岩手のおとぎ話

遠い夏、女二人で東北に自転車旅行をした。

女だけでは初めてだが、遠方への旅行は経験があった。短髪で背も高い私たち。不安はなかった。


岩手の峠で、霧が立ちこめだした。いざとなれば、峠の小さな公園にテントを張って一泊すればいいだけ。

雨が降り出す頃、車が一台止まった。嵐が来るのに何をしてるのだと、運転席の男が言う。

 降りた方がいいよ。

 大丈夫です。テントもあるし。


嵐になって、公園のトイレに逃げた。臭くはないが寝られない。夜はふけ、雨は続く。

突然差す光。群れるバイクの音。

顔を見合わせる。自転車は外にある。いるのに気づかれたら。

十分青い顔から、さらに色がなくなった。音が通り過ぎてすぐ、自転車をしまい、震え続けた。


次の朝早く、小雨の中、軽四トラックが来た。

昨日の運転手だった。心配し後悔したと。連れて行ってくれた家で、風呂や朝食をいただいた。


袖擦れと呼ぶのも軽々しく思える。ただ感謝。

おとぎ話のような思い出。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?