紫外線小説ボツ案


ボツ案です。突然途中で終わります。


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 7月。渋谷。スクランブル交差点。
 未知のウイルスの脅威もワクチンの普及とともに徐々に去り、日常を取り戻しつつある東京渋谷は多くの人でごった返していた。
 キャリーケースを引きずって改札をぐぐり抜けた琴弾茜は目の前の人の群れを見てげんなりとした。人ごみは苦手だった。
 日差しが肌を焼くぐらいに強い。琴弾は隠れるように日陰を探すとポケットからスマホを取り出してマップを開き、インターン先の企業の場所を確認した。
 まだインターンまでは時間があった。折角なのでスクランブル交差点の向かいのスタバが空いていれば座ってインターン先の企業情報を見返したりでもしようと思った。
 信号が青になると人々は一つの塊のように一斉に動き出した。琴弾は前の人にぶつからないように、またキャリーケースが他の人の通行の妨げにならないように気を付けながら足を進めた。
 しかし、少し進んだところで琴弾の前の通行人が突然足を止めたので、琴弾はぶつかってしまう。
 「すいません」と小さく謝罪し、顔を上げると、琴弾の目の前の通行人だけでなく、同じように何人もの人たちが足を止めて交差点の真ん中を見つめていた。
 人々の視線の先には1人の女性の姿があった。
「ユーチューバーかな? 何してんのあれ?」
「さあ? でもなんか綺麗だし有名な人じゃね?」
 制服姿の学生たちはその女性を一瞥して信号を渡っていく。もはや東京人にとってスクランブル交差点の真ん中で何かパフォーマンスをする人は珍しくない。

 一方で田舎から就活のために出てきた琴弾の目にはその女性はとても興味深く映った。
 女性は何もしないし、何も動かない。それでも琴弾はその女性から目を離せないでいた。
 何かしてくれるのだろうか、と期待した後、いや、何もしなくてもいいと琴弾は思った。
 その女性は立っているだけで同じ人間とは思えないくらいに美しく、何か不思議な輝きを放っているように感じた。

 否――その女性は実際に発光していた。


 インターンが終わると、琴弾はそこら辺で食事を済ませた後、予約していたホテルへと向かった。
 部屋についてシャワーを浴びてスーツをハンガーに掛けると、テレビが無料で見れたので適当にニュースを流し、ベッドに腰掛けては明日は休みだからどこに観光に行こうかなとインスタを眺めていた。
 テレビから緊急のニュース速報が流れたのはその時だった。
「東京で緊急搬送者150名、死者40名超」という大きなテロップとともに、中年のキャスターが深刻そうな表情で原稿を読み上げる。
 またウイルスが…?琴弾は少し怯えながらスマホを置いてテレビを見た。
 キャスターは続ける。
「ウイルスとは無関係」と。
「緊急搬送者に関して、年齢や性別などの特徴は見つけられない」と。
「ただし唯一、緊急搬送者たちから同一の証言が上がっている」と。
 キャスターは原稿を見ると一瞬不思議そうに眉を上げてその先を読み上げた。


「スクランブル交差点の真ん中で発光する女性を見た」と。

 
 翌日、琴弾茜は渋谷のホテルの一室で、ベッドメイキングをしに来た清掃員によって死体の状態で発見された。
 その死体はまるで焼死体のように全身が真っ黒で、皮膚が皺だらけになっていたという。

 渋谷とほぼ同時期、あるいは少し遅れてロサンゼルス、ナイロビ、シンガポール、ハバナなど世界各国で同様の発光する女性の目撃情報があり、多数の死者が出た。そして未知のウイルスに打ち勝った世界は再び別の形でロックダウンへ歩みを戻すこととなった。


 けたたましい目覚ましの音が鳴る。とっくに目を覚ましていた笹室は面倒そうに目覚ましを止めた。時刻は19時を指していた。
 食パンにチョコレートのジャムを塗ると「なんでこんな時間に朝食を食べないといけないんだ」と文句を垂れながら口に放り込んだ。
 20時に仕事を始めたが翌日2時になる頃にはもう眠気の限界で仕事が手に着かないでいた。

『死害線』

 女性(?)が放つ光に対して研究者たちによって付けられた名称だった。
 死害線の研究は全世界の叡智を結集して急ピッチで進められた。すでにウイルスにより世界の体力は底を突きかけていたタイミングでの死害線の問題の発生。これを長引かせれば人類に未来はなかった。
 しかし未知の生命体による未知の現象。それを解明するのでは容易ではなく、「日が沈んでいる間、女性は現れない」という唯一確かな情報を基に「日中外出禁止令」を発令する他に各国は有効な手を打てないでいた。

 人類の生活は大きく変化した。日が出ている間に眠り、日が沈むと行動を開始する。起きている間の行動にさほど大きな変化はなかったが、笹室を含めて、大半の人が新しい生活様式に馴染めないでいた。

 笹室は釣りが好きだった。死害線が猛威を振るってから一度も行っていなかったが、我慢の限界だった。日の出前後の一時間、パラソルを差して光を遮った状態なら大丈夫だろう。そう思って夜中のうちに車を走らせて港へ出た。久々の釣りは面白いぐらいによく釣れた。満足して帰ろうと思った時に、誰かに肩を叩かれたような気がした。振り返ると女がいた。笹室は顔を引き攣らせて後ずさり、パラソルにぶつかって尻餅をついた。パラソルが倒れて光を遮るものがなくなると、より女の輪郭ははっきりと映り、そしてより強烈な光を放った。
 その日のうちに笹室は死亡した。

 バージャックは夜中、もとい日中に目を覚ました。空腹で眠れずにいた。冷蔵庫を覗きに行くが、冷蔵庫は空だった。外を見た。雨が降っていて、太陽は出ていなかった。太陽が出ていなければ大丈夫だろうと、傘を持って足早に近くの無人コンビニに向かった。曲がり角で誰かとぶつかりそうになった。謝ろうとした時、それが人でないことが分かった。女の輪郭はぼやけ、わずかな光を放っていた。
 翌日、バージャックは自宅で死亡した。

 伊崎は引きこもりだった。死害線が猛威を振るい始めた頃、ネットでその情報を目にした伊崎はむしろ自分の生きやすい時代が来たと感じた。
たとえ日中に起きていたとしても外に出なければ問題ない。そう思い、今まで通り窓際の椅子に腰かけて一日中インターネットに張り付いた。ある日、身体が気だるく感じるようになった。ふとしてPCから目を離して外を見るとガラス越しに女性が自分を見つめて光を放っていた。
 数日後、伊崎は死亡した。

 冬が来て太陽の力は弱まった。その頃にはすでに死害線は太陽の力と相関関係にあることが解明されていた。一度女性の姿を目にしたものの中にも死なない人間も現れた。だから油断した。力が弱まっただけで消えたわけはないのに、日中に外出する人間が増加し、結局外出した人間たちは数度外出した後に息を引き取った。

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この後太陽を破壊するエンドなど色々な結末を考えたのですが何をどう考えてもバッドエンドにしかならなかったので書くの止めました。


 

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