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【WBC・侍ジャパンメンバーのあの頃】神奈川ナンバーワンプレーヤー・牧! 打てば本塁打、ベンチにいてもムードメーカーで大活躍の牧秀悟は大学時代につくられた

WBCことワールド・ベースボール・クラシックで日本一に輝いた侍ジャパン。その流れで、NPBの試合で見たり、一球速報を追ったりする際に、各選手のバックボーンを知っていると、よりおもしろく、より愛着を持てるはず! そんな選手の背景がわかる『野球太郎』の過去記事を公開します。

今回は牧秀悟(DeNA)をご紹介。勝負強く、ホームランも打てる。いまやDeNAの立派な4番。今回のWBCでは2本塁打でプレーでも存在感、試合に出ずとも、サヨナラの場面、優勝の場面でベンチからのスタートダッシュは一番で、キャッチャーよりも先に大谷投手のもとにたどり着いたり、祝勝会でも目立つなど、面白おかしくチームの盛り上げ役としても活躍しました。大学時に多くの変化、成長を経て、ドラフト2位になった牧秀悟選手を『野球太郎 No.037 2020ドラフト総決算&2021大展望号』に掲載した記事で振り返りましょう。
(取材・文=山田沙希子)

侍ジャパン大学代表の4番を務めた右の強打者

心技に見せた成長
 大学3年時は牧秀悟にとって大きな転機となった。まず2年秋の終わりから春季キャンプにかけてバッティングの改善に取り組んだ。指導を仰いだのは2学年上の吉田叡生(Honda)。それまでは上半身や手の感覚だけで力任せに打っていたが、全身を使って打つように指導された。
「自分は両ヒジをギュッと閉めていたんですけど、それではミートはしやすいけど打球は飛ばない。右ヒジを上げてインパクトで力を伝えられるようにしたらどうなのかなと思って取り組んだ結果が、身になった感じです」
 試行錯誤を重ねていくと、リーグ戦ではすぐさま成果が出た。リーグ戦初本塁打を含む20安打2本塁打と圧倒的な成績を残した。
 また、守備面も安定感が増した。遊撃から、小学生時代に遊びでやった程度という二塁にポジションを移し、2年間で8個だったエラーはゼロに。「守備練習を率先してやるようにしましたし、リーグ戦への慣れもあったので、試合展開やバッターによって一球ごとに守備位置を変えられるようになりました」と、ステップを一つ上げた。
 また、もう一つの変化がリーダーシップ。試合を見ていると、積極的に周りへ視線を配り、声かけをしているシーンが数多く見られるようになった。牧に言わせれば、下級生時代から五十幡亮汰(日本ハム2位)とともにチームを引っ張る意識を持っていた、と言うが、さらにその意識が強まっていた時期と言えるだろう。
「去年は出ている4年生が少なくて、自分たちの代が引っ張っていかないと、と思っていました。ずっと試合に出ていた自分が引っ張っていくしかないなと思っていった結果がプレーに出たのかなと思います」
 牧が一躍、大きな存在感を見せつけた春が終わると、侍ジャパン大学日本代表のメンバー入り。初めての代表入りに喜びと緊張は隠せなかったが、そうそうたるメンバーからアドバイスをもらい、「自信を持って4番に立てたのかなと思います」と振り返るほど、充実した経験になった。

10キロ以上の増量に成功
 1年時のプレー写真を見返した時、いまとの体格差がかなりあった。その話を振ると、ニヤッと笑った。牧いわく、1年時の体重は80キロほど。そして現在は93キロ前後。高校時代は体を大きくしようという意識があまりなかったそうだ。だが、「大学1年の時に4年生を見たら体つきがよくて、体つきがいい人ほど打球が飛んでいたので、ウエートトレーニングを行うようにしました」と意識を変えた。
 3年春の時点で90キロになると、打球の質感にも変化を感じるようになった。かねて、「4番打者としてどれだけ嫌なバッターになるかといったらホームランしかない」と言っていた牧が、その土台作りに成功した。

感謝の思いを抱いてプロへ
 好きな言葉は「努力」。自身も幼い頃から、その言葉に背かないよう、野球と向き合ってきた。
「親からも『素振りをやれ、練習をやれ』と言われていましたし、じいちゃんが野球好きなので練習につき合ってもらったりとかして。昔からずっと努力はしてきたつもりです」
 3年時にブレイクを果たした時、普段から仲がいいという五十幡は「努力もすごくしていて、チームに対する情もあったと思いますし、やっと結果として出たんだな」とその活躍を喜んだという。
 今秋のリーグ戦前、「応援してくれた方が地元を含めいっぱいいますし、その方たちにも感謝を伝えたいので、プロになって成長した姿を見せたい」と話していた牧。ドラフト指名後の会見で、4年間指導した清水達也監督は、牧と五十幡についてこう語った。
「二人とも大学に入ってから苦しいこともあったと思うのですが、先ほどから二人が感謝の気持ちをいろんな方に言っているな、とすごく思いました。野球の技術はもちろんですけど、人間的な面でもすごく成長したんじゃないかなと思います」
 実は今春のオープン戦では、過去一と言うほど絶好調だったという牧。多くの時間をバッティング練習に費やしたキャンプでは、多くの収穫があった。
「バッティングフォームをあえて崩して打ったり、居残り練習も積極的にやりました。春のリーグ戦があったらやばかったです」
 そう笑うほどの手応えだったが、春季リーグ戦は中止。そしてその好調ぶりを披露することはなく、大学野球は幕を閉じてしまった。牧史上、一番のバッティングを見せる舞台はプロへと移った。

★(当時の)プロフィール★
牧 秀悟(まき・しゅうご)

身長178cm /体重93kg /右投右打
1998年4月21日生まれ/長野県中野市出身/二塁手
中学 長野若穂シニア
高校 松本第一高
大学 中央大

★ターニングポイント・中央大★
 3年時に侍ジャパン大学代表に選出。自身初となる代表入りを果たしたことに加え、後にプロへ進む選手らとともにプレーしたことで「野球に対する気持ちの入り方がさらに変わったと思う」と、大きな転機になった。

★こんな選手★
 一発長打を秘め、かつアベレージも残せる打撃が魅力の強打者。大学では1年春から遊撃のレギュラーに。体作りと打撃フォーム改善に着手すると、一気に才能が開花して3年生ながら侍ジャパン大学代表の4番に座った。

★プロでこんな選手に★
打点を稼ぐ中軸に

 守備の堅い内野陣だけに攻守にアピールが必要。地肩は強いが捕球の確実性を高めて守備力向上を。打者のタイプとしては中島宏之(巨人)のように勝負強いバッターになり、貴重な右の強打者として大きく育ってほしい。

★ここを売り込め!★
アグレッシブな攻撃面

 強打者ではあるが打球方向を選ばず、三振も少なくつなぎの役割も果たせそう。パンチ力のある打撃はもちろん、意欲の高い走塁面もアピールポイントになる。仲間も認めるほどの努力型なので、それをプロでも貫いて。

(取材・文=山田沙希子)
『野球太郎 No.037 2020ドラフト総決算&2021大展望号』で初出掲載した記事です。

【追加記事】
『別冊野球太郎ドラフト答え合わせ1998-2022〈増補改訂・完全保存版〉』のコラムより(文=山田沙希子)
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 この2年、牧秀悟(DeNA)の活躍を、喜びや驚きとともに見ている。
(中略)
 2年目の昨季は出場した試合すべてで4番を任され、もうすっかりチームの顔。元々、自他ともに認める努力家であった性格が活躍を支えているのは間違いないが、牧がこの先、どこまで飛躍していくのか想像もつかない。
 余談だが、牧といえば「デスターシャ!」のパフォーマンスや明るいキャラクターでもファンを魅了している。3年前、【全国大学野球SNS選手権大会】というコロナ禍初期、本当になにもできなかった時期に企画が行われた際、牧ら当時の中央大幹部が趣向を凝らした動画に自らの意思で出演していた。牧自身、普段の性格は常にふざけていると自負し、ともに動画に出演した五十幡亮汰(日本ハム)が「牧は何でもやります」と認めていた通り、一番楽しんでいたのが牧。あの動画を思い返すと、バラエティー方面での活躍は予想通りだった。