見出し画像

【高校生物】遺伝④「染色体地図は、どのような方法によって作成されるのか?」

~プロローグ~
「丁度化学者が目に見えぬ原子を仮定し、物理学者が電子を仮定すると同じ意味で、遺伝学の研究者達は遺伝子(gene)と呼ぶ見えざる要素を仮定して居ります。」モーガン『遺伝子説』より
(モーガンがこれを書いたのは1930年頃である。現在では、遺伝子の本体はDNAであることが明らかになっている。)

「モーガンが示した乗換えの証拠と、遺伝子間の距離が遠いほど乗換えの頻度が高いという示唆は、雷鳴のように学会を驚かせた。メンデル法則の発見は、私たちの近代遺伝学をあまねくうるおした、あの嵐の先きぶれであったが、モーガンの発見もそれに劣るものではなかった。」マラー(X線により人為突然変異が誘発されることを示した遺伝学者)





 
★テストに出やすいワード
①組換え価
②染色体地図
③乗換え
④組換え
⑤性染色体・常染色体


要点:組換え価は遺伝子間の距離の長さをあらわしているといえる。組換え価を用いれば染色体地図が描ける。


● 組換え価=(組換えの結果生じた配偶子の数/全配偶子の数)×100

● 遺伝子間の距離が大きければ、その間で組換えが起こる確率も高くなる。つまり、ある遺伝子間の組換え価は、それらの遺伝子間の距離を表す。


「もし2対の遺伝子が相接近して居る場合には乗換えがその間に起る機会はそれがずっと遠くに離れている場合よりも小であるという事は誠に明かなことです。」モーガン『遺伝子説』より


● 例えば、遺伝子a-b間の組換え価が10%、b-c間の組換え価が2%、a-c間の組換え価が8%だとする。それぞれの組換え価は、それぞれの遺伝子間の距離を表す。その関係を利用して作成した遺伝子の位置を表す図を染色体地図という。下図は今回の条件で描いた染色体地図。


画像1
組換え価は遺伝子間の距離を表す。



*上の例ではa-c間8%、c-b間2%で、その合計がちょうどa-b間の10%となっている。しかし、問題によっては、a-b間の組換え価が9%などのように、「a-c間の組換え価(8%)」+「c-b間の組換え価(2%)」=「10%」に一致しない(少なめの9%程度に算出される)場合がある。
それは、a-b間で二重乗換えが起こっている場合があるからである。
乗換えが2回起こり、実際よりも低い値に組換え価が算出されてしまうのである(2回乗換えが起こって[二重乗換え]、遺伝子の組換えが解消されてしまうのである)。
以下は二重乗換えのイメージ(染色体の乗換えが起こっているが、最終的に遺伝子の位置関係は変わっていない[遺伝子の組換えは起きていない。最初と最後を見ると、どちらもAと同じ染色体にBがあるし、aと同じ染色体にbがある])。

二重乗換えにより遺伝子の組換えが解消されることがある。



● 遺伝子が染色体にあるという説を、染色体説という(今では当たり前の話だが、遺伝子の実体がわかっていなかった昔は、当たり前ではなかった)。サットン(アメリカの細胞学者)が提唱した。

雑談:正確には、染色体説とは、メンデルの法則に従う遺伝現象を、遺伝子の担体である染色体の挙動によって説明しようとする説のことである。モンゴメリー(アメリカの細胞学者)が相同染色体を発見した後(モンゴメリーはメンデルの法則を知らず、相同染色体の対合は染色体を若返らせる方法であると考えていた)、サットンが減数分裂時における相同染色体の分離に注目し、それをメンデルの法則に関連付けた。その後、モーガンは、メンデルの推定した遺伝要素が、染色体上に線状に配列した遺伝子であることを明らかにして、遺伝の染色体説(遺伝子説)を確立させた。

雑談:モーガンがボスであった研究室(コロンビア大学スカマホーン・ホール613号室)は、通称「ハエ部屋」と呼ばれ、多くの偉大な化学者を輩出したことでも有名である(X線で人為的に突然変異を誘発して見せたマラーもハエ部屋出身である)。ただ、モーガンは少しずぼらな研究者であり、ハエ部屋も、決して整理整頓された清潔な研究室ではなかったらしい。モーガンは、ノーベル賞を受賞した際の記念写真を、近所の子供たちと撮っている。また、豪勢なノーベル記念宴には出席しなかった。『モーガン』(サイエンス社)によれば、その口実は「生理学の新しいグループを一つつくる件と、遺伝学における生化学の近い将来に関する件のため、私がここを留守にすることは事情が許さない」というものであったという。
「どのようにすればこれらの発見ができるかと問われたなら・・・私は次のように答えたい。努力によって・・・作業仮説を理性的に使うことによって(理性的とはその仮説を支持する決定的な証拠が発見されない限り、いつも仮説をすてる用意があることを意味する)。つごうのよい研究材料を捜すことによって・・・。そして最後に、遺伝学会をあまり頻繁に開かないことによって。」モーガン 国際遺伝学会議総裁講演の言葉
イアン・シャイン、シルビア・ローベル著『モーガン』(サイエンス社)より





講義動画【遺伝】


講義動画【染色体の乗換え・遺伝子の組換え】





雑談:モーガンは、1910年ごろからキイロショウジョウバエによる遺伝研究をはじめ、染色体地図の作成を行った(他にも多くの業績がある)。1933年、モーガンの行った染色体の遺伝機能の研究に対して、ノーベル生理学・医学賞が与えられた。ショウジョウバエを実験生物に使うメリットは多数ある。メンデルがエンドウマメを使った時は、次世代を得るために、次の収穫期まで待たなければならなかったが、ショウジョウバエを用いる場合、1年で30代近くの世代を重ねることも可能である。また、ショウジョウバエは、体細胞に染色体を4対しかもたない(2n=8)。さらに、唾腺染色体という巨大な染色体をもち、そこに見られる多数の縞は、遺伝子の位置を表していると考えられている。



雑談:組換えは、減数分裂時のみに起きる現象ではない。組換えは、体細胞分裂を行う際の、DNA修復の際にも利用される(減数分裂時の時に起こる組換えも含めて、正確には、「相同組換え」という。大学で学ぶ)。
何らかの原因(たとえば化学的な攻撃)でDNAの2本鎖が切断された場合、組換えによって修復されることがわかっている。その際、損傷を受けていない姉妹染色分体のDNA鎖を修復の鋳型として用いる。この方法による修復は、S期やG2期に起こる。
下図に、DNA2本鎖切断の相同組換えによる修復のイメージ図を示す。だいたい以下のようなことが起こっている。
①切れたほうのDNAの末端(5'末端)が削られるように切除される(トリミングされる)。
②鎖の侵入とDNAの再合成(新しく合成されたDNA鎖は下図では赤く色を付けた)が起こる。
③DNA合成の完了後、DNAリガーゼによる末端の連結が起こる。これで2つの元通りのDNAが完成する(なお、修復が不可能なくらい大規模な損傷が起こった場合は、アポトーシスが誘導される[その細胞は自殺する])。
ただし、一般に、このような組換えの一連の反応は自由度が高く、正確な反応経路は場合に応じて異なる。詳細は大学で学んでほしい。
*この一連の過程は、相同組換えと呼ばれ、減数分裂時にも行われる(高校で勉強する「組換え」は相同組換えのことである。減数分裂のプログラムには、DNAの2本鎖切断があらかじめ組み込まれている)。ただし、減数分裂の時とは異なる点もある。たとえば、今回の雑談のようなDNA修復時に起こる相同組換えでは、鎖(配列)の交換は起こっていない(片方の少し壊れた染色体が、すぐ近くにある相同な配列を参照して壊れた部分を修復している、というイメージ)。すなわち、相同組換えは大きく2つに分けられる。減数分裂時に起こる乗換え型(交差型)と、今回の雑談のような遺伝子変換型(非交差型)である(正確には、今回見たような遺伝子変換型の相同組換えでは配列の交換は起こっていない。しかし、一般に、相同組換えは「2つのDNA塩基配列の似た分子間の交換反応」と表記されることが多い)。

相同組換えはDNAの修復に利用されている。








発展:三毛猫について


● 常染色体上の遺伝子

・遺伝子型SS、Ssの時→白斑が生じる。

・遺伝子型ssの時→白斑が生じない。

● X染色体上の遺伝子

遺伝子O:茶色の部分が生じる。

遺伝子o:黒色の部分が生じる。

*メス(X染色体を2本持つ)で、遺伝子型Ooのとき、つまりX染色体のうちの1本にOが、もう1本にoがあるとき→茶色の部分と黒色の部分が生じる。

● 哺乳類では、X染色体は、どちらか1本が細胞ごとにランダムに選ばれ不活化(X染色体の不活性化)されるので、細胞ごとに発現する遺伝子がOかoになる(どちらが発現するかはランダムである)。

*哺乳類のメスでは、細胞数がある程度増えたところで、2本あるX染色体のうち1つがランダムに不活性化される。

遺伝子型Ooにおいて、OがあるX染色体が不活性化された場合黒色になり、oがあるX染色体が不活性化された場合茶色になる。どちらのX染色体が不活性化されるかは、細胞ごとにランダムである(よって、遺伝子型Ooの雌猫の体には、黒色の部分と茶色の部分ができる)

● よって、雌の三毛猫の遺伝子型は SSOo、SsOo である。

● オス(XY)はX染色体を1本しか持たないので、Oかoどちらか1個しか持てない(雄の持つY染色体にはO等の遺伝子は無く、全然別の遺伝子のセットが乗っている)。Oが乗ったX染色体と、oが乗ったX染色体をもち、そのどちらかが細胞ごとにランダムに不活性化されることで、茶色の部分と黒色の部分の両方もつ猫になる。なので、ふつう、X染色体を1本しかもたないオス猫は、茶色と黒色の細胞を同時に持てないことになる。

● 三毛猫のオスは、例えばXXYのような染色体構成(X染色体を2本もつ)になっている(なので非常に珍しい)。

雑談:X染色体不活性化は、発見者のライオンにちなみ、ライオニゼーションと呼ばれる。


講義動画【三毛猫】






雑談:猫の毛について

アグチ遺伝子という遺伝子がネズミや他の動物で発見されている。
毛をアグチパターン(毛の根本と先端部が黒色、中間部が茶色になっている)にする遺伝子である。
ネコのアグチ遺伝子はまだ明らかになっていないが、猫にも毛をアグチパターンにする遺伝子があると考えられている。
このアグチ遺伝子をAとする(劣性の対立遺伝子をaとする)と、 Aが優性で、遺伝子型A A、 Aaの猫は、アグチパターンの毛を持つ野生型の色になる(キジネコと呼ばれる。英語では魚のサバの縞模様に似ていることからサバトラ mackerel tabby と呼ぶ)。
この遺伝子がaaだと、アグチパターンにならず、黒色になる。全身真っ黒の黒猫は、アグチ遺伝子について遺伝子型がa aである。
さて、それとは別に、X染色体上に茶色遺伝子(Oと略される。オレンジのOである)がある。この遺伝子はメラニンの生成に関わっているとされ、この茶色遺伝子を一個でも持つと、毛が茶色になる。oは黒色にする遺伝子というより、毛を茶色にせず、アグチ遺伝子の支配する形質をそのまま表に出している遺伝子である。
AAまたはAaとOoの組み合わせの時は、キジと茶の二毛になる。
aaとOoの組み合わせの時は、黒と茶の二毛になる。
これらにさらにS(スポットのS)が組み合わさると、スポット、すなわち白が混じり、三毛猫になる(茶・黒・白の三毛猫は鮮やかで目を引くが、白と茶色にキジ模様が混ざったものも三毛猫という)。
ooの時は、AA、Aaならキジに、aaなら黒色になる。
OOの時は茶色になる。
他にも様々な遺伝子が猫の毛色を規定しているが、未解明な部分が多い。

雑談:S遺伝子が体に白斑をつくるしくみについては、まだ完全に解明されていない。SsよりSSの方が、白斑の範囲が広いようである。その白いエリアの広がり方は様々で、まだわかっていない他の遺伝子によって影響されるらしい。別の動物ではkitという遺伝子が関係しているようだが、ネコについてははっきりしていない。

雑談:色素細胞は、神経管と表皮の間に生じる神経冠細胞(神経堤細胞)から分化する。色素細胞は、数を増やしながら全身に広がっていく。色素細胞は表皮に沿って移動し、1本1本の毛の付け根に入り込んで、メラニン色素を合成して毛に分泌する。遺伝子Sを持つ個体の体の白い部分が、腹や手足の先に特に多いのは、色素細胞が背側から移動するため、移動が抑制され、腹や手足の先には届かなくなるためと考えられている。

雑談:クローン猫の毛の模様が、クローンのもととなった猫の毛の模様と異なるのは、「色素細胞の移動がランダムであること」と、「X染色体の不活性化がランダムに起こること」が原因であると考えられている。

雑談:X染色体上にある遺伝子の発現量を、オスとメスで揃えるために、生物種ごとに様々な遺伝子量補償機構がある。哺乳類では今回見たようなX染色体の不活化が起きる。ショウジョウバエではオス(XY)のX染色体の転写効率がメスの2倍になる。センチュウでは、雌雄同体(XX)の2本のX染色体の発現量をそれぞれオス(XO)の半分に抑制している。

雑談:XXXYYに性染色体をもつ哺乳類でも生存可能である。Y染色体についてはごくわずかの遺伝子しかもっていないから問題はない。そして、X染色体の数がどうであろうと、1本以外を除いて、残りのX染色体は不活性化を受ける。よってXXXYYでも生存可能なのである。

雑談:遺伝子量補正は、そもそもY染色体に活性化した遺伝子数がほとんどないために必要になる。もし、Y染色体にX染色体と同等の遺伝子が並んでいれば、X染色体の不活化による遺伝子量補正などという面倒な仕組みは必要なくなる。Y染色体は、もともとX染色体と同じものであったが、進化の過程で徐々に遺伝子の大部分を失ってしまったと考えられている。なぜ、そんなことが起こり、そのために遺伝子量補正の仕組みが必要になったのか、まだ明らかでない。

雑談:XY型の性決定様式をもつ哺乳類のメス(性染色体をXXに持つ)では、胚発生の初期に、各々の細胞においてランダムにX染色体の1本が不活性化される(この「ランダムに不活性化する」というしくみは哺乳類に独自に進化してきたしくみである。ただし、有袋類は、「父由来のX染色体」が選択的に不活性化されることが知られている)。

雑談:X染色体の不活性化は、発見者の名前(Mary F. Lyon:イギリスの遺伝学者)の名をとりライオニゼーションとも呼ばれる。ヒトを含む多くの哺乳類では、複数のX染色体を持つ個体でも、機能的に活性化されているのは1本だけで、残りのX染色体は不活性化され、異常に凝集している(異常凝集した不活化されたX染色体は、M.L.BarrとE.G.Bertrumによってネコの神経細胞核で発見されたので、「バー小体」と呼ばれる。男性には見られない)。哺乳類ではおよそ数十個から数百個に細胞が増えた段階でX染色体の不活性化が細胞ごとにランダムに起こる。確定はしていないが、ネコの場合は20個程度に増えた段階で起こると考えられている(ヒトの場合は胚の細胞数が500~1000個の時と考えられている)。

雑談:不活性化はランダムに起きる。この説は、やはりライオンが提唱したのでライオン仮説と呼ばれる。

雑談:いったん不活性化したX染色体はその後の細胞分裂を通して維持されるが、生殖系列の細胞では再活性化されると考えられている。

雑談:X染色体から転写されるXist RNAによって不活性化が引き起こされると考えられている。不活性化したX染色体には、Xist RNAが付着し(X染色体をコーティングし不活性化していく)、さらに様々なタンパク質が結合していく。

雑談:ショウジョウバエのY染色体は大半が構成的ヘテロクロマチンである(発生の全過程を通じてヘテロクロマチンとなっている。ヘテロクロマチンは、凝集し、転写が抑制されている状態の染色体を指す)。

雑談:ヒトを含む真獣類のY染色体には、SRY(sex-determining region Y)という性決定遺伝子がある。性染色体をXXに持つマウスのメスの胚にSRYを遺伝子導入すると、導入された個体に精巣が形成される。ヒトの場合、X染色体には約1100個の遺伝子が存在するが、Y染色体には約80個の遺伝子しか存在しない(その中でも、タンパク質をコードしている遺伝子は30個程度とされる。そのほとんどは精巣特異的な遺伝子である)。







挿絵:三毛猫とライオニゼーション

画像5








要点:雄雌によって異なる形や数を示す染色体を性染色体という。


● 雄雌によって異なる形や数を示す染色体を性染色体という。性染色体以外の染色体を常染色体という。

● 性染色体上にある遺伝子による遺伝を伴性遺伝(はんせいいでん)という。交配の結果が雄、雌で異なっていたら、伴性遺伝を疑うこと。

雑談:Y染色体上の遺伝子で起こる限性遺伝も伴性遺伝に含めることがある(限性遺伝とは、雌雄いずれか一方の性の表現型だけに現れる遺伝のことである)。





発展:ショウジョウバエの雄では乗換えが起きない。


● 染色体の乗換えは、一方の性でのみ起こることがある。ショウジョウバエの雄(性染色体XY)や、カイコガの雌(性染色体ZW)では染色体の乗換えは抑制されている

● 一般に、乗換えが抑制されているのは、別々の種類の性染色体をもつ側の性別である(XY型の雄、ZW型の雌)。

雑談:X(Z)とY(W)の間で乗換えが起こると大変なので(全然別の遺伝子が乗っているから)、その性別では、すべての染色体で乗換えが起きないように制御されていると考えられている。

雑談:ヒトの場合、Y染色体上には約80個程度の遺伝子しか存在せず、その中の一部が精巣特異的な機能分化に関わるとされる。ヒトでは、偽常染色体部位(PAR, pseudoautosomal region)という領域ががX・Y染色体の両端に存在し、この領域でX−Y染色体間に組換えが起こると考えられている。





発展:性染色体と性決定様式


生物界には様々な性決定の様式があるが、性染色体の持ち方で性別が決まる場合が多い。以下のように、性染色体の持ち方と性別の関係には、いくつかの型がある(ただし、性決定の機序は生物ごとに様々である)。
(1) 雄ヘテロ型
雄(オス)ヘテロ型には、XY型とXO型がある(ヘテロは「違う者同士」というイメージの語である。同じ種類の性染色体を2本もつとメスになる)。
① XY型
メスはX染色体を2本もつ。オスはX染色体とY染色体を1本ずつもつ。
(今後特に断らないが、もちろん、性染色体の他の染色体[常染色体]は雄雌で共通である)
② XO型
メスはX染色体を2本もつ。オスはX染色体1本だけをもつ。
(O[オー]は「無い」を意味する記号である)

(2) 雌ヘテロ型
雌(メス)ヘテロ型には、ZW型とZO型がある(同じ種類の性染色体を2本もつとオスになる)。
① ZW型
オスはZ染色体を2本もつ。メスはZ染色体とW染色体を1本ずつもつ。
② ZO型
オスはZ染色体を2本もつ。メスはZ染色体1本だけをもつ。

性染色体と性決定様式。


講義動画【性染色体】




語呂「蝿人間め!(XY、ショウジョウバエ、ヒト、メダカ)」
*ヒトがXY型なのは知ってると思う。人とショウジョウバエとメダカをセットにして覚える語呂。

語呂「クソバッタ(XO、バッタ)」

語呂「開校してからニワトリずっと食べてりゅ(カイコ、ニワトリ、Z W)」*ずっと食べてりゅ、でZWをイメージする。

語呂「ミーの画像(ミノガ、Z O)」



問題:以下の図は、ある動物の体細胞に含まれる染色体を描いたものである。この図には、常染色体が6本、性染色体が1本描かれている。性染色体はどれか。①~⑦から選べ。



答え:②

解説:同じような大きさで、同じような形のものを探すと、①と⑥、④と⑦、⑤と③がペアになっていることがわかる。したがって、①と⑥、④と⑦、⑤と③は相同染色体(同形同大の染色体)であり、常染色体であると考えられる(体細胞では、常染色体は、対になって存在する。片方は父由来、もう片方は母由来である)。ペアのいない②は性染色体である。ちなみに、この動物は染色体を奇数に持っているので、XO型のオスか、ZO型のメスである(なお、XY型のメス[性染色体をXXにもつ]やZW型のオス[性染色体をZZにもつ]の場合は、この問題のようなやり方で性染色体を選ぶことはできない。すべての染色体に同形同大のペアがいるからである)。




問題:ある動物のメスの染色体数は奇数であった。この動物の性決定様式として適切なものを1つ選べ。

①XY型 ②ZW型 ③XO型 ④ZO型


答え:④

解説:染色体数が奇数になるのはXOかZO(XY型やZW型は、雌と雄で染色体の本数は変わらず、常に偶数)。雌(メス)が奇数だから、雌ヘテロ型であるZO型が答え。




要点:性染色体上にある遺伝子による遺伝を、伴性遺伝と言う。


● 性染色体上にある遺伝子による遺伝を、伴性遺伝(はんせいいでん、ばんせいいでん)と言う。特に、XY型の生物において、ある遺伝子がY染色体上にはなく、X染色体上のみに存在するために、劣性であっても雄のX染色体上に存在する遺伝子の作用が現れる場合、完全伴性遺伝(知らなくてよい)といい、ふつう、「伴性遺伝」というときにはこれを指す。


問題:図はある家族の赤緑色覚異常の遺伝を示したものである。□は正常男性、〇は正常女性、■は赤緑色覚異常の男性を示している。赤緑色覚異常の遺伝子をa、正常遺伝子をAとし、AとaはX染色体上にあるとする。1~4の遺伝子型として正しいものを①~⑤から選べ。なお、複数可能性がある場合は、可能性のある遺伝子型をすべて答えよ。
*「正常」とは、「赤緑色覚異常でない」という意味である。入試に合わせてこのような表現をしたが、本来、色の感じ方の差異は個性であるので、「正常」という語は適切でない。

画像4

*選択肢のXやYは、遺伝子ではなく、X染色体、Y染色体を表す。XやYの右上に遺伝子を書くことで、その染色体に乗っている遺伝子を示すことができる。たとえば、Xの右上にAと書いてあったら、Aが乗っているX染色体を表す。

画像3



答え:1④、2②、3⑤、4②③

解説:男性はX染色体を1本しか持たない(Aかa、どちらか1つしか持てない)ので、即答できる。1は④(もしaが乗っているX染色体を持っていたら、赤緑色覚異常になる)、3は⑤(もしAが乗っているX染色体を持っていたら、正常になる)。

また、3のもつaが乗っているX染色体は、母親が持っていたと考えられる(父親は正常だから)。よって2は②(もしaaだったら赤緑色覚異常になってしまう。図より、2は正常である。よって2はAa)。

4は、父親である1からAが乗ったX染色体をもらう(女の子は必ず父親のX染色体をもらう[母からX染色体を2本もらうことはない]。父親からYを貰った場合は男の子になる)。もう一本のX染色体は母親からもらうが、もらったのがAが乗ったX染色体か、aが乗ったX染色体かはわからない(どちらをもらっても、4は正常になる)。よって4は②③。


*なお、劣性遺伝病に関して、正常遺伝子と病気を発現する遺伝子のヘテロ接合となっている個体を保因者(ほいんしゃ。キャリアー)という。今回の問題の場合、XAXaの女性(2の女性)が保因者と呼ばれる。

*先天赤緑色覚異常(錐体細胞の異常などが原因となる)は、日本人の男性の約5%にみられるとされる(一般に女子より男子の方が頻度が高い。これは、この原因遺伝子がX染色体にあるためであると考えられている。X染色体を1本しか持たない男子では、異常が出現しやすい。1本Xaをもつと異常になるからである。[女子の場合は、Xaを1本持っていても、もう1本がXAならば異常は現れない])。




講義動画【伴性遺伝に関する問題】









追加問題((2)は超難問。解けなくてよい。):上の問題と同じ条件を考える。


(1)4の遺伝子型がXAXaとなる確率(遺伝子AがのったX染色体と、遺伝子aがのったX染色体を1本ずつもつ確率)はいくらか。

答え:1/2
解説:4は母親(2の女性が母親。2の遺伝子型はXAXaで確定[上の問題の解説を見よ])から、1/2の確率でXAを、1/2の確率でXaをもらう。父親からは必ずXAをもらう。したがって4の遺伝子型がXAXaの確率は1/2。ここまでは簡単。

(2)4が、正常な男性と結婚し、正常な男児が生まれた。さて、4の遺伝子型がXAXaである確率はいくらか。生まれた男児が正常であることを考慮して答えよ。


答え:1/3
解説:超難問である。できなくてよい。
「(1)と同じ問題じゃん!4に子供ができたとか関係なくね!?(1)と同じ1/2が答えだろ!」と思ったかもしれない。
しかし、問題文の「生まれた男児が正常であることを考慮して答えよ。」とはどういう意味だろうか?
たとえば、(たとえ話が不適切で申し訳ないのだが)4と正常男性との間に、男児が10000人生まれて、その10000人の男児がすべて正常な男児だったら、それでもあなたは「4の遺伝子型がXAXaの確率は1/2である」と答え続けるだろうか?
もしこれが賭けだったら、4の遺伝子型がXAXaであることに賭けるのは、無謀だと、なんとなく思わないだろうか?(「遺伝子型XAYの正常な男児が10000人も生まれたのだから、4の遺伝子型はXAXAだろう」と何となく思わないだろうか?)
つまり、「(4と正常な男性との間に)正常な男児が生まれた」という我々が後から得た情報が、「4の遺伝子型がXAXaである確率」に影響を与えたのである。

*たとえば、「すべて赤い玉が入った袋A」と「赤い玉と白い玉が半分ずつ入った袋B」があるとする。
ある男があなたに袋を見せて、「この袋は袋Aか?袋Bか?当てたら100万円あげる。」と言ったとする。
このままでは、あなたが袋を当てて100万円をゲットする確率は1/2である(袋はAかBか全くわからない)。
しかし、その男はヒントとして、その袋から、10回ボールを取り出すという操作を行ってくれた。すると、取り出されたボールは、10回連続で赤だった。
どうだろう?このヒントを見た後でも、あなたは袋B(赤玉・白玉半分ずつ入った袋)に賭けようとするだろうか?「袋A(すべて赤玉)に賭けたほうが良さそうだ」と思わないだろうか?
つまり、最初と比べて、情報(10回玉を取り出して、10回とも赤だった、という情報)が増えたので、「男の持っている袋が袋Aである確率」が上昇したのである(ただし、少ないが、袋Bである可能性もある。たまたま10回連続で白玉を引かなかった可能性もある)。実は、このような数学的な推論(一番もっともらしいことを推定する方法)は、賭け事だけでなく、現代社会の様々な分野に応用されている。


*簡略な解説(数式を使わずイメージで捉える)

以下のような図を用いて考えると、直観的にわかりやすい。
まず、「(4と正常な男性との間に)正常な男児が生まれた」という情報が得られる前は、4の遺伝子型は1/2でXAXAであり、1/2でXAXaである。
これは、以下の図のように、世界が、「4がXAXAである世界」と、「4がXAXaである世界」に分岐していると考えることができる(2つの世界の内、どちらが正しいかはわからない。両方の世界とも、正しい確率は等しい[4がXAXAである世界を表すピンクのエリアの面積と、4がXAXaである世界を表す青いエリアの面積は等しい])。

4の遺伝子型は1/2でXAXAであり、1/2でXAXaである。4がXAXAである世界を表すピンクのエリアの面積と、4がXAXaである世界を表す青いエリアの面積は等しい。


さて、4がXAXAの場合(ピンクのエリア)、(正常な男性との間に)生まれる男児が正常な確率は1である。
4がXAXaの場合(青いエリア)、生まれる男児は、確率1/2で正常となり、確率1/2で赤緑色覚異常となる。
これを図にすると以下のようになる(4がXAXaの世界[青いエリア]の内、1/2の確率で男児は正常となり、1/2の確率で男児は赤緑色覚異常となる)。

4がXAXAの場合、男児は必ず正常になる。4がXAXaの場合、確率1/2で男児は正常となり、確率1/2で男児は赤緑色覚異常となる。


ここで、「4から生まれた男児が正常であった」という情報を得たとする。すなわち、「男児は赤緑色覚異常であるという世界(可能性)」が消失する。
図は以下のようになる。

生まれた男児が赤緑色覚異常であるという世界(可能性)が消失した。


さて、そのような世界線のもとで、4がXAXaである確率を求める。
以下の図の赤い線で囲まれたエリアの中で、青いエリアの占める割合は1/3である。
すなわち、男児は正常という条件(赤い枠の条件)のもとで、4がXAXa(青いエリア)である確率は1/3である(赤い枠の内、1/3が青いエリアである)。
これが問題(2)の答えである。

生まれた男児は正常という条件(赤枠内)のもとで、4がXAXaである確率は1/3である(赤い枠で囲まれた面積の1/3が青いエリアの面積である)。





*数式を使った解説

導出は省略するが、このような問題を考えるために、以下の定理が使える。この定理をベイズの定理という。話が複雑なので、ちょっと雑に解説する。詳しくは大学で学んでほしい。

ベイズの定理



p(θ|x):xが起こった時、θである確率。
*pは「確率(probability)」を意味する。
*括弧の中の縦棒「|」は、「縦棒(|)の右に書いてあるとおりの条件のもとでは」という意味をもっている。
*θ(シータ)などのギリシャ文字は「推定したいもの」を表すときに使われることが多い、xは「θの根拠となる証拠」を表すときに使われることが多い。
p(x|θ):θであるとき、xが起こる確率。
p(θ):θである確率。
p(x):xが起こる確率。

これじゃ意味わからないだろう。例を考えよう。
たとえば、風邪をひいたら、90%の確率で発熱するとする。
p(発熱|風邪をひいている)=0.9・・・式①
*pは確率を意味する。
*縦棒「|」は、「縦棒(|)の右に書いてあるとおりの条件のもとでは」という意味をもっている。したがって、式①は「風邪をひいているという条件の下では、発熱する確率は90%である」という意味を表している。

また、この集団で、風邪をひいている人は1000人に1人だとする。
p(風邪をひいている)=0.001・・・式②
*この0.001は、集団から1人をランダムに抽出した場合に、その人が風邪をひいている確率を表している。

さらに、この集団では、1000人中81人の人が発熱しているとする(ただし、風邪でない人も発熱していることがある)。
p(発熱)=0.081・・・式③
*この0.081は、集団から1人をランダムに抽出した場合に、その人が発熱している確率を表している。

では、「発熱している人が、風邪である確率」はいくつだろう?
すなわち、
p(風邪をひいている|発熱)
はいくらだろう(発熱しているという条件のもとで、風邪である確率はいくらだろう)?
*この場合、「発熱」が根拠で、「風邪をひいている」かどうかが推定したいことである。

「そんなお医者さんみたいな推定ができるの!?」と思ったかもしれない。ベイズの定理を使えばできる(もちろん現実では、お医者さんは様々な根拠を用いて様々な診断を行います。ただし、お医者さんの頭の中でも、様々な可能性を考慮しながら、一番もっともらしい診断をまずは選択するという、ベイズの定理を背景にした推定が行われています)。

ベイズの定理より、

である。
そして、式①、②、③より、
p(風邪をひいている|発熱)=(0.9)×(0.001)/(0.081)
=約0.011
となる(これが、発熱しているという条件のもとで、その人が風邪である確率である)。

さあ、やっと本題に入ろう。もう一度問題を記す。

「4が、正常な男性と結婚し、正常な男の子が生まれた。さて、4の遺伝子型がXAXaの確率はいくらか。生まれた男児が正常であることを考慮して答えよ。」
*「4と正常な男性との間に正常な男児が生まれた」という情報がない段階では、4の遺伝子型は1/2でXAXa、1/2でXAXAだった。
*正常な男性と正常な男児の遺伝子型はXAYである。



求めたいのは「(4と正常な男性との間にできた)男児が正常であるという条件のもとで、4がXAXaである確率」である。
これを
p(4がXAXa|男児が正常)
と表す。
ベイズの定理より、以下の式が成り立つ。



p(4がXAXa|男児が正常)を、ベイズの定理を使って求めるために、以下の値を求める。
①p(男児が正常|4がXAXa)
②p(4がXAXa)
③p(男児が正常)
1つずつ求めていこう。

①p(男児が正常|4がXAXa)
4がXAXaの時、男児が正常な確率は1/2(4から男児にXAが伝わる確率は1/2)。
したがってp(男児が正常|4がXAXa)=1/2
*p(男児が正常|4がXAXa)は、「4がXAXaであるという条件のもとで、(4と正常男性の間にできた)男児が正常である確率」を表している。

②p(4がXAXa)
前の問題より、(他に何の条件もなければ)4の遺伝子型がXAXaである確率は1/2である。
したがってp(4がXAXa)=1/2
*ちなみに、この確率は、私たちが持っている事前知識から得た確率(「4と正常な男性との間に正常な男児が生まれた」などと言う情報を手に入れる前に得ていた確率)であり、「事前確率」と呼ばれる(現実の問題にベイズの定理を使用する場合、この事前確率をどう設定するかが重要になってくるが、今回は立ち入らない)。

③p(男児が正常)
これは難しい(4に子供が生まれる前における「4と正常な男性との間に生まれた男児が正常な確率」を求めればいい。4がXAXAの場合と、4がXAXaの場合で、分けて考えれば求められれる。すぐに答えを求められる人は以下の説明は読み飛ばしていい。たとえが不適切だが、4と同じ状況に置かれた女性がたくさんいる[問題文の図のような家族がたくさんある]として、統計をとった時に、4と同じ状況に置かれた女性[1/2の確率で遺伝子型XAXA、1/2の確率で遺伝子型XAXa]と、正常な男性から、正常な男児が生まれる確率はいくらかを求めようとしている)。

ここで、次の式を利用する。

P(X)=P(X|Aである)P(Aである)+P(X|Aでない)P(Aでない)

*「何なんだいきなり出てきたこの式は!?」と思っただろう。
たとえば、試しに、シンプルな例として「サイコロをふって、クジを引く」という行為を考えてみよう。
P(クジが当たる)を考える(X=クジが当たる)。
P(クジが当たる)は、クジが当たる確率を表す。
P(クジが当たる)=1/100とする(1/100の確率でクジが当たる)。
Aを「サイコロで1が出る」とする。
P(サイコロで1が出る)=1/6である。
「Aでない」は、「サイコロで1以外が出る」である。
P(サイコロで1以外が出る)=5/6である。
なお、サイコロの出目は、クジの当たりはずれには影響しないとする。

P(X)=P(X|Aである)P(Aである)+P(X|Aでない)P(Aでない)

が成り立つことを確かめよう。今回の場合は

P(クジが当たる)
=P(クジが当たる|サイコロで1が出る)P(サイコロで1が出る)+P(クジが当たる|サイコロで1以外が出る)P(サイコロで1以外が出る)

である。
P(クジが当たる|サイコロで1が出る)=1/100(サイコロの出目が何であろうが、クジの当たりはずれには関係ない)。
P(クジが当たる|サイコロで1以外が出る)=1/100(サイコロの出目が何であろうが、クジの当たりはずれには関係ない)。
サイコロで1が出る確率は1/6。
すなわちP(サイコロで1が出る)=1/6
サイコロで1以外が出る確率は5/6。
すなわちP(サイコロで1以外が出る)=5/6
よって

P(クジが当たる)
=P(クジが当たる|サイコロで1が出る)P(サイコロで1が出る)+P(クジが当たる|サイコロで1以外が出る)P(サイコロで1以外が出る)
=(1/100)(1/6)+(1/100)(5/6)
=(1/600)+(5/600)
=6/600
=1/100
P(クジが当たる)は1/100であったので、
P(X)=P(X|Aである)P(Aである)+P(X|Aでない)P(Aでない)
が成り立っている。



今回の問題において、ベイズの定理の分母であるP(男児が正常)を求めるために

P(X)=P(X|Aである)P(Aである)+P(X|Aでない)P(Aでない)

を利用すると、次の式が成り立つ。

P(男児が正常)=p(男児が正常|4がXAXa)p(4がXAXa)+p(男児が正常|4がXAXA)p(4がXAXA)

丁寧にやっていこう。

*繰り返すが、4に子供が生まれる前における「4と正常な男性との間に生まれた男児が正常な確率」を求めようとしている。すぐに答えを求められる人は、上の式を使わずに求めればよい。4は1/2の確率でXAXa。その場合確率1/2で正常な男児が生まれる。また、4は1/2の確率でXAXA。その場合1の確率で(必ず)男児は正常となる。よって、正常な男児が生まれる確率は、(1/2×1/2)+(1/2)=3/4である。


③ー1(4がXAXaの場合)
他に何の条件もなければ(「4と正常な男性との間に正常な男児が生まれた」などという条件が無ければ)、4がXAXaになる確率は1/2。4がXAXaならば、男児は1/2で正常。
よって、
p(男児が正常|4がXAXa)p(4がXAXa)
=1/2×1/2
=1/4
*詳細
p(4がXAXa)=1/2
(何の条件もなければ、4がXAXaになる確率は1/2)
さらに、
p(男児が正常|4がXAXa)=1/2
(4がXAXaであるという条件のもとで男児が正常である確率は1/2)
よって
p(男児が正常|4がXAXa)p(4がXAXa)
=1/2×1/2=1/4

③ー2(4がXAXAの場合)
他に何の条件もなければ、4がXAXAになる確率は1/2。4がXAXAならば、男児は確率1で正常(母親からXAをもらうので、必ず男児は正常となる)。
よって、
p(男児が正常|4がXAXA)p(4がXAXA)
=1×(1/2)
=1/2
*詳細
p(4がXAXA)=1/2
(何の条件もなければ、4がXAXAになる確率は1/2)
さらに、
p(男児が正常|4がXAXA)=1
(4がXAXAであるという条件のもとで男児が正常である確率は1)
よって
p(男児が正常|4がXAXA)p(4がXAXA)
=1×(1/2)
=1/2

したがって、③ー1、③ー2より、
P(男児が正常)=p(男児が正常|4がXAXa)p(4がXAXa)+p(男児が正常|4がXAXA)p(4がXAXA)
=1/4+1/2
=3/4

さあ、やっとベイズの定理が使える。


①②③で得た数値を代入すれば
p(4がXAXa|男児が正常)=(1/2)×(1/2)/(3/4)
=1/3・・・答え
*これは「(4と正常男性との間に生まれた)男児が正常であるという条件のもとで、4の遺伝子型がXAXaである」という確率を表している。
*ちなみに、ベイズの定理を使って求めたこの確率は、「事後確率」と呼ばれる。
*はじめ、4は1/2の確率で遺伝子型XAXaだった。4と正常な男性との間に正常な男児が生まれたことで、4がXAXaであるという確率が下がったことになる。4がXAXAである確率が上がったことを確かめてみよう。4がXAXAの場合、確率1で正常な男児が生まれることに注意すれば、ベイズの定理より

p(XAXA|男児が正常)=(1×1/2)/(3/4)
=2/3
確かに、4がXAXAである確率は1/2より大きくなっている。

ここで、もう一度、面積を使った解説を見てみよう。
まず、「(4と正常な男性との間に)正常な男児が生まれた」という情報が得られる前は、4の遺伝子型は1/2でXAXAであり、1/2でXAXaである。
これは、以下の図のように、世界が、「4がXAXAである世界」と、「4がXAXaである世界」に分岐していると考えることができる(2つの世界の内、どちらが正しいかはわからない。両方の世界とも、正しい確率は等しい[4がXAXAである世界を表すピンクのエリアの面積と、4がXAXaである世界を表す青いエリアの面積は等しい])。

4の遺伝子型は1/2でXAXAであり、1/2でXAXaである。4がXAXAである世界を表すピンクのエリアの面積と、4がXAXaである世界を表す青いエリアの面積は等しい。


さて、4がXAXAの場合(ピンクのエリア)、(正常な男性との間に)生まれる男児が正常な確率は1である。
4がXAXaの場合(青いエリア)、生まれる男児は、確率1/2で正常となり、確率1/2で赤緑色覚異常となる。
これを図にすると以下のようになる(4がXAXaの世界[青いエリア]の内、1/2の確率で男児は正常となり、1/2の確率で男児は赤緑色覚異常となる)。

4がXAXAの場合、男児は必ず正常になる。4がXAXaの場合、確率1/2で男児は正常となり、確率1/2で男児は赤緑色覚異常となる。


ここで、「4から生まれた男児が正常であった」という情報を得たとする。すなわち、「男児は赤緑色覚異常であるという世界(可能性)」が消失する。
図は以下のようになる。

生まれた男児が赤緑色覚異常であるという世界(可能性)が消失した。


さて、そのような世界線のもとで、4がXAXaである確率を求める。
以下の図の赤い線で囲まれたエリアの中で、青いエリアの占める割合は1/3である。
すなわち、男児は正常という条件(赤い枠の条件)のもとで、4がXAXa(青いエリア)である確率は1/3である(赤い枠の内、1/3が青いエリアである)。
これが問題(2)の答えになっている。

生まれた男児は正常という条件(赤枠内)のもとで、4がXAXaである確率は1/3である(赤い枠で囲まれた面積の1/3が青いエリアの面積である)。



ベイズの定理と見比べてみよう。

図の赤い枠に、ベイズの定理の右辺の分母が反映されている。
図の青いエリアに、ベイズの定理の右辺の分子が反映されている。
図の各エリアの面積の大きさは、確率の大きさを表している。
すなわち、問題の解説で行ったベイズの定理を用いた計算は、図の赤枠で囲まれた面積(世界)の中で、青いエリアの面積がどのくらいの割合を占めているかを求める計算と同等である。
*今まで女児が生まれる可能性を無視してきたが、女児が生まれる可能性を考慮しても答えは変わらない。上の図を見れば明らかなように、結局は、赤い枠と範囲と、青いエリア範囲で答えが決まってくる。ベイズの定理の式で言えば、女児が生まれる可能性を考慮しても、右辺の分母と分子にそれぞれ1/2がかかるだけで、結果は変わらない(女児が生まれてくることを考慮しない場合に比べて、女児が生まれる可能性を考慮する場合は、分母の、正常な男児が生まれる確率「p(男児が正常)」が半分になるが、分子の、4がXAXaの条件で正常な男児が生まれる確率「p(男児が正常|4がXAXa)」も半分になる。結果、答えは変わらない)。

雑談:上の追加問題について「確率が状況によって変わってしまうなんておかしい!たとえば、何が起ころうと、サイコロで1が出る確率は1/6じゃん!」と感じる人がいるかもしれない。その違和感を、(数学者に限らず)多くの人が感じてきた。長い間、ベイズの定理がどのような意味をもつのかについて、激しく議論されてきた(今でも議論を続けている人がいる)。それは、「"確率"とはそもそも一体何であるのか?」という、非常に難しい議論と関係してくる。ただ、確率を「観測者が世界の状態に対して持っている情報の量の尺度」と考えれば、確率が変わってしまうのは自然なことであると言える。観測者が新しい「情報」を得ると、確率は変動する(新しい確率に更新される)。たとえばサイコロにも、工場で作る時に多少の歪みが生じる。何の情報も得ていない状況なら、あなたにとって、「1が出る確率は1/6」である(鋭い人は「そのように推察する理由は何か?」と思ったかもしれない。この疑問も、"確率"とは何か、という議論につながっている)。しかし、「このサイコロは、歪みによって1が出やすくなっている」という新しい情報をあなたが得た後では、もうあなたにとって1の出る確率は1/6ではなくなる。あなたの持っている情報の量によって、確率が変化したことになる(これはあまり厳密な解説ではない。興味がある人は大学で確率について学んでほしい)。

「いいえ、単なる推測ではありません。もっともありそうなことと、もっともそれらしいこととを考えあわせた結果です。想像力の科学的利用とでもいえます。常に何かしら物証にもとづいて、そこから推論を押し進めます。」
アーサー・コナン・ドイル『シャーロック・ホームズ全集 バスカヴィル家の犬』より シャーロック・ホームズの言葉

「確率の理論は、公正な精神がある種の本能によって感じるが、多くの場合説明することはできないことを、正確に査定する。」ラプラス『確率の哲学的試論』より






雑談






まだわかっていないこと

● 乗換えが起こりにくい染色体上の位置が知られているが、その原因はわかっていないことが多い。
*交差は、動原体付近で起きにくく、テロメア付近で起きやすい。また、ある個所で起きた交差が他の個所での交差の頻度に影響を与える現象が知られている(干渉という)。

● どうして性決定様式はこれほど多様なのか。

● ほとんど同じ環境で同じ餌を食べ進化してきたはずの同種内の雄と雌が、時に大きく異なる形態となっているのはなぜか。

● 猫の毛色に関する遺伝子については、(その染色体上の位置も含め)わかっていないことが多い。

● 染色体の交差が起こる場所は必ず少数である。どのように交差は制御されているのか。

● 組換えの進化的な起源は何か(遺伝子の組換えは、DNAの修復などにも使われている仕組みである)。

● ヒトの性別を考えた場合、解剖学的な性別と、そのヒトが認識する自身の性別は、一致するとは限らない。社会は、性別に関して、どのような配慮を考えなければならないか。