見出し画像

【高校生物】生物の生活③「生物はエネルギーの流れにどのようにかかわるのか?」

~プロローグ~

「生きた自然の中では、全体と結びついていないものは何も起こらない。」 ゲーテ『客観と主観の仲介者としての実験』より

「生態学は自然科学と社会科学を結び、より一層複合領域の学問となってきた。もはや生態学はただ単なる生物学上の主題ではないのである。・・・現実の世界は、そのほとんどすべてにおいて、自然科学の要素と社会、経済、そして政治的要素を含んでおり、自然、社会両科学の複合体としての生態学は、人間問題に応用できる非常に大きな能力をもっているのである。」オダム『基礎生態学』より






★テストに出やすいワード
①総生産量・純生産量
②同化量
③不消化排出量
④生態ピラミッド
⑤外来生物



要点:純生産量=総生産量-呼吸量


雑談:生態系を構成する生産者・消費者・分解者の間における物質の供給・取り込み・放出などの量的なバランスを「物質収支」という。

● 一定面積内に存在する生物体の量を現存量という。


(1)生産者について


● 植物が光合成によってつくりだした有機物の総量を総生産量といい、総生産量から呼吸で消費された有機物量を差し引いたものを純生産量という(①)

*有機物には多くのエネルギーが含まれている。したがって、有機物の流れを追うことは、エネルギーの流れを追うことでもある(ただし、CやNが生態系内を循環するのに対し、エネルギーは「熱エネルギー」となって宇宙へ[生態系の外へ]出ていくので注意)。生産者によって補足された光エネルギーは、有機物内の化学エネルギーに変換され、熱を発散する代謝反応によって放出される。

雑談:厳密には、「熱」と「熱エネルギー」の定義は異なる。しかし、高校生は気にせず、生物の教科書や図説の表現をそのまま使えばよい(厳密には、「熱 (heat)」は高い温度の物体から低い温度の物体に移動するエネルギーを指し、「熱エネルギー (thermal energy) 」は内部エネルギーを指す)。

雑談:「生産」という用語は、蓄積された有機物を表す語である。ふつうは1年単位で考える。つまり、本来は生産量は、生産速度のことなのだが、特に混乱しない限り、「量」と呼ぶことが許容されている。


● 有機物は、動物に食べられてしまうこともある(被食量)。枯死したりする葉・枝にも有機物が含まれる(枯死量)。よって生産者が一定期間に成長した量(成長量)は、②のように表すことができる。

★純生産量=総生産量-呼吸量 …①  

★生産者の成長量=純生産量-枯死量-被食量…②


(調査期間が1年の場合、)この②で求めた成長量が、次の年の現存量に加わることになる(たとえば、ある時点での現存量が100トンだったとして、それからの1年間の成長量が5トンだった場合、1年後の現存量は105トンになる)。


純生産量=総生産量-呼吸量
(生産者の)成長量=純生産量-枯死量-被食量





雑談:以下のような装置を森林に何個も設置すると、おおよその枯死量を求めることができる。





(2)消費者について



● 消費者の同化量は、消費者が捕食によって体内に取りこんだもの(摂食量)のうち、不消化のまま排出された量(不消化排出量)を除いたものに等しい(③)。

★同化量=摂食量-不消化排出量  …③

*ここで言う同化assimilation(外界から摂取した物質を自己に有用な物質に作り変えること)は、代謝のところで学んだ同化anabolism(化学的複雑さを増加させる化学変化)とは異なる意味の用語である。しかし、日本語にするとどちらも「同化」になってしまう。


● さらに同化量から呼吸量を引いたものを消費者の生産量とよぶ(④)。

★(消費者の)生産量=同化量ー呼吸量 …④

(消費者の生産量=同化量―呼吸量―老廃物排出量とすることもある。)

● 生産者の総生産量は消費者の同化量に、生産者の純生産量は消費者の生産量に相当する。

生産者の総生産量ー呼吸量=生産者の純生産量
消費者の同化量 ー呼吸量=消費者の生産量


● 消費者は、より高次の消費者に捕食されたり(被食量)、病気などで死んだり(死亡量)するので、一次消費者が一定期間内に成長する量(成長量)は⑤のようになる。

★(消費者の)成長量=生産量-死亡量-被食量  …⑤



同化量=摂食量-不消化排出量
(消費者の)生産量=同化量ー呼吸量
(消費者の)成長量=生産量-死亡量-被食量


(「動物は生産者ではなく消費者なのに、生産量という語を使うのはおかしくない?」と思ったかもしれない。しかし、食物を体内に取り入れ、これを新しい生物体に作りかえているという意味で、動物も一種の「生産」を行っていることになる。植物が無機物を材料とした有機物の生産を行っているのに対して、動物は、有機物を材料とした別の有機物の生産を行っていると言える。)


講義動画【物質収支】




*ふつう、物質収支は、生物集団について考える。生物1匹で考える場合は、たとえば死亡量は、抜け毛などに含まれる有機物量を表す。





発展:エネルギー効率


①生産者の光合成によって利用される光エネルギーの利用効率は、次のように表される(あまり難しく考えない。降り注いできたエネルギーをどれだけ利用できたかという効率である)。

生産者のエネルギー効率。



② 消費者のエネルギー効率:食物連鎖の各栄養段階で、次のように表される(下の式はふつう問題文で示される)。

消費者のエネルギー効率。


*一次消費者のエネルギー効率を求める場合は、分母には生産者の総生産を入れる。例えば、一次消費者の同化量が10、生産者の総生産量が100の場合、一次消費者のエネルギー効率は10%となる。

*一般に高次の栄養段階ほど、エネルギーの利用効率は大きくなる(高次の消費者ほど無駄なく摂食した有機物のエネルギーを利用できる[得られるエネルギーの量は減っていくが、利用効率は高くなっていく])。






要点:個体数ピラミッド、生体量ピラミッドは逆転することがあるが、エネルギーピラミッドは逆転しない。



● 生産者によって生態系に取りこまれたエネルギーは栄養段階が上がるにつれて減少していく。一定期間内に獲得されたエネルギー量の棒グラフを下位のものから積み上げたものを生産力ピラミッド(またはエネルギーピラミッド)という。

雑談:厳密には、生産力は、単位空間・単位時間当たりの有機物生産量、すなわち有機物の生産速度を表すが、有機物量はエネルギー量に換算できるので、生産力ピラミッドとエネルギーピラミッドはほぼ同じ形になる。したがって生産力ピラミッドとエネルギーピラミッドは区別されないことが多い。参考:『新課程生物図録』(数研出版)、『生態の辞典』(東京堂出版)、『基礎生態学』(培風館)、『生態学入門 日本生態学会編』(東京化学同人)


● 生産力ピラミッド(エネルギーピラミッド)は絶対に逆転しない(生物は代謝とともに熱エネルギーを宇宙に放射しているので、ピラミッド型になるのは当たり前。被食者が得たエネルギーより多くエネルギーを捕食者が得るなんて不可能[エネルギー保存則])。

雑談:「今日までに知られているあらゆる自然現象を通じて、その全部にあてはまる事実—―法則といってもよい――が一つある。これまでわかっているところでは、この法則には一つの例外もなく、精確に成立する。これがすなわちエネルギー保存の法則である。その内容は次のとおりである。ここに、我々がエネルギーと名付けるある一つの量を考えると、自然界でどんな複雑な現象が起こっても、その量は変化しないというのである。」ファインマン『ファインマン物理学』より

● 各栄養段階の個体数をピラミッド形に表したものを個体数ピラミッド、各栄養段階の生体量(重さ)をピラミッド形に表したものを生体量ピラミッドという。

● 個体数ピラミッド・生体量ピラミッド・生産力ピラミッドをあわせて生態ピラミッドという。

生態ピラミッド。




ピラミッドが逆転する例が問われる(先述した通り、生産力ピラミッドは絶対に逆転しない)。

個体数ピラミッドや生体量ピラミッドは逆転することがある。




・個体数ピラミッドの逆転例:生産者がサクラ、一次消費者がケムシ。

・生体量ピラミッドの逆転例:生産者が植物プランクトン、一次消費者が動物プランクトン(植物プランクトンは増殖が速く食い尽くされない)

雑談:植物プランクトンのような小型生産者生物の代謝や循環は急速であり、小さな現存量をもって大きな出力をもたらし得る。春の大増殖期では、植物プランクトンの総重量は、動物プランクトンの総重量より重いが、冬のような他の時期ではピラミッドの逆転が起こっていることが多い。湖や海洋ではよく生体量ピラミッドが逆転する。

雑談:現在では、分解者は消費者に含めることが多い(消費者のうち、生物の遺骸やふんなどに含まれる有機物を無機物に分解する生物を総称して分解者と呼ぶ)。たとえば、分解者の情報を生体量ピラミッドに書き入れる場合は、以下のように描くことが多い。




講義動画【生態ピラミッド】




雑談:葉の柵状組織では、葉肉細胞が密集して並んでおり、強光を吸収しやすい。海綿状組織では、細胞間隙が多く、柵状組織を透過してきた弱光が乱反射しやすくなっている。このように、植物の葉は効率よく光を吸収できるような構造となっている。それにもかかわらず、光合成生物によって化学エネルギーに変換されるのは、可視光のわずか1%である。さらに、栄養段階間のエネルギー変換効率は10%程度に過ぎない。

葉の断面。




講義動画【植物の体についての復習】








要点:極相林では、呼吸量がとても大きくなり、純生産量が小さくなる。



● 極相に近づくほど、総生産量がほぼ一定になる(無限に葉を増やせるわけがない)。また、非同化器官(茎など)の割合が大きくなり、呼吸量が増加するため、純生産量は減少していく。極相では、成長量は0に近づく。図はイメージ。

極相林では、呼吸量がとても大きく、純生産量が小さくなる。


*総生産量は、葉の量の変化に伴って変化する(一般に、ピークを迎え、やや減少し、一定となる)。

*呼吸量は、同化器官(葉)の呼吸量と、非同化器官の呼吸量の合計である。

*葉の量はすぐに一定になるが、その後も非同化器官は増え続け、呼吸量が増え続ける。やがて、純生産量(=総生産量ー呼吸量)は減っていく。その結果、成長量(=純生産量ー(枯死量+被食量))は0へ近づく(極相では成長量はほぼ0になる)

● 一般に、熱帯多雨林などの森林の総生産量は大きい。しかし、熱帯では気温が高く、呼吸量も大きい(熱帯の土壌が薄いのは、分解者による呼吸が活発で、土壌中の有機物が素早く分解されるから)。

● 植物プランクトンは、樹木の幹や枝のような、巨大な非同化器官をもたない。したがって植物プランクトンの呼吸量は非常に小さい(同化器官の割合が高い)。






発展:熱帯多雨林と外洋の純生産量


地球上の熱帯多雨林と外洋の単位面積当たりの純生産量を比べてみると、熱帯多雨林の方が大きい(下表②)。しかし、外洋の総面積は非常に大きいので(下表①)、世界の純生産量(地球の外洋全ての純生産量を足し合わせた値)は、外洋の方が熱帯多雨林よりも大きくなる(下表③)。






要点:生産構造図は層別刈取法で作成する。


● 植物によって、どこに(その植物の下の方か上の方か)同化器官(光合成を行う部分。一般に、葉)と非同化器官(一般に、茎や根など、光合成できない部分)をつけるのかは異なる。





● 植物群落(同一の環境内に生活する植物の集団)内の同化器官と非同化器官の空間的な分布状態を生産構造という。

● 植物群落の生産構造を解明するための技法を層別刈取法(そうべつかりとりほう)といい、層別刈取法を行って植物群落の生産構造を図に示したものを生産構造図(せいさんこうぞうず)という。
*生産構造図:植物群落の同化器官と非同化器官の量的関係を、一定間隔に分け、垂直的に表したもの。




● 層別刈取法の詳細
①まず光強度の垂直分布を測定する。
②次に、一定面積を地上に定め、その内部に含まれる植物を一定の厚さの層ごとに切り分け、各層ごとに同化器官(葉)と非同化器官(光合成を行わない茎など)の質量を測定する。その結果を表した図を生産構造図という。

下図は層別刈取法のイメージ。




● 草原の群落の生産構造図は広葉型(こうようがた)イネ科型(いねかがた)に大別される。それぞれの群落には、以下のような草本が見られる。




①広葉型:葉が水平に茎の上部につくので、光が上層でさえぎられて、群落の内部にほとんど光が届かない。また、一般に同化器官に比べて非同化器官の割合が高く、有機物生産に有利とはいえない。
しかし、他の植物より丈が高ければ、おおいかぶさって光をうばい取ることができる。




②イネ科型:細長い葉が斜めに立ち上がっているので、群落の内部まで光がよく届く(したがって葉が多く存在できる)。同化器官に比べて非同化器官の割合が低いので『有機物の生産に有利である』。(よく問われる)





広葉型の生産構造図となる草原の植物の例:オナモミ、ダイズ、アカザ、ミゾソバ  
語呂「耳赤くなって高揚しちゃう、大好き(耳でオナモ"ミ"、"ミ"ゾソバ。赤でアカザ。高揚で広葉。大好きでダイズ。)」
 

イネ科型の生産構造図となる草原の植物の例:ススキ、イネ、チカラシバ、チガヤ




*なお、森林の生産構造図は以下のようになる。幹があるため、非同化器官が非常に多い。また、林冠でほとんどの太陽光が吸収される。



雑談:森林の層別刈取法では、一部の木だけ伐採して、そのデータをもとに、区画内の伐採しなかった木についての値を推定するなどして生産構造図をつくる。




講義動画【層別刈取法・生産構造図】




雑談:層別刈取法は、門司正三らが提唱した、植物群落の生産構造を解明するための技法である。一定の時間間隔で経時的に調査を行うことにより、その群落構造の変化を物質生産と結び付けて解析することもできる。なかなか実際にできない実験かもしれないが、資料集で写真は見ておくと良い(高校生のころ、大学で簡易的にやらせていただいたことがある。滅茶苦茶大変だったことを覚えている)。

Q.生産構造図なんて作らなくても写真を撮ればよくない?…植物のどの高さに葉が多くついているか、図にすると見やすくなる。見た目を数値化することも大切である。

Q.生産構造図がなんとなくしっくりこない。…見慣れない形にびっくりするだろうが、難しい図ではない。相対照度は、光の当たる強さのこと。上の方の葉ほど明るい光を受けるのは当たり前で、地面に近づくほど暗くなる。左右に突き出たグラフは、左右で分けて考える。どうして葉とそれ以外の重さを区別して別のグラフに描くかと言うと、葉は、光合成を行う特別な器官だからである。どの明るさの位置に、どのくらいの量、どのような形の葉をつけるかは、植物にとって、非常に重大な、生存に関わる選択である。












発展:湖の表層の栄養塩類と植物プランクトンの季節変動




光と水温について:光が当たると水温が上がる。水温よりも光量が先にピークに達する。

(日の長さの変化は、気温の変化に先行して起こる。たとえば、夜が最も長くなる冬至の日は十二月の下旬だが、最も寒くなるのは翌年の二月くらいである。)



①冬
・湖の底に4℃の水(水は4℃で最も密度が大きい)がある。表層の水は4℃以下で軽い。
・表層に栄養塩類が多いが、光量・水温が低く、植物プランクトンは増殖できない。

②春
・光量と水温の増加によって植物プランクトンは増殖する。(春の大増殖)
・栄養塩類は植物プランクトンによって消費される。
・やがて、植物プランクトンは、栄養塩類の減少と捕食者の増加によって減少する。

③夏
・表層の水は高温になり、密度が小さくなるため、水の上下の移動が起こらない。
・下層から栄養塩類が運ばれないため、植物プランクトンは増殖できない。(栄養塩類が限定要因となって増殖できない)

④秋
・表層の水温が冷やされて、下層に比べて密度が大きくなり、表層の水が下層に移動する。また、下層の水が表層に移動する。このときに、栄養塩類が表層に運ばれる。
・栄養塩類の増大により、植物プランクトンは増殖する。(秋の増殖)
・しだいに水温が低くなり、光が弱くなるので、植物プランクトンは減少する。植物プランクトンの減少によって、栄養塩類が使われなくなり、表層の栄養塩類が増える。


雑談:4℃の水が最も重いのはどうしてか。
まず、氷は水より軽い(だから、太古の地球において、地球の表面を氷が覆っても、その下の水中で生物は進化を続けることができた)。
氷は、隙間がとても多い構造である。そのため、氷の密度は比較的低い。
氷が解けて水になる時、結晶中の隙間を埋めるように水分子が入り込み、体積が減少する→密度が大きくなる(結晶格子は部分的に崩壊し、格子の空洞は水分子で占有される)。その結果、温度上昇に伴い密度は増加する。
0℃より高い温度でも水の中に部分的な氷の構造が残っているため、温度の上昇とともに体積が減少しようとする(密度が大きくなろうとする)。
②一方、温度が上がると熱運動が激しくなり、体積が増加しようとする→密度は小さくなろうとする(これは一般的な傾向である)。
①と②の兼ね合いにより、4℃で密度が最大になると考えられている。






講義動画【湖の表層における植物プランクトン等の季節変動】








要点:生物多様性には階層がある。

 
● 生物多様性の階層
(1) 遺伝的多様性(いでんてきたようせい):ある生物種内での遺伝子の多様性を遺伝的多様性という(同じ種にもいろいろな個体がいる=遺伝的多様性がある)。
(2) 種多様性(しゅたようせい):ある生態系における種の多様性を種多様性という。その生態系に含まれる生物の種数が多いほど種多様性は高い(多様な種がある=種多様性がある)。
(3) 生態系多様性(せいたいけいたようせい):地球上のさまざまな環境に対応して、森林・草原・湖沼・河川・海洋・干潟などの多様な生態系が存在することを生態系多様性という(生態系には生物だけでなく非生物的環境も含まれることを思い出そう)。




雑談:(以下の話は、リード文で説明されるので、高校生は知らなくてよい)
下の値はSimpsonの指数と呼ばれる。

Simpsonの指数


ni:個々の種のもつ重要度の数値(個体数や生体量)
N:それぞれの重要度の総和
これは、優占種の集中度を表す。
この値が大きいほど、1種、あるいは数種による優占が大きくなる。
たとえば、3つの種A、B、Cがいたら、それぞれについて(ni/N)²を計算し、足し合わせたものがSimpsonの指数となる。そして、1からSimpsonの指数を引いた値(または、逆数)は、その集団の多様性の指数となる。
すなわち、以下のような指数が多様性の指数となる。

多様性の指数


または

多様性の指数


*今回は、1からSimpsonの指数を引いた値を多様性の指数として採用する。
(1)たとえば、「ただ1種しか存在しない集団」を考えよう。すると、(ni/N)の二乗=(1/1)²=1となり、Simpsonの指数は1である。それを1から引けば(1からSimpsonの指数を引いた値、即ち、多様性の指数は)、0となる(多様性の指数が0)。
(2)「種①と種②が半数ずついる集団」を考えよう。n1/Nとn2/Nはどちらも1/2となるので、それぞれ二乗して、足し合わせると、1/4+1/4=1/2。
これを1から引くと、多様性の指数は1/2=0.5となる。1種しかいなかった(1)の場合に比べて、多様性が増えていることがわかる。
(3)「種①:20個体、種②:20個体、種③:20個体、種④:20個体、種⑤:20個体が存在している集団」を考えよう。総個体数は100個体である。
種①について(n1/N)²=(20/100)²=1/25である。種①~⑤まで同様なので、これを5種分合計すると、Simpsonの指数は、1/25×5=1/5。これを1から引いて、1-1/5=4/5=0.8。たしかに、2種しかいなかった(2)の場合に比べて多様性の指数は大きくなっている。
(4)特定の種に数が集中していないほうが、多様性の指数は大きくなる。種①が90匹、種②が10匹の場合を考えよう(種①の優占が激しく、個体数が種①に集中している場合)。種①について(n1/N)²=(90/100)²=0.81。種②について(n2/N)²=(10/100)²=0.01。合計すると0.82(Simpsonの指数は0.82)。1から引くと、1-0.82=0.18。(2)に比べて多様性が減少している。つまり、この多様性の指数は、優占種の集中の度合いも表している(同じ数だけ種数があっても、どれかの種が占める数の割合がものすごく多く、優占が激しい場合、多様性の指数は低くなる)。

雑談:多様性の指数としては、シャノン(shannon)指数も有名である。
シャノンの多様性指数H'(エイチプライム)=ーΣ (ni/N)log(ni/N)
1種しか存在しない場合(ni/N=1)、log1=0なので、H'=0である。
H'=ーΣ  (1)log(1)=0







要点:生態系は人間の活動によって変化する。


(生物基礎第23講も参照せよ)


(1)かく乱



①生態系におけるかく乱:自然現象(噴火・台風・山火事・河川の氾濫・土砂くずれなど)や人間活動(森林伐採・河川の改修・外来生物の移入など)によって生物群集や生態系に大きな影響を与える現象をかく乱という。

中規模かく乱説(ちゅうきぼかくらんせつ):中規模のかく乱が一定の頻度で起こることによって、多くの種が共存できるようになり、種多様性が増大するという考え方を中規模かく乱説という。

・大規模なかく乱が起こる場合:生物多様性は低下し、もとの生態系が回復するまでに時間がかかる。かく乱の規模によっては、もとの生態系が回復しない。かく乱に強い種だけが存在する生物群集となる。(多様性×)

・中規模なかく乱が起こる場合:種多様性が維持されることが多い。
 
例)森林に生じたギャップ、定期的な伐採が入る里山(多様性◎)

・かく乱がほとんど起こらない場合:種間競争に強い種だけが存在する。(多様性×)


中規模かく乱説:中規模のかく乱が一定の頻度で起こることによって、多くの種が共存できるようになる。




雑談:昔は、遷移が進むにつれ生物の多様性が増大し、極相で最大になると考えられていた。しかし、現在では、中規模な攪乱が起こった場合に多様性が最大になる場合が多いと考えられている。
たとえば、遷移の初期は、土壌が少なく、乾燥が激しい過酷な環境であるため、過酷な環境に適応した種しか生育できない。一方、遷移の後期、極相の状態では、競争に強い種しか生育できない。
結果として、中規模な攪乱が起きた場合に、最も種の多様性が高くなることになる(これを中規模攪乱説という)。
これは自然破壊にも当てはまる。大規模な攪乱(自然破壊)は種の多様性を激減させる。しかし、放置すればするで、競争に強い種しか生き残らず、種の多様性は低下する。適度に伐採を行っていた(中規模な攪乱が起こっていた)日本の里山は、多様性が高く、理想的な生態系であった。現在、厳密な意味での里山は、ほぼ日本に残っていないと言われる。




(2)個体群の絶滅を加速する要因


● 生息地の分断化(ぶんだんか)と孤立化(こりつか):生息地が分断化されて生じた個体群を局所個体群といい、もとの個体群より個体数が減少している(道路を作って森林を分断するときは、動物が通れる道を作るとよい)。
また、生息地の分断によって局所個体群が離れた状態になることを孤立化という。
分断化や孤立化が進んで個体数が減少した局所個体群は、遺伝的多様性の低下と個体数の減少を繰り返す。即ち、絶滅の渦(ぜつめつのうず)に巻きこまれ、絶滅する可能性が高くなる。

絶滅の渦:個体数が減る→近親交配→劣性有害遺伝子がホモになりやすく、生活力が低下(近交弱勢[きんこうじゃくせい])→個体数が減る→以下同様。
絶滅の渦は止まらない。

*近親交配が禁止されている理由の一つは、劣性の有害遺伝子がホモになるのを防ぐためである。珍しい劣性の有害遺伝子でも、近親者同士は同じ遺伝子を持っている可能性が高く、近親者と子を残した場合、子は、その有害な劣性遺伝子をホモにもつ可能性が高くなる。

近親者と子を残した場合、子は、珍しい劣性の遺伝子をホモにもつ可能性が高くなる。






(3)外来生物



● 外来生物(がいらいせいぶつ)の移入:人間活動によって、(同じ国内の移動でも)本来の生息場所から別の場所へ移され、そこに定着した生物を外来生物という(国内での移動も含む。たとえば、関東にしか生息しない生物を、関西に人間が持ち込んだ場合、その生物は外来生物になり得る)。外来生物を捕食する生物(天敵)がいないことなどによって、移入された生態系で急激に増える場合がある。外来生物が増えることによって生態系のバランスがくずれ、在来種が絶滅に至ることもある。

有名な外来生物:マングース、アメリカザリガニ、ウシガエル、オオクチバス(ブラックバス)、ブルーギル、セイタカアワダチソウ

*外来種の駆除のために、さらなる外来種を導入することは危険である。在来種を捕食する可能性があるからである。昔、奄美大島のハブを捕食させるために、マングースが導入された。しかし、呆れた話であるが、ハブは夜行性、マングースは昼行性であったので、2種は上手く出会わなかった。
マングースは、在来種のアマミノクロウサギを食べた。






要点:生態系サービスには4つの種類がある。



生態系サービス:人類は生態系からさまざまな恩恵(生態系サービス)を受けている(生態系サービスを生み出す源泉は、生物の多様性である)。

①供給サービス:物の供給
より正確には「食料や建築資材など、有用な物質の供給」

②調整サービス:危険な変動の制御(環境条件を適切な範囲に保つ)
より正確には「気候調整や水の浄化など、環境条件を適切な範囲に保つ作用」

③文化的サービス:非物質的な価値の供給
より正確には「芸術的・宗教的影響など、精神面への作用」

④基盤サービス:生態系を維持し続けるために必要なサービス
より正確には「人間への影響は間接的だが、土壌形成や物質の循環のように、(上の①~③の直接的なサービスをもたらす)生態系を維持するために必要なサービス」

雑談:①~③は直接的なサービス、④は間接的なサービスである。


人類は生態系からさまざまな恩恵(生態系サービス)を受けている。



 *供給サービスには、薬の成分の供給なども含まれる。
*調整サービス(調節サービス)には、土壌の流出の制御(植物の根が土壌の流出を防ぐ)、病害虫の蔓延の制御(多種の捕食者が害虫を食べてくれる)も含まれる。
*文化的サービスには、審美的・宗教的影響が精神に及ぼす効果も含まれる。
*基盤サービスには、光合成による有機物の生産(一次生産という)や栄養塩類の循環も含まれる。

講義動画【生態系サービス】


 
 



雑談







まだわかっていないこと

● 生物の多様性を守るにはどうすればよいか。

● 生態ピラミッドは、環境の変化に伴って、どう変動するのか。たとえば、季節によってどう変動するか。地球温暖化の影響はあるか。

● 太陽の活動の変動は、地球の生態系にどう影響するのか。

● 生態系の価値は、どのように評価すればよいか。