見出し画像

【高校生物基礎】第22講「地球上にはどのようなバイオームがみられるのか?」

 ~プロローグ~
生態学ecologyは、ギリシャ語で家庭を意味するoikosと、学を意味するlogosに由来する。生態学とは、生活の場における学問である。"細胞1個"に注目して生物学を始めた我々は、ついに探究する領域を"地球"にまで広げ、非生物も含めた巨大なシステム全体について学ぼうとしている。

「だから人間よ、自然全体の崇高で完璧な威容に見入るがよい。」パスカル『パンセ』より




★テストに出やすいワード
①バイオーム
②マングローブ
③森林限界
④垂直分布
⑤水平分布



要点:地球上には多様なバイオームが成立している。



● バイオームは、バイオ(生物)とオーム(全体)を組み合わせた言葉で、そこに住む生物全体を指す。

雑談:バイオームの定義は「主として気候条件によって区分された特定の相観を持つ極相群集によって特徴づけられる生物群集の単位」だが、高校生は難しく考えず「そこに生息する生物のまとまり」と捉えておけばよい。バイオームは、世界の自然を、植生とそこに住む動物等によって大きく区分したものと思ってよい。




講義動画【バイオーム】




● 年平均気温と年降水量とバイオームの関係を図示すると下のようになる。0℃(針葉樹林を通るライン)4000mm(熱帯多雨林を通るライン)のラインがどこを通るかチェックせよ(たまに問われる)。

年平均気温・年降水量とバイオームの関係。



● バイオームは、大きく、森林のバイオーム、草原のバイオーム、荒原のバイオームに分けられる。






● 各バイオームの特徴 

*以下の代表的な樹種はだいたいすべて陰樹である。陰樹は極相に達した森林を構成するからである。

1.森林



(1)熱帯多雨林・亜熱帯多雨林


(熱帯多雨林と亜熱帯多雨林は区別できないことも多い)

*「亜」は「ちょっと違う、なりきれていない」というイメージ。

● 常緑広葉樹が主。熱帯多雨林では、非常に背の高い木や、つる植物着生植物(他の樹木など、土壌以外のものの表面で固着生活する、すなわち着生する植物)が多い。
*常緑広葉樹:一年中葉をつける、そして、葉は広葉である樹木。

熱帯多雨林ではつる植物や着生植物が多い。



● 熱帯多雨林ではヒルギ、フタバガキが生育。

雑談:熱帯では森林の階層構造が発達し、林床が暗くなりがちである。つる植物や着生植物は、他の植物に乗ることで光を獲得する。テーマパークが混雑しているように、熱帯は植物にとって理想的な環境なので、植物が密生している。なので、戦略を工夫して生きる必要がある。超混んでいるテーマパークでパレードが見たい時は、誰かに肩車してもらうだろう。つる植物や着生植物は、他人に肩車してもらって、パレードを見ている(光を獲得している)のである。(冗談です)


● 熱帯では気温が高く、分解者のはたらきが活発なため、有機物はすぐに分解され、土壌は薄くなる。(重要)

雑談:下図は、針葉樹林と熱帯多雨林における有機物の分布のイメージ。熱帯多雨林では、総有機物量の大半が植物体にある。

針葉樹林と熱帯多雨林における有機物の分布。熱帯では気温が高く、分解者のはたらきが活発なため、有機物はすぐに分解され、土壌は薄くなる。




雑談:熱帯地域で森林を伐採すると、高温や雨によって、栄養物を保持したり再循環させたりする土地の能力が奪い去られてしまう。すると、作物生産能力が急速に減少する(結果、その土地が捨てられることも多い。移動農業の型が増えることになる)。


● 亜熱帯多雨林ではビロウ、ヘゴ、ガジュマル、アコウが生育。






雑談:ソテツは精子をつくることでも有名(池野成一朗が発見した)。下図は池野成一朗が研究に用いた鹿児島県に現存するソテツの株の分株。小石川植物園にて撮影。






● 熱帯多雨林や亜熱帯多雨林にはヒルギなどから構成されるマングローブ(海岸や河口に生育する植生の総称)が見られる。

*マングローブを構成する樹木は、特殊な体を持つことが多い。支柱根で体を支え、呼吸根で呼吸を行う。

下図は支柱根(まるで建築物のようである)。

マングローブに見られる支柱根。



マングローブに見られる支柱根。



マングローブに見られる支柱根。







下図は呼吸根(根が上に突き出ている)。

マングローブに見られる呼吸根。



マングローブに見られる呼吸根。



マングローブに見られる呼吸根。





雑談:マングローブも、植物が密生する熱帯における生存のための工夫である。ランド(陸地)が混みすぎていたので、シー(河口など)に行ったのである。冗談です。

(語呂)「お昼にガキが寝てた(オヒルギ、フタバガキは熱帯多雨林によくみられる)」
お昼:オヒルギ
ガキ:フタバガキ
寝てた:熱帯多雨林

(語呂)「びろ~っと蛇があこう(赤う)なる亜熱帯(ビロウ、ヘゴ、ガジュマル、アコウは亜熱帯多雨林によくみられる)」
びろ~:ビロウ
へそが:ヘゴ
あこう:アコウ




(2)雨緑(うりょく)樹林




● インドなど雨季と乾季がはっきりしている地域(熱帯)。乾季に落葉するチークなどが生育(乾季に落葉=雨季に緑=雨緑)。

雑談:チーク材は家具材として有名。
  
(語呂)「雨がチクチク(雨緑樹林にはチークがよくみられる)」
雨:雨緑樹林
チクチク:チーク










挿絵:雨の時緑になる






(3)照葉(しょうよう)樹林




● 常緑広葉樹が主。クチクラの発達した葉(照葉)をもつ。シイ・カシ・クスノキ・ツバキ・タブノキが生育。

(語呂)「関西のシカ食ったでしょうよ(日本の関西には照葉樹林が成立する。シイ、カシ、クスノキ、ツバキ、タ"ブノキは照葉樹林によくみられる)」
シカ:シイ、カシ
食った:クスノキ、ツバキ、タブノキ
しょう:照葉








雑談:ツバキには様々な品種がある。以下は順に、百路の日暮らし(ももじのひぐらし)、光源氏(ひかるげんじ)、銀世界(ぎんせかい)。美しい花に目が行くが、葉がてかてかしている(照葉である。クチクラ層が発達している)所にも注目せよ。


ツバキ(百路の日暮らし)


ツバキ(光源氏)


ツバキ(銀世界)








(4)硬葉(こうよう)樹林




● 夏に雨が少なく冬に雨が多い地域。常緑広葉樹が主。地中海沿岸に見られる。クチクラが厚く硬くて小さい葉をもつ。オリーブ・コルクガシが生育。 

(覚え方)地中海のイメージ(オリーブオイルをパスタにかけ、ワインのコルクを抜く)。

*硬葉樹林が成立する場所(地中海)は、夏はからっと乾燥し、冬は湿潤=リゾート地に最適である。
(夏に降水量が多くじめじめして、暑い所はリゾート地にならない)

*地中海のリゾートで、ワインのコルクを開け、オリーブオイルでパスタを味わうイメージ。

硬葉樹林は地中海のリゾートのイメージ。



雑談:硬葉樹林に生育する樹種は、夏の乾燥に耐えるため、小さくて厚く硬い葉をもつ。また、幹も厚い樹皮に覆われている(厚い樹皮からコルクを採るコルクガシが有名である)。






(5)夏緑(かりょく)樹林




● 夏に雨量の多い地方に発達。落葉広葉樹(らくようこうようじゅ)からなる(冬に落葉する=冬に茶色=夏に緑)。

日本では本州東半分から北海道に分布。ミズナラ・ブナが生育。

(語呂)「夏は水飲むなら無難だ(夏緑樹林にはミズナラ、ブナがよくみられる)」
夏:夏緑樹林
水飲むなら:ミズナラ
無難:ブナ

*春、林冠の葉が茂る前に林床で開花するカタクリがみられる。

下の写真はカタクリ。

夏緑樹林の林床に見られるカタクリ。





講義動画【カタクリ】





発展:夏緑樹林とカタクリ


夏緑樹林に優占する落葉広葉樹は、夏に葉をつけ、冬に落葉する。夏緑樹林では、夏になると、葉で光が遮られ、林床が暗くなる。カタクリは、夏緑樹林の林床に適応するように進化してきた。 カタクリは(冬を球根で越し、)早春に葉を伸ばし、開花し、初夏には地上部が枯れてしまう(夏緑樹林では、夏に林床が暗くなってしまう。よって夏に葉を展開させてもろくに光合成ができない)

雑談:カタクリのような植物は、春先に一瞬だけ姿をあらわすので、「春の妖精(スプリング・エフェメラル)」と呼ばれる。





雑談:写真のユキワリイチゲも春の妖精と呼ばれる植物の一つ。早春に花を咲かし、初夏には地上部は枯れてしまう。







(6)針葉樹林


● 亜寒帯に広く分布。シラビソ、コメツガ、トウヒが生育。北海道ではエゾマツ・トドマツがみられる。

● 日本に生育する針葉樹には常緑が多いが、シベリアなどにみられるカラマツは落葉針葉樹

(語呂)「信用したのに、逃避コメントがしらける。エゾマツトドマツ。(針葉樹林にはトウヒ、コメツガ、シラビソ、エゾマツ、トドマツがよくみられる)」
信用:針葉樹林
逃避:トウヒ
コメント:コメツガ
しらける:シラビソ 
*注意!!*エゾマツ、トドマツは北海道に見られる。中部地方の亜高山帯にも針葉樹林が見られるが、ふつう、そこにエゾマツ、トドマツは分布しないので注意。








2.草原



(1)サバンナ(熱帯草原)




● イネ科草本が主体。アカシアなどの樹木が点在。
  
(覚え方)明石家さんま、熱い男(アカシア、サバンナ、熱帯草原) 



雑談:サバンナは、もともと熱帯アフリカの現地語で、背の高いイネ科草本の草原に樹木が点在するような景観を指している。乾季には野火が見られる(したがって野火に対して抵抗力のある樹種が多い)。

雑談:サバンナは、年降水量が200mm~1000mmで、はっきりした乾季のある亜熱帯・熱帯地方に見られる草原である。





(2)ステップ(温帯草原)


● イネ科草本が主体。

雑談:狭義の「ステップ」はユーラシア大陸の広大な面積に広がる温帯草原を指す。しかし、「ステップ」という語は温帯草原を指して使われることも多い。温帯草原は、北アメリカではプレーリー、南アメリカではパンパス、南アフリカではベルドと言ったように、地域ごとに呼び名が変わる。





3.荒原

(1)砂漠



● 降水量の極端に少ない地域。サボテンなどの多肉植物(たにくしょくぶつ。茎や葉に水を蓄える)が多い。

サボテン(多肉植物)。



*多肉植物は、茎や葉に水を蓄えているので、ぷっくりとした、不思議な形をしている。




(2)ツンドラ



● 北極圏など寒帯に分布。地衣類・コケ植物が主体。


 



● ポイント整理



雑談:針葉樹は、三畳紀からジュラ紀にかけて大繁栄していた(針葉樹の時代)。そして、白亜紀頃、花を咲かせる被子植物が現れた。被子植物は第三紀以降非常に多様化し、今日では、現存する維管束植物の95%以上が被子植物であると言われている(現在は被子植物の時代)。特に熱帯多雨林は被子植物の宝庫となっている。第四紀に入ると、地球の気温は急激に低下し、大陸は何度も氷河に襲われた(その度に森林は拡大と縮小を繰り返したと考えられている)。その寒冷化への適応の一つとして、植物は、草本類(主に一年生)を発達させた。大草原であるステップは、比較的新しいバイオームであると考えられている。






要点:日本には、気温が低い北から、針葉樹林・夏緑樹林・照葉樹林・亜熱帯多雨林が見られる。


● 年降水量が十分に多い日本では森林のバイオームが形成され、その特徴と分布は主に『年平均気温』によって決まる。

● 日本は「南北に長く」、また、「山が多い」。緯度や標高の違いは気温の違いを生む。そのため、日本では多様なバイオームが見られる。



日本ではすぐに雨が降る(降水量が多い)。




● なお、日本には見られない森林のバイオームもある。

冬湿潤で夏カラっと乾燥する(つまりリゾート地に最適な)地域に成立する硬葉樹林、乾季に落葉する雨緑樹林(日本に乾季はない)、熱帯多雨林などは日本に見られない。

● 日本のバイオームの水平分布:北から、
針葉樹林(主に北海道)―夏緑樹林(主に東北)―照葉樹林(主に関西)―亜熱帯多雨林(主に沖縄)

*水平分布:緯度に応じた分布(緯度によって温度条件が変化する)。




*下図はイメージ(各バイオームの境界はもっと複雑だし、そもそも、明確な線引きができないことが多い)。垂直分布は考慮していない。実際は、本州でも、標高が高い所には針葉樹林などのバイオームが見られる。


日本のバイオーム。水平分布。





要点:森林限界(中部地方で2500m)より高い標高では、気温が低いため森林は見られない。



● 日本中部地方のバイオームの垂直分布:標高が低い所から、
照葉樹林(低地帯[丘陵帯])―夏緑樹林(山地帯)―針葉樹林(亜高山帯)―高山草原(高山帯)

*垂直分布:標高に応じた分布(標高によって温度条件が変化する)。

● 日本の中部地方では、2500mが森林限界であり、それより標高が高いところでは森林は形成されない(森林が形成されないだけで、ハイマツなど、木は生育し得るので注意)。




雑談:高山草原は、高山帯に発達するバイオームである。広葉草本を主とする。開花期は夏に限定される。日本の高山では、急峻な地形の制約・不均質な積雪などの影響で、高山草原は大規模には発達しない。欧州アルプスの高山草原では、夏の間に、ヤギやヒツジの放牧が行われている。高山草原をお花畑と同義とすることもある。

雑談:厳密には、「高緯度・高山・乾燥など、生育に不適な環境条件によって森林が成立できなくなる限界」を、森林限界という。ただし、森林限界といえば、ふつう、高緯度、高山のものを指す。





● 高山帯(森林限界より高いところ)では、高山植物(森林限界より上の高山帯で生活する植物)が短い夏を利用していっせいに花を咲かせるため、『お花畑』が形成される。

● 高山帯には、ハイマツなどの低木も見られる(這うように生えるのでハイマツという)。

語呂「しんかしょ(寒い方から、針葉樹林ー夏緑樹林ー照葉樹林)」
 
下の図は日本の中部地方の垂直分布のイメージ。
(もちろん、日本全国どこでもこの図が適用できるわけではない。たとえば、当たり前だが、2500m級の山がない地域もある。)

*一般に、100m標高が高くなるごとに気温はおよそ0.5℃下がる。

日本の中部地方のバイオーム。垂直分布。



雑談:高山植物は美しいものが多い。地球温暖化により、森林限界のラインが上昇し、高山植物が絶滅する可能性がある。

雑談:自然科学者フンボルト(植物地理学の設立者の一人、フンボルトペンギンの命名者)は以下のように垂直分布について語っている。「短い期間にかなり広範な地域を歩いた観察者が、高い山に登ってみれば、気候帯が層状に配置されて、これに応じて植生の分布が規則正しく変わっていることがわかる。」(フンボルトは植生についてのみ触れているが、バイオームの分布も変化するので注意。)

雑談:ハイマツ類は、森林限界よりも寒冷な場所を代表する低木である。ハイマツの群落は地面を這うような形の林型をしている。なお、富士山にも広大な高山帯があるが、そこにはハイマツが分布していない(代わりにほふく型のカラマツがその位置を占めている)。これは、まだハイマツの侵入がないからであると考えられている。一般に、標高を増すにしたがってハイマツ群落はまばらになり、それより上部の草原(お花畑)、さらに岩石地へと続く。

雑談:日本海側と太平洋側でも、垂直分布は異なる。たとえば、ブナ林は、日本海側で上下に広がり、分布が広くなることが知られている。逆に、シラビソ・オオシラビソ林は、太平洋側で上下に分布が広がる(あまり単純な傾向はない。昔、単純な垂直分布の図だけ見せて、どちらが日本海側か選ばせた模試の問題があったが、本来解答不能である)。







挿絵:パフェにおける垂直分布








Q&A



Q.バイオームには動物も含むのに、どうしてバイオームの名称に植生の名称が付けられているの?…その地域のバイオームは植物(生産者)に依存しているといってもよい。植生(厳密には相観、つまり植物群集の見た目)が地域ごとにはっきり分かれているので、その名称をバイオームのタイトルとしている。入試では突っ込まれない。イメージとしては、主人公の名前がタイトル名になっている漫画・映画である。「NARUT●」「ゴジ●」「名探偵●●●」「●パン三世」など。主人公以外にもたくさん登場人物がいるが、わかりやすくするために、主人公の名前(目立つもの)をタイトルにしているのである。

Q.森林限界は絶対2500m?…違う。2500mは主に「中部地方の」森林限界の高さ。当たり前だが、2500m級の山脈がない地域もたくさんあるし、北の方が気温が下がるので、境界は下がる。

Q.森林限界より高い所では木は存在しない?…ある。森林限界より高い標高では「森林」が成立しないだけで、ハイマツなど、低木は生育している。

Q.常緑樹は絶対に葉を落とさないの?…一年中、少しずつ落葉する。特定の時期に一気に葉を落とさない、という意味で常緑と言っている(もちろん、常緑ー落葉の性質の間には、はっきりとした境界はなく、グラデーションである。常緑樹も、冬に多く葉を落とすこともある)。