秘密さえも、影さえも、二人で。【交流企画:ガーデン・ドール】
ヤクノジとリラがお互いの部屋を行き来するようになって暫く。
ヤクノジの部屋にはペットのモルモットが増え、部屋の様子も少しばかり変わった。
今までは与えられた家具と最低限の私物だけであり、部屋の壁紙も何も手を入れてもらってはいなかったのだが、床には大きなカーペットが敷かれるようになった。
部屋の入口で靴を脱ぐというのは恋人のリラと同じ生活スタイルであり、ペットのモルモットが部屋の中を歩きやすいようにという配慮である。
時間が合えばお茶の時間を取るヤクノジとリラだったが、今日はそんなヤクノジの部屋を使用していた。
モルモットののりまきにおやつの野菜を与えたり、膝に乗せて戯れたりしながら穏やかな時間を過ごす。
それは時に自分たちの心に影を落とすようなガーデンの日々から、お互いの心を守るようなものだった。
そんな穏やかな時間の中で、ちらりとヤクノジはリラの方を見た。
「ねえ、こういうの……いつか聞かなきゃなって思ってたんだけど……いいかな?」
「何を、ですか?」
「……欠けたものって、何だった?」
「聞くような話じゃないのは、分かってるんだ。それぞれのドールの……言わば根っこにあるようなものでしょう?オープンにするようなものでもないし。でも、僕はリラちゃんに伝えてしまいたくて。……それが重たく感じるなら、止めておくけど」
「勿論、僕のものを聞くだけでいいんだ。リラちゃんが言いたくなければ……それでいい。でも、リラちゃんが僕がどんな僕でも受け入れるって言ってくれたように……僕も、そうでありたい」
知ってしまったら、戻れない。
一度折れた紙に、跡が残るように。
染みがついた服が白くなろうと、染みが全て消えないように。
思い出した、知ってしまったという罪を一緒に背負ったなら。
君の罪も背負いたい。
君が僕の罪を背負おうとしてくれたように。
僕も君の罪を背負いたい。
背負ってどこまでも歩いていきたい。
「ね、ダメかな」
ヤクノジはリラの手をそっと握り、顔を覗き込んで問いかける。
本当にリラが嫌だというのなら、無理に聞くのもそれはよくない。
不安そうに視線を泳がせるリラにそれ以上は何も言わず、ヤクノジはリラの返答を待った。
「ダメではないんですけど……知っても、寄り添っていてくれますか」
「もちろん」
「じゃあ、私から。……私の欠けたものは、『破壊』でした」
「破壊?」
告げられた内容は少し予想外のもので、ヤクノジは首を傾げた。
欠けたものというのはドールによって様々なのだろうとは考えていたが、破壊というのは自分が知る限りのリラの姿からは遠いものに感じる。
「……私は、他のドールを壊していたんです。ガーデンの命令で。壊して壊して……用済みになって。……それが、私です」
「……そっか」
「幻滅しました?」
「なんで?」
「ヤクノジさんが知っている私とは、かけ離れているから」
「ううん。そういう記憶があるからこそ、今のリラちゃんが平穏を願ってくれている気がする」
「ヤクノジさん……」
「リラちゃんが教えてくれたから、僕だね。僕の欠けていたものは『強者』」
「それって、どういう……」
「僕は強かったんだって。強くて、それで皆を守ってた。でも、それを諦めて……逃げ出して……。自分一人を守る方が簡単だからね。だから……何ていうか、強者って言われるとちょっと恥ずかしいんだ。本当に強者なのかな、って思うし」
「でも、ヤクノジさんは強いです。その時だって、諦めるまでは皆を守ろうとしていたんですから」
「そう、かな……そうだといいな」
「僕の持ってる力ってさ、多分周りの為に使わないといけないんだよ。そのために、高い魔力量と、魔力質がある。自分だけのワガママというか……力を見せびらかすような使い方をしちゃいけないんだと思うんだ」
「……どうしてですか?」
「守るって……むやみやたらに力を使うことでも、力で縛り付けるものでもないでしょう?強い者に従えっていうのなんて、以ての外。僕は、諦めずにいたい。今度こそ、守りたい物事に対して……素直でいたいんだ」
ヤクノジがそう語ると、隣でリラがふふと微笑んだ。
「リラちゃん?」
「いえ、好きだなあと思って」
そうして、リラはまたふふふと笑う。
「私も、守りたいです。今度は、壊すためじゃなく守るためでいたい。ここは優しくないことも多いですけど……それでも、平穏な時間を少しでも守りたい」
笑みこそは柔らかいものの、言葉には強い覚悟が滲んでいる。
彼女のそうした一面を、ヤクノジは誇らしく思っていた。
「僕とリラちゃん、同じようなことを考えてるんだね。頼りになるよ」
過去がどうであれ、それが何よりも嬉しい。
恋情や愛情だけでない、目指す方向が似ていることが何よりも嬉しい。
ぽつりぽつりと、小さな声で共有するのは秘密事。
他の誰かとは出来ない影の共有。
アナタの影を。
ワタシの影を。
キミの影を。
ボクの影を。
アナタの罪を。
ワタシの罪を。
キミの罪を。
ボクの罪を。
忘れないために、覚えていてほしいために、僕と君は伝え合って笑い合う。
#ガーデン・ドール
#ガーデン・ドール作品
企画運営:トロメニカ・ブルブロさん
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