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【萩原ぎんいろインタビュー】「閉鎖された空間で、同じ夢を見たい」

インタビュー企画「街場のクリエイターたち。」のお時間です。第2回のクリエイターさんは、萩原ぎんいろさんです!

クリエイター:"演出家" 萩原ぎんいろ

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2019年1月から、本格的に作家活動を開始。『幻想の世界に生きる永遠の少女』をテーマに絵を描き、ペーパードールを作っている方です。

独特の世界観のあるタッチに、ロリータの世界に造詣の深い萩原ぎんいろさん。その世界観と、これからの方向性、活動内容について深掘りしてみました!

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年始の某日、都内のカフェにて。

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イントロダクション

ー(隣で陶芸の教室をやるのを見ながら)こんにちは。なんか文化度高い空間ですね、ここ。

萩原:いや、本当にそうですね。……こんにちは。

ーお久しぶりです。夏に一度お会いして、そのあとコミティア(*イラストをメインにした同人即売会)会場でお会いして以来ですねぇ。前回のコミティアは、僕の出た文学フリマ(*文学の同人即売会)と重なっちゃいましたけども。コミティア、行きたかったんですけどね。

萩原:私も、文フリ行きたかったです。

ーお客さんは、わりと流動してたんですけどね。コミティア行ってた人が文フリに来てくれたりして。でもさすがに、サークル参加者は、ねえ。

萩原:私の友達も、午前中だけ手伝いに来てくれたあと、文フリ行くって言って、いなくなっちゃいました。

ー文フリのほうがあとなんだね、みんな。

萩原:コミティアのほうがすぐになくなっちゃうからですかね。

ー文フリ、ちょっとマニアックだったからね。でも出てよかった。コミティアは次も出るんですか。

萩原:コミティアは基本的に出ようと思ってます。地味に売り上げがあるので。

ーサークル参加はこないだがはじめて?

萩原:こないだがはじめてでした。

ーえ、ほんとに? めちゃ出てる印象あった。

萩原:そんなことないですよ。こないだ初めて出て、ペーパードールの原画売れたので助かりました。

ー同人系のイベント出るのがはじめてだったの?

萩原:いや、デザフェス(*デザインフェスタ。最大級のアート系の即売会イベント)は一回出たことがあって。原画販売と、ポストカード系で。

ーライブペイントとかやったらいいじゃん。

萩原:それもよく言われるんですけどね。ちょっとハードル高くて。普段、ちまちましたのを描いてるんで、大きいのを描くっていうのが想像できないんですよね。

ー美大出身の人だと慣れてる感はあるよね。

萩原:私、一応美大っぽいの出身ですけど、そういうのはやってこなかったんで。専攻も映像だったし。

ーでも頑張って描いても、結局持って帰れないから破棄しちゃったりして。修行だよね、あれも。

萩原:そうですね。諸行無常の極みみたいな……。

ーあれは修道者向けだね……。


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最近の活動内容、作風について

ー最近、活動、頑張ってますね。

萩原:今年から、活動頑張ろうと思って。去年も頑張ってましたけど。

ー最初、八月に会って話したときに、やばい人だったらどうしようかなってちょっとびびってました。

萩原:やばい人だったら?! 私がですか(笑)? 

ーやばい人っていうのは、危険人物とかじゃなくて、会話が成り立たなかったらどうしようかなって思ったんですよ。いるじゃないですか、超アーティスト気質で、会話が難しい人。事前情報がそんなになくて、よくわからなかったんで、どうなるのかなと思ったけど、けっこう盛り上がりましたよね。

萩原:盛り上がりましたね。めっちゃしゃべりましたよね。

ー何話してたのか全く覚えてないけど。思ってたよりいい人だなっていう感想を持って帰った気がします(笑)。

萩原:それは……お互い様です(笑)。

ー最近、萩原さんの絵柄がすごく安定してきたなーって思って。

萩原:そう言ってもらえるとありがたいです。

ーなんか模索の時期が収束してんのかなって思ったんですけど。

萩原:安定してるっていうか、描き方がわかってきたって感じですかね。どういうふうに描けば楽に描けるか、どういうふうに描くと大変なのか……。時間がないときにはこうすればいい、とか。

ー型が身についてきたってことなんですかね。自分で導きだしたんですか、それ。

萩原:私は数撃ちゃ当たる戦法をよくする人間なんで。描いて描いてるうちに、だんだん慣れてきたって感じですかね。

ーじゃあ特に何かを意識することなく、描いていくうちに、これやー! ってなったって感じなんですかね。

萩原:そうですね。何かを意識して描くってことはあまりしないですね。

ー作風が、ほんと独特だよね。

萩原:独特ですか。よく言われるけど、何が独特なのかよくわかってないんですよね。

ー例えば、僕コミティアとか言って、見本誌のところとかパラパラ見るんですけど。やっぱりたくさん見てくと、ある程度パターンみたいなのって見えるじゃないですか。そうやって、コミディティ的に括れちゃう絵柄がある一方で、そこに収まらない何かがあるような。それがいわゆる、作家性なのかもしれませんけど。

萩原:そう言っていただけると嬉しいです。でも、逆に言うと、それってウケる人にしかウケない、という面もあって。

ー作家としての特性でいうと、独特な絵柄を描く人って、僕の知る範囲だと、「破滅系」の人がいるんですよ。日常生活が破綻寸前、みたいな人。そういう人って、それやんないと死んじゃう、ぐらいの勢いで思いつめてて、他人の目とかをあまり気にする余裕がないから、作風が独特になってくんですよね。でも、萩原さんは作風が独特なのに、あまり破滅してる感じはしないんですよね(笑)。飄々としているというか。そこが面白いなーって思って。

萩原:それは私が表現のツールを固定してないから、というのもあるかもしれないですね。というのも、私はもともと演劇で、空間演出がやりたかったんですよ。お客さんがいる空間そのもので、世界観を表現したい、みたいな。でも、ちょっと言葉にしづらいんですけど、別に演劇である必要もないな、とあるとき思って、絵にシフトしていったというところもあって。

破滅系の人って、絵じゃないとダメとか、文章じゃないとダメ、っていうのがあると思うんですよ。私はこれじゃないとダメ、っていうのは特別に決めてるわけじゃないので。それがひとつあると思います。

ー表現手法として、ペーパードールもやるし、イラストもやる、みたいなところですよね。


最終的に名乗りたいもの

萩原:私が最終的に名乗りたいのは演出家なんですよ。

ーおおー!

萩原:……最終的には。

ーすみません、ここでちょっとこの企画の趣旨の話になるんですけど。この企画は「街場のクリエイターたち。」っていうタイトルで、何をクリエイトしているか、何をクリエイトしていきたいか、はその人たちに決めてほしいんですよね。それこそ、インタビュー予定の人の中には、起業家とかもいるんですよ。自分の肩書きっていうか、自分が「なにクリエイターなのか」っていうところも含めて、語って欲しいんですよね。

萩原:ああー、なるほど。でもいまは、イラストレーターになるんですかね。

ーえ、そうなの?

萩原:……演出家って、最終的には名乗りたいですよ。

ーじゃ、演出家でいいんじゃないすか。

萩原:演出家でいいんですか?

ーいいんです。演出家でしょ、それは。名乗りたいものを名乗るのが一番いいんじゃないですか。

萩原:でも、演出家は……。

ー逆に足りないものはなんなんですか? 演出家に足りないと感じるところは。

萩原:足りないもの……。

ー足りないものがないんだったら、いま名乗ってもいいんじゃないですか。

萩原:じゃ、名乗りますね。演出家の萩原ぎんいろです!

ーこれ、noteに書くんで、一般に認知されていきますね(笑)。

萩原:でも演出家って、すごいふわっとしてるじゃないですか。演出家って言っても、何の? ってなるんで。演出家っていうと、宮本亜門さんとか、蜷川幸雄さんみたいな、舞台演出家? みたいな。それ単体だとふわっとしすぎちゃうかなって。まあ、そのふわっとしてる感じが、飄々としてる部分なのかもしれませんけど。


舞台とライブ空間

萩原:作家活動して思ったのが、作家活動する人って、自分のプロデューサーじじゃないといけないし、展示とかの演出家じゃないといけないし、デザイナーでもないといけないし、ということで、やることがすごい多いんですよね。その中で、演出ができるようになりたいなって。

ーいまやってることを継続していたら、自分のやりたいことに近づくんですか? それとも、違う表現も模索してるんですか?

萩原:違う表現も模索してますよ。したいと思ってます。

ーそれこそ、舞台をやるとか。

萩原:舞台はやりたいと思ってますよ。でも、舞台ってどうしても人員とお金がかかるし、時間もかかって、すごいちっちゃい舞台をするだけでも途方もない労力なんですよ。いまの経済力と、まわりの人の状況からみて、いまは絶対にできない。それこそ舞台が整ったら、やるみたいな。

ー上手いこと言った感(笑)。じゃあ、そこを目指してるんだ。

萩原:そこを目指してます。

ー形に残るものじゃなくて、ライブ空間なんだ、それは。

萩原:私、絵もライブ空間だと思ってるんですよね。大学の頃、舞台表現とか映像表現とかを追求してて、芸術作品って、お客さんがいないと成立しないな、って思ったんですよ。一人でもお客さんがいて、嬉しいとか、悲しいとか、色々感じている、その瞬間が芸術なんじゃないかって思うんですけど。

ーなるほど。

萩原:すごい言葉にしにくいんですけど。だから、絵も、展示会とかに出してはじめて完成するのかなって思って。

ー美術館に行くたびに思うんだけど、美術館って、当然ながら、壁がたくさんあるじゃないですか。でも、一般の家庭にはそんなに白い壁ってないですよね。だから、美術館という空間がそもそも特殊だな、ってのはよく考えます。美術館に、適切に絵を配置して、見にくる人がいてはじめて、作品として完成するのかなって。

萩原:そうですね、空間も含めて作品っていうか。

ーそれで、最近は展示とかも頑張って出してるんだ。

萩原:実は個展も出そうとしていて。まだ非公開情報なんですけど、十月ぐらいに場所が取れたら、あらためて告知します。都内のちっちゃいところですけど。


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作品の値段設定について

萩原:作家活動は去年ぐらいから本格活動したんですけど、お金の値段設定はすごく気を使ったというか。安売りしちゃダメなんだなって。

ーそうだよね。

萩原:やひろさんの音楽も……安売りしちゃダメですよ。

ー僕のは、安売りどころじゃないから。無料配布だから(笑)。

萩原:無料配布は、受け取る側はありがたいですけども……。でも、ダメですよ、無料は。

ーどうしたらいいんだろうね。難しいよね。

萩原:あくまで趣味でやってるからっていう分にはいいかもしれないんですけども……。

ーただ、気づいてないだけで害を及ぼしてる可能性があるんだよね。僕の作曲レベルがある一定のレベルだと仮定して、本当にプロでやりたい人の芽を摘んでる可能性があって。

萩原:そうなんですよ。今でいうと、「ココナラ」というサイトがあるんですけど、そのサイトがすごい安い値段でクリエイターさんに頼めるというツールを生み出してしまったが為に、勝手に相場みたいなものが、低く決まっちゃってるんですよね。正当な対価でやってる人の生活が破壊されるというか。

ーなんというか、個人レベルだけじゃなくて、文化を破壊してる可能性があるよね。

萩原:本当ですよ。やひろさん、やらかしてますよ(怒)!

ーただ、僕にも言い分はあって。「仕事募集してます」みたいな文言を、ツイッターのプロフィール欄に書く人いるじゃないですか。僕、あれ書いたことないんですよ。つまり、仕事を募集してないんですよね。僕が申し出た場合のみ、成立するというか。言い訳としては苦しいんですけど。

でも、真面目に考えないといけないところかもね。正直、めんどくさいから放置してる部分でもあって。まずいよね。

萩原:安く依頼を受けちゃうかどうかって、いま作家界隈で一番ホットな話題ですよ。時間とクオリティをいかに天秤にかけるか、って。

ーいつも聞いてもらってありがとうございます。

萩原:いや、私、無料で聞いてる勢なんで(笑)。金払えよって話なんですけど。

ー僕の音楽配信は投げ銭システムなんで、お金は払いたい人が払ってくれればそれでいいんだよね。……でも、あれってちょっと意地悪な仕組みだよね。忠誠心を試すみたいな(笑)。でも、たまにすごい金額入れてくる人がいるんだよな〜。

萩原:そんな方もいらっしゃるんですか? たぶん、本当にいいと思って入れてくれてるんだろうな。

ー逆に100円とかの少額のほうが少ないかも。大半はタダで聞いて、入れる人がガツンと入れてくる傾向にあって。

萩原:ふうん。でも、考えてみたら、今の私の状況がそれに近いかも。私が絵を描いて、展示会に出したらいつも買ってくれる人がいて。いくら値段をつけても買ってくれる。

ーいいファンだなあ!

萩原:そういうファンがもっと増えればいいんですけどね。


ロリータの精神

萩原:ファッションクリエイターのmillnaさんって知ってます? 最初はVtuberをやってた人なんですけど、それからドール面を被って、ドールモデルとして、実写のチャンネルをやってる人で。

その人は、お人形になりたかったらしいんですよね。理想が、お人形だった、だから実際にその理想になっちゃう、っていう。私も、そういうお上品で綺麗で可愛いという人になりたいからなっちゃう、っていうコンセプトでやってるんですよ。

ーそういう、なりたい自分がいるって、いいことだと思うけどね。

萩原:それがロリータの精神です。可愛い服を着たいから、可愛い自分になる。服に合わせて自分を作るという文化です。

ーおお、そのへんもっと語って欲しい。よく知らない世界なので(笑)。

萩原:ロリータっていってもいろんなタイプがいて、ただ単純に可愛いから着てるっていう人もいます。やっぱり、いい歳こいて何してんだっていう目で見られることも多い趣味なんで、「そう思われてもいい!」って、精神的に一歩踏み出していかないと、着れない服なんですよね。原動力は、好きっていう感情とか、なりたいものになるっていう願望だと思うんですけど。

ーあれは何かを模倣してるの? それとも作り出してるの?

萩原:模倣してる人もいると思うんですけど……。それがコスプレとの違いだと思うんですよ。コスプレは模倣ですよね。ロリータは、なりたい自分像が、自分の中にある人が多い。

ーふっかい言葉だなあ、それ。模倣っていうのはつまり、実際に現実世界で現実世界にあったわけじゃないですか。系統として。でも、そういうのを目指してるわけじゃなくて、新たに作り出したもの、っていうことですよね。

萩原:そうですね。

ーじゃあ、あれは現実世界にないんだ。言ってしまえば。

萩原:ないです。

ーなるほどね。

萩原:ロリータって色々あって。ロリータがヒットした「下妻物語」で、深キョンがロココの精神がロリータを突き動かしてるんだって言ってるんですけど、それがありつつも、ゴシックはゴシックの文化だし、ロカビリーっぽい裾が広がったロリータもありますし、中華のチャイナ服っぽいのとか、和服っぽいのも。色々引っ張ってきて混ぜてるんですよね。だからロリータは幅が広いんですけど。

ー知らなかった。

萩原:知らないですよね。ロリータは深いですよぉ。それぞれがそれぞれの追求してるものがあるから。人の数だけ世界があるっていうか。

同じ系統でも、甘いスイートなロリ系とか、クラシックなちょっとヴィクトリアン調みたいなのもあるし、枝分かれしてるっていう。

ー萩原さんは何を目指してるんですか?

萩原:私はクラシック寄りです。クラシックなヴィクトリア調とか、ロココもそうですし。私が一番近いと思ったのが、イギリスのヴィクトリア調ですね。アフタヌーンティーを楽しむメイドさんがいて、大きなお屋敷で。

ー小さい女の子がお人形を買ってもらって、夢想してる感じみたいな感じ?

萩原:だいたいそれで合ってると思いますよ。近いと思います。シルバニアファミリーみたいな(笑)。

ーだからロリータなのか。奥深いね。

萩原:深く語ってるだけで、意外と薄っぺらかったりもします。可愛い服が着たい、というのが原点だったりするので。

ー可愛い服を着て、賞賛されるのが目的だったりする。

萩原:いや、わりとそうでもない気がします。そこがコスプレとの違いかも。コスプレは、写真あげて、いいねもらったとかやるんですけど、ロリータは基本的に写真はNGという人も多いんで。自分が着たいからやってるだけっていう。

ー道だね。求道者。だから、普通に生きてる僕の目にあんまり触れないんだ(笑)。

萩原:最近は、普通にアップする人も増えてきましたけど。

ー萩原さんは、絵の形で昇華してるんだ。

萩原:そうかもしれないですね。

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ーこれ、何しゃべってるんだろうね?

萩原:何しゃべってるかなんて……。内容なんてないですよ(笑)。女子の会話に内容がないのとおんなじですよ。たぶんそんなに深い会話はしてない(笑)。見る人次第ですけど。


作品をプロデュースする、ということ

萩原:私、やひろさんの作品がもっと世に出て欲しいってずっと思ってます。私、好きな作家さんがいると、もっと世に出て欲しい、もっと世に出て欲しい、って思うんですよね。

ー僕も萩原さんがもっと世に出て欲しいと思ってますよ。

萩原:頑張ってるんですけどね。なかなか。

ーだからプロデューサーつけないと。

萩原:プロデューサー……、あたしが一番苦手にしている部分ですね。作家に必要な、さっきも言ったように、プロデュース力と、演出力と、デザイン力。デザイン力はそれができちゃう人がいるから頼めばいいし、演出は自分でやりたいんですけど。プロデュース力って、なかなか身につかなくて。

ー難しいよね。

萩原:だからいまは地道にやってます。

ー僕は仕事ではやるけど、自分の創作ではあんまりやってないな。自分のことになると本気になれないんだよね。

萩原:それはあるかもしれないですね。自分のことって、客観的に見れないじゃないですか。自分の良さとか、誰にどう評価されているかとかって、客観的に見るのも限界あるし。難しい。

ーだからそこは他人に委ねたほうがうまくいくのかなあ、と。

萩原:でもひねくれているのは、「これやりなさい」って言われると、やりたくなくなるという。

ースタジオジブリの宮崎駿と鈴木敏夫の関係が、たぶんもっとも美しい、作家とプロデューサーの関係だと思うんだよね。けっこう宮崎駿が自分でやりたいっていう企画だけじゃなくて、鈴木敏夫がけしかけてるんだよね。だから、意外と鈴木敏夫が発起人になってるケースが多くて。うまく乗せてあげるみたいな。

萩原:そういうプロデューサーいたらいいな〜。ツイッターで募集したんですけど、あらわれる気配はないですね(笑)。どうしたらつくんでしょうね。絵はどうしたらプロデューサーがつくのかなと考えたことがあって。いわゆる絵をやっている人は、画廊に所属するんですよ。芸能事務所みたいな感じで。そういうところに所属できたら、打ち出す人ができるのかなあ、と。絵画とはまた違うんで、難しいところですけど。

ー最終的な媒体として何を売りたいんですか? 絵そのものを売って生計を立てるのか、それともグッズを作りたいのか、ブランドをつくりたいとか。

萩原:最終的には、ってのはあんまり考えてなかったなあ。近々ではありますけど。絵本の挿絵やりたいとか。ロリータブランドのデザインしたいとか。最終的には、というのはそんなに。最終的に何を売りたいんだろう。難しい質問ですね、私には。

ー僕にとっても難しいけどね。突き詰めてくと、現状である程度いいな、ってなっちゃうんだよね。

萩原:それは一般的なサラリーマンで生計を立ててるからですよね。

ーいや、僕も専業作家を目指してますよ。でもちょっと揺れてるかも。自分は学生のときはサラリーマンは向いてないと思って、作家しかないと思ってたんで。でも、世の中のことをよく知らないという挫折があったので、普通に働き出したら、面白かったんですよね。家にこもって文章書いてても得られない経験してるから、まあいいんかな、と。でも、マインド的にはいまも目指してます。

萩原:私はもう、仕事はやりたくないんで、作家としてやっていきたいんで、そこは決めておかないとな、と。そっか、やひろさんは作家なりたいんだ。


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演劇の可能性

そういえば「此岸の際から」(*筆者が最近書いて、ネットで発表した短編小説)は賞とかに応募しなかったんですか。

ーしなかったね。

萩原:もったいない……。小説とかって、未発表の作品に限る、とかあるじゃないですか。絵とかは発表されてても全然大丈夫なんですよ。

ーそれ思った。でもまあいいかって。なんか執着しないのがだめなのかね。執着心がないのがダメなのかもしれない。お金にも執着心ないし。

萩原:私、めっちゃ執着心ある人ですよ。

ー(笑)。

萩原:ロリータの服とかって高いんですよ。一着二万とか三万とか普通にするんですよ。それを頑張って買ったその服を自分一人で着倒したい。ロリータの服って、もう着なくなったら売るっていう人もいるんですけど、それができない。高いから、中古で買いはするんですけど、最後は自分で。

ー昔の時代のほうがもっとわかりやすかったのかなって思う。まあ昔は昔で大変だったとは思うんだけども。いやそのね、小説を書くにしても、新人賞取って、芥川賞目指して、芥川賞取ったらベストセラーみたいな。いまはそういう時代じゃないから。

萩原:それですね。私それで演劇いったんやめました。

ーあ、ほんとに?

萩原:演劇ってけっこう終わってるコンテンツで。って言ったら言葉が悪いんですけど。演劇でいま何が成功してるかって、2.5次元みたいな舞台が流行ってるんですけど、ああいうのって、別に舞台である必要はないんですよね。演劇の世界で地道にがんばっている人たちって、泥水をすすって生きていて。それでも報われない。

それはなぜかっていうと、映画館もそうですけど、周りの人が見にくるっていう文化がなくなってるんですよ。時代にほんとにそぐわない。昔は、演劇は大衆演劇とかがあって、新聞とかの役割を果たしていて、実際にあった出来事を演劇にしたりとか、娯楽として見に行くと言う文化がすごいあったりして成立してたんですけど今ほんとに成立してない。貴族の遊びって感じなんですよね。

ーそこに対して、僕は言いたいことがあるんですよ。小説ってもうほとんど誰も読まなくなってて、ましてや素人が書いたものなんて、読む人は皆無なんですよね。

で、普通の文学作品として世に出てきた作品の中で、ライトノベルみたいな設定の作品があるんですけど、あれって文学作品としては軽すぎるし、エンターテイメントとしては漫画とかアニメに負けてるしで、「ああこれはもう全部負けてるな」って思ったんですよね。中途半端になるぐらいだったら、読みづらくなったりすることも覚悟のうえで、文学にしかできないことを追求してったほうがいいのかな、とか。

あと、斜陽産業だっていうのはわかるんだけど、斜陽な産業でも人間一人食っていけないわけがないんですよね。斜陽を言い訳にするんじゃなくて、斜陽であることを前提にした戦略を立てることが大事だと思ってて。

萩原:そこ言われるとめっちゃ痛いですね……。

ー例えば本屋さんてもう完全に落ち目の業態だけれど、あたらしい業態でがんばってる本屋さんだってあるわけじゃないですか。おれも小説で専業になりたいと思っているんだけれど、何か潜り込む隙間があるんじゃないかと思ってる。

萩原:大学の頃の私はそうでした。すきま産業。

ー隙間産業というか、自分のやりたいことを追求していく、みたいな。

萩原:こないだ実際に2.5次元の演劇見に行ったんですけど、演出とか全然面白くなくて。すごいがっかりして帰ってきたんですよね。しかも高かったんですよ。これだったら、下北沢とか行って、3000円ぐらいの演劇見たほうがよかったなって。

ー良質のマイナー作品見た時に、こんないいものがなぜ評価されないんだって思うよね。

萩原:わかった。私、表現したいものの根底は、絵も演劇も同じなんですよね。でも演劇はなかなか難しいから、絵で勝負してるというか。

ー好き勝手やって、人気出てる人がうらやましいよね。多分、好き勝手はやってないんだろうけど……そう見えるだけで。

萩原:私、「好き」が流行とマッチする人は得だな〜とよく思います。友人がそうなんですけど。友人がいわゆる二次創作で流行が上がってくるとそれが好きになって、その好きで漫画を描いたら売れるっていう。それっていいなぁって。

ー僕が根本的におかしいと思うのは、たくさんの人に見られないと成り立たない仕組みがおかしいんじゃないかと思うんですよ。

萩原:たしかに。でも、私、いま、いつも絵を買ってくれるお客さんがいるんですよ。たくさんの人には支持されないけれど、その人が買ってくれるから成り立ってるところがあって。私、毎回、その人のためだけに手書きの手紙を書いてるんですよね。それがいいかどうかは、レスポンスがないのでわからないんですけど。

ーでも、可能性としてはあるよね。だって、いまの制作って基本的にアナログなんでしょ。

萩原:今はそうですね、アナログですね。単純にデジタル環境がないっていうのもあるんですけど。デジタルってやっぱり修正が効くし基本的にはコピーアンドペーストじゃないですか。ライブ感みたいなものは、そこにはあんまりないんで、どうなんだろうなあ。

ー絵って、すごく軽くなったよね。デジタルの時代になって。

萩原:絵は、そうですね、軽いですね。デジタルでささっとかけちゃうから。

ーTwitterで絵を見る時間って、大体10秒とかじゃないですか。

萩原:いやいや、1秒にも満たないですよ。

ー絵を見てる時間って、じつはそれだけ短い。だから1万いいねとかされてても、実態はどれぐらい見られてるのかなって、正直思う。

その理屈で行くと、演劇って、……最強じゃないですか(笑)。

萩原:演劇、最強ですよ!(笑) 拘束時間の塊なので。

ー物理的に、劇場に、来てもらってね。

萩原:そうなんですよ。物理的に来てもらって、静かに座ってもらって、飲み食いせずに延々と2時間とか。映画はまだかろうじて飲み食いできますけど、演劇ないですからね。静かにご飲食をご遠慮下さい、と。

ーそこじゃない? 演劇の可能性。

萩原:拘束時間が? そこがネックだと思ったから、大学のときに、カフェで演劇したりしたんですけど。

ーでも言い換えればそれは可能性ですよ。だって他にないもん。唯一無二なんだよ。映画でもそこまで縛りつけられないんだから。 1つの可能性だよね。

萩原:どう活かすかとか全然思い付かないですけど(笑)。


「ひらけた閉鎖空間」をつくりたい

萩原:私はひらけた閉鎖空間を作りたいと言う思いがあって。

ーひらけた閉鎖空間?

萩原:誰でも来れるけれども、一度入っちゃうと、たとえばそこはディズニーって言うひとつの閉鎖した空間。そこで観客はその空間に入ることを楽しむ。その世界にいる自分を楽しむというか。

ー同じ夢を見るって言うことだね。

萩原:そう、それです! 演劇も結構近いところがあって、誰でも見に来れるけれども、そこに入っちゃうともう、舞台の中の世界っていう。絵はちょっと今模索中なんで難しいんですけど、私が描いている世界観に巻き込んでいく、というのをテーマにしてるんですよね。

ーなんかそういう喫茶店とか作ったらいいんじゃない?

萩原:ああ、やりたいですそういうの。自分の趣味全開みたいなやつ。上野にアンダートさんて言う鉱物カフェがあって、あそこは割と趣味全開のコンセプトでやってます。このお店も割とそうですよね。

入る人は選ばないんだけれども、入ってきた人にはルールに従ってもらう。演劇の世界だと、舞台に四角い箱があったとして、それを演者が椅子だと言えば椅子になるし、そこに座って運転する仕草をすれば車になるし、何にでもなる。そのルールを観客を理解するんですよ。これができるのは人間しかいない。

ーそうだね。そうだしどんな小さい子でも備えてる能力だよね。幼児レベルでもおままごととかするし。能力としては持ってるんだろうね。

萩原:そういうのを私は作りたいんですよね。わかった。

ー今日は、ありがとうございました!

萩原:ありがとうございました。

ふたりめのゲストの萩原ぎんいろさん、いかがでしたでしょうか。知らない世界の話がたくさん聞けて、大満足のインタビューでした。

実際は、このインタビューにおさめられてない雑談も含めて5時間近くのインタビューとなりました……。

萩原ぎんいろさん、本当にありがとうございました!

萩原ぎんいろさんの活動、および予定の最新情報はツイッターからご参照ください。


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