どうか優しく降り続けて。【交流企画:ガーデン・ドール】
7月15日。
ヤクノジは寮の外、草むらの片隅に寝転がって夜空を見上げていた。
髪や服に汚れが付くであろうことは承知の上で、ただぼんやりと流れる星を眺める。
綺麗だ。
煌煌魔機構獣を倒した夜、星が流れるようになった。
しかし、どうやら毎夜流れるわけではないらしく、この日と限定されているのかもしれない。
毎夜寮の自室から空を見上げては確認していたので、今日星が流れ出したのを見て外へと出た。
……とはいえ、昨日までの数日間は星が消えていたので、もしかすると流れる日は他にもあるかもしれないが。
一月前の夜を思い出す。
今思えば、美しい魔機構獣だった。
マギアビーストに美醜というものは関係ないというか、遠いものなのではないかと思わなくもないが、それを抜きにしても「美しい」ものだったと思う。
姿も、終わりも。
他にも理由はあるが、だからこそヤクノジは自分がトドメを刺したことを悔いてしまう。
あの感触はもう二度と忘れられないだろう。
スーツの上着には、割れていない飴が入っている。
煌煌魔機構獣に触れさせれば割れる飴。
グロウがくれた飴。
ヤクノジのそれは既に他のドールが同じものを触れさせていたので、全て無傷のまま手元に残った。
今なら、食べても問題ない筈だ。
けれど、それをするには惜しい。
結局また、部屋の一角に飾るのだろう。
貰ったネクタイと共に。
星を眺めて、目を細める。
グロウがいた時にはまだ明確ではなかった様々なものの輪郭が、流れる日々と共に少しずつはっきりとしてくる。
反抗をするわけではなく、もう少し違う道。
知識の為にでもなく、ただ思い描くもの。
自分がガーデンに存在するドールの為に、してみたいこと。
そんなものが、細やかながら積み重なっていく。
「グロウ先生がいる時に、話せたら良かったんだけどな」
自分の考えや、願望を。
お茶でもしながらしてみたかった。
きっと、笑顔でその話を聞いてくれる。
叶わないことだから、確実ではないのだけれど。
「これからずっと、流れてくれたらな」
たとえ、降る日が決まっていても。
次にこの空を見る日が、遠くとも。
もしもヤクノジが、消えてしまっても。
ガーデンにいる何もかもが、消えてしまっても。
降り続けていて欲しい。
流れ続けていて欲しい。
あの短かった時間を、取り戻すように。
穏やかに、降り注げばいい。
#ガーデン・ドール
#ガーデン・ドール作品
企画運営:トロメニカ・ブルブロさん
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