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登山初心者の失敗 ~雨の奥高尾縦走~

目標だった屋久島・宮島でのトレッキングを終え、ひと段落ついた私。

「ここからはゆるゆる登ろう」と決め、近場で登りたい山を探す。

そんな中で「そういえば、」と思い立ったのがこの奥高尾縦走だった。


奥高尾縦走とは、東京で有名な高尾山から神奈川県の陣馬山までを繋ぐ縦走路のこと。

高尾山、小仏城山、小仏峠、景信山、堂所山、明王峠、陣馬山という複数の山を通る。
コースタイムは7時間程度となっている。

途中トイレや売店がそれなりにあり、エスケープルートも数カ所存在(台風被害の影響で現在通れなくなっている道もあるので注意)。
縦走路としては入門コースとして知られる。


私が登山に関心をもつきっかけとなった登山動画。その中にはこの奥高尾縦走の動画もあった。私の知っている高尾山の先にも、まだまだ知らない景色や登山道が待っているのだと知り、わくわくした。

屋久島へ行く前のトレーニングとして、高尾山~景信山を往復したことはある。景信山は奥高尾縦走のコースからすればだいたい中間地点くらい。

陣馬山の山頂はとても見晴らしが良いと聞くし、いつかは縦走コースの全てを歩いてみたいと思っていた。

今がその時ではないかと思った。


奥高尾縦走をするにあたり、考えなければならないことの一つとして、高尾山側と陣馬山側のどちらからスタートするのか、ということがある。

高尾山側からスタートすれば、今まで行ったことがなく、かつ、景色の良い陣馬山をクライマックスにもってくることができる。

しかし、陣馬山側からスタートすれば、もし終盤に体力がなくなっても高尾山のケーブルカーやリフトで降りることも可能。しかも、高尾山のふもとには終電が夜遅くまである高尾山口駅がある。もちろん夜の山行は危険だが、気持ち的にはゆとりをもって縦走できそう。

高尾山側をスタートにしてしまうと、ゴールとなる陣馬山のふもとのバス停は終バスの時間が早いため、それに遅れないように行動することが求められる。

初めての縦走で想定外のことが起こることも考えられ、そうすると、勝手知ったる高尾山をゴールにした方が良いのではないかと思った。

そしてこれは個人的な理由だが、陣馬山をスタートにすることによって、陣馬山の登山道の一つ「新ハイキングコース」を登りで通ることができる。

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新ハイキングコースは所要時間自体は1時間とそれほど長くない。しかし、その勾配のきつさで知られ、一説には傾斜はおよそ14度とも言われている。

そして、私は『山を知らなかった長野県民の話②』で書いたように、北アルプスの常念山脈にある燕岳(つばくろだけ)に登ることを目標の一つとして考えている。

燕岳に登るには、日本三大急登のひとつとして知られる合戦尾根(かっせんおね)を登らなければならない。

目標の山の斜度がきついのなら、今のうちから斜度が急なコースには少しでも慣れておきたい。そう思った。

以上の理由から、私は陣馬山側から登ることにした。



しかし、こうして勇んで挑んだ割にはこの奥高尾縦走、失敗だらけだった。



なんと、縦走(=いくつかの山を経由する)にも関わらず、最初の陣馬山の天気予報しか見ていなかった。陣馬山の天気予報だけは、数日前から当日朝まで何回も何回も事前にチェックしていたのに。

なぜなら陣馬山の眺望がとっても楽しみだったから。逆に言えば、陣馬山さえ晴れてしまえば、後の山は天気がどうなっても良いかな…と薄っすら思っていた。

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確かに陣馬山からの眺めはとても美しかった。山頂で一緒になった方が、「この山からだったら、10年に1度レベルの雲海じゃないかな?」と感動していた。

陣馬山というそれほど高くない山からでもこのようなしっかりした雲海、そしてその上に浮かぶ富士山というとても幻想的な景色が見られるのかととても感動した。

しかし、問題は「雲海」である。

陣馬山は奥高尾縦走では最も高い山。したがって、他の山は全て陣馬山よりも低い。陣馬山よりも下が厚い雲に覆われていたということは、陣馬山よりも先の縦走コースは全て雲の中ということになる。

実際、陣馬山の山頂を降りてすぐに辺りは真っ白となり、地面はぬかるみ、パラパラと雨が降り始めた

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【これはこれで幻想的な景色ではある】

実は私は、雨の日の登山経験が屋久島以外はない。屋久島の時はガイドさんがいたし、コースはトロッコ道や木道などが多く、それほどぬかるんだ道を歩くということもなかった。

つまり、雨のなか単独で山道を歩くのはこの日が初めてだった

なぜかと言うと、私が登山のノウハウを知る際に参考にした例の登山動画シリーズでは、そもそも雨の日の登山を推奨していなかったから。
晴れの日と雨の日の登山は別物で、体力消耗や危険度が段違いであると。

それを今まで律儀に守っていたのに、謎の慢心によって陣馬山以降の天気予報のチェックを忘れ、晴れの日だと勘違いして雨の奥高尾に突っ込んでしまった

縦走コースを最後まで歩き通してみたが、高尾という平日でも人がごった返す山域にも関わらず、この日の登山者はとても少なかった(この天気なのだから当たり前)。

よりによって縦走という行動時間の長い日に雨初体験…。


もちろんレインウェアや防寒着は持ってきていたが、長時間ずっと雨に打たれ続け、肌寒い状況が続く。
景色も日差しもなく、単独行なので話し相手もいない。ひたすらにストイックに先へ進むことだけが要求され、精神的に結構キツかった。
しんどすぎてスマホからAKBの曲を流していた

時折、どこからかガサガサっという音がした時は、長野出身者の習性なのか、熊を恐れてしまい内心震えながら先へ進んだ。

そして、景色がないどころか、辺りが霧で覆われてしまい視界すら狭い場所もあった。

奥高尾縦走は分岐が多いため道迷いしやすく、地図を必ず持って行った方が良いという話を聞いた。そのため、紙の地図YAMAPという地図アプリの両方を使える状態で来てはいた。

結果から言えば、両方を持ってきて正解だった。

もとから、堂所山周辺などは道を見つけにくく迷いやすい箇所と言われていたが、霧のせいで視界が狭くなり、より一層先が見渡しにくく、案の定迷った
あまりにも正規ルートがどれか分からなかったので、陣馬山方向へ引き返すことも考えた。雨天で他に登山者も近くにいなかったため、人の後に付いて行くことも出来ない。

最後の砦としてYAMAPを開き、GPS機能を使用することで、自分の現在位置を把握することができ、なんとか行くべき道を見つけることができた。

(ちなみに、アプリをダウンロードするだけではダメで、自分が登る予定の山域の地図を登山前にアプリ内でダウンロードしておかなかれば、いざ使いたいと言う時にすぐに使えずピンチになる。)

じゃあ紙地図はいらないんじゃね…?となるかもしれないが、もし何らかのトラブルでスマホが動かなくなった場合、紙地図がなければその時点で詰んでしまう

山で詰むのはシャレにならない。

紙とアプリはお互いの弱点を補い合っている。地図をすごく使いこなせるようになれば紙だけでも良いかもしれないが、私は当分は紙とアプリはニコイチという認識でいようと思う。

ただ、雨の水滴で紙地図がボロボロになったので、防水対策は必要かと思われる。



この日、どれくらい真っ白だったか分かりやすい比較写真がある。

晴れ

晴れの日の景信山山頂  縦走した日の景信山山頂

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同じ山頂とは思えない。もはや笑える。



行きたいと思っていたコースを完走できた。それは素直に嬉しかった。

でも、回避できたはずの危険を慢心によって回避できなかったのは大きな反省点。ポジティブ思考と油断は別物だと思う。

ただ、もちろん雨の日は避けるべきだけど、経験を全くしないのも危ないと思う。例えば、雨登山の初体験が北アルプスだったら、もっと恐ろしい事になっていたかもしれない。

レインウェア、防寒具、2種類の地図、多めの行動食など、万が一の時用に持ってきたものをちゃんと活かし、無事に戻ってこれた

雨の日の単独行が危ないし、精神的にも追い込まれる…ということを肌で感じることができた

結果論でしかないが、これらのことを経験できたのは初心者の私にとっては良かったと思う。

そして何より肝心なのは、同様のミスを他の山で繰り返さないこと。自然が相手なので、どんなに対策したって予想外は起きる。でも、その予想外を減らすことは人間にだってできるはず。


そして、登山動画で雨対策や道迷い対策についてを教えてくださった登山の先輩方には感謝しかない。それがあったからこそ、無事に帰ってこれた。経験を積めた。

これからもしばらく単独行が続きそうであれば尚更、先駆者のアドバイスを大事にしなければなと思った。



【一応完走したよという証明の写真たち】

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新ハイキングコースから登るには、高尾駅北口から出ているバスに乗り、「陣馬高原下」というバス停で降りる。

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しばらく舗装道路を登っていくと、左手に新ハイキングコース入口がある。

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陣馬山頂。

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奈良子峠。

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明王峠。トイレ(トイレットペーパーは無し)やベンチがある。

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底沢峠。

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堂所山。この山頂と、先へ続く道を探すのに苦労した…。

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普段は眺望がめっちゃ良い景信山。関東平野も富士山も見える…はずだった。

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小仏峠。

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小仏城山。私はよくここで猫と会う。

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高尾山頂。こんなに人がいない日は初めてだった。でも、見慣れた場所に来られてとても安心した。



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道中、一瞬の晴れ間に、身体にも心にも熱が戻っていくのを感じた。この経験はある意味、雨の日でなければ出来ないのかな。


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