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砂の中のダイヤ、個人と向き合い0.1%の真実を探す(ルネ・マグリット「ゴルコンダ」と嵐「Find The Answer」とドラマ「99.9 -刑事専門弁護士-」)

嵐の20周年記念クリップ集にも収録されている「Find The Answer」。40人のダンサーによる群舞の迫力がすごいこの楽曲のMVが、20世紀に活躍したシュルレアリズムの画家ルネ・マグリットの作品「ゴルコンダ」を彷彿させるのでメモ。

ルネ・マグリットとは

ルネ・マグリット(1898~1967)はベルギー生まれの画家で、シュルレアリストとして活躍した。パイプや帽子など日常的な物をモチーフにしながらも現実と乖離した不思議な作品を多く残していて「イメージの魔術師」とも呼ばれたり。

イメージの裏切り

(画像引用元:MUSEY

古典的なタッチで精巧に描かれたパイプ。その下にはフランス語で「これはパイプではない」と書かれている。…こんな感じで、言葉や思考と絵画との関係を強く意識させる哲学的な作風で知られている。この作品(「イメージの裏切り」)は作品単体でWikipediaがあるくらいだからその有名さが分かる。

嵐「Find The Answer」MVの既視感

嵐が2018年に出したシングル「Find The Answer」は、TBSのドラマ『99.9 -刑事専門弁護士- SEASON Ⅱ』の主題歌にもなった曲。

この曲のMVを見ている時に既視感を覚えた。そう、黒いコートと帽子姿のたくさんの人たちが画面内で蠢く不思議な空間がルネ・マグリットの作品「ゴルコンダ」によく似ているのだ。

ゴルコンダ

ルネ・マグリット「ゴルコンダ」(1953)(画像引用元:MUSEY

ゴルコンダgoogle

(画像引用元:Google

この「ゴルコンダ」はマグリットの代表的な作品のひとつで、過去にはGoogle Doodleでも使われている(マグリット生誕110年の時)。

山高帽を被った男性はマグリットが良く描いたモチーフであるが、その中でもこの「ゴルコンダ」はひと際異様だ。どことも分からない街並みの中、男たちは別々の方向を向いた状態で宙に浮かんでいる。

遠目にはまるで同じ人間のコピーのように見えるが、よく見るとひとりひとり違う顔をしている。別の人間の集まりのはずが、グループ化されることでそれぞれの個性が消えてしまうという「個人と集団」の関係性を表している、というのが一般的な解説。

「個人」と向き合う弁護士

一方「Find The Answer」のMVは、嵐5人とは別に全身真っ黒な出で立ちのダンサーが登場する(山高帽ではないけど…)。セピア色の街並みの中をバラバラに歩き回っているかと思いきや、まるで人形のように静止し、そして突然一糸乱れずに踊り出す。「通行人」である彼らの動きのおかげで映像にもメリハリがある。

年齢も性別もバラバラなはずの彼らが、同じ格好をしているだけで個人の区別ができない「どこかの群衆」として表現される。そしてアップになって個人の顔がはっきりと見えた時にハッとする。これはまさに「ゴルコンダ的」だ。

ドラマの主人公となっている弁護士が向き合うのは100人の「被告人の内のひとり」ではなく「ひとりの人間の人生」である、ということを示しているのかもしれない。

曲の最後には、バラバラな振り付けで踊っていた嵐とダンサーたちが同時に天に向かって手を伸ばし、ダンサーたちは「個性を隠すもの」の象徴とも言える帽子を放り投げる。映像としても美しいし、個性をさらすことを恐れるなというメッセージ性もあるのだろう。

このMVの中で嵐はセピア色の背景と同化するようなベージュの衣装を身に着けているけれど、そもそもなんでセピア色なのか。舞台セットのような街の非現実性を示しているのかも知れないが、同時にドラマシリーズ前作の主題歌「Daylight」とのつながりも感じられる

砂の中の一粒のダイヤを探す「Daylight」

「Find the Answe」が主題歌になったドラマ『99.9 -刑事専門弁護士- SEASON Ⅱ 』の前作『99.9 -刑事専門弁護士- 』では、同じ嵐の「Daylight」が主題歌となっている。

この「Daylight」のMVは、砂でできた廃墟のような薄暗いセットの中でメンバー5人が歌っていると最後には空が晴れてきて光が差し込むという構成だ。

楽曲及びMVの「膨大な砂の中から一粒のダイヤを探すように、わずかな可能性であっても決して諦めずに希望を見つけ出す」というテーマは、99.9%有罪となる刑事事件を専門とする主人公が0.1%の可能性を捨てずに真実を追い求めるというドラマの内容に沿ったもの。

「Daylight」の砂の茶色が「Find The Answer」のセピア色につながる…というのはさすがにこじつけっぽいが、マグリットの「ゴルコンダ」とのつながりを考えるとあながち有り得なくもないような気がしてくるのだ。

マグリットの絵のタイトルとなっている「ゴルコンダ」は、17~18世紀に栄えたゴールコンダ王国(現インド)の首都の名前からとられている。ここは現在でも要塞都市の名残が形をとどめていて、観光地としても人気があるよう。

ゴルコンダ・フォート

ゴルコンダの写真(画像引用元:東洋文化研究所付属東洋学研究情報センター所蔵写真資料データベース
どことなく「Daylight」っぽい…ような気が。

このゴルコンダ一帯はダイヤモンドの産出地として冨を蓄えた地域でもある。すでにダイヤモンド原石は枯渇しているので、ゴルコンダ・ダイヤモンドというと1725年以前に採鉱された古いダイヤモンドとして非常に貴重&高価だとか。(参考ページ

当時のゴルコンダでのダイヤモンドの採掘方法は漂砂鉱床。「Daylight」のテーマ通り膨大な砂礫の中からダイヤを探し当てる採掘方法で、ダイヤモンド原石の回収率は砂礫に対して1億分の1…

ダイヤモンドの産出地として栄えたイスラムの都ゴルコンダ、を彷彿とさせる「Daylight」。そしてその都の名前を冠した絵画「ゴルコンダ」、を彷彿とさせる映像が「Daylight」の続編である「Find The Answer」で描かれているというのは、偶然だとしたらなんだか出来過ぎているようにも思えるのだけれど、どうだろう。


ドラマは重いテーマとコメディ部分のバランスが良い脚本で、シーズン1、2どちらも面白かったです。シーズン3、あったらいいな。


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