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210401【改札前の駆け引き】

独身時代、仕事は広告代理店のせいに勝手にして相も変わらず忙しく、仕事はDaft Punkの曲のように終わらない。誘われたモデルとの合コンにも行けず、生産性の上がらない中、深く残業をした帰り道、駅の改札前でよく見る光景があった。自分の目の前には、おそらく高校生と見られる制服姿から、自分の年齢を遥かに超えるパキッとしたスーツ姿の大先輩もいた。決まってその光景には一人の男性と一人の女子の構図がベターであり、どうやら二人の距離がソーシャルディスタンスどころではないのを覚えている。そして、決まって終電前に決着が付くのだ。

駅の改札前にてイチャイチャしている男女をよく見てきた。

それは、渋谷駅をはじめとしたターミナル駅に留まらず、下北沢、三軒茶屋等、沿線にも勢力を伸ばしている。調査員によると、自分が生まれ育った地方でも見かけると言う。

そうだ、これ、高校生の時から見ているやつだと立ち止まる。高校に進学した際、隣町の高校に進学したため、電車通勤となった。高校最寄りの駅は、田舎ながら高校が3校あり、朝と夕方以降は生徒の乗降が盛んな駅であった。小さな駅ではあったが、改札越し、また同じプラットフォーム、さらには2本の線路を挟み1番線と2番線で話しているカップルもよく見た。ほんの数回だけ、自分もそのような経験をしたことがある、とここに記しておくが、大概は周りのイチャイチャを見てきた身だ。まあ、ニアリーイコールで、自分のファーストキスは駅のホームだし。

公共交通の駅に新たに付ける機能としては見送って当然だが、男女がイチャイチャできる空間を整備することも良いだろうと勝手に思う。「ラブベンチ」なるベタなものでも良いし、一緒に缶ジュースを飲めるようなスペースでも良い。電車が来て乗ってしまったら、別れるかもしれないし、電車内では流石に他人の視線を気にして愛を育めないのだから、せめて電車に乗るまでの時間を、より二人のためになる時間を作ってあげたい。反対に、モテない自分みたいなメンズのために、フリーでパンチを打ち続けられるサンドバッグを設置してほしい。自分は何を書いているのだろうか。

高校の部活帰り、クタクタに疲れた中、イチャイチャ制服デートをしている男女を、東京に出てきて、仕事帰り、クタクタに疲れた中、改札前でイチャイチャしている男女を、昔と重ねて細い目で見てしまうのだ。身を寄せて、コソコソ話をするだけなら良いのに、「おいおいおいおい。」と思うことまでしてしまうのだから、ゾーンに入った男女は怖い。たぶん、ゾーンに入っているのだろう。

あれは、下北沢駅だろうか、まだリニューアルされる前の駅舎の改札前。自分は小田急線で経堂方面に向かうのだが、その改札前で、20代から30代、もしくは40代から50代と見られる年齢不詳の男性と、おそらく20代の女子が例のごとくイチャイチャしていたのだが、ハグだったり、ギューってするなら、まあ分かるよ、分かるのよ。二人は他人の目を気にすることなくキスを始めた。「チュッ」って軽くしたくらいなら、大目に見よう、何をもって大目なのか分からないが。そこでブレーキを踏まず、二人はギアを上げてキスを繰り返すのだ。もう自分はその場を過ぎ去ろうと思ったが、これはアフリカの何かの動物の交尾のように貴重なシーンだと思い、携帯電話で電話をするフリをしながら、改札前をウロウロしながら、横目で二人を見ていた。すると、もう、舌、入れてるのよ、舌を。連続ドラマのすったもんだあった中のクライマックス、ここは二人だけの世界、そのままエンドロールが流れてちゃんちゃん、みたいな光景だった。自分は何か負けた宣言を頭の中でして、ウンと頷き、改札を通り、ホームに向かった。その後、自宅最寄り駅で飲んだ日高屋でのビールを自分は忘れない。「ちょっと話がある。」と24時過ぎにも関わらず、近所に住んでいる戦友を呼び出し、「今日は飲むよ。」と宣言したことは、これまた生産性がないのだろう。

それ以降、シチュエーションが整った会社帰りは、駅の改札前でイチャイチャするカップルの数だけ酒を買って帰って飲む、というゲームをやってみた。渋谷駅の井の頭線が意外と厄介で、一瞬で通り過ぎるだけなのに、5組も見たことがある。この法則は連鎖反応を起こすのか、学会で問いたくなった。こんなアホなことを研究しているのは世界で自分だけだと思うのだが。
一駅で5組も見た日もあれば、カップルに出会さず最寄り駅に着いた日もあった。その日は何故か「なんだ、今日はゼロか。」とガッカリする自分がいた。

カップルの傾向も見てみる。これは一種のマーケティング、調査だ。高校生のカップル、大学生のカップル、初々しい社会人のカップル等、見た目で分かるものもあるが、最近はマッチングアプリの台頭のせいか、「この二人は、はて?」という男女もいる。また、話し声が大きくて聞こえてくるのだ。コロナ禍において、そのような光景は見なくなったが、声が大きいよ、意外と聞こえているよ。というのも記憶に残っている。

「ずっと一緒にいたい、嫌だ。」みたいなベタベタなものもあれば、「今日は、有難うございました、また、よろしくお願いいたします。」という紳士なものもあった。これは紳士なのか不明確だが。

そうそう、最近は、マスク越しではあるが、キスしているカップルも見ている。マスクは不織布ではなく、結構な確率で黒のウレタン素材だ。いつの時代も、ちょっと羨ましい自分がいる。ただ、今はそんなことできないけど。

この一連の流れを以前友人と居酒屋でくだを巻きながら話していたとき、「オレはそんなことしないよ。」と豪語していた。その彼から聞いた話だが、合コンで出会った子は一つ年上の女性で、都内から少し離れた常磐線沿いに住んでいて、そんな彼女をサシで飲みに誘った時のこと。下北沢駅を歩いて5分くらいか、餃子の王将を過ぎたあたりにある入口の天井が低いお店。くぐるとオシャレな異空間になっていて、聞くところに寄ると、映画「モテキ」のロケ地になったと聞く。「ここに森山未來や長澤まさみが座ったんだよ。」と饒舌だ。そのロケ地に彼女も喜んでいたそうだ。「へぇ、ここなんだぁ。」みたいなことを言ったんだろう。

その後、お互いにお酒が進んだらしい。彼女はジャスミン割りを大ジョッキで2杯。また、彼がトイレに行っている間に、ウーロンハイを飲まれたらしい。自分もトイレに行っている間にハイボールがなくなっていることに気づくことがあるが、大概は自分が飲み干してトイレに行っているのだ。酔っ払いすぎて、自分が何をどのくらい飲んだか分からなくなるときがある。それは、誰でも経験するさ、きっと。

合コンで出会って、サシで飲むのは初めてで、今日はこれくらいで良いだろうと踏み、彼女の終電を気にするてっぺんくらいの時間に店を出た。下北沢駅で、彼は経堂方面、彼女は新宿経由で東の方に向かう、ただ、二人は自然と手を繋いでいたらしい。その手は、反対方向の電車に乗っては離れてしまう。彼は、新宿まで彼女を送ったそうだ。小田急線新宿駅を降りる。小田急線からJR線に乗り換える改札前でお別れ。別れ際に、彼女とハグをして「また遊ぼ。」ってなった。これ、どっかで見たことないか。

そして、オマケにキスをしたかどうか、その続きは書かないことにする。彼は1人、折り返すように向ヶ丘遊園行き最終電車に乗り込む。彼女が終電に間に合ったのか気になる。もし、間に合わなかったらすぐ迎いに行く。アルコールが体内を回ってる中、頭の中では曲が流れる。Perfumeの「Baby cruising Love」、映画「モテキ」の挿入歌。

物語の中にいるようにするな、つうか、その話、自分のことじゃん。恥を知れ。あと、キス、彼女から来た。これはホント、ホントだから。

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