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なぜ、カリフォルニア州は「医療大麻」合法化の一大契機となったのか?日米における医療保険制度の違い

日本でも話題になることが増えつつある「医療大麻」。ここでは、医療大麻は現代の西洋医学的な領域というよりは、代替医療、セルフケア、ウェルネス、民間医療、養生といった領域の存在であり、日本では法律で禁じられている「薬草としての大麻」(参考1)を指します。

近年、海外で相次いでいる医療大麻合法化の波は、1996年にカリフォルニア州が住民投票を経て、合法化に踏み切ったことが大きな契機とされています。大麻の歴史的経緯について書かれた多くの記事でも、エポックメイキングな出来事として記されていますが、なぜカリフォルニア州は先陣を切り、合法化に踏み切れたのでしょうか?

そもそも、カリフォルニア州はヒッピーに代表されるような「開放的」な文化への支持が強い地域であり、大麻という薬草への理解度が高かったことはもちろん大きな理由の一つです。しかし、当時のアメリカの医療保険制度も大きな要因の一つとなっていることは、日本のメディアではほとんど指摘されていません。

マイケル・ムーア監督作「シッコ」でも描かれた闇

ご存じのように、日本では国民皆保険制度が確立されています。そのため、保険証を提出さえすれば、全員が3割から0割の窓口負担で医療を利用することが出来ます。受けられるサービスは基本的に同一のものであり、医療費が高額になった場合は一定の金額(自己負担限度額)を超えた分が払い戻される仕組みもあります。また、全国どこの医療機関であっても、自分が望むように利用することが出来ます。

一方、当時のアメリカでは公的な医療保険制度に加入できるのは、受給資格がある人に限られました。65歳以上の高齢者や身体障害を持つ人、および透析や移植を必要とする重度の腎臓障害を持つ人を対象とした連邦政府が運営するメディケア (Medicare) と、低所得者を対象とした州政府と連邦政府によって運営されるメディケイド (Medicaid) が主要な公的医療保険制度として挙げられます。そのため、これらの制度の対象外となる人々は民間の保険への加入を検討する必要があるのですが、これは任意保険のようなものです。購入する保険によって受けられるサービス内容が異なり、薬の値段や薬の種類、医師や薬局までもが保険により決定されます。また、経済的な事情などにより加入していない人は「無保険者」と呼ばれ、人口の15.4%(約4630万人)に相当していたそうです。(参考2)

「ボウリング・フォー・コロンバイン」「華氏911」といった作品で知られるマイケル・ムーア氏が制作したドキュメンタリー映画「シッコ」(2007年)では、この歪な保険制度が招いた状況が批判的に描かれています。例えば、手の全指が取れてしまうような切断事故に遭った人に対し、「あなたの加入している保険では全ての指を着ける手術は受けることができません。どの指を着けますか?」といったような目を疑うセリフが数多く登場します。

こういった悲惨な状況を改善するため、オバマ元大統領は国民皆保険を目指し、医療保険制度改革法(通称、オバマケア。2010 年に成立。)を強く推進しました。しかし、国の支出が莫大な金額になることなどから、反対や混乱は現在も続いています。

アメリカにおける補完代替医療の位置づけ

述べてきたような保険制度の限界や高額な医療費に加えて、自己責任・自己決定権を重視する国民性、ナチュラル志向の流行などを背景に、実はアメリカでは病気によるさまざまな不具合や痛みをケアするために、補完代替医療的な手段を用いることが日本と比較して、はるかに一般的です。1997年に発表された調査によると、補完代替医療の利用率は米国成人のうち42.1%、延べ外来回数6億2900万回、総自己負担費用270〜340億ドル(通常医療の総自己負担費用293億ドルに匹敵)という驚くべき結果(参考3)が出ています。

繰り返しますが、「薬草としての大麻」は現代の西洋医学的な領域というよりは、代替医療、セルフケア、ウェルネス、民間医療、養生といった領域の存在です。補完代替医療への距離の近さが、カリフォルニア州での大麻へのニーズの高まりを生み出した要因の一つであることは疑いようがありません。

日本において「大麻という薬草」の利用は実現するのか?

一方で日本は、西洋医学中心の国民皆保険制度により、国民が良くも悪くも守られています。また、自己責任・自己決定権を重視する傾向は少なく、「病院や医師にお任せ」の医療と言えます。日本の健康保険では、鍼灸、あんまマッサージ指圧、柔道整復(接骨)といった一部の補完代替療法は国の制度に組み込まれていますが、それ以外のものに、保険金が支払われることはほとんどありません。仕組みとして、補完代替療法が入り込む余地がほとんど残されていないのです。日本の「病院や医師にお任せ」の医療や健康保険制度において、「薬草としての大麻」の利用をすぐに実現することは、難しいと言わざるを得ません。

しかし、可能性が全くない訳でもありません。日本社会において、薬草としての大麻の利用を実現するためには「医薬品になりうるかどうか」という観点から考えなくてはならない、と私たちは考えます。その際にヒントとなるのは、漢方薬やハーブ医薬品といったカテゴリーの在り方です。これらの詳細については、また別の機会に述べさせていただくこととします。

2023 06/11

参考

1:「薬草」としての大麻

2:独立行政法人 労働政策研究・研修機構

3:代替医療の海外での状況



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