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仕事とお金と悩み

私の実家には物心ついた時から父親は居なくて、母が働きに出てる間、祖父母に育てられました。パートに毛の生えた程度の収入の母と祖父母の年金で暮らしてたので、そんなに豊かだった覚えはありません。閉鎖的な田舎だったのでシングルマザーもめずらしく、よく揶揄われました。

母は色々と職を転々としつつ、最後は地方のスーパーで経理の仕事をしていたので、決算期末などは帰りも遅く、いつも本当に大変そうでした。家の中では人間関係の愚痴ばかり言って辟易させられ、たまに友達が持っているものが欲しくなっておねだりしたら私の稼いだカネで!と無駄遣いを激怒される。それこそ、今から思うと些細な(テストが95点で満点じゃなかった)ことでも人格否定される。仕事だけが原因じゃないのかもしれませんが、はけ口にされる自分にほとほと嫌気がさしてました。

「どうしてお母さんは仕事なんか行くのかな」
「ほかのおうちみたいに、お母さんは一緒にいてくれないのかな」
「でも、お金がないんだから仕方ないな」

そのうち、祖父の体調が悪くなり入院、祖母がつきっきりでお見舞いに行くようになり不在がちに、そして母親も帰りが遅いときは自分一人で寝床に行くわけですが、やはりどうしょうもなく寂しく、泣きながら寝てた記憶があります。仕事ってお金のために嫌々行くもんなんだ、という認識がこのころからずっとありました。

そして、逃げるように家を出て奨学金をもらって街の大学に行きましたが、厳しい家で言われるがまま生きてきた人間に、都会の暮らしは刺激的すぎて。すっかり堕落してしまいました。ずっと遊んで生きられたらなぁ、とか思ってましたが、そんな訳にもいかず。就職活動でたまたま受かった地元から少し離れた金融機関に入社しました。

「お前なんかに金融機関が向くわけがない」というような事を母にも言われ、「だったら働かなくてもいいような家に産めよ」とか言い返して喧嘩になったり。同期はみんな実家から通いましたが、私は寮生活でした。

詰め込み研修を終えて配属になったのは都会の住宅地にあるお店でした。先祖代々持っていた農地や山林が街の発展とともに莫大な価値を生むようになり、それを売ったり貸したりして悠々自適の暮らしをされる方々とのお取引が盛んで、不動産(賃貸)業への融資割合が多いお店でした。

「働かなくても入ってくるお金があれば、働く必要ってないんじゃないかな?いいなぁ、お金があるって。幸せなんだろうなぁ…」

と思っていました。実際、私の年収くらいの固定資産税を窓口でポンと四半期毎に払っていく方も多く、この時「上には上があり、上を見だすとキリがない」と思いました。お客様の家に行ったら、お取り寄せでしか手に入らないお菓子が出てきたり(あとからググって知った)、お客様から頂く確定申告書を見て「あー、この人の養子になりてぇ…」とか。とはいえ、仕事上でこういった方々のお話を聞くと、それはそれで大変そうでした。

父親が亡くなったので、嫁いでいった妹に気持ち程度の金をあげてあとは自分のものにしようとしたが、妹の旦那がしゃしゃり出てきて散々揉めて、結局街中の一等地を取られた話を机を叩きながら聞かされたり(遺留分怖い)。

普段から威圧的なおばあちゃんが「うちの息子は二人とも一回も働いたことなくてねぇ…今はいいけど、きちんとこれから騙されずにやっていけるか心配だよ。貴方みたいに働いてくれるといいんだけど」とふと漏らしたり。

前任者が投信で大損させた方にご挨拶のアポを取ろうとしたら「ハイエナが何の用事だ?あ?僕じゃない?関係ないよね?」という調子でお電話で30分以上ご指導いただいたり。可愛さ余って憎さ100倍。

色々なお話をお伺いしていると、お金があっても、資産があっても、人が羨むような方と結婚してても、その立場その立場でみんな悩みがあるっていうことが、実感を伴って分かりました。そして、悩みがないように見える人は、悩みがなくなるよう努力したからなんじゃないかって。

とはいえ、自分自身の仕事上の悩みがなくなったわけではありません。手は遅く、物覚えは悪く、人当たりも良くない。そんな人間が金融機関の支店でどんな扱いを受けるかは想像にお任せしますが、本当に辛いことばかりでした。
そんな中、ある先輩は私のことを気に掛けて、色々と助け船を出してくれました。その方は相当個性的で、内部ではしょっちゅう支店長や他の課長と争ってました。私も「あんな奴の言うことは聞くな」とか言われてましたが、その方が言ってることはどう考えても正しい。争う原因も、自分の数字というよりはお客様の要望を通すため、あるべき働きをしてない人に怒ってましたから。また、相当博識で引出しには本がずらりと。「いつでも貸してやるから、好きなだけ読みな」とも言ってくれました。

実際、先輩はお客様の受けも良く、数字もたくさんあげてました。金融機関あるあるの年会費ばかり掛かるサービスを涼しい顔をして取ってくるので、理由を聞いたら「これやってくれたら自分が店にいる間はいつでも相談に乗るからって言ったら、みんなやってくれるよ。せっかくカネ貰うんだから、そのくらいはな」と言われ、ああ、これが人の付加価値って奴なんだな…と感心したものです。そんな調子なので、争ってた上司も最後には数字のために先輩のご機嫌を取るようになってました。

知識を身につけ、それを実践し、お客様の役に立ち、対価を頂く。単純な話ですが本当に難しい。でも、その難しいことを実践して見せてくれた先輩には感謝してもしきれません。先輩が宅建の講習行く、というのを聞いて自分も宅建取るくらいには影響を受けました。その頃の先輩の年齢をとっくに越えましたが、未だに追い付ける気はしません。

そんな経験を経て「お金のために嫌々働く」から「自分が働くことで、少しでも自分が接する方の悩みを減らせるといいな」と思うようになりました。金融機関のヒラの一職員でできることは限られているわけですが。それでも、お客様の悩みも、一緒に働く人の悩みも、ひとつでも多く減らすことができればって思ってます。

とはいえ、現実は綺麗ごとばかりじゃない。朝から働きたくないって思うこともあるし、いや多いし、嫌なことも沢山ある。そんな嫌なことがあっても生きていくにはお金がかかるし、子供らが成人するまで定期的にお金を入れないといけないし、仕事を辞めるわけにはいかない。

でも、どうせお金のために働かなきゃいけないなら、少しでも面白く働けるよう、自己実現目標があった方がいいんじゃないかって思ってます。そして、その仕事が世の中の誰かの役に立ってるなら、それってとても素晴らしいことなんじゃないかって。

さぁ、今日も仕事頑張りましょう。無理せずほどほどに。

※文中に出てくるエピソードは全てフィクションです。仮に実在の人物や出来事に似ていたとしても、偶然の一致だとお考え下さい。

#はたらくってなんだろう

私なんかで良いんですか…?