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観劇記録、ハイバイ「夫婦」

ハイバイを生で観たのは西鉄ホールの「おとこたち」ぶり。それに感激してファンになったのだが、「ヒッキー」や「ヒドミ」を見逃して見逃して、やっと北九州で観ることができた。

今回のは、「おとこたち」ほどさんざん笑わせておいて最後に落とす、ようなものではなくて、もっと演劇的な仕掛けでリアリティを生んでいた。とは言いつつ、やっぱり面白くて、最初にいつもの前説でひと笑い。(今日気付いたんだけど「ぷるぷるぷる」と口でコール音を鳴らすのは、客席で電話が鳴ることを前提にしてるギャグか…さすが)

笑いどころに関しては、絞っているように感じた。「おとこたち」は、4人の男の一生を描いて、外から見れば馬鹿馬鹿しい不幸の裏側に潜む闇を突きつけてくるような構造だったのが、今回はより生々しく、物語は淡々とありのままを語っていたんじゃないかと。

まず笑ったのは冒頭の電話シーン、「岩井秀人」の母親の山内さん(男)が丸坊主で出てきて、カツラをかぶりながら喋る。実はこれ、後のシーンで、抗がん剤が原因だと分かる。いや、何かあるとは思ってたけど、病気で別人のようになった父親の人形をかついででてきたり、机の下から武器を出したり、小ネタに紛れてそれを探らせないようにしてるのが上手い。それに、女優が丸坊主だとこうはいかない。そこに違和感を感じさせない俳優と演出。「すごい!」

この電話のシーンから時が遡り、回想が始まり、物語が進んで、またこの電話のシーンが繰り返される。
が、舞台はそこで終わらず、さらに、「現在」のシーンに。

父親が少年岩井秀人に暴力をふるわれる。父親は自分が息子をかつて殴った記憶が無いと言い張り、「いじめないでくれ。もう老いぼれなんだから」の一点張り。そこで少年岩井秀人は激昴し、自分と家族の思いをぶつける。この舞台で最も熱量が上がるシーンだったかもしれない。

と、ここで大人岩井秀人が現れ、止め、「演技指導」をする。これは「夫婦」の稽古シーンだったのだ。稽古は休憩に入り、役者たちは「死に顔を見ても笑わない練習」と、遊び始める。順番に死体役をやって、カメラで撮影した映像がリアルタイムでスクリーンに映し出される。3番目、大人岩井秀人が死体役をしてスクリーンに映像が映るが、そこには父親役の俳優が。

シーンは変わり、その映像を、さっきまで寝ていた大人岩井秀人が眺めているところに、母親が現れる。そして、静かに暗転してカーテンコールに。

この、最後に見せたこの舞台の構造が、自らの経験から作品を作り続ける岩井秀人さんのこの「夫婦」のリアリティを生んでいるのだと思った。いつも役者が前説をするところから始まる、ほぼノンフィクションな物語の演出を、演劇は作り物だということを敢えて明言することで「本物」にする舞台だったと思う。

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