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「愛」を歌おう(嵐オリジナルアルバム『LOVE』をおすすめしたい)

アイドルグループ嵐がシングル全曲に続いて、2020年2月7日にはオリジナルアルバム16枚分もデジタル配信を開始。気軽に「聞いてみようかな」と思う人も増える機会だと思うので、個人的に一番好きなアルバム『LOVE』(2013年発売)を紹介したい

まず、J-POPの、というよりも歌謡曲のテーマとしてはありきたりな「愛」をそのままアルバムタイトルに持ってきたインパクトがすごい。

アイドルの歌は、聞く人を「励ます・応援する」、もしくは「愛」という二大テーマが基本だと思っているけれど、その「愛」の方だけを重点的に取り上げたアルバムは嵐の中ではこれだけ(のはず)。

おすすめポイントをざっくり。

・多種多様な「愛」を、多種多様なトラックに乗せて歌う
・踊らなきゃ恋は始まらない、とばかりに豊富なダンス曲
・曲順構成がしっかり練られていてドラマチック(なので通しで聴いてほしい)
・櫻井翔のラップ詞が良い

公式サイトの紹介を引用すると、

ニューアルバム「LOVE」には"始まるLOVE(愛)" "勘違いのLOVE(愛)" "イケイケのLOVE(愛)" "終わったLOVE(愛)"など、さまざまな「LOVE」の形が表現された楽曲が詰まっており、…(以下略)

となっている。

収録されている曲数16曲、「LOVE(愛)」の形も多種多様。どれも良曲で曲順も粋なので、一通り紹介します。音楽的な細かい部分は分からないので、主に歌詞の内容と雰囲気についてです。

01 - 愛を歌おう

「愛を歌うのだ」というアイドルとしての使命を高らかに宣言する、アルバムの幕開けにふさわしい壮大な楽曲。”夜明け前の航海の始まり”という情景が描かれていて、アルバムに対する期待も高まる。

櫻井翔作詞のラップ詞の中に出てくる「これこそ私の希望の道」というフレーズが印象的。曲の中で使われている「僕」とは違う「私」という一人称を使うことで、この歌詞の内容が「嵐である自分自身(私)」としての言葉であることを感じさせてくれる。「僕と君」という漠然とした関係性が、共に航海していく「嵐とファン」になる瞬間。

曲最後のサビだけは大きく歌詞が異なっている。「喜びも痛みも すべて包み込み I Love You」というフレーズは、まさにこのアルバム全体のテーマのよう

02 - サヨナラのあとで

公式サイトの紹介で言うところの「"終わったLOVE(愛)」にあたる内容で「愛は失った時にこそ分かるもの」というありきたりゆえに共感性の高いテーマ。

1曲目の「愛を歌おう」があくまでもオープニングであるとしたら、実質的な1曲目はむしろこの「サヨナラのあとで」ということになる。始まりの曲が「愛の喪失」をテーマにしているのは、むしろ「愛は、愛する人を失うところから始まる」ということを暗示しているのかも。

03 - CONFUSION

トリッキーな押韻で構成されたリズム感重視のノリノリ曲。この辺りからが恐らく"イケイケのLOVE(愛)"ゾーンにあたる。

個人的には2番の「She loves me but 全ては見栄」という歌詞が印象的。「I'm a love fool」と自嘲するぐらい恋愛に溺れながらも、心のどこかでは本当に愛されているわけではないと分かっている愛の虚しさ

04 - Hit the floor

大野智ソロ曲としては定番的なダンスチューン。”都会” かつ ”大人同士の” 恋愛が持つセクシーな予感と期待が次曲の「 P・A・R・A・D・O・X」へと繋がっていく構成が良い。

「1億年だって」や「知らない世界を見せてあげる」などなどの誇大な誘い文句が嘘くさい恋愛を盛り上げる。歌とダンスがうまいとやっぱりモテるんだな、と思わせてくれる歌のうまさ。

個人的に気になるのは「船だって浮かべた摩天楼」の歌詞。これってシンガポールのマリーナベイサンズのこと?

05 - P・A・R・A・D・O・X

アルバムのリードトラックで、アイドルグループ「嵐」としてのイメージが許されるギリギリのセクシーさを攻めた曲。とは言えそんなに直接的な言葉はないのだけれど(ラップ詞は別)、MVやダンスも込みでセクシー。あととにかく曲がかっこいい。

サビの「I’m gonna make you stop it」「I'm gonna make you keep on」が正しくパラドックス。「止める」「止めない」という理性と欲望(頭と身体)の間で揺れる葛藤に苦しむ…というよりは楽しむのが恋愛か。

06 - sugar and salt

櫻井翔ソロ曲。ヒップホップバンドの韻シストが作曲。

韻シストはこの曲以前に「Hip Pop Boogie」(『Dream "A" live』収録・2008年)でもCOUNT FORCEとして櫻井翔ソロを作曲しているけど、今回は韻シスト名義で曲自体も聴いてすぐに「韻シストだ」と一発で分かる曲に仕上がってる。サビのメロディーラインがとても良い。

塩と砂糖というタイトル通り、「P・A・R・A・D・O・X」で楽しんでいた恋愛の駆け引きに疲れたなれの果てと言った哀愁がある。あえて同じ言葉を繰り返すラップ詞で女々しさが炸裂してる感じが良い。「愛を感じたい」というサビのフレーズ自体がとても女々しい。

07 - Breathless

このアルバムに収録されたシングル曲3曲は総じて激し目ロックだけど、中でも曲調・歌詞共にハードな楽曲。

映画「プラチナデータ」の内容を踏まえていると言えばそれまでだけれど、どんな愛の曲なのかあえて言うならば「自己愛」の曲じゃないかと思う。

曲全体の中でも2番の「お前だけはもう離さない」という強い言い方が耳に残る。この「お前」が指しているのが「(自分だけの)DNA」ということだとしたら、この歌詞の主人公が求めてやまないのは、存在するかも分からない「本当の自分」なのかもしれない。

素直に恋愛ソングとして捉えると「遺伝子レベルで愛してる」という感じがイマドキっぽくて良い。

08 - 20825日目の曲

二宮和成本人による作詞作曲(編曲)のソロ曲。20825日は、母親の誕生日からアルバム発売までの日数で、歌詞の内容もはっきりと母親・あなたなどの言葉を使ってストレートに母親への愛を書いている。

この曲が「DNAこそ本当の自分」と歌う「Breathless」の後に来るのが面白い。自己愛の向かう先が母親というのは、DNAや血統を本質とする考え方が強いゆえかも知れないなどと思ったり。

そんなに歪曲して考えずとも、母親への愛・親子の愛というのは、多くの人が感じる「愛」の原初体験として重要なのでは。全曲の中でも一番ピュアな雰囲気があるので、次のザ・アイドルソング「Rock Tonight」とのつながりも良い。

09 - Rock Tonight

前曲の二宮ソロの雰囲気を引き継ぎ更にキラキラさせたような、アイドル感満載のポップソング。アルバムも丁度中盤くらいでこの曲の出だしの「ラーラーラララ」のユニゾンを聴くと、なんとなくホッとする。

「風は追い風 波に乗っかって」でスタートする歌詞は、1曲目の「愛を歌おう」で始まった不安混じりの航海が順調に進んでいることを教えてくれているよう。

今気がついたけど、嵐楽曲曲の中でも個人的に好きな曲な「揺らせ、今を」もこの曲と同じ100+が作詞作曲。素直な言葉選びの曲が多い気がする。

10 - Endless Game
11 - Calling

「 Endless Game」と「Calling」は、どちらかと言うとタイアップ作品(ドラマ)とセットで「愛」について語っているのかも知れない。Endless Gameは家族愛、Callingは生命に対する愛。

そもそも、このアルバムに収録されることになったシングル曲をまとめるためには「愛」のような大きなテーマじゃないと難しかったのかなとも思う。

というくらいこの2曲については曲単体で何かを言うのが難しい。けど、どちらも「運命に立ち向かう」ということを歌っていて、そこに必要なのが「愛」なのかも知れない。「愛」に対して悲観的な雰囲気の漂う「Endless Game」だって、逆説的に愛を求めているのかも。

12 - 夜空への手紙

相葉くん本人の亡くなったおじいちゃんへの想いを歌ったソロ曲。「身近な人への愛」を歌う。とにかく優しい人柄が良く出ていて好感度が高い。

自分の言葉をこんなに素直に受け止めてくれる孫がいた相葉くんのお祖父ちゃんは幸せだっただろうな、と思う。

個人的に尾崎豊っぽいなと思っている相葉くんの声と歌い方がスローなメロディーに良く合ってる。

13 - Dance in the dark

松本潤のソロ曲。前曲「夜空の手紙」で拍手に包まれながら舞台は一度暗転。その暗闇に突然一本のスポットライトと共に現れたトリックスターのような楽曲。起承転結で言ったら ”結” の始まりを感じさせる。

歌詞の内容もファンタジー感があって、なんとなくミュージカルぽい。歌詞は内容よりもリズム感を重視したもので、前の相葉ソロとの対比が効いてる。松潤リズム感良いね。

この曲からFUNKYまでのダンスミュージック三連発は連続で聴きたいゾーン。

14 - Starlight kiss

イントロのファンキーなギターが気持ち良いディスコナンバー。

気持ちを知らない片想いの相手に「キミもそうだろう?」「キミもほしいだろ?」と言ってしまっているあたり、公式サイトの説明で言うところの"勘違いのLOVE(愛)"な曲

勘違いだとしたら、櫻井翔の妙に細かい内容のラップ詞もすべて「妄想」になる、と思うと面白い。以下ラップ詞の気になる部分。

その華奢な腰に手を回し
群衆の溢れる目をかわし
香りは何またも触り
誰も彼もそう貴方に敵わない
yeah ギリギリな愛
君がない日々には意味がない
このまま Go crazy
夢でも Baby

女性が「君」だとしたら「貴方に適わない」の「貴方」は高嶺の華の女性の腰を抱くことができている「自分」ということになる…?だとしたら正に「CONFUSION」で描かれていた、「愛なんて所詮 ”全ては見栄”」 という典型かも。

15 - FUNKY

「Dance in the dark」で始まったダンスタイムの終わりの曲。「Starlight kiss」から流れるように続く。

「Let's Dance!!」の元気な呼びかけで始まるとテンションは上がるが、同時に次の曲でもう終わりと思って切なくもなる。

踊る人たちそのものというより「ディスコフロア」という場所の情景を歌っているのが面白い。「扉開ければ 体が痺れるようなビート」は正しく。厚い扉で閉ざされた空間の中は外の現実世界とは全くちがう夢の世界が広がっているのだ。

こんな特殊な空間だからここまでの曲で歌われてきたような刹那的な恋愛も生まれてしまったんだよ、とでも言いたいような、オムニバス映画の締め的曲。

派手に終わらないシンプルなアウトロからは、どんなに楽しいダンスタイムも恋愛もコンサートも閉じられた時間と空間の中の出来事でいずれ終わりが来るもの、といった祭りの後の寂しさも感じられる。

16 - Tears

アルバムのエンディングを飾るスローバラード。「サヨナラのあとで」と「Tears」という"終わったLOVE(愛)"を歌う二曲で全体を挟んでいるという構成が良い。

愛を失い、再び愛を手にし、そしてまた失う。人生とはこれをエンドレスに繰り返すものなんだよ、と言われているような気分になる。

***

曲数が多くてちゃんと紹介できなかった気がするけれど、逆に16曲もあるのにちゃんと全体がまとまっているのがすごい!!

なのでアルバム通して聴いた方が良さは伝わるはず、だけどどれか一曲だけなら聞いてくれるというなら「愛を歌おう」を全力でおすすめします。



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