見出し画像

【高校生物】代謝④「地球上ではどのような同化が行われているのか?」

~プロローグ~
原料物質の化学的複雑さを増加させるような化学変化、すなわち同化こそ、生命の本質のひとつであると言ってもよいだろう。身の回りを見回してみよ。そのような、自ら秩序だっていく、複雑なものが合成されていくものがあるだろうか?
(もちろん、生物も、物理の法則に逆らっているわけではない。一見、逆らっているように見えるだけである。しかし、その、逆らっているように見えることをすることでさえ、とんでもない偉業なのである。)

「生きている生物体はどのようにして崩壊するのを免れているのでしょうか?」シュレーディンガー『生命とは何か』より





★テストに出やすいワード
①光合成細菌
②バクテリオクロロフィル
③化学合成細菌
④窒素同化
⑤アミノ基転移酵素



要点:シアノバクテリアはクロロフィルaをもち、酸素発生型の光合成を行う。光合成細菌はバクテリオクロロフィルを持ち、非酸素発生型の光合成を行う(H2Sが分解され、Sが生じる)。


(1)シアノバクテリア


● シアノバクテリアは光合成色素としてクロロフィルa、クロロフィルbをもち、酸素発生型の光合成を行う。
生物例:ユレモ、ネンジュモ、アナベナ

雑談:シアノバクテリアのもつ光合成色素には、クロロフィルa、クロロフィルb、クロロフィルd、カロテン、キサントフィル、フィコシアニン、フィコエリトリンなどがある(種によってもつ光合成色素の種類は異なる)。




(2)光合成細菌


光合成細菌は、光合成色素として、バクテリオクロロフィルをもつ。
生物例:緑色硫黄細菌(りょくしょくいおうさいきん)、紅色硫黄細菌(こうしょくいおうさいきん)

(化学合成細菌と混同してしまいがち。「色が名前に入っているから、色素で光合成しそう」と覚える。)

雑談:バクテリオクロロフィルは、クロロフィルaやbとよく似ている。

画像3
クロロフィルa、b、バクテリオクロロフィルにはNやMgが含まれていることもチェックしておこう。



雑談:すべての光合成細菌はカロテノイドをもつ。カロテノイドが吸収した光エネルギーはバクテリオクロロフィルに渡され、光化学反応に利用される。


● 光合成細菌は、光合成において、電子伝達系に電子を供給する物質として、水ではなく硫化水素(H2S)を使う。よって、酸素は生じず、硫黄(S)が生じる。

6CO2+12H2S → C6H12O6 + 12S + 6H2O

(光合成細菌の行う光合成では、酸素ではなく硫黄が生じていることに注意)

語呂「高校生!最近バックれてるなら言おうよ!(光合成細菌、バクテリオクロロフィル、硫黄が生じる)」

光合成細菌である緑色硫黄細菌や紅色硫黄細菌が行う光合成では、酸素ではなく硫黄が生じる。



雑談:光合成の進化的な起源については、まだ確定した説はない。始原型の光合成で使われていた色素や電子供与体はどのようなものであったかについては、様々な説があり、確定していない(下表)。なお、紅色硫黄細菌と緑色硫黄細菌が合体してシアノバクテリアの起源となる生物が生じたとする説が有力である(光合成細菌は、光化学系Ⅱと光化学系Ⅰのどちらか一方を単独で持っている。たとえば紅色硫黄細菌は光化学系Ⅱを、緑色硫黄細菌は光化学系Ⅰを、それぞれ単独で持っている)。


雑談:多くの光合成細菌(ほとんどの緑色硫黄細菌、多くの紅色硫黄細菌)は窒素固定を行う(窒素ガスをアンモニアに変換する)ことが知られている。窒素固定には、強い還元力が必要であるが、光合成細菌は光エネルギーを利用して、容易に還元力の生成行うことができる。






要点:化学合成細菌は無機物の酸化により得た化学エネルギーを用いて有機物を合成する。


● 化学合成細菌は無機物の酸化により得た化学エネルギーを用いて有機物を合成する。この反応を化学合成という。

● 化学合成を行う細菌を化学合成細菌と言う。
例:硝酸菌、亜硝酸菌、硫黄細菌

● 光合成では有機物の合成に光エネルギーを用いるが、化学合成では化学エネルギーを用いる。

雑談:物が燃える時、光や熱エネルギーが放出される。同じように、無機物を酸化することによって、化学エネルギーを取り出すことができる。化学合成細菌はその化学エネルギーを用いて有機物を合成している(ただし、有機物の酸化[呼吸]と違って、無機物の酸化では、得られるエネルギーは非常に少ない。そのため、化学合成細菌の増殖スピードは遅いことが多い)。




● アンモニアは亜硝酸菌により酸化され亜硝酸に、亜硝酸は硝酸菌により酸化され硝酸になる。

覚え方「パンを作るのがパン屋さん。硝酸を作るのが硝酸菌。」

雑談:生物基礎で登場した亜硝酸菌、硝酸菌は化学合成細菌である。硝化の正体は、彼らの行う化学合成だったのだ。

アンモニアは亜硝酸菌により酸化され亜硝酸に、亜硝酸は硝酸菌により酸化され硝酸になる。







発展:硫黄細菌


一般に、硫黄または無機硫黄化合物を酸化して得られる化学エネルギーを用いてCO2固定を行う細菌を硫黄細菌と言う(広義の硫黄細菌に、光合成細菌である紅色硫黄細菌や緑色硫黄細菌を含める場合もある)。
H2Sの酸化反応には、いくつもの反応が関わるが、最初の過程で単体の硫黄(S)を生じる(2H2S+O2→2S+2H2O)。単体の硫黄は不溶性であるため、細胞内に蓄積する。



雑談:光の届かない深海の熱水噴出孔では、硫化水素を含む熱水が湧き出しており、化学合成細菌が生産者となって生態系を支えている(硫黄細菌がH2Sを酸化して化学合成を行っている。その硫黄細菌はカニやエビなどに食べられている)。最初の生命が生じたのは、熱水噴出孔のような環境だったのではないかとも考えられている(なお、熱水噴出孔からは酸素が出ないので、結局は、海底の生態系も、酸素は植物の行う光合成に依存しなければならないという考えもある)。

雑談:熱水噴出孔に住むチューブワームには、硫黄細菌が細胞内共生している。チューブワームは消化管を持たず、有機物は硫黄細菌から供給される。チューブワームはH2Sを取り込んで硫黄細菌に供給している(チューブワームの血中ヘモグロビンはO2とH2Sの両者を結合して硫黄細菌に運ぶ)。



● 炭酸同化の分類

画像6
炭酸同化の分類。


講義動画【炭酸同化】


講義動画【窒素循環】






発展:亜硝酸菌と硝酸菌


● 亜硝酸菌(アンモニア酸化菌とも呼ばれる)は、NH3から電子を奪い、それを流し、そして、非常に強い酸素受容体であるO2へ受け渡している。以下のような反応が起こり、

2NH3 + 3O2 → 2HNO2 + 2H2O

酸素が電子を受け取りH2Oが生成すると考えられている(エネルギーの川を流れ落ちてきた電子と、周囲のH+、O2が結合し、H2Oが生じる)。この時、ATPとNAD(P)Hが生成し(NADHとNADPHのどちらを使うかは種によって異なる)、それらを使って、カルビン・ベンソン回路によって炭水化物を合成する。

下の図はイメージ。実際の反応はもっと複雑である。

画像2
亜硝酸菌は、NH3から電子を奪い、それを流し、O2へ受け渡している。この時、ATPとNAD(P)Hが生成する。それらを使って、カルビン・ベンソン回路によって炭水化物を合成する。


● 硝酸菌(亜硝酸酸化菌とも呼ばれる)が行う反応においても、O2が電子を受け取ってH2Oが生じている。しかし、代謝経路の中に投入されるH2Oもあるため、差し引きで、反応式からはH2Oが消えている。結果、起こる反応は

2HNO2 + O2 → 2HNO3

のように表される。
この時、ATPとNAD(P)Hが生成し(NADHとNADPHのどちらを使うかは種によって異なる)、それらを使って、カルビン・ベンソン回路を用いて炭水化物を合成する。

下の図はイメージ。実際はもっと複雑である。

画像2
硝酸菌も電子をO2へ受け渡している。この時、ATPとNAD(P)Hが生成する。それらを使って、カルビン・ベンソン回路によって炭水化物を合成する。







要点:植物は根から吸収した硝酸イオンやアンモニウムイオンを用いてアミノ酸を合成する。(窒素同化)


(1)硝酸イオンの還元


● 植物は、根から吸収した無機窒素化合物(アンモニウムイオンや硝酸イオン)を用いて、アミノ酸(有機窒素化合物)を合成する。このはたらきを窒素同化(窒素を用いた同化[生合成反応])という。

● 植物は根から硝酸イオンとアンモニウムイオンを吸収する。

● 根から吸収された硝酸イオンは、硝酸還元酵素(しょうさんかんげんこうそ)により亜硝酸に還元される。さらに、亜硝酸は亜硝酸還元酵素(あしょうさんかんげんこうそ)によりアンモニウムイオンに還元される。

*硝酸イオンをアンモニウムイオンに還元するのにはコストがかかる(詳しく知る必要はないが、たとえば、硝酸還元酵素が働くためにはNADPHまたはNADHによる電子供与が必要である)。「植物はアンモニウムイオンが欲しいが、硝化細菌がアンモニウムイオンを硝酸イオンに変えてしまっているから、仕方なくNADPHなどを使って硝酸イオンをアンモニウムイオンに戻している」というイメージを持っておけばよい(植物は窒素同化に最初はアンモニアを利用していたが、酸素を用いてアンモニウムイオンを硝酸イオンに変える硝化細菌が出現したため、これをアンモニウムイオンに再還元して利用する代謝経路が備わったと考えることができる。ただし、現実に、植物がアンモニウムイオンと硝酸イオンのどちらを主に根から吸収するかについては、様々な条件により異なり、複雑である。日本の森林の土壌では、アンモニウムイオンが主な窒素源となっているらしいことがわかっている)。

植物の根から吸収された硝酸イオンは、硝酸還元酵素により亜硝酸に還元される。さらに、亜硝酸は亜硝酸還元酵素によりアンモニウムイオンに還元される。



雑談:亜硝酸イオンは非常に反応性に富み、毒性を持つ。植物細胞は、速やかに亜硝酸イオンを亜硝酸還元酵素によってアンモニウムイオンに還元する。

雑談:硝酸から亜硝酸、さらにアンモニウムイオンへの還元のために消費するエネルギー量は、植物の全身のエネルギー消費量の25%に達するとも言われる。





発展:窒素同化とNADPH


根から吸収された硝酸イオンは(硝酸還元酵素、亜硝酸還元酵素により)還元され、アンモニウムイオンに変換されるが、この還元に光化学系Ⅰで作られたNADPHの還元力を利用している(硝酸イオンの還元は主に日中に活発に起こる。光の照射によって光化学系Ⅰが駆動し、NADPHが増加するからである)。また、グルタミン合成酵素が働くためにはチラコイドの電子伝達系で合成されたATPが必要である。光がない環境では窒素同化は進みにくいが、それは、光合成によるNADPHやATPの生成がないためである(光化学系Ⅰで生産されたNADPHの還元力により硝酸イオンの還元が活発化する)。

雑談:ほとんどの硝酸還元酵素はNADHを硝酸の還元のために用いるが、NADHあるいはNADPHを用いる型もある。亜硝酸還元酵素は、亜硝酸の還元のために還元型フェレドキシン(フェレドキシンは電子伝達を行うタンパク質)を用いるが、還元型フェレドキシンは、NADPHにより還元されてできる(下図はイメージ)。

図の還元型フェレドキシンは、NADPHにより還元されてできる。すなわち、亜硝酸イオンの還元には、NADPHが必要である。




(2)窒素同化の詳細


画像4
窒素同化。


*グルタミンとグルタミン酸はどちらもアミノ酸(アミノ基にNを持つ)。グルタミンは、さらに側鎖にもNを持つ。

①で働く酵素:グルタミン合成酵素(文字通りグルタミンを合成する酵素。働くためにATPが必要。)

雑談:高濃度のアンモニウムイオンは毒性がある。グルタミン合成酵素は反応性が高く、すばやくアンモニアと反応できる。

②で働く酵素:グルタミン酸合成酵素(文字通りグルタミン酸を合成する酵素)

③で働く酵素:アミノ基転移酵素(あみのきてんきこうそ。文字通りアミノ基を転移させる)


● アンモニアはグルタミン酸と反応し、グルタミンが合成される(上図①)。
*この反応は、多くの生物においてアンモニアの取り込みに重要な反応である。この反応はATPの加水分解によって推し進められる。

アンモニアはグルタミン酸と反応し、グルタミンが合成される。この反応はATPの加水分解によって推し進められる。


語呂「ぐるたみんさーん、Nをもらってくださいよー(グルタミン酸に敬語を使ってNを持ってもらうイメージ。Nをグルタミン酸に押し付けたら、態度を豹変させて "さん" を取り、おい!グルタミン!と呼び捨てにする)」


● グルタミンはαーケトグルタル酸と反応し、グルタミン酸が合成される。この反応はグルタミン酸合成酵素により触媒される(上図②)。

● グルタミン酸は有機酸(ーCOOH[カルボキシ基]は持つがーNH2[アミノ基]をもたない)と反応し、アミノ酸がつくられる。この反応はアミノ基転移酵素により触媒される(上図③)。

● アミノ酸はいろいろな有機窒素化合物に変化していく。

● 窒素を含む化合物の例(よく問われる):塩基(したがってATP、DNA、RNA)、アミノ酸(したがってタンパク質)、クロロフィル

● 窒素同化は、主に葉緑体で起こる。

<Q.窒素同化の図で、「アンモニウムイオン」と書かれていたり「アンモニア」と書かれていたりするけど、どっちが正しいの?…入試では問題文に合わせればよい。定期テスト等では今使っている教科書や資料集の表記に合わせればよい。実際には、pH7では、大部分のアンモニアはアンモニウムイオンになっている。しかし、多くの酵素の触媒中心ではアンモニアが反応分子になる。したがって、どちらの記述も間違っていない。>


雑談:硝酸還元酵素(細胞質に存在する)によって硝酸は亜硝酸イオンに変換される。亜硝酸イオンは細胞質から葉緑体へ輸送され、速やかに亜硝酸還元酵素によってアンモニウムイオンに変換される。


硝酸還元酵素によって硝酸は亜硝酸イオンに変換される。亜硝酸イオンは葉緑体へ輸送され、アンモニウムイオンに変換される。



● 硝酸イオンやアンモニウムイオンからアミノ酸をつくる反応、即ち「窒素を含む無機物から窒素を含む有機物をつくる反応」を「一次窒素同化」と呼び、アミノ酸[窒素を含む単純な有機物]から、タンパク質[窒素を含む複雑な有機物]をつくる反応を「二次窒素同化」とよぶことがある。窒素同化をこのように分類すれば、「動物は一次窒素同化はできないが、二次窒素同化はできる」ということになる。というか、タンパク質合成(セントラルドグマにおける翻訳)は全生物が行うので、全生物が二次窒素同化を行うといえる。しかし、ふつう「窒素同化」といえば植物などが行う一次窒素同を指す。



雑談:窒素は植物の生育に欠かせないものである。市販されている肥料の中には、たくさんの窒素が入っている。下図は市販されている肥料の袋に記載された成分表示。「アンモニア性窒素」という表示は、窒素がアンモニアの形で含まれていますよ、ということを表している。








講義動画【窒素同化】




講義動画【硝酸イオン吸収に関する計算問題】





雑談:植物は窒素同化だけでなく、硫黄同化・リン酸同化も行っている。それぞれ、土壌中の硫酸イオン・リン酸イオンが根から吸収され、硫黄を含む有機化合物・リン酸を含む有機化合物が合成される。
*硫黄同化:硫酸イオンから硫黄を含む有機化合物を合成
*リン酸同化:リン酸イオンからリン酸を含む有機化合物を合成






雑談





まだわかっていないこと

● 酸素発生型の光合成はどのように進化してきたのか。非酸素発生型の光合成は酸素発生型の光合成のプロトタイプなのか。

● 化学合成細菌の行う化学合成や、光合成細菌の行う光合成について、その代謝経路・反応系が完全には解明されていない。

● 植物の根におけるアンモニウムイオンや硝酸イオンの輸送には、どのような輸送タンパク質が関わっているのか。また、その輸送は、どのような環境条件に影響されるのか。

● 土壌溶液中のアンモニウムイオンや硝酸イオンをめぐって、植物と微生物の間で、どのような獲得競争が行われているのか。

● 大気中のCO2濃度は、今世紀中に2倍になるとも予想されている。そのような大規模な環境の変化は、地球上の独立栄養生物の行う同化にどのような影響を与えるのか。

● 地球上には、どのような細菌が生息しているのか。たとえば、窒素循環において、いくつかの反応を行う未発見の細菌の存在が予測されている。もしかしたら、培養が困難だから見つかっていないだけで、生態系の物質循環にとって重要な細菌が、まだ土壌中(あるいは水辺)にたくさんいるのかもしれない。