【詩】 言うてもせんねえ 祖母がたり

おえんて 言うても無駄じゃけえ

戦死でもねえのに 夫が死んだじゃゆうて
ふうがわりいが
体が弱うて 結核じゃったん

子どもが四人もおるのに 男ばあ
まんなかに二人 女も生まれたんじゃけど
死んでしもうたん 小せえ頃に

悲しいゆうて 昔はようあることじゃが
今はそりゃあ 一人かそこらかしか産まんけえ
大事にするし 大事にできるけど

昔はおえんが なんもねえんじゃけえ
医者がどうにかしてくれるわけでもねえ
お金もねえし 分限者じゃなけりゃあ

すんだことじゃし
言うてもせんねえ


おえんて 人に言うてどうなるゆうん

男ん子ばあおってええことじゃいうけど
食べさしていくのは大変なんじゃ
ひとりくれえいうけえ 三番目のをやった

うちの兄貴のとこじゃ 子ができなんだけえ
もう小学生じゃった
下の弟がいちばんなついとる兄さんじゃ

弟がさみしがっとったけど
学校に行きだしゃあ毎日会えるけえ えんじゃゆうて
私には言ようた

うちが産んだいちばん賢えのじゃ
それでうちの兄貴も あの子をほしがったんかな
弟思いじゃったし 自分から行くゆうたんじゃ

言うてもええこた
なんもなかろう


おえんて 言うたけいうて どがんなるん

兄貴は高校出とんじゃもん
あの頃高等学校いくもんやこ
そうおりゃあへなんだのに

うちらも鼻が高かったわあ
うちは分限者じゃなかったけど
それでも守り奉公には出されんかった

うちらのへんで女の子が出されるのは守り奉公じゃ
それだけは行きとうなかった
学校も行けりゃあせんようになる

わたくしは勉強は好きじゃったんよ
兄貴が高校行くのもええなあ思うて見とった
結婚したんは14じゃ かぞえでな

思い出したけゆうて 
なあんともねえ


おえんて 言うだけ言うてみるだけじゃ

人の畑をてごうしたり 自分も畑をしたりして
なんとか食べてはいったんじゃ
子のおらん兄貴とかが てごうもしてくれた ちいとはな

結婚したんは はようもねえ まあ普通じゃ
せえでも若かったけえ なかなか子ができなんだ
できたら今度はだんなが逝くけえ

近所のもんが なんやらかんやら持ってきてくれるんよ
でもな うちはな 同情やこういりません いうて
玄関で 言うたったわあ

いるで 食べるものは でも 人に憐れまれるんはいやじゃが
うちは 立派な子が男ばあおりますけん
心配されんでもよろしい いうて言うたったん

思い出して どうせえゆうん
かえしてくれるん うちの夫を うちの人生を

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