事例でみる金融トラブル〜ゆかいなおとなりさん
※この話はフィクションです。実際の人物、出来事とは一切関係ありません。
皆さんは「ゆかいなおとなりさん」って聞いた事がありますか。要は、その人の住んでいる近くの土地で何かを始めると「ワシにあいさつがない」「ワシの許可を取らずにこの道を通るんじゃない」とか言う人のことです。城下町や古都なんかにはそういう人が多いって聞きますね。「ワシの家は○○藩の家老の家なんだぞ!維新で成り上がった✕✕の奴らとは違うんだ!」とか。外から見てるだけだと関わらずに済むのですが、その地域で何かをなそうとするとどうしても関わらざるを得ない、味方にすればとても強く、敵になるととても厄介な存在です。はんしゃ?いいえ、違います。
で、それがどうして融資トラブルと繋がるのでしょうか。ビル、ショッピングセンターやマンションといった不動産の開発は相当に金額も大きくなりやすく、また期間も長期に渡ることも多いので、通常は資金を借りないといけないケースが多いわけです。そして、そのような地域の秩序を乱す可能性のある開発には、このおとなりさんが顔を出してきます。
金融機関側では、プロジェクトの収支計画や出口なんかも見たうえで借入の審議をするのですが、その支出項目の中には大抵「近隣対策費」というのがあります。要は、そういうおとなりさんの対策の為の費用ですね。説明会開いたり、反対派に付け届をしたり、その人と仲の良い別の人に取りなしてもらったり…で、大人しくなって施設ができて、無事にお金が返ってきましたメデタシメデタシ、となれば良いのですが、では、不幸にも調整が失敗した場合、どんな事が起こるのでしょうか。
物件の開発には、開発許可というものが必要になります。かいつまんで簡単に言うと、その一帯の土地を開発するのに、官公庁の許可を得ないといけないわけです。そして、許可を得たらその旨を立看板でその場所に表示しないといけないのですが、表示すべき項目には、事業主の名前と住所が書いてあります。はい、ターゲット確定。ここで嫌がらせの電話や手紙などがしょっちゅう届くらしいです。だから敢えて奥さんの名前とかにして特定できないようにして後で変更する等の手法を聞いたことがあります。
でも、それくらいで済めば自分が被害を被るだけで済むのですが、特に金融機関に影響が出るような手法もある訳です。
まずは、のぼり。「マンション建設反対!」とか書いてあるあれです。単純なようで効果は高いです。「あのマンションに住む奴は誰であろうと敵」みたいな事が書いてあったら、なかなか買おうとは思わないですよね。学校に通うお子さんが居たら、それが原因でイジメられたりする可能性だってある訳で。ということは、売行きが鈍る、借入返済が滞る、利息もかかる…事業者からすると、絶対にやって欲しくない事でしょうね。
そして金融機関は大きなプロジェクトに支援をしてる時は、大抵きちんと現地の確認に来ます。ちゃんと返せばええやん、という意見もあるのですが、今貸した金がどういう状態で使われているのか、というのも大事な要素だからです。そして、金融機関側とすれば建ててる途中に潰れられるのは一番困る訳です。そんな状態だと建設途中のガラクタのようなものが担保土地に残ってるわけで、金融機関が更地として評価した担保価値を大きく割り込む事に加えて、建設業者に未払だったりする事も多く、商事留置権を主張されると担保処分に相当の苦労が出てくる訳です。そして工事が進まないと建設中建物も劣化してますます引き継ぎも取り壊しも困難になる。前のリーマンの時も、そういう事が結構あったらしいですね。
なので「対象土地に変なノボリが立ってるけどどうなってるの?ちゃんと売れるの?」とか言う訳です。言わない所は、担当が余程ボンクラか、収益至上主義で細かい事を言ってられないかなので、そういう所を見つけるといいのかもですね。協調融資してる金融機関に指摘されて発覚したとか、もう恥以外の何者でもないですよね。
そして、怪文書。融資を付けてる金融機関宛に送って、プロジェクトがうまく行ってない事を分からしめるわけです。関係金融機関は底地の謄本をとれば担保権を設定してるから分かりますよね。そして、金融機関の本店のお客様センターのような苦情対応部門、或いはホームページに投稿するわけです。「上場企業はコンプライアンスを守らなければならないのに、地域の環境を乱すこのような案件に融資をすることは、貴行が経営計画に唄う「地域とともに栄える」ということに反するのではないでしょうか」とか「この案件を取りまとめてる✕社の役員になっている○○は、本名を△△といい詐欺の前科者である。」とか。
あと、(株主)総会。あんまり騒ぐと察の人に引き渡されてしまいますけど、ここで発言すると役員・理事も皆聞いてますので効果は高いですよね。でも、あの場で「経営陣は✕✕社への不当な融資を黙認している!これは大きな問題だ!」「…個々の事案についての回答は差し控えさせて頂きます」なんて言える人は、凄いと思います。
最近はコンプライアンス、レピュテーションリスク等の言葉に代表されるように、金融機関は世間から糾弾される事を過度に嫌う傾向がありますので、これらの手段が有効となりうるわけです。
それにしても、バブルの後の貸し剥がしの時期なんかは金融機関ももっと直接的な被害を受けたらしいですしね。新入行員が意気揚々と店に配属されて「すいません、壁のこの凹んでるところは何ですか?」「ああ、それ銃弾撃ち込まれた痕よ」とパートさんに普通に言われて戦慄した、とかの話も聞きますし、本当に大変だったのだろうなと思います。
なんか、「ゆかいなおとなりさん」になるにはどうしたら良いかという講座みたいになってしまいました。でも、考えてもみてください。自分の住んでる土地の隣に、何の挨拶もなく、変なものが出来るって分かったら嫌ですよね?阻止したいですよね?
やはり、そういう人が多い地域というのも残念ながら存在するわけで、そこを判断するのも金融機関の目利きの一つなんだと思います。
みつをさんの「セトモノとセトモノ」って詩を思い出しました。やわらかいこころを もちましょう。
私なんかで良いんですか…?