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戯曲「ひたむきな星屑」 01(始)/01

第一回 田畑実戯曲賞 受賞作

上演時間/90分 キャスト/5人(女3・男2)
◆あらすじ
私たちは、いったいどこに向かおうとしているのだろうか?

この街は、入り口でも出口でもない。
朝日ケ丘には新たに建造された高速道路が敷かれている。
街を縦断するように伸びる道。渋滞の高速道路には赤いテールランプが輝いている。
そこに併設されたサービスエリアが、現在の街の主産業となった。

数年ぶりにこの街に帰ってきた青子は姪の加絵と再会する。久しぶりに再会した加絵は、誰とでも寝る女性として有名になっていた。
小さな町で閉塞感を持ち苦しむ彼女に、青子はかつての自分自身を重ね合わせる。やがて高速道路で陥没事故が起こり、街全体が混乱に飲み込まれてゆく。
◆登場人物
小山青子…元OL。東京から里帰り。親戚とは仲違いで、絶縁されている。
小山加絵…青子の姪。多くの男と寝ている。 サービスエリア(SA)のアルバイト。
大沼豊 …SAの社員でチーフ。青子とは中学時代の同級生。
水間幸太…同僚。SAのアルバイト。体力がない。
赤澤春子…クレーマー。夫とSAに遊びにきて、後に世直しに来る。

斉藤俊哉…加絵の彼氏。フラれる。
櫻井翔 …芸能人を名乗り、迷惑メールを送ってくる。
 男  …加絵と寝ている通りすがりの男。

※「櫻井翔」の役名は変更可能。迷惑メールにありがちな著名人の名前を当てはめる。
◆場所と時間
 二〇一七年の秋から冬にかけて。豊かな緑色の町並みから、冬の白い町並みに変わるまで。 渋滞のテールランプの赤い灯りの線が、いつもそこに寄り添う。
 朝日ヶ丘は、群馬県郊外に位置し、街全体が盆地にすっぽり収まっている。十三年前に新しい高速道路が敷かれ、街の中央に大きなサービスエリアが置かれた。そこは次第に発達し、今では町の主産業になっている。昼は一般人が多く利用しているが、深夜は大型トラックばかりが走っている。
 朝日ヶ丘自体には、高速道路の入り口は存在しない。道に入るには丘を越えて隣町に行かないといけない。この街は、入り口でも出口でもない。


 青子が現れる。国道沿い。黒く、真新しいアスファルトの上。
 足で地面を確かめている。


1 《黒い石について・国道沿い・カフェ》

青子  新しいアスファルトの匂い。湿気。熱。で、できている、らしい。この辺り。さっき、間違えて工事中の道に、片足入ってしまった。そっと足を引き戻すと、粘っとした黒い石が少し、付いていた。ネバっと。一つ落ちるまで、足は上げたままだった。

 足をしばらく上げたまま、やがて下ろす。
 加絵、斉藤がカフェに入店。遅れて青子も入店。

青子  夜。羽織ものがあっても少し冷えてきたので、私は国道沿いにある大きなカフェに入った。小綺麗で、天井が妙に高かった。何のひねりもない普通のココアを頼んで、でも可愛らしい子が作っているその様子を見ていたら、何となくスペシャルなものにも見えてきて、結果、私は少し嬉しくなりながらカウンター席に座った。味はやはり普通だった。ホッと和む。再開発地帯らしいこの辺りは工事現場だらけで、その場所ごとにオレンジの誘導灯が点滅していて、それに何となく目を向けながらスマートフォンの画面を光らせる。メールは来ていなかった。

 スマートフォンの画面がこうこうと光っている。

青子  一番近くにある誘導灯はここを迂回しろ、という感じで強く右の矢印を向けている。けれど、その次の誘導灯でまたすぐ左だ、またその次に左いって右だ、という感じで、様々な場所に、文字通り誘導しようとしている。あっち、こっち、そっち…。

 泣き始める斉藤。

斉藤  わんわんわんわん。
青子  え。

 ため息を吐く加絵。

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