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【高校生物】細胞②「細胞の中には何があるのか?」

~プロローグ~

「the key to every biological problem must finally be sought in the cell; for every living organism is, or at some time has been, a cell.」
(生物学のあらゆる問題を解く鍵は、最終的には細胞に求めなければならない。なぜなら、すべての生物は1個の細胞であるか、または過去のどこかで1個の細胞であったからである。)
E.B.ウィルソン『The cell in development and heredity』より


「私が何もしていないように見えるかもしれないが、細胞レベルではかなり忙しいのである。」生物学に関する有名な言葉 




★テストに出やすいワード
①細胞骨格
②モータータンパク質
③微小管
④中間径フィラメント
⑤アクチンフィラメント



要点:真核生物は細胞内に膜で包まれた細胞小器官をもつ。


● 細胞は核と細胞質(=核以外)に分けられる。

*細胞質の定義には少し揺れがあるが、真核細胞においては「細胞膜よりも内側で核を除いた部分(原核細胞においては細胞膜よりも内側で核様体を除いた部分)」と考えてよい。細胞質は細胞小器官と細胞質基質に分けられる。

雑談:原核細胞では、DNAは、タンパク質と結合し、コンパクトに折りたたまれたDNA-タンパク質複合体として存在している。それを核様体という。


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*真核細胞には膜で包まれた細胞小器官が多数見られる(それらの膜で包まれた区画は、様々な機能をもつ)。下図は動物細胞のイメージ(リボソームなどは描いていない)。

動物細胞のイメージ。リボソームなどは描いていない。




●核


下図はイメージ。実際は核膜は小胞体と連続している。

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核。核膜は二重膜である。



・核 膜:

構造:2 枚の膜からなり(二重膜構造[二重膜構造ではあるが、核膜孔のところでつながった1枚の膜からなるので、ミトコンドリアや葉緑体のような、はっきりとした外膜、内膜の区別はない。したがって、「同質二重膜」などと呼ばれることもある])、核膜孔(mRNAが通る)とよばれる小さな穴が多数ある。小胞体と一部で連続している。

はたらき:DNAの保護。

・核小体

構造:RNAとタンパク質が主成分。膜で包まれていない。

はたらき:リボソームの合成。

雑談:核小体は、rRNA遺伝子を含む染色体領域を中心としてタンパク質とRNAが集合した小球体である(活発に転写中のrRNA遺伝子を取り巻くタンパク質と、RNAの網目構造になっている)。核小体の主な機能はリボソームの合成である。リボソームの合成は、rRNAの転写、修飾、切断、リボソームタンパク質の集合(リボソームタンパク質は核外から運び込まれる)などの反応によって行われるが、各ステップには不明な点も多い。多段階反応の結果、小サブユニットと大サブユニットができるが、これらはまだ未完成であり、核膜孔を通って細胞質へ輸送され、初めて機能を持った最終的なリボソームになる。


・染色体

構造:DNAとタンパク質(ヒストンというタンパク質など)からなる。通常は糸状であるが、細胞分裂時には凝縮する。
酢酸カーミンや酢酸オルセインなどの色素でよく染まる。

はたらき:DNA は遺伝子の本体。





発展:クロマチン繊維


DNAはヒストンというタンパク質と結合している(DNAとヒストンが結合したものをヌクレオソームという)。それらはさらに折りたたまれ、約30nmの太さのクロマチン繊維(30nmクロマチン繊維などともいう)が形成されている。下図はイメージ。

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DNAとヒストンが結合したものをヌクレオソームという。それらはさらに折りたたまれ、約30nmの太さのクロマチン繊維が形成されている。



雑談:クロマチン構造は静的なものではない。クロマチン構造はヒストンタンパク質の修飾や、転写因子との相互作用によって制御されており、遺伝子発現調節に積極的な役割を果たしている。

雑談:真核生物において、核の中で働くタンパク質は、細胞質で合成されてから、核内へ移動する(核膜孔を通って能動輸送される)。そのようなタンパク質は核局在化シグナル(核移行シグナルともいう。数個から十数個のアミノ酸からなる配列)を持っている。この配列が核タンパク質が核内に輸送されるためのシグナルの役目を果たすと考えられている(決まった配列ではなく、多様な核局在化シグナルが発見されている)。





●細胞質


(1)ミトコンドリア


構造:2 枚の膜で包まれ(二重膜構造[内膜と外膜は性質が大きく異なるので、「異質二重膜」と呼ばれることもある])、 DNA (細菌と同じ環状)を含む。ヤヌスグリーンで青緑色に染まる。

語呂「三鷹は高級住宅地(ミトコンドリア、呼吸、二重膜)」

はたらき:呼吸によって有機物を分解し、ATP(アデノシン三リン酸)を生成。

ミトコンドリア。二重膜構造である。独自のDNAをもつ。




(2)葉緑体

構造:2 枚の膜で包まれている(二重膜構造[異質二重膜]。光合成色素(クロロフィルなど)が存在する。DNA (環状)を含む。

はたらき:光合成によって有機物を合成。

植物細胞には、葉緑体以外の色素体(プラスチド)が見られる場合がある。


雑談:色素体は、植物細胞に含まれる葉緑体、アミロプラスト、有色体、白色体などの細胞小器官の総称である。色素体は、葉緑体およびその変形と見なされている。
*アミロプラスト:貯蔵組織に存在し、大量のデンプンを蓄積する。
*有色体:大量のカロテノイドを蓄積する。トウガラシや、トマトの果皮、ニンジンの根などに見られる。
*白色体:色素を含まない。茎や胚乳、白い花弁や根などに存在する。ほとんど無色で顕著な特徴もない。

葉緑体。二重膜構造である。独自のDNAをもつ。




(3)リボソーム


構造:rRNAとタンパク質からなる。小胞体の表面に付着しているものと、細胞質に散在しているものがある。膜に包まれていない。

はたらき:タンパク質の合成(翻訳に関与)。


雑談:リボソームは、大サブユニット(約49個のタンパク質と3個のrRNAからなる)と、小サブユニット(約33個のタンパク質と1個のrRNAからなる)からできている。リボソームの大サブユニットと小サブユニットの完全な三次元構造が解明されたのは2000年のことである。リボソームの「mRNA上にtRNAを配置する働き」や「アミノ酸同士のペプチド結合形成の触媒作用」を持っているのは、rRNAの部分である。すなわち、リボソームは一種のリボザイム(触媒活性を持つRNA)と見なすことができる。

リボソーム。rRNAとタンパク質からなる。




(4)リソソーム


構造:1 枚の膜からなる構造体。加水分解酵素を含む。食作用で取り込んだものの分解等に関与。

はたらき:細胞内消化・自食作用オートファジーともいう。分解したものは再利用したりする)。



雑談:リソソームは「lysis(分解)+some(〜体)」が語源。加水分解を行う小体という意味で名付けられた。リソソームを最初に発見したド=デューヴは、リソソームを「細胞の自殺袋」と呼んだ。







発展:自食作用(オートファジー)


(最近少し出題が増えてきている。)

自己の細胞質の一部を取り囲むオートファゴソーム(液胞の一種)を形成し、これをリソソームから供給される加水分解酵素によって消化することを自食作用(オートファジー)という。

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オートファジー。自己の細胞質の一部を取り囲むオートファゴソームを形成し、これをリソソームから供給される加水分解酵素によって消化する。


①様々なタンパク質が関わり、不要となった細胞小器官(図ではミトコンドリア)などが二重膜で包まれていく。
②不要となった細胞小器官が二重膜で包まれたオートファゴソームができる。
③オートファゴソームとリソソームの膜が融合する。そして、オートファゴソーム内膜と内容物が分解される。
*リソソームは1枚の膜で加水分解酵素が包まれている構造である。
*リソソームの中は酸性に保たれている。リソソームの加水分解酵素は酸性環境でないとよく働かないので、万が一細胞内(細胞内は中性である)にリソソームの加水分解酵素が放出されてしまっても影響は少ない。

雑談:オートファジーのしくみの解明により、2016年、大隅良典はノーベル賞を受賞した。

雑談:上に示した図では、オートファゴソームはミトコンドリアのみを取り囲んでいるかのように見えるが、実際は、細胞内はタンパク質であふれかえっているわけで、多くのタンパク質が分解されている(そうしてつくったアミノ酸は、再びタンパク質合成などに使用できる)。また、古くなり、壊れたミトコンドリアは活性酸素を発生して危険なので、オートファジーによって活発に分解されることが知られている(オートファジーは主に非選択的に起こるが、完全にランダムなのではなく、選択性もあることが知られている)。

雑談:オートファジーは、飢餓適応、初期胚発生、細胞内侵入微生物の分解、がん細胞の除去、細胞死、個体老化などに深く関係していると考えられている(オートファジーは飢餓状態で大きく誘導されるが、飢餓状態でなくても、常に起こっていると考えられている)。マウスのオートファジーに関わる重要なタンパク質の遺伝子を欠損させた場合、そのマウスはすぐに死に至る。






(5)ペルオキシソーム

(あまり問われない)

構造:カタラーゼを含む1枚の膜で包まれた構造体。カタラーゼが内部に入った袋みたいなイメージ。

はたらき:過酸化水素の分解。 

<Q.カタラーゼって?…過酸化水素(細胞を傷つける原因となる危険な物質。呼吸の副産物)を、水と酸素に分解する酵素。>


講義動画【カタラーゼ】






(6)小胞体


構造:リボソームが付着している粗面小胞体(そめんしょうほうたい)と、付着していない滑面小胞体(かつめんしょうほうたい)がある。
*リボソームがたくさんくっ付いていて、表「面」を触るとざらざらして「粗」そうだから「粗面」小胞体と覚えよう。

はたらき:多様な働きがあるが、特にテストでは「物質の輸送に関わる」「物質の輸送路」と表現されることが多い(タンパク質が入った小胞がゴルジ体に送られる。「小胞をつくるから小胞体」と覚えよう)。





雑談:高校では、小胞体を「物質の輸送路」などと表現することが多いが、少し変わった言い方である。小胞体は、真核細胞の細胞質にある膜で囲まれた迷路状の区画であり、膜結合タンパク質や分泌タンパク質の形成の場となったり(なお、小胞体内腔には分子シャペロンが存在し、タンパク質の折りたたみ[フォールディング]に働いている)、脂質の合成を行ったりするなど、多様な機能をもっている。

雑談:滑面小胞体では、脂質の代謝(リン脂質やステロイドの合成)などが起こる。また、筋小胞体は特殊化した滑面小胞体である(筋小胞体は細胞内のカルシウム濃度を調節している。筋肉の学習の時に登場する)。

雑談:粗面小胞体は扁平な形をもつことが多いが、滑面小胞体は管状の形をもつことが多い。

雑談:小胞体は、真核生物のすべてに存在し、小胞体膜は動物細胞の全膜構造の半分以上を占めている。一重膜に囲まれた細管状あるいは平板状の膜系がつながり、細胞質全体に広がる一つの網状構造を形成している。小胞体膜と核膜との間には一部連続性が認められる(つながっている)。

雑談:高校生は知らなくてよいが、小胞体の重要な機能の一つに、タンパク質への糖鎖の付加がある。タンパク質にくっ付けた糖鎖は、「タンパク質の折りたたみの状態を示す指標」などとして使われていることがわかっている(タンパク質に結合させた糖を利用して、折りたたみが不完全なタンパク質を小胞体内部にとどめるしくみが発見されている[結合している糖鎖の状態によって、タンパク質の折りたたみが不完全かどうかが識別されていると考えられている。糖鎖の状態を識別するタンパク質も見つかっている]。なお、誤って折りたたまれたタンパク質を小胞体外に運び出し、分解するしくみ[プロテアソームと呼ばれる大型のタンパク質複合体が関わる]も発見されている)。

雑談:リボソームが、小胞体シグナル配列(タンパク質が小胞体に入るよう導くN末端のシグナル配列)というアミノ酸配列をもつタンパク質を合成している場合、そのリボソームは小胞体上に誘導される(下図には描いていないが、小胞体シグナルペプチドがリボソームから現れると、すぐにタンパク質の合成は一時停止される。この一時停止に働くのはシグナル認識粒子[SRP : signal-recognition particle ]と呼ばれる構造である。シグナル認識粒子は、小胞体シグナル配列とリボソームに結合し、翻訳を一時停止させる。SRPリボソーム複合体は小胞体膜上にある受容体に結合する]。タンパク質合成が一時停止されることによって、リボソームが小胞体膜に結合するための時間が確保される)。リボソームは、合成したタンパク質を小胞体内に放出する(小胞体シグナル配列は小胞体膜上で切断され分解されるが、図には描いていない)。

リボソームが、小胞体シグナル配列をもつタンパク質を合成している場合、そのリボソームは小胞体上に誘導される。そして、リボソームは、合成したタンパク質を小胞体内に放出する。






(7)ゴルジ体


構造:へん平な袋状の構造が層状に重なっている。動物の消化管の腺細胞など、分泌と関係ある細胞で多い

はたらき:物質の濃縮・分泌・修飾(タンパク質への糖の付加など)。



ゴルジ体は、小胞体から小胞を受け取り、内容物を修飾(糖を付加したり、ポリペプチドを切断したりする)した後、細胞外に向けて分泌したりしている。

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ゴルジ体は、小胞体から小胞を受け取り、内容物を修飾した後、細胞外に向けて分泌する。




雑談:小胞の移動は一方向的ではなく、上図とは逆向きの輸送もある。また、小胞がリソソームへ向かい、内容物が分解されることもある。

雑談:ゴルジ体では、小胞の中に入って運ばれてきた物質の行き先が決定される。ゴルジ体は、まるで郵便物に行き先の郵便番号を貼り付けるような働きをしている。下図はイメージ。

ゴルジ体。




雑談:小胞体やゴルジ体についての記述の中で「糖」という語が出てきた。実は、生体内において、糖鎖のくっ付いたタンパク質は非常に多い。糖鎖の機能は様々であるが、高校では習わない(タンパク質に糖鎖が付くと、大きさ・形・溶解度・電荷・安定性が変化する。分泌速度・寿命・抗原性なども変化する。膜タンパク質の糖鎖は、細胞の相互認識にも使われている[まるで糖鎖は細胞の付けているネームプレートである]。もともと、祖先細胞は、細胞表面にあるタンパク質にくっ付いた糖を、防護用の覆いとして利用していたのかもしれない。それが、進化の過程で多様な機能を獲得していった可能性がある)。

雑談:ゴルジ体は、実際は複雑な構造である(下図はイメージ)。ゴルジ体の積み重なり構造は、構造的にも機能的にも方向性がある。小胞体からやってくる小胞を受け取る側がシス面(受入面)で、小胞を送り出す側がトランス面(放出面)である(「シス cis」は「手前側」、「トランス trans」は「向こう側」を意味する語。たとえばcisalpine、transalpineは、それぞれ、イタリア側から見て、アルプス山脈の「こちら側の」、「向こう側の」を意味する形容詞)。
タンパク質はまず、シスゴルジ網に入る。そして、最終的に、トランスゴルジ網から様々な場所(リソソームや細胞膜表面など)に送り出される。
シスゴルジ網とトランスゴルジ網は、タンパク質の選別に重要な役割をもつと考えられている。各ゴルジ嚢(シス嚢、中間嚢、トランス嚢)は、様々な加工酵素群をもち、タンパク質は、嚢から嚢へと移動しながら次々と修飾を受ける。

ゴルジ体の積み重なり構造には方向性がある。



下図は、細胞膜表面に送り出されるタンパク質(左:青)と、細胞外に分泌されるタンパク質(右:赤)が輸送されるイメージ。なお、分泌タンパクが入った小胞を分泌小胞という。

細胞膜表面に送り出されるタンパク質(左:青)と、細胞外に分泌されるタンパク質(右:赤)。





雑談:ゴルジ体はゴルジ(イタリアの組織学者)によって発見された。長い間、ゴルジ体は、実在する細胞小器官なのか、染色処理の副産物なのかがわからなかった。電子顕微鏡の登場によって、ゴルジ体が細胞に実在することが明らかになった。





講義動画【小胞体とゴルジ体・物質の輸送】











挿絵:ゴルジ体のようなパンケーキ

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(8)中心体


構造:微小管からなる中心粒を含む。膜に包まれていない。直交する1対の中心小体(中心粒)から微小管が伸びている。中心体は、動物と、コケやシダなど精子を作る植物に存在する。

はたらき:紡錘体の形成。べん毛・繊毛の形成。

語呂「せんべいにチューしよう(繊毛・鞭毛、中心体)」


雑談:中心小体には、九個の三連微小管が配置されていると考えられている。

以下は1個の中心小体のイメージ。

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中心小体。




雑談:中心小体の周辺には中心小体周辺物質があり、微小管重合の核になっている。中心体の構造は完全には解明されていない。図の+は微小管のプラス端を表している。以下は中心体のイメージ。

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中心体。



雑談:中心体をもたない維管束植物では、分裂期前期~中期くらいの時期に、短い紡錘糸の集合から成る、極帽(きょくぼう)と呼ばれる構造(透明帯)ができることが知られている。この短い紡錘糸が発達して紡錘体の紡錘糸になると考えられている。



 

(9)液胞


構造:液胞膜(えきほうまく)が細胞液(さいぼうえき)を包んでいる。細胞液には有機物、無機塩類、色素(アントシアン)などが溶けている。動物細胞にも存在するが、成長した植物細胞でよく発達している(大きくなっている)。




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液胞。



はたらき:老廃物の貯蔵、浸透圧調節。

語呂「駅の方は案外し~んとしてるでちょ?(液胞、アントシアン、浸透圧調節、貯蔵)」


雑談:成長した植物細胞では液胞は非常に大きく発達し、核などは隅っこに追いやられてしまう。

雑談:細胞が成長するほど液胞が大きくなるのは自然である。ずぼらな人の学校のロッカーを想像せよ。1年生の頃はロッカーはスカスカだろう。しかし、学年が上がるにつれて、不要なものをロッカーに溜め込むようになる(もっと大きなロッカーに移動したくなるだろう)。植物細胞も、成長するにつれて、様々な物質を液胞に溜め込んでいくのである(学校のロッカーと違って、液胞は大きくなるが)。対して、我々動物はというと、老廃物を(たとえば尿の中に入れて)体外に排出してしまう。

雑談:アントシアンはほとんどすべての植物の赤色・紫色を発色している色素であり、これは、動物を引き寄せたりするのに使われると考えられている。

雑談:日本の紅葉現象の美しさは世界的に有名であるが、紅葉にはアントシアンが含まれている(下図。紅葉には、最も単純なアントシアンの一つであるクリサンテミンが含まれている。クリサンテミンは水溶性で、葉肉細胞の液胞中に溶けている)。






 

(10)細胞質基質


構造:酵素などタンパク質やRNAなどを含む。流動性を持つ。細胞質基質は「細胞小器官の間を埋める部分」とし、ふつう細胞小器官に含めない。

はたらき:様々な化学反応の場(たとえば、酸素を使わず有機物の分解を行う解糖系という反応の場)。




● 原形質連絡(げんけいしつれんらく)

植物細胞は、隣の細胞と原形質連絡(植物の細胞間を連絡している細い細胞質の糸)でつながっている(原形質連絡は植物体の全細胞を連絡している)。原形質連絡は細胞壁を貫通しており、小分子やイオンが原形質連絡を通過できる。下図はイメージ。

植物細胞は原形質連絡でつながっている。


雑談:原形質連絡の中には、滑面小胞体から生じたデスモ小管という細長い管状構造が見られる。

雑談:原形質連絡が存在するため、植物体を巨大な多核体であると見なすこともできる。






講義動画【細胞】




● ミトコンドリア、葉緑体、核は二重膜構造をもつ(ちなみにこれらの細胞小器官はDNAを含む)。リボソームや中心体は膜で包まれていない。

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要点:真核細胞の細胞質基質には3種類の細胞骨格が存在する。



● 細胞骨格:真核細胞の細胞質基質にある繊維状のタンパク質。

雑談:昔は、細胞小器官の間は、どろどろした液体で埋まっていると考えられていた。しかし、電子顕微鏡技術が発達してきて、細胞骨格と言うタンパク質が張り巡らされていることが分かった。


● 細胞骨格には3種類ある。

(1)アクチンフィラメント


・直径5~8nm(細胞骨格の中で最も細い)。

・アクチンフィラメントはアクチンというタンパク質が集まってできている(フィラメントは繊維と言う意味)。

アクチンフィラメントはアクチンが集まってできている。




<Q.1nm(ナノメートル)って?…1mm=1000μm(マイクロメートル)=1000,000nm(ナノメートル)>


・アクチンフィラメントにはミオシンというモータータンパク質が結合する。

モータータンパク質:細胞骨格に結合し、ATPを分解して得るエネルギーで運動を発生させるタンパク質の総称。

・アクチンフィラメントは筋収縮にかかわる(筋収縮について学ぶ時に嫌でも覚えてしまうので今慌てて覚えなくてもよい)。






(2)中間径フィラメント(ちゅうかんけいふぃらめんと)


・直径8~12nm(アクチンフィラメントと微小管の「中間」の直「径」)。

・様々な種類がある。ケラチン(爪・毛髪の成分)が非常に有名で、テストに出やすい。

雑談:ヤマアラシのとがった針や、サイの角の主成分は、ケラチンである。






(3)微小管(びしょうかん)


・直径25nm(細胞骨格の中で最も太い)。

・キネシンやダイニンというモータータンパク質が結合する(ATPを分解しながら、まるで微小管の上を二本足で歩くように動く)。モータータンパク質は小胞や細胞小器官を運ぶ。

下図はイメージ。

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キネシンやダイニン(モータータンパク質)は、ATPを分解しながら、まるで微小管の上を二本足で歩くように動く。



*微小管にはプラス端、マイナス端という方向性がある。ダイニンはー端に向かって移動する。キネシンはプラス端に向かって移動する(覚えなくてよいが、覚えたい人は、キネシンのキに+の形が入っているので、キネシンはプラス端方向と覚える。また、ダイニンのダの真ん中の棒でマイナス(ー)をイメージする)。


雑談:神経細胞では、下図のように微小管が配置されている(プラス端側が細胞体側。反対側がー端側)。キネシンやダイニンによってタンパク質や小胞など、様々な物質が輸送されている。キネシンはプラス端がある方向(神経終末方向)に動く。ダイニンはー端がある方向(細胞体方向)に動く。

神経細胞内では、モータータンパク質を利用した物質の輸送が行われている。



*厳密には、細胞体から軸索末端まで、1本の微小管が伸びているわけではない。多数の微小管が少しずつ重なり合いながら並んでいることが知られている(下図)。軸索の中の微小管は、細胞体がない方がプラス端になっている(図示していないが、樹状突起の中の微小管は、向きがそろっておらず、プラス端は細胞体の方であったりその逆であったりする)。

神経細胞の内部には、多数の微小管が少しずつ重なり合いながら並んでいる。





・微小管はチューブリンと言うタンパク質が集まってできている。

雑談:αチューブリンとβチューブリンが二量体を形成し、この二量体が重合して微小管になる。

微小管はチューブリンが集まってできている。



雑談:微小管は中空のチューブである(だから微小「管」という。微小管はアクチンフィラメントの約3倍の直径を持ち、アクチンフィラメントより固い。たとえば、同じ量の金属でも、中が詰まった棒を作るより、直径が大きな中空のチューブを作ると、そのチューブは曲がりにくくなる。自転車のフレームや、植物の茎、動物の骨でも同じ原理が働いている)。

講義動画【細胞骨格・細胞接着】





 


(4)細胞骨格のはたらき



①アクチンフィラメント:アメーバ運動など細胞の運動・原形質流動(力強いイメージ)。
②中間径フィラメント:核膜や細胞膜の内側で形状の維持に働く(頑丈なイメージ)。
③微小管:細胞内の物質輸送・べん毛・繊毛・紡錘体の形成

語呂「禁断の鞭毛美少女(キネシン、ダイニン、鞭毛、微小管)」






雑談:魚類などの色素顆粒(色素胞と呼ばれる細胞の中にある)の移動には微小管とモータータンパク質(キネシン・ダイニン)が関わることがわかっている(色素顆粒が分散する時[体色が濃くなる時]は、色素顆粒はキネシンによって輸送される。色素顆粒が凝集する時[体色がうすくなる時]は、色素顆粒はダイニンによって輸送される)。

*色素胞については以下の資料で少し詳しく解説している↓




● 生きた細胞では細胞小器官が流れるように動く原形質流動という現象が見られることがある。

雑談:原形質という語は古く、今ではあまり使われない。核と細胞質をあわせて原形質と呼ぶことが多い。もともと、細胞内容の生きている粘性の物質を想定し、「肉質」という名前を付けたのはデュジャルダンである。これに、「原形質(protoplasma)」という名称を与えたのは生理学者プルキンエである(心臓の刺激伝導系を形成する特殊筋系である『プルキンエ繊維』を知っている人もいるかもしれない)。Protoplasmaとは、本来、神学の用語であり、「神の最初の創造したもの」、「アダム」を意味する。

雑談:ロバート・ブラウン(核の発見者)は原形質流動を発見している。ブラウンは、彼の友人の一人、チャールズ・ダーウィン(自然選択説の提唱者)に対して「それは私の秘密だ」と言って原形質流動を見せている。






発展:9+2構造


真核細胞のもつ繊毛・べん毛の断面は、9+2構造という共通の内部構造をもつ(これは真核生物に共通の構造である。ヒトの細胞でも、ゾウリムシの細胞でも共通に見られる)。

真核生物の繊毛・べん毛には9+2構造が見られる。



雑談:真核生物の繊毛・べん毛の断面を観察すると、「9」組の周辺二連(ダブレット)微小管が輪状に並んでいるのがわかる(これにはダイニンが結合している)。また、中央には、「2」本の中心微小管(単[シングレット]微小管)があることがわかる(9+2構造)。

9+2構造。





雑談:9+2構造をもつ真核生物の繊毛・鞭毛では、9組の周辺二連微小管上に結合したダイニンが、ATP分解のエネルギーを使って隣接する微小管との間で滑り合うことで運動が発生している。
たとえば、精子の鞭毛において、周辺二連微小管とそれに結合しているダイニンから、他の成分を取り除き(トリプシンで処理し、二連微小管を連結してる部分を切断し)ATPを加えると、ダイニンが作動し、微小管が滑り合う(下図A。ダイニンは一対の二連微小管をもう一対に対して滑らせる)。
正常な鞭毛では、二連微小管が連結タンパク質によって連結されているため、全体の動きが、下図Aのような「滑り」ではなく、下図Bのような「屈曲」になる。

真核生物の繊毛・鞭毛では、9組の周辺二連微小管上に結合したダイニンが、隣接する微小管との間で滑り合うことで運動が発生している。



雑談:9+2構造に使われるダイニンに遺伝的な異常があると、ヒトでは、精子の動きが悪くなることがある。また、呼吸気道中の繊毛の動きが悪くなり、その結果、病原体を掃き出せないために感染症にかかりやすくなることがある。






要点:細胞膜の外側に細胞壁をもつ細胞もある(植物細胞・菌類の細胞・原核細胞など)。


● 細胞膜(すべての細胞に存在する)

構造:リン脂質とタンパク質からなる。厚さ5 ~10nmの薄い膜。全生物が持つ。

はたらき:物質の出入りの調節(チャネルや運搬体、ポンプによる)。


● 細胞壁 (植物・菌類・細菌・クロレラなどの藻類の細胞がもつ。ミドリムシはもたない。)

構造:植物の細胞壁はセルロースが主成分。丈夫な構造。サフラニンで赤く染まる。

語呂「セールで買うから平気(セルロース、細胞壁)」 

はたらき:細胞の保護と形の維持。吸水による破裂を防いでいる。細胞膜の外側にある。

*植物において、ペクチンという多糖は細胞壁同士を接着している。下図はイメージ(原形質連絡などは描いていない)。

ペクチンは細胞壁同士を接着している。







発展:二次細胞壁


細胞壁は、大まかに一次細胞壁と二次細胞壁という2つのタイプに分けられる。一次細胞壁は、成長中の細胞で形成される細胞壁である(一次細胞壁はすべての細胞で分子構造が似ている。一般に、一次細胞壁はうすく、単純な構造をしている)。二次細胞壁は細胞成長(拡大)終了後に形成される細胞壁である。二次細胞壁は細胞膜と一次細胞壁の間に形成される(二次細胞壁は一次細胞壁の内側に形成される)。二次細胞壁は細胞の分化を反映し、高度に特殊化することがある。たとえば木部には、リグニンにより補強され防水化された厚い多層構造の二次細胞壁がみられる(細胞壁にリグニンが蓄積され強固になる現象は木化とよばれる)。

二次細胞壁は細胞膜と一次細胞壁の間に形成される。



雑談:二次細胞壁は一部の細胞だけに形成される。二次細胞壁は、一次細胞壁と細胞膜の間に発達するが、その細胞はやがて死ぬ運命にある。すなわち、一般に二次細胞壁は生きた細胞には見られず、死んだ細胞に存在する。



雑談(ただし、私大を受ける人は太字の部分だけ知っておくとよい):高等植物は、リグニンの沈着の他にも、水などの分子の透過性を低下させる手段を持つ。たとえば、維管束細胞壁がもっぱらリグニンにより強固されるのに対して、大気と接する表皮細胞の細胞壁の表層は、クチクラ層により覆われる。クチクラ層は、飽和脂肪酸が重合してできたクチンや、長鎖脂肪酸エステルからなる蝋(ワックス)によって形成されている。クチクラ層は複雑な疎水性の層であり、水蒸気の拡散を防ぐと同時に、病原体の侵入を防ぐ。また、コルク組織の細胞壁はスベリンを沈着させ、コルク化する(スベリンは、細胞壁のコルク化が起こる場合に細胞壁中に堆積する疎水性の物質である。クチンに似ているが、クチンとは成分が異なる。スベリンを堆積しコルク化した細胞壁は、弾力性に富み、水や空気を通しにくくなる。ワインの栓に使われているコルクは、コルクガシという樹木のコルク組織を利用したものである。フックの法則を発見したことでも有名なフックは、コルク組織の切片を観察し、細胞を発見した[実際は彼が観察したのは死んだ細胞の細胞壁であった])。
語呂「コルクですべる(コルク、スベリン)」






要点:ミトコンドリアと葉緑体(と核)は二重膜構造をもつ。


● ミトコンドリアと葉緑体は描けるように。内部の詳しい構造は今覚える必要はない。呼吸と光合成の単元を学ぶ時チェックすればよい。

*ミトコンドリアや葉緑体自体は光学顕微鏡で観察できるが、詳しい内部構造は、ふつう、光学顕微鏡では観察できない。

● ミトコンドリアと葉緑体は二重膜構造である。また、独自のDNAとリボソームを持ち、半自律的に増殖する。

(下図はイメージ。縮尺は統一していない。ミトコンドリアより葉緑体の方が大きいい)




<Q.どこがテストに出やすい?…二重膜構造をもつ細胞小器官(核・ミトコンドリア・葉緑体)。膜で包まれていない構造(リボソーム・中心体・核小体)。細胞骨格の上をATPを分解しながら動くモータータンパク質がよくテストに出る。>



●   真核生物は膜系を進化させた生物であると考えられる。核膜の有無はその一つの側面である。膜で包まれた細胞小器官をもつということは、基質や酵素を集中させ、反応を効率よく進めることができるというメリットがある。逆に、物質の輸送システムや、輸送のためのエネルギーが必要なことがデメリットである。


講義動画【原核細胞と真核細胞】




まだわかっていないこと

● 原形質流動の意義は何か。

● 原核生物にも、細胞骨格のようなタンパク質が発見されている。それらがどのような機能を持つのか、完全には明らかになっていない。

● ミトコンドリアや葉緑体から核への遺伝子の移動はどのように起こったのか。

● 細胞質基質から葉緑体やミトコンドリアへの物質の輸送はどのように行われているのか、完全には明らかになっていない。