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傲慢と善良 - 結婚と婚活の話が痛いくらいにぶっ刺さった。

辻村深月さんの『傲慢と善良』を一気読みしました。
あらすじを読み気になり、30分間読んだところで
「これは今日中に読み終えねば」と思い、深夜3時になるまで読んでいました。

あまりにも内容が、私自身にぶっ刺さって痛かったからです。

・婚活の大変さ
・婚活でうまくいかない理由
・両親の考えに縛られ、組み込まれることの辛さ
 そして世間知らずのまま育っていくことの恐ろしさ、そして依存
・自分自身の価値観に重きを置きすぎて傲慢になっていること
・結婚とは、生きるとは、どういうことか
・自分の考えの歪み(傲慢と善良)への気づき


ああ…読んでよかったなぁ…と思ったので忘れないうちに一気に感想を書いてしまいます。

感想は下にあるのですが、
ネタバレ注意!!なので、読了した方のみお願いします。



○あらすじ
婚約者・坂庭真実が忽然と姿を消した。その居場所を探すため、西澤架は、彼女の「過去」と向き合うことになる。生きていく痛みと苦しさ。その先にあるはずの幸せ──。2018年本屋大賞『かがみの孤城』の著者が贈る、圧倒的な“恋愛”小説。【本の内容】


○読もうと思ったきっかけ
・「かがみの狐城」の作者である辻村深月さんの本だったので興味を持った
・Amazon のレビューを軽く読み、「婚活」や「結婚」の話だと知った
 30近い自分も「結婚」という言葉に苦しめられてきたので、その物語を単純に読みたいと思った


https://publications.asahi.com/gouman/







○感想(ここからはネタバレ要注意なので読了した人だけどうぞ)

婚活について


まず刺さったのは、婚活について。
私も婚活アプリに登録していたからわかるけど、あれはとても辛い。

容姿や学歴、趣味。自分と価値観が合うかどうか。
『いいなぁ』と思ったらメッセージを送ってデートをする。
デートをすると『なんか違うな』とたった数回で判断してしまう。

ピンとこないーーー。

婚活アプリは通常の恋愛とは全く違う。
通常の恋愛とアプリが違うのは、徐々に好きになっていく工程ではなく
「この人を好きになれるかどうか」と恋愛ありきで接するところ。
また本来の自分を最初から見せられないこと。
合う人は合うかもしれない、けれど私には合わなかった。
そう思っていた。

小説の中でも主人公の架が、結婚相談所の小野里に聞く。

「婚活につきまとう、『ピンとこない』って、あれ、何なんでしょうね」

「ピンとこないの正体について、私なりの答えはありますよ。
 ピンとこないの正体は、その人が、自分につけている値段です。」

「ささやかな幸せを望むだけで、と言いながら、皆さんご自身につけていらっしゃる値段は相当お高いですよ。ピンとくる、こないの感覚は、相手を鏡のようにしてみる、皆さんご自身の自己評価額なんです。」

傲慢の善良 一部より

なるほどな…。

私は「自分に自信がない、自分が嫌いだ」とか思っておきながら、
本当は自己愛が強くて自分につけている値段が高かったのか。
心のどこかで、私はいい大学を出ていい会社に入っているし、
この人は私に合わない、と勝手に決めつけて傲慢になっていた。

自己評価の値段が高いーーー。
あまりにも潜在的意識にあったところを突かれて痛かった。
こんなにも自分が嫌いで変えたいと思っているのに、本当は自分が好きであるところを突かれて痛かった。
心も胃も痛くて眠れなかった。

主人公の架も、婚約者のお見合い相手(金居)に会った際に気付く。

学歴も職歴も、結婚相手として金居の条件は決して悪くない。むしろいい。
けれど「オレみたいなやつが」と金居が言うのは何も謙遜ではなさそうだ。

自分の価値を低く見積り、相手の気持ちをありがたく受け取ることができるーーそういう人間もいるのだ。
(中略)この人しかいない、と感謝しながら受け止める。自分の一番高いパラメーターの数値ではなく、むしろ、一番低い数値から、相手を見る。
婚活でそういう人たちが結婚を決めていくのが、架にはよくわかる。

これがおそらく、ピンとくる、ということなのだろう。

自分の評価を低く見積もる。
こんな私でも好きだと言ってくれて、愛してくれる。
その気持ちに感謝をして、言葉に乗せて、態度に示す。
そういう人が結婚して、そして素敵な家庭を築くのだなと思った。

私ももう婚活アプリをやっていた頃よりは自己評価は低い、と思う。
けれどもう少し意識して周りに感謝して態度で示していこうと強く思った。



両親について

次に刺さったのは、架の婚約者である真美と、その両親について。

・価値観が自分の中で完結しすぎていて、周りだけでなく子どもすら理解しようとしない両親。
・自分の都合のいいように話を持っていく両親。
・子供がいつまでも家にいて、自分を頼ってくれることを望む両親。
・自分自身が定年近くなったら、子供には次の依存先を探すために当人より婚活に気合を入れる両親。

・子供である真美も「お母さんに申し訳ない」「嘘はつけない」と善良に生きていく。
・両親に依存して生きていき、世間知らずになっていく。
・いざ外の世界に出てみていかに自分が小さな世界で生きていたかを実感する。


読んでいて、痛すぎた。
こういう親がいることも事実だと思ったし、
こういう子供がいることも事実だと思った。
何より私が、そうだから。


私も度々親には進路や職種など反抗してきたものの、
正直依存していると思うし、母も私に非常に依存していると思う。

家を出て行きたいと言えば「いいけど、この実家から近いところにしてね。犬の面倒を見てほしいから。」と言われる。
予定があるからいけないといえば「私を助けてくれないのか」と悲観される。
「自分の定年後は実家に孫がいて娘と一緒に子供を育てる生活がしたい」と言われる。


母の考えは娘である私には理解できてしまうから、「そうしてあげたい」と思ってしまう。
その反面、「でも私は母のために生きているんじゃない。私は私のために生きている」と何度も何度も思う。

母自身が、自分の両親に依存していたからこそ、母の両親が亡くなった今、
娘である私に非常に依存している。


書いてて思ったけれど、これ以上母に依存されないために
やはり今年中に家を出ないとダメだと思った。
私も自分からこの家への依存を切らないとダメだ。

母には強く生きてほしい。
私が家を出たら心配なことも多いけど、でも結局
母だって一人の人間で一人で生きて判断していかないといけない。
結婚してたってしてなくたって、自分で判断して生きていかないとダメだ。

私も結婚するけど、相手に依存した結婚は嫌だなと思う。
収入や考えに依存していくのは、その人がいなくなった時に怖い。
いつ人は死ぬかわからないから、いつだって一人で生きていくことを覚悟しておいた方がいい。


真美だって、結局そうだった。
架も、両親も、友達も、誰も頼れない。
でもそんな中でボランティアに参加して知らない土地で人の温かさに触れていかに自分が小さな世界で生きて依存していたかを実感している(ように感じる)。

結局人は依存しない方が強くたくましくなる。
考え方も柔軟になる。
人と比べるから傲慢になるし、人に固執するから善良になる。
だったら「人」に依存しなければいい。
自分の考えや自分自身を大切にして、その上で周りの人を大切にしていけばいい。

ひとりじゃ生きられないと思っていたのは、親もだけど、私もだったから。
(中略)

今も何が正しいのかなんてわからない。
自分が間違っていると言われたらそうなのかもしれない。
(中略)

それの何がいけないのか、と開き直れるくらいには、気持ちが強くなった。
間違っていると言われてもいい。
構わない。

傲慢さも善良さも捨てて、自分自身を好きになった真美が好きだなぁと思った。



1つだけどうしても残念なところ

この小説の1つだけ残念だなぁと思ったところがある。
それは後半の架の心理描写が少ない点だ。

真美の過去を知って、真美の嘘を女友達から聞かされた架が、
どうしてもう一度真美に会って結婚を申し込んだのかがイマイチ掴めない。

作者の意図的に「ここはご想像にお任せ」なのであれば、
真美の善良さしか知らなかった架が、思わぬ形で傲慢な部分も知り、真美の印象がこれまでと変わったからだろうか。
自分の自己評価を下げ、「こんな自分を好きだと言ってくれる」と改めて感謝したのだろうか。
真美もプロポーズを受け入れたのは、100点満点の彼じゃないからこそ結婚しよう、と受け入れたからだろうか。

はっきりと描写してくれたら、もう少し納得したかも、と思ったけど。
でもこの「ご想像にお任せ」が好きだなと思うところもあるので、
ここは何度も何度も読み直して、もっと架と真美を理解して、自分なりの答えを見つけようと思う。



わーっと長く書いてしまったけれど、
ここ数年で一番ブッ刺さった小説だったので書いてよかったです。

今度は夜更かししないような、
暖かくゆっくり流れる小説を読みたいな。。

ここまで読んでくださりありがとうございました。

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