事例でみる金融トラブル〜アパート融資編②

アパート融資編、続きです。

「サラリーマンこそアパート経営!」「第二の収入の柱を!」「今ならフルローンでも大丈夫!」と色んな方面に書いてあるのを見て、副業としてアパート経営に興味を持たれ、お借り入れを検討される方がいらっしゃいます。それはそれで良いのですが、金融機関も何回か市況悪化局面に痛い目を見た関係もあり、何棟も借金して買われている方は、やはりどうしても厳しめにみてしまう傾向にあります。給与収入を超えない程度のほうが、貸し手としても物件に何かあっても給与で何とか返済の補てんができる、という面でも稟議は通しやすくなりますし。こういう前提がありますので、兼業の方の場合は管理をしっかりしたところに任せる前提で「アパート経営初めてです、今借金はありません」という方のほうが審査は通りやすいかと思います。

さて、ある方が、テンプレ通り「アパート経営は初めてです」と言って中古物件のチラシを持ってきて、買おうとされてました。まあ、田舎ですけど一応上場企業の工場勤務の所謂エリートサラリーマンでしたから、収入も問題なく、普通にご融資することができました。契約書ってこんな文言が書いてあるのですね!とか初初しさを出しながら。
そして1年後。確定申告書を出していただいたのですが、なんといきなり借入が10億円に膨れ上がっているではありませんか!うちは数千万円の物件しかご融資してないのに!
実は、その方は色んな金融機関に異なる物件を一気に持込み、同時並行で次の申告が出るまでの間に次々と買っていったらしいです。ローン商品だと、信用情報機関への短期間複数回アクセスは謝絶要素の一つになりうるのですが、プロパー融資なら個人信用情報を同意なく勝手に取ることはないので、そこも上手く働いたみたいです。
ただ、こっちとしては当初想定と違うわけですから溜まったもんではありません。挙句の果てに「管理が大変になったので大家に専念したい」とか言って退職してるし。そりゃ100戸超えたらそうなるだろうよ。
その方ですか?ええ、今でもピンピンしてますよ。それどころか、低金利の環境を活かして、おまとめにかかってますからね。羨ましいな、でもリスクを取る選択をして、結果を享受されてるだけですからね。リスクといっても、自分でどうにかできるものではないものが大半であり、リスクを取れる方は本当に偉いな、と思います。

では、アパート経営に関するリスクとはなんでしょうか。前回もいくつか挙げさせてもらいましたが、一番大きいのが空き室リスクではないかと思います。いくらきっちり管理をしても、出ていくときは出ていきますし、入らないときは入らないですから。そして、空き室が起こりやすくなるのは景気悪化局面です。この時に何が起こったのか、色々と実例を交えて書いてみたいと思います。

一般的にワンルームは独身、学生の方などの利用が多く、1LDK以上はファミリー層の利用が多いです。一方で家賃は倍以上も違わないので、限られた面積で効率よく稼ぐにはワンルームのほうが良いわけです。ただ、景気悪化局面だと、ワンルームのほうが空室リスクが高くなります。学生さんは親元から通ったり、進学を諦めたりしますし、派遣切りもありますからね。

実際、近隣の工場から「派遣社員の寮として借り上げるから」といって一括で借りてくれてても「ごめん、景気悪くなったから派遣社員全員クビ切ったので後はよろしくね」といって空き室だらけの建物が残った、というケースもあります。サブリース業者をかませてても一緒です。「うちには現在○○室の空き室があり、それにも▲%の家賃を払っていますが、これではうちがやっていけないので、何とか減らしてください」とか「お願い」されてしまいます。そうすると、当てにしていた収入は見込めず、一方で修繕費や税金、借金返済などの費用は変わらずにかかってくるわけで、早晩持ち出しが発生してしまいます。

「おいおい、10年間家賃固定で借り上げるといったじゃねぇか!ふざけんな!」と言って突っぱねる事も出来ますが、そうなると一方的に契約破棄され、入居者を丸ごと自社の他物件に持っていかれるという嫌がらせのような事をされることもあります。さらに入居者さんから取った家賃を未払いのまま潰れてしまうというケースもあるわけで、こうなるとどうしようもありません。

上記に限らず、収入が不測の事態で減って返済に困ったときにはどうするべきなのでしょうか。個人的には、借金返済を少し待ってもらうように金融機関に頼むべきだと思います。その金融機関から新しく借りるのは難しいでしょうけど、そもそも返済をすると手残りがマイナスになる事業というのは立て直すべき局面に来ていることは間違いありませんから、今は雌伏の時ではないでしょうか。ただ、借りたものは返さないといけないので、きっちりと今後の計画を立てて、これからはこうやって改善していくので、立て直すまでの間、返済を待ってください、といってお願いするのが良いかと思います。そして、言った事は必ず守る、守れないときはまた金融機関に相談して、一緒に対応策を考える。綺麗事かもしれませんが、一人で悩むよりは、二人以上で悩んだほうがいい知恵が出ますから。一人で悩んでいると、返済以外に削れるものはないか、と考えて削ってはいけないものまで削ってしまいます。

そう、払う金がないからといって、決して税金を後にしてはいけません。容赦なく差し押さえがやってきます。金融機関にもバレてしまいます。預金まで差し押さえられたら事業継続に著しく支障が出ます。さらに、今は「地方税回収機構」という、自治体の手に余る案件のみを引き受ける、恐ろしい組織があります。延滞月数二けたになる人に最後通告の「お手紙」を送ったけども、ここの取り立てが厳しくて返済も払えなかった、家に早朝に来て財布の中身も取られたとか仰ってたので、それはそれは厳しかったのでしょうね。

金融機関の側からすると、アパート経営の方はリスケしても必ず幾許かはご返済を頂けるんですよね。不動産担保もあるし、物件からの収入もある。遅れながらも(自分の担当している間は)返せるし、売却による回収もしやすい。だから、期限の利益がある間はずーっとお付き合いして、少しずつお返しいただくのが一番良いのかもしれません。

だから、返済に困ったらまずは金融機関に相談してください。くれぐれも、もうダメだ、家族に迷惑かけられないから団信・保険金で返そう、だなんて思わないでください。本当に頑張れば、意外と何とかなることもあるのですから。

私なんかで良いんですか…?