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千葉ロッテマリーンズ ドラフト指名を振り返る ②指名総括と今後の展望編

(ヘッダー引用:日刊スポーツ)

どうも、やまけんです。

前回のnoteで、千葉ロッテマリーンズにドラフト指名された10選手を紹介させていただきました。

今回も前回に引き続きドラフト指名を振り返ります。今回は本番の指名の流れやそこから推察される各選手への期待、フロントの評価などについて深堀していきたいと思います。

「1位・度会」に至るまでの考察

まず、1位指名について振り返ります。
今年のドラフト候補市場は即戦力投手が豊富で、シーズン終盤に先発投手の枚数不足で大きく失速したマリーンズのチーム状況を考えると、武内夏暉投手(國学院大→西武)や常廣羽也斗投手(青山学院大→広島)ら即戦力としての活躍を期待できる大学生投手を指名することも考えられました。
そのような状況でマリーンズが1位指名したのが、度会隆輝選手(ENEOS→横浜DeNA)でした。

度会選手の現時点での能力や将来性を鑑みれば1位指名だったことには十分納得ができますが、マリーンズが度会選手を指名した経緯について考察してみたいと思います。

まず、投手(先発投手)に関しては今季終盤こそ枚数不足に苦しんだかもしれないものの、編成的な観点から見ると枚数的には決して少ないわけではなく、今季には石川歩投手や二木康太投手を筆頭に故障者が多く出ていた点が大きく影響したという点がポイントになるのではないかと思います。
また、中森俊介投手や菊地吏玖投手らも順調に成長していることで、来季は現有戦力のボトムアップで戦えると現場・フロントが判断した可能性もありそうです。

一方の野手に関しては、大きな離脱者としてはシーズン全休となった外野の髙部瑛斗選手くらいでしたが、選手層の脆さや得点力不足を痛感したシーズンとなったのではないかと思います。荻野貴司選手や角中勝也選手の両ベテランや外国人のポランコ選手への依存度も高く、現有戦力の底上げだけでは賄いきれないと判断し、度会選手の指名に踏み切ったものと思われます。

故障者が復帰すれば何とかなりそうな投手陣」と「故障者が復帰しても厳しい戦いを強いられそうな野手陣(攻撃陣)」と考えると、1位で野手を、度会選手を指名した背景にも納得がいくかと思います。

2度目の入札で投手を指名した意図

度会選手は3球団競合となり、マリーンズが交渉権獲得とはなりませんでした。マリーンズはここで大きくプラン変更し、草加勝投手(亜細亜大→中日)を指名。中日との競合に敗れた後も、細野晴希投手(東洋大→日本ハム)を指名と、投手の指名に切り替えました。

ドラフト会議前の報道では、マリーンズは1位指名の候補を「7人」と明言しています。実際に指名した度会選手、草加投手、細野投手の他には、他球団が指名した武内投手、常廣投手、西舘勇陽投手(中央大→巨人)、下村海翔投手(青山学院大→阪神)などが考えられ、度会選手の抽選が外れたら残っている1位候補の投手を指名する…とプランニングしていたのではないかと考えられます。それだけ、度会選手に対して「スペシャル」な評価をされていたのかもしれません。

ドラフトでは補強ポイントに合致した選手を指名することも大事ですが、その年の評価の高い選手を確実に指名することもやはり大事です。最初の1位指名こそ度会選手でしたが、だからといって「投手を1位指名しないでいい」というチーム状況でもなかったため、この指名プランの変更は決して間違った選択肢ではなかったと思います。

3回外して「プランA#」上田希由翔を指名

最終的に細野投手の抽選にも敗れ、12球団で最後の1位指名となったマリーンズ。ここで再び野手の候補に戻り、上田希由翔選手を指名しました。

吉井監督はドラフト会議後に取材に応じ

「いろいろなプランがあったので。まあ、3つ外してるので、プランAとは言えないですけども、プランA#ぐらいでは100点満点」

と語っています。

この吉井監督の言葉と、先ほどの「1位候補7人」という事前情報を基に考察すると

①プランA=度会選手を指名
②プランB=残っている1位候補の投手を指名
③プランA#=当初の1位候補には入っていない度会選手以外の野手を指名

という3つのプランで臨み、結果として度会選手ではなかったものの度会選手に近い役回りを見込める上田選手を指名できたという点では非常に大きかったと思います。①の指名選手紹介編でも同様のことを書きましたが、大学で複数ポジションを経験した強みを生かし、安田選手や山口選手、藤原選手といった近い年代の選手に刺激を与えられる存在として期待したいです。

また、ENEOSの選手の指名は2004年自由獲得枠の手嶌智投手以来明治大学の選手の指名は球団史上初めてとなり、球団の歴史的にも大きなドラフトになったのではないかと感じました。

「2位・大谷輝龍」のサプライズと「3位・木村優人」にかかる期待

レギュラーシーズンの順位が2位だったということもあり、2位指名の順番が10番目と遅かったマリーンズ。本来であればここで先発投手を指名したかったところですが、やはり即戦力の先発投手候補の多くは2位指名の前半までに他球団に指名されてしまいます。

ここでマリーンズがとった選択肢が「2位・大谷輝龍」でした。最速159キロ、常時150キロ台を計測するストレートに140キロ台で落ちるフォークは1位で指名された投手や社会人のドラフト候補の投手と比較しても遜色ないどころか、1イニングの威力で見れば今年のドラフト候補ナンバーワンと言っても過言ではありません。

担当の永森大士スカウトは、富山GRNサンダーバーズの球団代表を兼任する異色のスカウト。富山所属の大谷投手に関して12球団で最もよく知る人物とも言える存在です。

そして3位で指名したのが、高校生の右投手で評価の高かった木村優人投手です。事前には他球団のスカウトからは1位指名の可能性まで語られていた投手で、この順位で指名できたことは非常に大きかったと思います。

次の候補を聞こうとした瞬間、米村氏は「常廣、武内の他にも競合する可能性があります。今の7人で1巡目は終わっているかもしれませんよ」と制した。その上で「一本釣りで行くとしたら」と推した高校生がいる。
「木村(優人・投手・霞ヶ浦)です。スムーズなフォーム、スピンの効いた真っ直ぐ、とにかくスケールが大きい。将来のジャパン候補です。(高橋)宏斗が2年目に出てきて、3年目に侍入りして、規定投球回をクリアしましたが、同じような成長がイメージできます。タイプは150キロの真っ直ぐで押していた大学時代の菅野(智之・巨人)ですね」

高校生で、まずは身体作りから入っていくことになると思いますが、数年後に2位の大谷投手がリリーフの一角にハマり、3位の木村投手が先発ローテーションに加わるようになれば、今年のドラフトで投手を1位指名した球団よりも大きなリターンを得られる可能性があります。

結果としてマリーンズの上位指名は、当初の想定からは違った形となったかもしれませんが、「中軸候補の野手」「リリーフ」「先発投手」と補強ポイントに即した良い指名になったのではないかと思います。

早坂響は「ただの地元枠」ではない

ドラフト3位までに指名されるような選手の場合、12球団のほとんどから高い評価を得ており、その中で指名の順番や補強ポイントの関係で指名があったり、なかったりするだけの差とも言えるかもしれません。
一方で、4位以降の選手は、球団ごとに評価が変わってくる傾向にあります。ある球団では高く評価されていても、別の球団ではスカウト会議で名前すら上がらなかった…なんてことも往々にしてあります。

その点で言うと、マリーンズの4位・早坂響投手と5位・寺地隆成選手の指名は、他球団が羨むような会心の指名となったのではないかと思います。事前の報道によると、早坂投手には11球団から、寺地選手には10球団から調査書が届いたとされており、ほとんどの球団が指名を検討していた様子がうかがえます。

それだけの好素材を確実に確保できたという点では、理想に近い形で支配下ドラフトを締めることができたように思います。

地元・幕張総合高校出身の早坂投手について、指名選手紹介編でも触れましたが少し掘り下げてみたいと思います。

まず、昨年の今頃はNPBのスカウトにはほとんど知られていなかった存在という点で、かなりのレアケースです。というのも当時は捕手から投手にコンバートされた直後で、実績は無いに等しいといった状態でした。千葉県の高校野球を観戦している知り合いに聞いてみても、全然ピンと来ていなかったことを記憶しています。

それが冬を超えて出力が上がり、春の千葉県大会で投手として本格デビュー。そして夏には投手としてさらに洗練され、全4試合に先発完投。更に引退後から秋にかけても新たな変化球を習得するなど、その伸びしろと成長速度は常識では語ることのできない領域に達しています。

地元のマリーンズが指名したことでいわゆる「地元枠」と見るファンの方もいらっしゃるかもしれませんが、早坂投手の場合は千葉にいなくても4位で指名されるだけの素質があった投手であり、これだけの投手を4位で指名できたことはチームとして非常に大きなことだったと思います。将来的には「ただの地元枠」に収まらない、球界を代表するスター投手にステップアップしてくれると期待しています。

「大化け」に期待したい育成選手

育成ドラフトでは5選手を指名。3位の髙野選手は高卒1年目の19歳、それ以外の4選手は高校生と、まさに「育成」に寄った指名になったと感じました。来年すぐに支配下登録を勝ち取るような選手はいないかもしれませんが、そのかわり数年後の「大化け」に期待したい選手が揃った印象です。

その中でも個人的に注目しているのが、2位の松石信八選手と5位の富山紘之進選手です。

松石選手は、高校1年時から最速150キロを超える「投手」として注目を集めていましたが、度重なる故障に悩まされ、最後の夏の大会も左脇腹の痛みで降板しています。一方、各球団のスカウトは打撃や身体能力の高さといった「野手能力」にも着目しており、実際にマリーンズは今後内野手として育成していく方針とのことです。

覚えることは他の選手よりも多くなると思いますが、一方で潜在能力の高さを鑑みると今後規格外の選手に育つ可能性もあり、長いスパンで追いかけたいと思わせてくれる選手です。

富山選手に関しては、調査書が1球団のみで、ドラフト前にもほとんどの媒体に名前すら上がっていなかった「隠し玉」選手。身体もまだまだ細く二軍戦でのデビューは遅くなるかもしれませんが、武器である強肩を存分にアピールし、他球団を脅かす存在となってくれることに期待します。

ちなみに松石選手の担当は有吉優樹スカウト、富山選手の担当は松田進スカウトと、いずれも新任スカウト。発掘という観点から、新たな「眼」を加えることも大きな意味があるように感じた、そんな指名でした。

育成に対する意気込みとリスクヘッジの必要性

マリーンズの全体の指名を見返すと、計10名の指名選手のうち7選手が高校生で、育成3位の髙野選手も高卒1年目。来季すぐに一軍の競争に入ってきそうな選手は、1位の上田選手と2位の大谷投手の2選手でしょう。

今季は最終的に2位という順位で終えることができたものの、投打に戦力不足を痛感したシーズンでもあったと思います。特にシーズン中盤から終盤にかけて二軍からの戦力供給が少なく、故障者が多かったこともあり正常に機能していなかったようにも思います。
昨年のドラフトでも計9選手を指名しましたが、そのうち6選手が高校生だったということも戦力供給が足りなかった一因であるとも言えます。

そのため今年のドラフトでは即戦力性のある選手を指名し、まずは一軍・二軍両方において機能改善を、その上で現有戦力の底上げを図るべきではないかと思っていました。(参考に、ドラフト前に「THE DIGEST」に寄稿させていただいた記事を添付いたします)

一方で、近年はNPBのレベルも向上し、1年目から期待通りの活躍ができる大学生・社会人選手も減少傾向にあります。「即戦力」と期待して獲得した選手が1年目から活躍できず、同じ年に指名された高卒選手の方が数年後に活躍している…といったケースも散見されます。このことを考えると、大学生・社会人選手中心の指名に寄らなかったことも理解はできます。

これは大学生、社会人の選手にも言えることですが、ドラフトで指名して終わりではなく、入団後は育成のためのPDCAサイクルを回すことが求められます。特に高校生の場合はフィジカル的にも未完成かつ野球の面でも覚えることが沢山あるため、リスクが大きいというのも事実です。
ファンとしては順調に育成が進み一軍の戦力になっていくことを祈るのみですが、来季以降、球団として各選手の育成状況をウォッチしながら、トレードやFA補強、即戦力性の高い社会人選手の指名などタイミングに応じた適切な処置が求められます。この点に関しては継続して追いかけたいポイントです。

「二遊間指名0」は正解なのか?

今年の指名でもうひとつ気になったポイントとして、二遊間の選手の指名がありませんでした。

今季はセカンドに中村奨吾選手、ショートに藤岡裕大選手とルーキーの友杉篤輝選手が併用される形で1年間戦い、藤岡選手に関しては前年から大幅に成績向上、友杉選手も一軍で209打席に立ち打率.254と大きく奮闘。長年苦しんだショートのポジションで大幅な改善傾向が見られましたが、一方でセカンドの中村選手に関しては打率.220と大幅に成績を落とし、CSではスタメンを茶谷健太選手に譲るなど、不本意なシーズンとなりました。

来季プロ10年目、年齢も32歳とベテランの域に入りつつある中村選手。22年オフに4年契約を結んでいますが、今季の成績下降も考えると、いつまでも頼りきりというわけにはいきません。昨年は友杉選手を筆頭に二遊間系の内野手を計4選手指名したマリーンズでしたが、今季も選手を加える必要があるのではないか?と考えていました。

それでも指名がなかったということは、今年は指名せずに現有戦力の底上げと起用の工夫で課題を解決するというメッセージが伝わります。

実際に秋季練習では、今季一軍ではショートしか守っていなかった友杉選手がセカンドの練習をしたり、来季3年目でセカンドが本職の池田来翔選手をオーストラリアで開催されているウインターリーグに派遣するなど、球団として中村選手への過度な依存からの脱却を図る動きも感じ取れます。

来季に関しては友杉選手や池田選手らの起用法はもちろんのこと、今季実戦経験を積んだ金田優太選手や勝又琉偉選手らの成長度合いもウォッチしつつ、状況に応じてドラフトでの指名など手を打っていくべきではないかと思います。

おわりに

マリーンズの今年のドラフト指名を振り返ると、1位で指名した度会選手の抽選に外れ、その後も草加投手、細野投手と立て続けに逃す苦しい展開となりましたが、最終的に上田選手を指名でき、その後も好素材を獲得できたため、非常に良い指名になったのではないかと思います。

来季大幅に戦力アップ…とはなりにくいかもしれませんが、目先の補強ポイントのみに囚われず、将来に向けた投資に着手することができたため、数年後が楽しみになります。この「素材」を二軍でどのように運用し、育てていくか、今後はファームの状況からも目が離せません。

ドラフトでは時に「あの時あの選手を指名していれば…」などと振り返ることがありますが、そうは言っても過去は変えられません。大事なのは、指名した選手をどのような計画で育成しチームの戦力に仕上げていくか、そしてその計画にズレが生じた時にどのようにリカバーしていくかです。その点で今後も経過を観察していきたいと改めて感じたドラフトになりました。

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