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[ショート•エッセイ] 検診

この夏、がん専門医との、7回目の検診に行った。その医者と私には、2人の息子がいて、どちらも同い年だ。私たちの1番上の子らは、高校を卒業したばかり。彼女とは1年に1回、こうして検診で会うことしかない。

看護師も誰も周りにいないところで、私たちは子どものよもやま話に花を咲かせる。お互いの子供の卒業を祝い、首席で卒業した彼女の子どものできのよさをほめ、親としての誇らしさや、子どもが進学で家を離れていく寂しさを分かち合った。

彼女が、私に診察台の上にすわるように言うまでに、10分はたっていた。シャツをはだける私。ブラジャーはつけずに来た。

わあ、きれいな縫い目ね。

彼女が、去年と同じ言葉を口にする。私の両胸は、一人の外科医が切り取り、もうひとりの整形外科医が作り直してくれた。

ええ、きれいに縫ってあるでしょ。でも、右側の方は、整形外科医は不満なの。術後の診察でいつも文句言ってたわ。右側のは手術し直しになって、別の外科医が縫ったんで。自分がしてたら、と行くたびボヤいてた。

彼女は、笑って聞きながら、私の身体をチェックする。

健康体よ。この調子で。あなた、血液検査によると、まだ閉経状態じゃないんで、薬はこのままおんなじので。

手術をし、その薬を飲み出して7年。再発の可能性がなくなるのは、進行の遅い乳がんは10年、今では12年とも15年とも言われる。

私と彼女は、今度は、お互いの2番目の子どものことを話す。どちらも、上と違って手がかかる。オンライン授業になってからは、まったくと言っていいほど勉強しなかった。今は夏休みなんでともかく、新学期はどうなることやら。成績どうのより、高校卒業できるのかしら。心配だし、立ち回りや態度に腹が立つし、、。

来年も、私はこの人の診察を受ける。その時も、診察室で、こうして子どもの心配や親としての迷いや喜びだけを話していたい。なんでもないことを話して笑っていたい。その次の年も、その次も、ずっと。もう来なくていいよと言われるまで。


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