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黒衣(peko&KENT)が選ぶ3曲 そこから見えるルーツと転換点

大阪を拠点に活動するpekoとKENTの2人組、黒衣。昨年リリースされた、2nd「RISE OF(DELUXE)」が6月6日にフィジカルのみで発売開始された。本作品では配信されている通常盤には収録されていない、"WAVE(EXTENDED)","HOW WE DO feat.KOPERU&ISSEI","TWO SIDE(REPRISE)feat.チプルソ"の3曲も追加収録されている。ビギナーからマニアまで頷くようなスタンス、そして絶妙なバランスに整えられたHIPHOPの魅力が詰まっている一枚。是非注目してほしい。

本インタビューでは、pekoとKENTの2人に自身にまつわるテーマに沿って3曲ずつ選曲してもらい、ルーツや転換点に迫った。10年以上の紆余曲折を経た黒衣が築いた美学とは。

           文・編集 kyotaro yamakawa

1曲目: 自身、または黒衣のルーツに繋がる1曲

・「RISE OF(DELUXE)」、フィジカル盤でのリリースおめでとうございます。今回のインタビューでは、お2人にテーマに合った3曲を選曲してもらい、その曲から黒衣のヒストリーなど探っていきたいと思っています。
まず1曲目にpekoさんが選曲してくれたのは、TERIYAKI BOYZの「HeartBreaker」。この選曲理由は何でしょう?

 peko「2005年の9月ぐらい、黒衣のルーツに話は遡るんですけど。
俺の地元が兵庫県の川西っていう所で、今となってはヒップホップにゆかりのある人がいる土地でもあるけど、その当時は関わってる人なんて誰も居ないと思ってました。当時はRIP SLYMEとかKICK THE CAN CREWを1人で聴いてて。2005年はTERIYAKI BOYZの"BEEF or CHICKEN"っていうアルバムが出る年で、そのシングルカットで出た"HeartBreaker"がめっちゃ好きやった。周りは誰も聴いてなかったけど。
で、ある時に地元の駅のバス停の上にある踊り場から爆音が聞こえてきて。近づいていったら、4人ぐらいの男性が今にもライブしそうな感じで準備をしながら、"HeartBreaker"を流してたんやん。その当時の俺は川西にそんな奴ら居るはずないって思ってたから、何やこれって思って(笑)。それを見た時に、高揚感とかじゃなくて普通に気が動転してた(笑)。これはチェックせねばって思って、ライブが始まるまで1時間ぐらい待ったんよ。その時にずっと流れてたのが、"HeartBreaker"やった」

・それは忘れられない1曲になりそうですね。
peko「その集団の中には、後のKENTが居るんやけど。そこから色々あって仲良くなっていくねんけど、共通の話題としてTERIYAKI BOYZがあった。やから極端に言うとTERIYAKI BOYZが無かったら、もしかしたら黒衣は結成されてないかもっていう(笑)」

・お2人はストリートでの出会いから始まったんですね、運命的やと思います。
KENT「そのライブは、ほんまは僕の幼馴染の高校の文化祭でやるはずやって。ただ段取りできてなくてライブができなかったんです。近所にはストリートミュージシャンとか生音でやるような人しかおらんかったけど、何とかなると思って機材を持って行って。で、ライブ中に連れの1人がフリースタイルのお題をそこに居たpekoに聞いたんですね。そしたらpekoがお題を言わずに、俺はこんなん出来るって言ってビートボックスやり始めたんですよ。そのセッションが出会いです」

・音楽が引き合わせてくれた縁だったんですね。
続いて、KENTさんの1曲目に選曲したのはJamiroquaiの「Canned Heart」ですね。これはどういう選曲でしょうか?

KENT「自分のざっくりした方向性が決まった曲という事で選びました。小学5年生ぐらいの時にリリースされたんかな。MTVで見たんやけど、かっけーって子供ながらに思って。貰ったお小遣いで、CDを買いに行きました。
曲のノリもめっちゃ良いし、和訳の歌詞も凄いポジティブで。全然イケてなかったけどダンスとか音楽に出会って俺最高、みたいな感じ。当時のテレビで流行ってた、恋愛とか応援ソングにはあんまり共感できひんかって。小学生やから当たり前かもしれんけど。これはそういうのと全然違ってて、シンプルに自分の事を話してるのにかっこいいから凄いなって思った。自分の好きな音楽のノリと歌詞の方向性がそこでボンヤリと固まった感じ。
そこから日本語ラップを聴いた時にも色んなトピックを歌ってるなって思って。日本語ラップを引っ掛けるアンテナになった曲って事で選びました」


・なるほど。KENTさんのルーツに当たる曲なんですね。そんな2人の出会いがあったわけですが、黒衣の結成はどういう経緯だったんでしょうか?
peko「その路上ライブやってた覇世とK.IとKENTで、KRC(神田ライマーズクラブ)っていうグループを組んでて。俺は出会って自然に加入する流れになったんやけど。KENTはその時からストイックにリリックを書いてた。ただ覇世とK.Iは全然書いてなくて、あいつら全然あかんなって俺ら2人で話してて。それで痺れを切らしたKENTが俺の家に来て、2人でやらん?って凄い熱量で言われて。後に"風向き"って曲になるビートを持ってきて、これで1曲作ろうって」
KENT「今でもその熱量は変わってないし、やるんやったらちゃんとやろうやって思います。ただあの時面白かったのが、2人で活動するって言ったのにKRCの残り2人とは何の空気も悪くならんくて(笑)。こんな感じなんやって凄いビックリした。その後も友達って関わりで一緒に曲やったりしたので、関係は何も変わってないです。小さい頃からの連れの中にpekoが入ってきたって感じ」


・そこでの決断は大きい分岐点の1つになりましたね。
その後は今の2MCでのスタイルではなく1MC1DJの形で、1st「TIME IS COLOR」が2009年にリリースされます。「RISE OF」に収録されている"TIMELESS"でもこの作品について触れられていますが、制作期間も含めて振り返ってどう評価してますか?

peko「当時は今よりリリースが簡単じゃなかった時で。アルバムのバジェットを自分達じゃなく他人が持ってくれる事がレアケースやったし、同世代の中でも早くリリースできる事もあって最初の頃は優越感があったかな。
やからこそ良いものを作りたいって意識もあったんやけど、俺もKENTも30%ぐらいしか力を発揮できひんかった。"風向き"とか"虚言~まくら~"って曲は、元々作ってたデモ盤に収録されてる方が出来が良かったんよね。初めて商業スタジオに入ってレコーディングするのと、アマチュアナイトとかの仲間と夜な夜な試行錯誤しながら制作するテンションってまるで違うから。
結果的に、あのアルバムには当時の絶妙な感覚もコンパイルされてて。振り返ると未熟やったなって感じですかね」
KENT「正直、制作途中で手応えなかった。当時の客演に入ってくれた先輩とか協力してくれたスタジオとかに申し訳ないなって思うんやけど、この作品を俺は気に入らへんやろなって思いながらやってた感じ。中には好きな曲もあるけど、全体を見た時に聴きたくなるような作品じゃないと思ったし、これでどうにかなるっていう事より世に出て広がっていく事の恥ずかしさみたいなものがあったかもしれん。その流れがあって、制作してからの動き方も悪くなっていった感じですね」

2曲目: 自身、または黒衣の転換点となった1曲


・総じて完全燃焼は出来なかったアルバムだったんですね。
では、選曲の2曲目に移ろうと思います。ここでは、お2人とも黒衣の"衝動"を選んでもらいましたが、どのように転換点と繋がるのでしょう?

peko「さっき言ったみたいに、1stでは手応え無くてリリースした割には活躍できひんかって。2011年に活動を止めるんやけど、その時はもう1回やる事をあんまり考えてなかった。その後は高槻POSSEで可愛がってもらったりしてたんやけど、活動がビシッと定まらんかった。ソロもやってみたけどリリースするまでには至らんかったし、そういうフワフワした期間があって。
で、KOPERUが主催してたアマチュアボックスにゲストで呼ばれる事になった事が"衝動"を作るきっかけになった。そのイベントは俺も関わってて、KOPERUに誰が見たい?って言ったら黒衣って言われて。当時はKENTともクラブで会ったら話してたけど、わざわざ2人で曲を作る関係では無かった。そういうタイミングやったけど、黒衣どうする?って聞いたら意外とお互いに違和感なく、もう一回やってみますかってテンションになって。そのイベントに向けての新曲も作った流れで、作品作りもしてみようってなった時に出来た1曲が"衝動"でした」
KENT「そのアマチュアボックスに呼ばれた時に作った新曲が意外と1ヶ月ぐらいで作れたんですよね。高槻POSSEとかソロで活動してたpekoとやるなら2MCっていうイメージはあったけど、コンビネーションに関してはネックやなって思ってたし、黒衣の活動を止める前にもCRDのスタジオで次のアルバムのディスカッションをしてたんやけど、それもあんまり上手いこといってなくて。その割にすぐ2曲出来たから、もっと作ってみよかってなった。
"衝動"は過去への禊っていうのもあって。俺らを前から知ってる人からしたら聴いて思ってくれる事もありつつ、知らん人が聴いても黒衣としてストイックな部分をアピールできる曲っていう事を考えながら書きました。展開以外は打ち合わせも無しで書いてきたら2人のテーマがバチっと揃って、方向性が見えた曲ですね。」
peko「前にも2MCで曲を作るならって話をした事があったよね。その時に考えてたイメージを俺がKENTに伝えたんよ。KENTが3バース書いてサビは俺が歌うって感じ。それだけ伝えて2人とも歌詞を書いてきたら、テーマも一致してて。狙わずして同じ事を思ってたから、また2人でやれるってなった」


・"衝動"は、まさしく今の黒衣に繋がる一曲ですね。出会いもそうでしたけど、2人を引き合わせる何かがあるんだと思います。
この曲は周りのアーティスト達がRemixを出した流れもありましたよね。あれは自然発生で生まれたんですか?
peko「そう、完全に自然発生。何か感じてくれたのもあるやろうし、書きたくなる曲ってあるんですよね。この前のKOPERU&ISSEIの"Codename"もそうやったし」
KENT「あれ良かったなー」
peko「あれはMVが上がった日に聴いて、KENTに Remixしようやって言って出来た曲」
KENT「超速攻で出来たやんな」
peko「そうやって早く出来たのは、ビートもテーマのおかげでもあるけどKOPERU&ISSEIのキャラクターとかも関係してて、"衝動"の場合も黒衣の事を知ってる人間を動かせたんちゃうかなって思う。正にそれが衝動やったっていうか(笑)」

3曲目: 「RISE OF」で特に印象的な1曲

・文字通り周りのラッパーの衝動に火を付けた形になりましたね。
では、最後に選曲した3曲目です。pekoさんは、"HOW WE DO"でしたよね。

peko「THE・黒衣の曲って感じですね。昔から俺らを知ってくれてる先輩が、全部英語のタイトルなんかお前らじゃなくていいやろってTwitterでつぶやいてて。昔のファンは置いてけぼりか?、みたいな。まぁその先輩なりの愛なんやけど。いや曲を聴いてみてくださいって思って(笑)」
KENT「タイトルだけで?って思ったよな(笑)。」
peko「"HOW WE DO"は、黒衣が結成当初から考えてる美学とか思考の塊やと思ってて。俺らのスタンスの提示というか。あとRISE OFに収録されてる中でも、黒衣的なキャッチーさがある曲かな」
KENT「歌詞がすぐ書けた曲やね。いつも微調整があるんやけど、これはほぼ直してないし一筆書きに近い。
歌詞の内容にストーリーがついてるとしたら、そのカメラワークをめっちゃ綺麗に出来た曲で。"言いたいこと言うのがこの音楽だが〜"から始まるんやけど、この冒頭はお客さんを舐めない、あなた方を好敵手として見てますよっていう提示から始めました。そこから犯罪と掛けていく流れがあって、最後にモリアーティとシャーロックホームズを絡めて上手くオチをつけれたかなって」

・客観的に見てもヒップホップにしか無い魅力とか哲学が語られてますし、お2人の事を知ってたらこの独特なキャッチーで渋いバランスに頷く事も出来る曲ですよね。KOPERU&ISSEIの"Codename"とも世界観が合ってるので、最近のお互いに客演をし合う流れもピッタリでした。
KENTさんが選んでくれた3曲目は、"SPECIAL"でしたね。

KENT「サビの作り方も初めてやった形になって。pekoがメロディも歌詞もつけて最初に考えてくれたものを流用しつつ、もう少し曲のテーマに合うように僕が歌詞を直してたんです。その直してる最中に、これは自分で歌わへんやろなって思いながら直してました。言いたいことではあるんやけど、僕が歌っても真っ直ぐ届かんやろなって。
AOBAっていうシンガーとはCosaquくんのスタジオで知り合ってて。頼めば引き受けてくれるやろなって関係性やったから、AOBAとpekoの声2つをイメージしながら書いていきました。で、レコーディングの時にpekoの声を抜いたら、しっくりきたからあの形になった」

・"SPECIAL"はアルバムの中でも一味違って、清涼感ある曲ですよね。AOBAさんの起用も頷けるテーマでした。
黒衣のライブってお2人の役割みたいなものは存在しますか?見てる印象では、KENTさんがバイブスを作って、それをpekoさんが一歩引いた位置から支えてるイメージです。

KENT「俺はどうやろな…。黒衣の事を考えてない訳では無いけど、そういう事の構図とかデザインを作ってくれてるのはpekoの方が多いかも」
peko「黒衣は、やっぱりKENTがフロントマンで始まってるグループなんで。これはDJをやってる人じゃないと共感できひんと思うんやけど、フロントマンとDJの関係の間には絶対的なものがあると思ってて。今は俺もメンバーとしてラップするけど、その名残があるから、どこまでいっても黒衣はpekoのグループって言われたくないっていう事が自分の中はある。完全に俺のエゴやから見てくれる人は何を思ってくれても良いんやけど。
やから、自然とライブもそういう感じで作ってるつもりかもね。MCを俺がしてる時もめっちゃ違和感あって(笑)。そこの役割の比重をKENTの方にシフトしていく事が目下の課題ですね」
KENT「それ直接言えよ(笑)。pekoがめっちゃしゃべってくれる時もあるから、しゃべりたいんやなって思ってたわ(笑)。
pekoが俺をフロントマンって言ってくれるのは元々のDJ気質があるんやろうけど、俺はそこに対してあんまりディスカッションしない方が良いんちゃうかなって思ってる。仮にそれを2人で話し合った結果やとしても、俺のラップが立つようにpekoが手抜きします、みたいな事ってありえへんしね。お互い狙ってる事があって、それをどう落とし込んでいくか。これも2人でやってる面白さなんちゃうかなって思います」

・先月、「RISE OF」のDELUXE版がフィジカルのみでリリースされました。配信で聴ける通常盤には収録されていない、客演を迎えた曲やEXTENDEDとして変更された曲も入っていますよね。
peko「"HOW WE DO"に関しては、2対2でやりたくて。曲的にも、ストイックにリアルを歌う人達よりキャラっぽくなれてユーモアがある人達の方が良いかなって思って、KOPERU&ISSEIを選びました」
KENT「タッグ感,バディ感っていう"HOW WE DO"の枠組みを置き換えて、しっくりくる人達ってなると2MCやし、そこはKOPERUとISSEIがベストやったね」

・"TWO SIDE"の客演のチプルソさんは、どういう理由で選ばれましたか?
peko「チプルソっていうラッパーが表裏一体の人やし、表裏みたいなテーマを歌うのに彼以上に的確な人はいないから選びました。俺らの事も理解してくれてるやろうし、チプルソがどういうラップをしてきても俺らは信頼しきってるっていうのもあります。完璧でしたね」

・"WAVE"は黒衣の盟友でもあるCRDさんがビートを作ってる曲ですよね。EXTENDEDバージョンのアイデアは元々の予定だったんですか?
KENT「元々はブレイクとかがあったビートなんで、その構想段階にあったものをDELUX版で出そうかなって。ブレイクだけじゃ寂しいし、バースも付けました」
peko「この曲に関して言うと、こういうのをやってみたかったってだけなんですけど(笑)。昔のR&BとかHouseのアルバムにはEXTENDEDが入ってる事もあるんですよね。
これは後付けなんですけど、デジタルとフィジカルで全く同じ物買うって意味あんの?って思ってて。今の時代的に、フィジカルを買う人、更に言うとRISE OFのフィジカルを買う人なんて超希少な存在やと思ってるんすよ。そのお金を払ってくれた人にはサプライズがあっていいと思うし、今後も黒衣はそういう事を続けていくと思う」

・何らかの付加価値を付けてフィジカル版をリリースする事には、僕も大賛成ですね。リスナーとして買いたくなりますし、コレクションとしてもレアなわけですから。
最後に、黒衣の今後の展望はありますか?

peko「なかなかライブが出来ない日々ですけど、ワンマンはやりたいなって思ってます。もっとチャレンジしていきたいのもありますし、曲も作っていきたいですね。グループとしては結成して長いんですけど、まだアルバムとしては2枚しか無いから残していきたい。
30代半ばに差し掛かってる世代なんですけど、周りでも辞めていく人が多いんですよね。俺らのやりたい事に付き合ってくれた人達、お世話になった人達の人生とか責任も勝手に感じてるっていうか。その人達の意思も作品に落として、残していくのが続けてるやつの役目やとも思うし。俺はソロとか梅田サイファーとか色々やってるけど、やっぱり黒衣じゃないと書けへん視点もあるから。大事にしていきたいですね」
KENT「今はEPを作ってます。今回は作品としてのバランスというよりコンセプトみたいなルールとか縛りを作って、それに沿って書いていく形をしてて。今まであんまりしてこなかった作り方なんで、何か気付きがあれば次のアルバムとか色々見えてくるかなって思ってます。
制作を頑張って、そのEPが出たタイミングでワンマンやれたらって思ってます」

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