現在地にて
2020年2月 北海道にて
肌を刺すような寒さ。カチコチ、ツルツルの地面。見渡す限り真っ白な世界。サークルの旅行で北海道に訪れた。格安のプランで2泊3日。とんでもない広さのスキー場でのスノーボードを観光で挟んだ3日間だった。東京出身の友人たちにとって雪は珍しいものだったようだが、雪国出身の僕はなんとも思わなかった。どこへ行くにも移動時間がやけに長くて嫌になったことを覚えている。東京を出る前、中国でよくわからない感染症が流行っているとニュースになっていた。東京に戻るころ、北海道でも感染者が出たとニュースになった。
2020年4月 東京にて
大学2年になったらしい。学校へは行かずに授業を受けるらしい。成績はリアクションペーパーとレポートで評価されるらしい。zoomを使ってリアルタイムで授業を行うらしい。動画が配信されていつでも見れる形で授業を行うらしい。ネット環境とパソコンさえあればどこでも授業が受けられるらしい。新入生はすごく困っているらしい。アパートを契約したけど引っ越してきていない人もいるらしい。年配の教授たちも授業のやり方に困っているらしい。外へ出る時はマスクをつけるべきらしい。飲食店は営業時間を短くするか、そもそも営業しないらしい。東京都の指示に従えない場合は補助金が出ないらしい。席の間にはパーテーションが必要らしい。仕事も家でやるらしい。でも電車はまぁまぁ混んでいるらしい。
よくわからない生活が始まったらしい。
2020年5月 東京にて
不用意に外出しないよう呼びかけられても本屋に行く習慣だけはやめられなかった。散歩の途中、買い物の途中、ちょっとした外出のついでに立ち寄った。ネットでも買ったりはしたが、本屋で買うことのほうが多かった。
とある本に出会った。一般的に言うところの”まちづくり”に興味を持ったようだ。
2020年9月 福島にて
1ヶ月半の夏休みで、地域づくりのインターンシップに参加した。プログラムのほとんどはオンラインだった。チームメイトと日程調整をして、画面の向こうの人に向かって喋り続けた。この頃になると、定期的に喋るけどマスクの下の顔を知らない人、いつも画面の向こうにいて肩から上しか知らない人、多分会うことはないだろうけど画面越しでは知り合ったからとりあえず名刺交換をするようにSNSを交換した人が増えた。オンラインが中心のインターンシップだったが、一都三県以外に住んでいる人なら数日間だけ現地に行けることになったらしい。僕は偶然にも2週間ほど地元(新潟)に滞在していた。相談した結果、OKが出た。
高速バスと電車、ローカル路線バスを乗り継いで山奥にある村に向かう。朝日がのぼる頃に出発して、夕日が沈む頃に到着した。最後の路線バスには40分ほど乗っていて、本当に到着するのか心配だった。現地の人といろんな話に花を咲かせた。村にあるお店といえば小さな道の駅のようなもの、食堂、そして日曜休みで営業時間も短いコンビニ(のようなもの)。何もない村だったけど確実に何かはあった。2週間滞在して次は海の近くに行こうと思った。
2020年10月 尾道にて
この1年間はどこにいてもよかった。決められた時間にネットの繋がるところにいれば、それ以外はなんでもあり。身勝手ではあるが、外出を控えろというメッセージなんてどうでも良かった。山奥に滞在した後だったので、海の近くで生活しようと思った。海さえ近くにあればどこでもよかった。1ヶ月安く泊まれるゲストハウスを探した結果、たどり着いたのは広島県尾道市。
穏やかな気候ときれいな海、そして趣のある街並み。最高だった。海辺の広場にはフリーWiFi。そこで授業を受けると、後ろの海をバーチャル背景と間違えられた。
授業のない日はひたすらいろんな人に会いに行った。尾道に来た経緯を説明すると、数珠繋ぎにいろんな人を紹介してもらえる。焚き火のイベントに呼んでもらったし、港で漁協の組合長とイカ釣りもしたし、ドキュメンタリー映画を作った人の家に泊めてもらったし、私設図書館で長々と雑談をしたし、バイクの後ろに乗せてもらって小さい島を1周したこともあった。
ものすごく影響を受けた。出会う人みんながよくわからない常識に惑わされることなく、生きたいように生きていた。キックボードで大阪から長崎を目指している途中に尾道に立ち寄ってそのままゲストハウスの開業を手伝い、そのまま空き家を改装してドーナツ屋をやっている人(現在は休業中)、モバイル屋台でコーヒーを出していた人、家賃0円で住めるシェアハウスをやっている人、自然農法とかコンポストトイレとかを普通にやっている人、色々な人のお手伝いをして生きている人、自信が営む無人販売の店に入った万引き犯を捕まえてもすぐに警察に引き渡さず、事情を聞いて知り合いに支援を呼びかけ、その後の生活を見守っている人。こんな場所があるのか、こんな人がいるのか。
頭から就職活動という文字が消えた。
2021年4月 東京にて
大学3年生、一応ゼミには入ることにした。その年が定年で退職を控えているおじいちゃん。面接で意気投合してそのまま飲みに行った。退職後もタイミングを見計らっては飲みに行って、さまざまなことを話すことができる恩師との出会い。
授業はオンラインと対面のハイブリット。”よくわからない生活”は”当たり前の生活”に変わっていた。就職活動を始めていた同級生たちを横目に、今年1年やりきって来年度は休学することを決意した。
2022年4月 新潟にて
昨年の決意をそのままに大学を休学。
「自分の仕事を自分でつくりたい」
そんなことを考えていた。長くなるので詳細は省くが、地元で本屋をつくろうと思って物件探しを始めた。家賃0円で借りることを目指していたので、なかなか決まらなかった。それから4ヶ月、東京と新潟の往復を繰り返した。友人たちは続々と内定をもらっていて、大学生活も卒業を待つのみとなっていた。それに対して自分は何をしているんだろう、と思うこともあった。
2022年7月 新潟にて
運命的な出会いがあって物件が決まった。7月の最後の日のことだった。
2022年12月 新潟にて
4ヶ月間、これまで通り往復を繰り返して準備を進め、ついに「たてよこ書店」という本屋をオープンさせた。新聞にも掲載してもらって客足もそこそこ。順調のスタートを切った。主たる収入源とは言えないものの、自分で自分の仕事をつくった瞬間だった。
2023年5月 東京にて
コロナ禍の生活を振り返っていた。友人たちは社会に飛び出していった。
平凡な言葉すぎて嫌になるが、本当にあっという間だった。よくわからない生活がいつしか当たり前の生活になって、その当たり前の生活に逆らうような動きをした結果、自分の人生に大きな影響を与える出会いがあって。
新潟の事業もいくつかの助成金にお世話になりながら着々と拡大していく準備ができている。空き家(不動産)を契約した以上はそう簡単には引き返せない。やれるところまでやる。不安がないわけがない。でも実現したい未来に向かってやり続ける。そんな覚悟と共にこのnoteを終わる。
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