんのスタジオで作り始めてからは1ヶ月ぐらいで完成しましたね。手術を終えたぐらいからアルバムの全体像が見え始めてきました。」
・ご自身の過去を改めて思い起こしながらリリックに落とし込む作業には、辛さだったり難しさはありましたか?
「辛いっていう点は余り無かったです。奥さんがリリックを書いてる僕を見て、teppeiにとってはそれがセラピーなんやなって言ったんですけど。それは印象的なフレーズでしたね。書くことで過去や環境を整理していくっていう。
ただ制作の難航は結構ありましたね。リリックもほとんどの曲は2,3回は書き直してますし、トラックも半分ぐらいは作り直す作業を繰り返しました。理由としては、テーマがテーマなだけにきちんと伝えたくて。あと重くなりすぎないようにしたかったんです。リリックに引っ張られすぎないようにトラックはかっこよくしようと思って、何回も作り直しました。」
・特殊なトピックを軸にした今作の制作において、何かリファレンスした,または影響を受けた物や人の存在はありましたか?
「宗教的な物を表現していいんやって思えたのは、一昨年ぐらいに宗教二世の漫画がネットで結構流行ったんですよね。奥さんと2人で笑いながら見てたんですけど。それがバズってるのを見た時に、こういう表現が許容され始めてるんやって事を思いましたね。」
ー母親が信仰してるだけでもそんな風な目で見られるんやって思いましたね
・ここからは今作の肝でもあるteppeiさんのルーツやヒストリーについて伺っていこうと思います。
まずは主に"Jehovah"で言及されている宗教二世についてですが、物心ついた時からエホバの証人という宗教が側にあった日常でしたか?
「母親は自分の父と結婚して全然知らない土地に出てきたんですよね。僕ら家族は4人兄弟なんですけど、僕が生まれる少し前に育児ノイローゼになってしまったらしくて。その時の近所付き合いで行った先でエホバのお昼の集会に出会って、弱ってる時に救われたんやろなって思います。人から聞いた話ですけど。
なので僕が物心ついた頃には、母はどっぷりって感じでしたね。」
・日常なら違和感も生まれにくいですよね。
「そうですね。怒られる時はクローゼットからベルト取ってきて叩かれる、みたいな。僕はお尻出してお願いしますって言って叩かれるわけなんですけど、何でお尻なん?って母に聞いた事もあって。お尻は皮が厚いから大丈夫って言ってましたね(笑)。あとはたまに、お前の母ちゃんが俺の家来たでって学校で友達に言われたり。それは恥ずかしかったです。」
・どの辺りから周りとの乖離に気づき始めましたか?
「自分自身が対外的に宗教の事を気にし始めたのは、社会人になってからですね。23,4歳ぐらいの頃に得意先の専務の人とひょんな事から宗教の話になった事があって。その人にタクシーの中で、自分の母の宗教はエホバですよって言った時に凄い顔されたのを覚えてます。お前そんなん絶対外で言うなよって言われて。その事を自分の上司に相談した時にも、エホバなんてカルトやでって言われたんですけど。その時は結構カルチャーショックで驚きました。自分自身は中学生前後ぐらいでエホバからは遠ざかっているのに、母親が信仰してるだけでもそんな風な目で見られるんやって思いましたね。」
・なるほど。日本だと特に宗教というワードだけでも敏感に反応してしまう部分もあったりするので、偏見の目は強いのかもしれませんね。
あと"spo2"や今作のタイトルにも由来している不整脈ともteppeiさんは付き合ってきたわけですが、これも生まれつき持っていたんでしょうか?
「昔は父親によくスポーツ心臓やって言われてましたね。バスケ部やったんですけど、部活から帰ってきたら頻脈が出てて結構やばかったんですよ。なのでそういう症状としては13,4歳ぐらいから手術するまではずっとありましたね。
たださっきも話した梅田のツアーの時は、もう一個上のステージで危なくなりました。いつも想定してる辺りで止まってたものが突き抜けてしまった感じで。逆にみんなが居て助けてくれたので、その時にその状況になってくれたおかげで助かったっていうのはめっちゃ思いますね。」
・確かに。運命的なタイミングとも捉える事ができますね。
その他にも作中で取り上げているトピックでいうと、幻覚症状やパニック症,躁鬱、更に借金の問題まで。1人の人生、そして10曲30分のアルバムの情報量とは思えないほどの中身ですね。
「例えば、"panic!"は子供の頃の夢がそのまま曲になってるんですよね。子供の僕がいきなりパンクバンドのライブのステージ上にいて、最初は静かなんですけど楽器のうるさい音が鳴った途端に僕がパニックになってわめき散らして目が覚めるっていう。その夢を一年に何度か不定期で見てた時期がありました。なので曲調もメタルっぽくなりましたし音が途切れる所もあったり、夢をそのまま落とし込んでるって感じですね。それ以降のパニック症やと今でも電車や結婚式での密室空間は意識が飛びそうになる事もありますね。」
・"panic!"の構成にはそういうルーツが関わっていたんですね。
"A.I.W.S"のトピックも自分は今回が初見でした。
「これも覚えてるのは5,6歳の頃で、目の前で寝てる母がどんどん小さくなっていったんですよ。点になっていく感覚というか。それは自分が離れていってるのかどうかっていうのもよくわからなかったんですけど。これも度々あって、曲にしました。
こういう不思議な出来事は、虐待ではないんですけど当時の母からのしつけの影響やストレスから起きてる可能性はあります。ただそれが本当の原因なのかっていうのはまだ解読できてないです。」
・8曲目の "tattoo"では、一風変わって誰かへのメッセージとも捉えれるフレーズも見られますね。これは特定の人物やモデルがいらっしゃるのでしょうか?
「僕の身近な人に対して歌った曲ですね。その人も僕とは方向が違うんですけど、似たような境遇で生きてきた過去があって。自分を傷つける事も何度かあったんですよね。
曲のきっかけになったのは、その人が今までの自分の傷を無くすために病院に行って更に大きな傷を作ってもらったんですよね。自分の傷を埋めるために。自分の過去を乗り超えて呪いが解けたって嬉しそうな顔をしてましたね。あとその人はタトゥーを入れてるんですけど、1つ1つに意味があって。タトゥーもいわば傷じゃないですか?それらの出来事を踏まえて"tattoo"の2ヴァース目にある"その身体の傷は誰かへの栄光 その身体の傷は誰かへの成長"ってフレーズがパッと出てきて、それをメッセージとして伝えたくて曲にしました。一言で傷つけるって言ってもその傷にも誰か救われてる人はおんねんなっていう事を言いたかったんです。」
・タイトルトラックでもある"Arrhythmia"では、これまでの家庭の事情とteppeiさんの人生観が綴られてます。今現在、ご家族とはどういった距離感や関係にあるのでしょうか?
「もうしばらく会ってないですね。曲中にもあるんですけど、一番上のお姉ちゃんとは3,4年会ってません。家の前で一回すれ違った時も、お互い気付いてたのに目を逸らしました。結構キツい人で、割と昔からイジめられてたのもありましたし。
家族の確執は"Chase the money"に繋がってくる部分で、両親の借金を子供達で返していくってなった時からですね。」
・ちなみにその借金は何が原因で生まれたものなんですか?
「原因は誰も認めてないんですけど。まず父親の退職金の2000万が色んな所から引き出されていたんですね。
日本全国、様々な地方で何十万ずつ引き出されてて、それが結果、借金として1500万残って、子供達で返済していく事になりました。」
・"Chase the money"で日本のエリアの名前が出てきてたのはそれが理由だったんですね。
「そうですね。去年に完済できて家族は元通りになると思ってたんですけど…何にも変わらなかったですね。一回壊れてしまうと戻すことは難しくて。
なので"Patchwork"にも書いてるんですけど、家族は血の繋がりだけじゃないって分かりました。梅田の人達とか今の奥さんもそうですけど。今は周りの人達が家族のように思えるので、その人達を大事にしていこうって思ってます。そういう決意の曲ですね。」
ー最近はより思うんですけど、良い意味でライバルですね
・"Patchwork"の名前も出てきたので、最後にteppeiさんと梅田サイファーの話を聴いていこうと思います。
まずサイファーにいったきっかけは何だったんでしょう?
「最初は、tellaと大学が一緒でサークルが同じで知り合ったんですね。その後に大阪の心斎橋にあるvijionってクラブに僕とtellaとミルキーさんって人で組んでたクルーでライブを見に行ったんですけど、そこにペッペBOMBが遊びに来てて。バーカンでサイファーした時に、梅田歩道橋に誘われたのが初めてですね。なので、ペッペがきっかけでした。」
・teppeiさんは現在リリースされている梅田のアルバム4枚全てに参加されてますが、梅田が3rd「Never Get Old」で再始動した当時の心境はいかがでしたか?
「その時は仕事で忙殺されてた時期でなかなか音楽の方にウェイトを置けなくて、かっこいいビートあったらラップしたいなって思うぐらいでしたね。ただ今になって振り返ると、もっと参加しとけば良かったなって思います(笑)。」
・序盤にも出てきましたが、ツアーの最中での心不全を乗り越えた昨年には配信で行われた華金で久々のソロやWe La Works,Japidiotでのライブともありましたね。
「あの時はソロのライブも久々で嬉しかったですね。
これは"spo2"でも言ってるんですけど、僕が倒れた後に梅田のみんなは打ち上げで焼肉に行ってるんですよね。それ食べれなかったんで、ジャピのみんなが配信が終わった打ち上げでホルモン屋さんに連れて行ってくれたんです。それがめちゃくちゃ嬉しかったのは覚えてます。」
・Japidiotの5人は一筋縄じゃいかない感じがありますけど、人一倍優しさに溢れてるイメージがあります。
「みんなどこか病んでますけど、心優しい人たちばっかです。」
・今のteppeiさんにとって梅田サイファーとはどういう場所でしょうか。
「ひたすらにみんなピュアなんですよね。社会って思ってたより黒いじゃないですか、色んな人が居て。ただここだけは本当にピュアで心が洗われるんですよね。みんなラップが好きで楽しんでる空間がほんまに好きです。
あと今みんなそれぞれステップアップしてかっこよくなってるので、自分もかっこよくなってステップアップしてる姿を見せる場所でもあります。最近はより思うんですけど、良い意味でライバルですね。」
・切磋琢磨はソロにもチームにも影響してる部分ですよね。個人で蓄えた力をまた集団に持ち寄ってくるっていう。しかも全員がその意識を多かれ少なかれ持っているのが見受けられます。
「そうですね。自分のフィールドを耕して、出来たものを梅田に持って帰る感じです。コーラはコーラで自分のバンド組んでたり、最近アルバムを出したKOPERU、KennyDoes、KZさんを始め梅田のみんなそうやと思います。
メンバーがやばいって言ったら、リスナーの人にもやばいって言わせれる自信があるので。まず身内を曲でボコボコにする所から始めるかもしれません(笑)。」
(photo by HiroyaBrian)
・梅田のメンバーは国内有数のリスナーでもありますしね(笑)。
teppeiさんの今後の展望があれば教えてください。
「今までぼんやり思ってきたことで、尚且つ実現できるかなとも思ってるんですけど…寺子屋みたいなものを作りたいですね。みんながそこにきて音楽でも映像でも良いですし、絵とか漫画描いたりでも良いですし、ここに来たら何も気にせずに表現できる場所を作りたいです。
これが今生きてる意味というか。僕はラップを通して救われましたし、僕と同じような境遇の人の為にも居場所を作りたいなって思ってます。
たぶん3年以内にできると思います。」
・最後に、今作を聴いたリスナーの方へメッセージをお願いします。
「一曲一曲を聴くとネガティブにも捉えられるかもしれないですけど、僕がアルバム通して伝えたかったのは人生悪くないよなっていうこと。その部分を受け取ってもらえたらなって。誰かを救いたいとかはおこがましいんですが、聴いた後にちょっとでもポジティブになってもらえたら嬉しいです。あとCDのアートワークにもこだわってて、リリックも読みながら聴いてもらいたい作品になってるので宜しくお願いします。」
2021.8.1(日)
KennyDoes「NEVER CHANGE 」
teppei「Arrhythmia」リリースツーマン
at.OSAKA CONPASS
OPEN 17:00
チケット¥3500 +1D
LIVE
KeenyDoes
teppei
チケット販売サイト
https://t.livepocket.jp/e/kennyteppei210801
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